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知るほど面白い!変動相場制②~経済制度はどう変わったか~

高校生

2021/12/17

変動相場制への移行

前記事「知るほど面白い!変動相場制①~歴史的背景」では、

変動相場制がいかにして取り入れられたか、という歴史的背景をご紹介しました。

第2次世界大戦後の「ブレトン・ウッズ体制」から固定相場制の仕組み、ニクソン・ショックによる変動相場制への移行までを時系列でお伝えしました。

本稿では、前稿で説明しきれなかった

変動相場制とは何か、それが経済制度にどう影響を与えたか

について、生徒がしっかり理解できる指導法をご紹介します。

コンテンツ

1.ニクソンの本当の狙い
2.ニクソン・ショックを見込んだ国々
3.日本の対応
4.変動相場制へ移行したことによる変化
5.お金そのものが売り買いされるようになった

1.ニクソンの本当の狙い

前稿で固定相場制が崩壊するところまでお伝えしましたが、

もう少しだけ、この崩壊を告げた「ニクソン・ショック」の中身を確認します。

ニクソンは、固定相場制を維持することが出来ないという危機感から、

ドルと金の交換停止」を発表したのですが、実は、もう1つの狙いがありました。

結論から述べると、その狙いとは、

「ドルの切り下げ」です。

アメリカは金の保有量が減っていただけでなく、貿易赤字も続き、国内経済の不振に苦しんでいました。

この経済状況を打開するために、ドルの値を下げて(ドル安)輸出を伸ばそうとしたのです。

具体的にどういうことか、以下の画像を御覧ください。

 

これらは、ドル安になった時に価格がどう変動するかのケーススタディです。

アメリカ国内で100ドルで売られているグローブが、

1ドル=360円の時、日本国内では36000円となっていたのが、

1ドル=300円(ドル安)になれば30000円になります。

つまり、ドル安になると、海外のアメリカ製品の価格が下がります。

価格が下がれば消費者のアメリカ製品への購買意欲が増し、輸出増大につながるというわけです。

もっと具体的に言えば、

輸出産業が伸びれば、アメリカの該当企業は収益が増える=経済を活性化させようとした

ということですね。

ここは、生徒の頭が混乱しやすい部分です。(筆者も時々頭がこんがらがってしまいます。)

そんなときには以下のような、整理しやすい図を利用して、生徒が混乱しないようケアしてあげましょう。

<※1ドル=100円を基準として>
円高→円の価値が上がるため購入が有利になる=輸入有利(1ドル=80円で買える)     輸出不利
円安→円の価値が下がるため、大きい額で売れる=輸出有利(1ドル=120円で売れる)輸入不利

<ここがポイント>

ニクソンの狙いは「ドル安」を導き、アメリカ経済を不振から脱却させることだった

2.ニクソン・ショックを見込んだ国々

次に、固定相場制の崩壊(ニクソン・ショック)は世界市場にどう影響を与えたか考えていきましょう。

実はニクソン・ショックが起こる少し前から、各国の経済専門家は、

「これほどたくさんのドルが世界に流通していれば、
アメリカはいずれドルと金を交換できなくなるのではないか」

と予測していました。

そして、それが現実になった時のために、ドルの値段が下がる前に他の通貨と交換しておく

という動きを世界各国が見せるようになります。

なぜ他の通貨と交換しようとしたのか。

抽象的な話になってきたので、具体例(日本円)で考えましょう。以下の図を御覧ください。


固定相場制の時には、1ドル=360円で、相場が決められていました。

この状態では10000ドルに3600000円分の価値がありました。

これがドル安になると、同じ10000ドルを購入しているのに、600000円分の損害が出てしまうことになりますよね。


固定相場制の時期は常に1ドル=360円とがっちり固定されていました。

それが変動相場制に移行すると、ドル安で大きな損害が出たり、逆に、ドル高で利益が出たりすることもあるのです。

これが変動相場制に移行したことによる経済システムの最も大きな変化と言えるでしょう。

後ほど、これについてまた触れるので、頭の片隅にいれておいて下さい。

<ここがポイント>

変動相場制が導入されると、相場の変動でリスクとリターン双方の可能性が生まれる

3.日本の対応

さて、ニクソン・ショックを見込んだ国々はどのような対策をとったのでしょうか。

上の図で示したとおり、ドルの価値が下がると、相場の変動で大きな損害を出す可能性があります。

ドルを持っている企業や個人は、そうなる前にドルを売っておこうと、一挙に市場に押し寄せました。

そうなると当然、市場は大混乱になります。

市場

そこで、各国は外国為替市場をしばらく閉鎖することを決定しました。

市場が落ち着くまで封鎖しておけば、大きな経済混乱は避けられるからです。

しかし、唯一日本だけは外国為替市場を開き続けました。

世界各国が市場を閉鎖している中での日本の決断は、経済学で未だにホットなテーマの1つです。

混乱の中でどうして市場を開き続けたのか?

