【塾講師対象】あなたの授業は「面白い」ですか?ゲーミフィケーションの考え方から授業のレベルを上げる!
楽しい勉強?―面白い授業にするために
突然ですが、皆さんは鶴亀算というものをご存知でしょうか。おそらく多くの方が耳にしたことはあるでしょう。考え方によっては小学生でも回答する事が出来ますが、基本的には方程式の問題です。
あまり馴染みのない方程式の問題を、少しでも身近な問題にしよう、とか面白そうなクイズのようにしよう、とか、そういった試みはずっと昔から行われています。例に出した鶴亀算などは。江戸時代の和算と呼ばれるものですね。当時の人々の知恵比べクイズ、といったところでしょうか。
現代にもその流れは引き継がれています。某携帯ゲーム機が「脳トレ」や「○○検定」などといったゲームソフトを続々と出していた時期を、(講師の皆さんの年齢なら)覚えている方が殆どでしょう。そこに色々な心理的なメカニズムが働いているのは確かでしょうし、専門ではない筆者はそれら全てを詳細に語る事は出来ないのですが、その中で一つ、ご紹介したいものがあります。
ゲーミフィケーション、という言葉があります。
「ん? ゲーム?」と思われた方は鋭いですね。そう、ゲームです。非常に簡潔に言ってしまうと、「難しくてもつい夢中になっちゃうゲームみたいなものだったら嫌な事でも楽しくできるんじゃない?」という発想の理論です。
クリアできなかった時に「なんの、もう一回!」とつい挑戦してしまったり、気付けばあっという間に時間が過ぎてしまっていたり、自ら試行錯誤したり、というゲームによくある現象を勉強に取り入れよう、というものを本稿では扱っていきます。
ゲーミフィケーション自体は、勉強だけでなく企業の新人研修やマナー研修、企画シミュレーションなど最早一般的な領域にも十分に拡がり、応用されているものです。もちろん、勉強にも応用されています。
ここでは、塾講師一人が教室で行う事の出来るゲーミフィケーションの応用についての提案を行います。これらを通して、生徒にとっての勉強が少しでもただ「苦しい」というだけのものではなくなる事を願っています。
「ゲームっぽい」って?
残念ながら、私達はその理論を使うような専門家ではありません。いきなり「ゲーミフィケーション理論に基づいた最高に楽しく革新的な講義をせよ」などと言われても困ってしまいます。だからといってその分野の勉強を今から極めるというのも非常に難解な話です。
ですので、ジェイン・マクゴニガル氏の提唱したゲーミフィケーションに必要な4項目から講義に使えそうな話に広げていきましょう。それって本当にゲーミフィケーションか、と問われると正直怪しい所なのですが、目的はゲーミフィケーションの応用ではなく「ゲームっぽく」する事で講義をより良いものにする事にあるので、大目に見てください。
項目1 「しつこいまでの楽観性」
楽観性とは、簡単に言えば「楽しい」という事です。楽しければ、自ら動きますよね。しかし、「楽しくないから楽しくしたいのであって、『楽しくすれば良いのだよ!』じゃあ何の答にもなっていない」という声が聞こえてきそうですね。仰る通りです。
ですので、一旦この項目を置いておきましょう。最後にもう一度、ここに戻ってきますので、お忘れなく。
項目2 至福の生産性
勉強をしていて特に苦痛な時間の一つが、「ずっとやっているのに何もわからない、出来ない、進まない」というような時間ではないでしょうか。至福も生産性もへったくれもない、そんな時間です。
逆に、ゲームをやるなかで楽しいのはどんな時でしょう。RPGならアイテムを手に入れた時? ボスを倒した時? 流行の一狩り行くゲームはレアな素材を入手した時でしょうか。みんなでわいわい遊ぶパーティゲームでは敵を撃墜した時とか、一位になった時でしょう。このように、様々な(楽しいと言われ、人気のある)ゲームには必ず「特にここが楽しい!」と言うべき瞬間があります。それを「至福」と呼んだわけですね。「何かを得た時や進度を認識した時」というような、できる事が増える場面を生産性と呼ぶわけです。
逆に、ゲームはそうじゃない時もずっと楽しいですか? 実はそうではないと思います。ボスに何回も負ければ嫌になる人もいるでしょうし、同じことの繰り返しになったりしていると飽きたりもしますよね。そういうタイミングは、紹介したような大人気ゲームにだって珍しくはありません。
それでも人気なのは、「つまらなくてもやるから」ではないですよね。つまらない瞬間があっても、楽しい瞬間がそれらを塗りつぶして余りあるからです。その生産のハードルが低いものの方が好まれますが、それは教え方の問題になってしまいます。勿論分かりやすく教える事は大事ですが、本項ではそれが出来るようになった時の事に繋げていきます。
