小論文学習で大事なこと
小論文の書き方については、
にてお話しました。
それをふまえて、今回は小論文学習において大事なこと、およびその指導法についてお話していきたいと思います。
小論文学習で大事なことはズバリ、
小論文頻出テーマに対する背景知識を知り、自分の考察を深めておこう!
ということです。
入試小論文では、どうしてもよく出題されるテーマというものがあります。難関大でも、そうでない大学でも、頻出テーマは共通にあります。しかし、その頻出テーマに対する問われ方は、大学によって異なります。もちろん、頻出テーマではない話題が出されることも往々にしてありますが、いざ頻出テーマが出たとき、そのテーマの背景知識とじぶんの考察をある程度あらかじめ持っている人は有利です。
背景知識は知っていて当然、として出題してくる大学もあります。そういう場合は特に、あらかじめ背景知識を勉強してきた人が小論文をよく勉強してきた人、という風にみなされる部分になります。
更に、自分の考察をあらかじめ持っておくことは、短い試験時間の中で、出題に対しての意見を深めることができることへと繋がります。1からそのテーマに対して考えるようでは遅いのです。到底試験時間の中で、プラスαの解答を作ることができません。
以上より、小論文学習においては、頻出テーマに対してある程度背景知識を知っておき、自分の考察を持っておくことが不可欠になります。
では、頻出テーマを例に出しながら、どのように指導すれば、生徒の記述力を伸ばせるかについてお話したいと思います。
例⑴国際化(グローバル化)
国際化の背景知識
国際化はなんで起こってきたんだろう・・・?と考えさせてみてください。
おそらく、生徒が簡単に思いつくのが、情報化の発達により世界中の人と簡単にコンタクトをとれるようになった、だから国際化がどんどん進んできた、ということではないでしょうか。確かに、今の私たちの国際化を促進しているのは、間違いなく、‘‘情報技術‘‘にあるでしょう。しかし、それは現代の国際化に焦点を当てて考えたことに過ぎませんね。そもそも国際化はいつから始まったんだろう?なにが原点なんだろう?と思考を深めさせてほしいのです。
- 近代における西洋の植民地化
以下の文を読んでみてください。
近代以降、輸送通信手段の発達によって世界の距離が縮まり、人とモノの交流が飛躍的に増大して、世界中の地域と人々が結びつくようになった。そして、西洋がほかの地域の植民地化を進めるにすれて、西洋の白人を頂点として、世界の人々の集団が序列化されるようになった。つまり、近代はもともとグローバルな性格をもっていたわけだ。(出典 『小論文これだけ!』樋口裕一)
つまり、近代において国際化の原点があり、それは西洋の白人を中心とした植民地化である、ということなのです。この知識を知っていれば、ほかの受験生みんなが思いつきそうな、情報化、という話題に差をつけることができます。非常に有用でしょう。
また、以下の文も読んでみてください。
- アメリカ化
現代のグローバル化は、本質的にはアメリカ化だ。冷戦集結後の世界は、唯一の超大国アメリカを軸にして動いてきた。とりわけ、9・11の同時多発テロ以降の世界は、「アメリカ」の問題を抜きにして考えることはできない。(出典 『小論文はこれだけ!』樋口裕一)
先の文の、西洋の植民地化、という話に少し通じるものがありますが、大きな歴史の流れで見れば、世界に大きな影響を及ぼし続けてきたアメリカにあると言えるわけです。このアメリカ化という視点も、知っておけば非常に有用でしょう。
自分の考察
国際化によってなにが問題なのか、ということを考えてみましょう。そこに自分の意見が反映されてくるはずです。ここでのコツとしては、国際化といっても様々な面での国際化があると思います。人権、価値観、経済・・・。とっかかりやすいものから、色々と考えさせてみていってください。
ここでは、経済の国際化、について取り上げてみたいと思います。
まず、経済の国際化とはどういうことでしょうか。
昔は、日本の会社が海外へ製品を輸出することはあっても、会社自体が進出していくことはなかったと思います。しかしいつの間にか、日本の会社であっても、海外に支店を持つようになったり、工場を作ったりするようになりました。1990年代から2000年代半ばにかけてです。海外に工場をつくるようになった大きな理由は、人件費が海外の方が安いからです。
ここに問題があると見てみます。
- 国内の雇用が減っている
以上のことを逆に考えると、労働も国際的な競争にさらされていると考えることができるでしょう。賃金の格差が国境によって固定されているとも言えます。海外の方が人件費が安くて、国内の方が人件費が高いというのはそういうことです。そして、海外に労働が流れていけばいくほど、国内の雇用が減ります。日本の失業率の高さが昨今では注目されていますが、このことが一因ではあるでしょう。
つまり、経済の国際化によって、国内の雇用が減っているということを問題視することができます。 そこから自分の意見をより深めていくことができるでしょう。
例⑵日本人の国民性
日本人の国民性はどういうものか、という話題は非常に頻出です。あらゆる角度から日本人の国民性を語ることができるので、宗教、美徳、文化・・・等あらゆる角度から日本人というものについて分析できているとよいでしょう。ここでは一例として、美徳、について取り上げてみたいと思います。
国民性の背景知識:美徳について
- 日本人は敗北に美を感じる
以下の文を読んでみてください。
コロンビア大学のアイヴァン・モリスによると、成功ではなく没落の姿に美しさを見るのが、日本人特有の性格であるという。このことは、日本人の好む英雄像に見て取れる。日本人に人気がある源義経や楠木正成は敗北した人間である。勝利者、成功者である源頼朝や足利尊氏は、あまり好まれない。日本人が愛する英雄は、精神と動機の純粋さを持っているという共通点がある。このとき、実益は軽視される。その反面、成功と業績が樹脂される西洋では、英雄というのは、自分の主義主張を実行して勝利した人物である。実的を重視する現実の世界で価値があると、評価される。(出典 『小論文はこれだけ!』樋口裕一)
ここによると、日本人は勝利より敗北に美を感じることがわかります。逆に、西洋は勝利に美を感じることがわかります。日本人と西洋の対比はよくなされることですが、ここにも日本と西洋の対比を見ることができるのは面白いのではないでしょうか。
自分の考察
ここで、その美徳の対比が生まれたのだろうか、ということについて考察をしてみたいと思います。なぜ日本は勝利ではなく、敗北に美しさを感じてしまうのか・・・。
あくまで私の意見ですが、一例として述べてみたいと思います。
- 第二次世界大戦での敗北
私は、これが第二次世界大戦での敗北に起因すると考えます。第二次世界大戦で、私たち日本はアメリカに大敗しました。広島と長崎に原爆を落とされ、降伏したのです。主権国家の同意なしに原爆を落とされた国は、世界でも日本だけです。ですから、これは歴史上でも稀に見る大敗なのです。私たち日本人は、この大敗と降伏という精神的にも肉体的にも大きなダメージを受け入れなければなりませんでした。受け入れるには荷が重すぎました。辛すぎることでした。私たちはその時、敗北の中に美を見つけなければ、受け入れることができなかったのではないでしょうか。それに起因して、私たち日本人の心の根底に、敗北に対する肯定感が根付いたのではないかと予想します。
以上、日本人の美徳感について自分の考察を深めてみました。
このように、あらゆる角度で日本人がもつ美徳に対する切り口を、生徒に模索させてみてください。それが、入試本番へと繋がります。
おわりに
例を二つあげて、頻出テーマへの取り組みについてお話してきました。取り組みの姿勢がわかっていただけたら幸いです。そして、日常的にこういう学習を行わせることで、入試本番の実践力を養ってあげてください。