国家の守り方
2014年末の衆議院議員選挙において自民党・公明党が3分の2以上の議席を確保する歴史的大勝利をおさめました。
戦後70年を迎える今年、憲法改正に必要な議席数(絶対安定多数)を手に入れた現行政権は、連日大きく報道され、議論を繰り返してきた「集団的自衛権」のあり方に動きを加えることが予想されます。
賛否が渦巻く議論であればあるほど、我々国民は自衛権のあり方について冷静かつ慎重に分析して、向き合っていかなければなりません。
本稿では高校生の生徒を対象にどう教えるか述べていくのですが、一度「現代社会」という科目の特性を確認しましょう。この科目の内容の取り扱い方について学習指導要領には以下の様な事が記載されています。
「現代社会における諸課題を扱う中で、社会の在り方を考察する基盤として、幸福、正義、公正について理解させるとともに、現代社会に対する関心を高め、いかに生きるかを主体的に考察する大切さを自覚させる。」
引用元:高等学校学習指導要領解説『公民編』
現代社会の諸課題(本稿の場合であれば「集団的自衛権」)に対して、社会はどうあるべきか、主体的に考察するような力を育成することが求められています。
教科書に載っている内容のみならず、常日頃社会に起こっているニュースをきっちり主体的に学んでいるかを問う科目でもあるので、今年の入試問題に出題される可能性は大いにあるのです。
つまり、そのような出題があるということはそれを教える講師の力量によっても、生徒たちの認識度合いが全く変わってくるということになりますよね。本稿ではこのような問題意識から、
「集団的自衛権」は一体何が問題になっているのか
ということを生徒がしっかり理解できるような指導法をご紹介します。
自衛権の概念はどう生まれた?~個別的自衛権と集団的自衛権~
そもそも自衛権という言葉はどのようにして生まれたのでしょうか?これの歴史を紐解いていきましょう。
個別的自衛権
今から約100年前の1914年から起こった第一次世界大戦の後に、国際法上、戦争は違法行為と定義されるようになりました。
つまり、世界認識として戦争はしてはならないという法的基盤が出来上がり、これを第一次大戦後の世界的な秩序としたのです。
しかし、例外のない原則というのはありません。
必ず不測の事態にはどうするかという考え方を持っておくことが必要になります。
この場合の例外とは、他国から不当な侵略を受けた場合に「自衛のための」戦争であったら認められる、ということになりました。
これが自衛権という概念の始まりになったのです。
この自衛権については、いろいろな見方がありますが、この自衛権概念の出発から現在まで、共通の認識としてあるのは田畑茂二郎による定義が参考になります。
「外国からの違法な侵害に対し、自国を防衛するため緊急の必要がある場合に、それを反撃するために武力を行使しうる権利」
引用元:田畑茂二郎『国際法Ⅰ』
つまり、他国から自国に対して侵略行為があった場合に、国家を守るためであったら武力を行使することが認められているということですね。
自衛権という考え方が生まれた背景に第一次世界大戦があったこと、そしてここでいう自衛権は自国に対する侵略への自衛ということで、集団的自衛権と区別して個別的自衛権と呼びます。
集団的自衛権
さて、この個別的自衛権というものから、いかにして集団で行使する権利が考えられていったのでしょうか。
ここでまた歴史を振り返ってみましょう。
今度は第2次世界大戦の末期へと焦点を当てます。1944年にワシントン郊外で行われたダンバートン・オークス会議で、アメリカ・ソ連・中国・イギリスの4カ国によって第2次世界大戦後の国際平和機関=国際連合の方針原案を作ります。
そこで、大きな方針として武力行使禁止の原則が打ち出されました。
原則という言葉にピンときた方もいるかもしれませんが、ここでも例外が想定されます。
それは、もし地域における紛争が起こった際には、国連安全保障理事会の許可があれば武力行使によってこれを鎮圧する事が認められる、というものです。
しかし、翌45年2月のヤルタ会談によって、国連安全保障理事会の常任理事国(米・英・仏・中・ソ)に拒否権が認められることになり、状況は変わりました。
もし常任理事国のいずれかが拒否権を発動すれば、いざというときの武力行使が機能しなくなる可能性が出てしまうからです。
この穴を埋めるような考え方を議論したのが、同年3月のチャプルテペック会議でした。
この会談によって決まったことが、アメリカ、ヨーロッパ米州諸国いずれか一カ国に対するいかなる攻撃も全ての米州諸国に対する侵略とみなされることになり、これに対する軍事行使を含む対抗措置も認めることにしました。
自国が攻められていなくとも、集団で武力行使による自衛権を発動する、これこそが、現代につながる集団的自衛権の考え方の始まりだったのです。
集団安全保障と集団的自衛権の違いとは?
以上が集団的自衛権の概念が生まれる背景なのですが、ここで1つ考えていただきたいことがあります。
それは、これまで議論されてきた集団安全保障と集団的自衛権は具体的に何が違うのかということです。
この違いを理解しておかなければ、集団的自衛権の中身が見えてこないのでこの点についてしっかり指導しましょう。
①集団安全保障
集団安全保障とは1945年6月に調印された国連の憲章と関連しています。
その具体的な根拠となる部分は第2条4項です。まずは内容を確認しましょう。
「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」
引用元:『国際連合憲章』
本項において、武力行使禁止の原則が出されていることがお分かり頂けると思います。
この原則をルールとして掲げており、ルールを破って武力行使をする違反国に対しては国連が集団で対処するということが決定されました。
つまり、集団安全保障とは、国連の加盟国内での違反者に対する措置であるというわけです。
②集団的自衛権
集団的自衛権の生まれた背景については前述した通りです。
集団的自衛権は集団安全保障のように、国連加盟国内での違反者に対して行使するものではありません。
こちらはあくまで個別国家によるものであり、集団的自衛権を組んでいるグループの対抗者に対する措置であるということです。
そして、確認することでもないかもしれませんが、集団的自衛権は権利であって義務ではありません。
権利を行使するかどうかは当該国家に委ねられているのです。
この集団的自衛権の考え方(自国が攻められていなくとも、集団で武力行使による自衛権を発動する)は様々な軍事同盟の根拠とする考え方になりました。
第2次世界大戦後の冷戦構造の中で生まれた北大西洋条約機構も、ワルシャワ条約機構もこの考え方が基盤にあります。
ベトナム戦争に武力介入したアメリカ軍や、湾岸戦争でイラク軍を撤退させた多国籍軍など、実は集団的自衛権が軍事介入と政治支配を正当化するために持ちだされている場面は多くあるというのも事実なのです。
まとめ
本稿では、集団的自衛権とは何かを考えるために、その考え方が生まれた背景や個別的自衛権、集団安全保障との違いを説明いたしました。指導のポイントをまとめると
テーマ:あなたは国家をどう守る!?~集団的自衛権の捉え方~
◯国会で議論されていること
(1)2014年度末の衆議院選挙の結果から考えられること
(2)国会で議論されている集団的自衛権
◯自衛権とは何か
(1)自衛権という考え方はどう生まれた?
(2)個別的自衛権
(3)集団的自衛権
◯集団安全保障と集団的自衛権の違いは何か
(1)集団安全保障
(2)集団的自衛権と軍事同盟
という順番で説明をすれば、集団的自衛権とはどのような背景で生まれた考え方であったのか、そして集団安全保障と何が違うのかという両側面からしっかり理解することが出来ると思います。
では、集団的自衛権は日本国内でどういう議論になっているのでしょうか。その点については次稿でご紹介したいと思います。本稿は以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!