新しい公式や原理を学んだ時、「~~と、いう事です。これでこの問題が解けましたね、はい次いきましょう」では生産性を感じられません。例えば二次方程式の解の公式を学ぶ時、その学習の前に一度「どうしても解の公式を使わないと解けないような問題」を出題します。生徒は分からず、困惑するでしょう。その後も、解ける問題と解けない問題にいくつか挑戦させ、解けなかった問題が残ったところで満を持して解の公式を紹介します。
勿論、それで出される答えが正答である事を確かめさせてから、今度は生徒たちはそれを使って解けなかった問題を解いていきます。「出来なかったことが出来るようになる」という生産性の体験です。「これで自分にもできるんだ!」という楽しさを逃がしてしまわない方法で教えていきましょう。
項目3 「ソーシャル性」
ソーシャル性とは何ぞや、と言われそうですがこれは割と身近な方が中高生にも多いでしょう。スマートフォンゲームなどで順位が表示されたりするものがありますよね。特に何がもらえるという訳ではないのに、ゲームの中でのご褒美や名誉の為に、人によっては大量の時間や金銭を消費するわけです。
というように、社会の中で自分の立ち位置を認識する事がソーシャル性と呼ばれるものです。使い方が難しいですが、テストなどで上位数名だけを表彰するなどの方法で「自分もあそこに立ちたい!」という意欲を掻き立てるのはお手軽ではありませんか? 順位の低い所までばらしてしまうと、流石に怒られてしまいそうですから、その辺りは丁度良い所で押さえておきましょうね。
項目4 「ストーリー性」
ストーリー性、というのは何となく浮かぶと思います。そして、正直講義に応用するのは非常に困難な部分でもあります。
ゲームでは多くの種類が魔王を倒しに行ったり、お姫様を助けに行ったり、といったストーリーを持っています。起承転結でも序破急でも構いませんが、どちらにせよ最後は終わるのです。が、勉強はそういう意味でゴールを見つけられても困ってしまう訳です。「まだ終わりじゃないよ!」となってしまいます。
しかし、そもそも何故ストーリーがあるのかを考えてみればそれを応用する事が出来るのではないでしょうか。ゲームのストーリーは、例えば「世界を救うために魔王を倒す」という道が示されて、その為に長い月日をキャラクターと共に過ごすことで、プレイヤーがまるで主人公になったかのように感情移入をさせます。いわば、プレイヤーは「長い年月世界を旅した勇者」になるのです。だから、魔王を倒した時の喜びは一層大きなものになるのです。ずっと目指してきた目標が達成されるのですから。
しかし、勉強の場合は感情移入の必要がありません。自分自身の事ですから。必要なのは、いわば盛り上がりです。
試験などの一区切りを見据えて、序破急を付けましょう。(起承転結でも良いですけど転の演出は大変ですね(笑))
試験の為に目標を定めて、小テストなどを通して、生徒と一緒に成績の上下に一喜一憂しましょう。余程ひねくれている生徒でなければ、自分の為に喜んでくれる先生を見ていれば自然と「良い点取りたいな」程度のことは思うものです。試験直前には総復習をしたりして、「いよいよもうすぐだ、頑張ろう!」という気持ちを高めます。偶に、「試験前だから授業は質問時間ね」みたいな適当な人がいるという話を聞きますが、それではマイナスです。質問時間にするにしても、質問のとっかかりになる復習問題くらいは用意しましょう。
もしもこれで、テストの結果が良かったらどうでしょう。きっと、生徒はただ高得点を取るときよりもうれしいと感じている筈です。何故なら、さながらRPGの勇者のように、仲間(先生)との協力の末目指していた目標を達成した、その達成感がある筈ですから。そしてもしも点数が低かったときも、分かりますよね。「悔しい!」と思ってくれる生徒が、普段よりもずっと多くなるでしょう。
最後に
項目1、しつこいまでの楽観性に戻りましょう。
楽しい、というものを教室の、それも短い講義の中で演出していく事についてここまで紹介してきました。これを沢山、可能な限り沢山用意してあげる事がそのまま楽観性に繋がります。
しつこいまでの、という位ですから、「ちょっとやりすぎかな」と思う位で良いのではないでしょうか。実際、筆者はそれなりに長くこれらを意識していますが、ネガティブな発言をされた事はありません(言わないだけかもしれませんが)。ゲームだって、楽しい瞬間は1回や2回でおしまいではありませんよね。
そうやって、「この先生の講義は楽しい」から「塾の勉強は楽しい」「勉強は楽しい」という風に拡がっていけると、楽しい学習が出来るでしょう。
参考サイト
http://hiromikubota.tumblr.com/post/4605138812/the-gamification-evolution