見落しがち!生徒に制限時間を意識させよう!
問題を早く解く力の必要性
通常、塾では「生徒の分からない所」を「分かる所」に変えていく事が主な仕事になります。生徒自身もそう思っているのでしょう、「先生、ここが分かりません、教えてください!」という質問は多くあっても、「先生、ここは分かるんですけどもっと早く解けるようになりたいです」という質問はなかなか来ないのが実情ではないでしょうか。
しっかりと分かりやすい授業が出来ていると思うし、生徒達からもそれなりに信頼されているだろう。そんな先生だからこそ陥ってしまいがちな「見落とし」が、問題を解くスピードをどうするのか、という視点です。
これは、あらゆる科目に言える事です、何故なら、塾で取り扱う5科目には、試験があるからです。試験が存在する以上、生徒達は問題を解けるだけでは十分とされず、そこには必ず「時間内に」という条件が付加されているのです。生徒達は、問題が解けるようになるのは前提ですが、それと同時に、試験を制限時間内に解けるようなスピードを身に付ける事も要求されているのです。
ということは、授業の中でそういった事を教えられるのであれば、含めていくべきだとも言えるでしょう。しかし、それは考えてみると少し難しい事でもあります。
早さを授業で扱うのは難しい
さて、筆者は数学を教える事が多い身ですので数学を例に出してみましょう。
例えば、証明の問題などは、見事に経験がものを言う世界です。慣れていない人と慣れている人。この違いだけで、問題を回答する速度は(慣れていない人にとっては)想像を絶するほどの違いになるでしょう。
しかし、現実にそのような状態にするためには非常に時間が必要になってしまいます。新しい単元に入るごとに内容を理解し、問題を解くことが出来るようになるだけでなく、そのスピードを上げるために数までこなさねばらないとなれば当然ですよね。
多くの塾の先生方はおそらく、その内容理解とその理解の確認までは問題を解かせても、それが出来るようになればその単元はおしまいとしていることでしょう。仕方が無い事です。時間は限られてしまいますから。その上でスピードを上げる為には宿題を増やして経験を積ませることになります。
つまり、ひたすら経験を多く積ませることによって問題を早く解けるようにしようというのは、塾講師が担当できる時間の範囲では非常に厳しいという事が分かると思います。
そこで本稿では、授業の中で生徒たちが問題を解く速さにも意識が向く様な授業のしかたについて書いていきます。ただ早く授業を進めては、「追いつけない嫌な授業」に、一問一問ゆっくりやっていては「早さは度外視した授業」になってしまいます。
しかし、それらの良いとこどりの「早さも磨けてしっかりと理解できる授業」をする事は、決して一部の優秀な先生にしかできない神業ではありません。
どういう人が問題を早く解けるのか
そもそも、問題が早く解ける人というのはどういう人でしょう。
先程の証明問題を例にすれば、「証明する為に何が必要なのかをすぐに見抜き、その為に必要な条件を見つけるのが早い」と言えます。単元や教科が違っても、その基本的な原理は変わりません。その為の「慣れ」というものを身に付けるのが、多くの問題を解いて経験を積むという方法になります。
「何が必要なのか」と「その為にどうするのか」をいかに早く認識する事が出来るか。それが問題を解く早さの鍵になります。それが早い人の事を、世間では「頭の回転が速い」というような言い方をしたりするのです。
なお、「慣れ」というのは、頭の回転を速くするための物ではありません。「何が必要なのか」「その為にどうするのか」を考える時に、問題のセオリーを知っている事によって正答を導きやすくするものです。
さて、その頭の回転が速いという所に注目してみると、つまり、慣れていなくても問題を解く早さを上げる事は出来る、という事になります。そしてそれは、慣れのように一つの単元や特定の範囲に限る早さではなく、あらゆる場面に応用の効く早さでもあります。なぜなら、勉強というものの最もベースに近い部分での考え方であり、それゆえに幅広く応用が利くものだからですね。
頭の回転が速いということ
では、その頭の回転が速いというのはどういう事なのか、少し考えてみましょう。
頭の回転の速さ、とだけ言ってしまうとそれはもちろん様々な形があるでしょう。スポーツに必要な回転の速さもあるでしょうし、社会人の仕事に際して重宝される速さもあります。しかし、試験の際に重宝されるような回転の速さは、それらとは少し違うものになります。