真実がはっきりしていない上に、3つの説があるからです。

その3説について、簡単にご紹介します。

①影響を予測できなかったという説
→「ニクソン・ショック」が起こる事によって、ドルの価値が下がり、各国がドルを売ることになる、という予想ができなかったという説です。

②輸出産業への配慮説
上の<※1ドル=100円を基準として>を御覧ください。ドルの値段が下がる(ドル安)とそれに対応して円の価値が上がります(円高)。そうなると輸出産業は大きなダメージを受けます。円高は輸出に不利だからです。これを見込み、輸出産業がドルと円を交換できるよう市場を閉鎖しなかった、という説です。

③銀行、商社への配慮説
銀行や商社は、大量にドルを所有していました。もし市場を閉鎖してしまえばドル安によって、銀行、商社には大きなダメージを受けてしまいます。これを配慮して、ドルと円が交換できるよう開放し続けたのではないか、という説です。

この3説に答えがあるのか、はたまた別に理由があったのか、今でも本当の事情は分かっていません。

いずれにせよ、日本は外国為替市場を開き続け、価値がいずれ落ちるドルを買い続けました。

ドルの値段が下がる前の「ドル買い円売り」をした結果、多額の損害を計上することになったのです。

<ここがポイント>

日本は外国為替市場を開き続け、大量の「ドル買い円売り」をしていた

2000億円を超える赤字

この時日本銀行が買い取ったドルは総計40億ドルにものぼりました。

この後、変動相場制に移行するまでの間、スミソニアン協定によって、一時的に1ドル=308円で固定されました。

スミソニアン協定:アメリカの金・ドル交換停止に対し、1971年12月にワシントンのスミソニアン博物館で開かれた10か国財務相会議。この協定で日本は1ドル=360円から308円へと円を切り上げた。

買い取ったドルがピッタリ40億ドルであったとしてこの時の赤字を計算してみましょう。

計算

まず、ニクソン・ショックが起こる前から計算します。

そうすると…

360円×40億=14400億円(①)のドルを購入したいことになります。

では、

ニクソン・ショックが起こり、ドルが切り下げられると40億ドルの日本円は…

308円×40億ドル=12320億円(②)になりますね。

つまり、同じ40億ドルであっても、ニクソン・ショックが起こる前と後で、

2000億円以上(①-②)の損害を計上してしまう結果となったのです!

さらに、日本はドルを購入するために大量の紙幣を発行していました。

需要以上の紙幣が市場にばらまかれたことによって、円の価値が下がり、激しいインフレにつながります。

何度もお伝えしてきたとおり、

固定相場制の時には、1ドルいくらというのがしっかりと固定されていたので、

現在のように目まぐるしく円の価値が下がったり上がったりするような事は起こりませんでした。

しかしニクソン・ショックが起こり、(一度1ドル=308円という1クッションをおいてから)

1973年に日本も完全に変動相場制へと移行しました。

<ここがポイント>

日本は価値が落ちる前のドルを大量に購入し、2000億円以上の赤字を出してしまった

4.変動相場制へ移行したことによる変化

変動相場制に移行したことによって、

1ドルとの交換比率は、外貨の需要と供給の関係によって決まることになります。

具体的にどういうことか。

アメリカとの貿易の例で考えてみましょう。

わかりやすく生徒に伝えるために、海外から輸入が増えている場合を考えてみましょう。

アメリカから車が海を越えてたくさん日本に輸入されることを想像してみてください。

くるま

これから、輸入車1万ドル分の支払いをします。

アメリカの企業に支払いをするのですから、会計時には支払い額をドルに替えておかなければなりません。(今回は手渡しで行う場面を想定します)

そうすると外貨両替で、1万ドル分、日本円で購入しておくことが必要になりますよね。

そして、1万ドルを買うことは、その分の日本円が外国為替市場に放出される事も意味しています。

もちろん、常に輸出も行っていますが、

圧倒的に輸入が多い場合には、

貿易を通して、外国為替市場に需要を超えた多くの日本円が存在することになり、日本円の価値が下がることになります。

これが「円安」という状態です。

「円高」「円安」がどうして起こるのか、これ以外にも様々な要因は有りますが、

需要と供給の関係を、実際の貿易でケーススタディしてみると良いと思います。

<ここがポイント>

市場に出回る円の量が増えれば、需要と供給の関係で円の価値は低くなる

お金そのものが売り買いされるようになった

また、これは専門家によって言い方が異なるのですが、

変動相場制に移行したことによって、お金が「商品」化されたという事実があります。

これも簡単な例を示してみましょう。


本当はここに手数料などもかかってくるので、これほど単純ではないのですが、

上記のように、為替の変動を上手く読み取ることができれば、外貨の両替によって利益を得ることも見込めるわけです。

このように、市場に出回る商品のように、

お金も売り買いされるようになったということから、このような表現がされています。

<ここがポイント>

お金も売ったり、買ったりされる「商品」になった

まとめ

ここまで経済の非常に重要なテーマである”変動相場制”をわかりやすく教える方法をご紹介してきました。

最後に指導のポイントをまとめると、

テーマ:変動相場制によって世界経済はどう変わったか?
◯固定相場制の崩壊
(1)ドルの切り下げ
(2)アメリカが意図したこと
(3)輸出入と為替の関係
◯ニクソン・ショックが起こる前に
(1)ドルを大量に売り飛ばせ
(2)日本の対応
(3)何故日本は市場を開放し続けたのか
◯変動相場制に移行したことによる変化
(1)為替の変動が貿易に与える影響
(2)ケーススタディ
(3)為替を利用した損得勘定

となります。長くなりましたが本稿は以上です。

参考にして頂けたら幸いです。

ここまで長文ご精読ありがとうございました!

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