試験の時にこそ必要な、頭の回転の速さとは、「迷わない事」です。問題を見た時に「あれっ。これどうやって解くんだっけ……?」となる迷いや、「あー駄目だこんがらがっちゃった! わけわかんない!!」となってしまうような迷いもあります。これらから無縁なものにしてくれるのが、この記事で言う「頭の回転の速さ」です。
自分が間違っていたことに気付いた時にも、「じゃあこうしよう」「こっちの計算をしてみよう」と修正していく事や、複雑な計算を簡単な方法で計算したりすることなどが出来ることだとも言えます。
どうやって授業に織り込んでいくのか
という長々とした前置きを経て、本題に入りましょう。どういった授業をすれば、色々な場面に応用できる早さを身に付けられるのでしょうか。
ゲーム感覚で身に付ける
最も身近な方法なのが、世に出ているような100マス計算や数独といったゲームを授業の初めに行う事です。数独はものによっては時間がかかってしまいますから、100マス計算をお勧めします。
なぜこういったゲームが勉強にも良いと言えるのか。それは、これらを早く解こうとすることは非常にロジカルな思考を要求するものだからです。100マス計算をやった事がある人は分かると思いますが、100マス全てを計算して出しているという事は普通ありえません。授業の初めにこれを行う事で、必要な計算だけを抽出して「より早く回答を求める」という習慣が付きます。教室内で競争などの形式をとると尚良いでしょう。
もちろんこれだけで頭の回転が速くなるという訳ではありません。しかし、一つの問題に対して効率的に解くという事、そしてどうすれば効率良く解けるかを考える事は、先述の通り基礎的な部分にあたります。幅広く応用できるでしょう。
授業進行に織り込んでいく
授業の進行時に最も気を付けなくてはいけないのが、問題を解いたプロセスの扱い方です。答え合わせという行動をする際に、答えが正解か否かだけを扱うような事はありませんか?証明の問題に照らして考えてみますが、例えば、
「この辺とこの辺が共通のものであるから等しく、その両端の角がそれぞれ同位角であるから等しい。よってこの二つは合同ですね。」というような解説。
○か×かだけで終わらせてしまう先生はあまりいらっしゃらないとは思いますが、解説書と同じことを言って解説を終えてしまう先生はまだまだいらっしゃいます。それなら生徒は解説書だけ読んでいれば良いではありませんか、となってしまいますよね。
解説の時にもうひと手間だけ加えましょう。それは、『ここが分かれば解ける!』というその『ここ』に気付く為に、問題のどこを見るべきだったのか。どういうヒントが隠されていたのか。そこまで解説するという事です。
「この辺は共通だから良いですよね。こちらの同位角ですが、問題文中にABとCDが平行であるという文章があります。その平行である所にしっかり着目しましょう。平行である意味を考えれば、ここの同位角が等しいという事に気づきやすくなる筈ですよ。」
といった具合ですね。
解説を見れば、内容を理解している生徒には当然問題を理解する事も出来ます。そういった形で何問も何問も解いていって経験を積んでいけば、問題を見た時に正しい思考プロセスを想像できる「慣れ」を身に付ける事も出来るでしょう。
しかし、慣れが身に付けさせてくれているのは、結局問題のセオリーだったり「よくある事」だったりするわけです。ならば、そこまでを授業内で一挙に扱ってしまえば、同様の効果は十分に得られる筈なのです。問題のどこに着目するのかを理解せず、そういった点を探しながら経験する10問よりも、どこを見るべきなのかを明確に理解した上で経験する5問の方が、生徒にとっては効率も、効果も大きいものになるはずです。
時間がない中で解く過程をスムーズに進める為には、一つの問題の密度を濃くしなくてはいけない、というのがここでの真理になります。中でも重要になるのが、「気づき」のサポートだという事です。「こうすれば解ける」という「先生=しゃべる解説書」だけでは達成しえない所に手を伸ばしましょう。先生が、「こうすれば解ける。こういった部分に気を付けると、その方法を導きやすくなるよ」という解説書よりも大きな働きをしましょう。「先生>解説書」となる事で、回答を早くすることが出来るようになっていくはずです。