イスラム”国”とはなにか:もくじ
1. はじめに
2014年の半ばから急速に力をつけたイスラム国。
これが世界にもたらした影響は大きいと考えていいでしょう。
今までは小規模ながらも恐怖とされていた”テロリズム”が、1つの”国家”のような形を作り上げ、それが中東にあるというのは戦慄を覚えます。
イスラム国が日本で最も話題となったのは2015年の1月、ジャーナリストである湯川遥菜さんと後藤健二さんの両名がイスラム国に誘拐されたことが発覚した時期です。
イスラム国という存在を理解すること自体は、今の時代を理解することにもつながり、時事問題の理解にもつながりますので、記事を作成することにしました。
本記事では、いまや見過ごすことのできない
イスラム国とは何か?その概要と経緯
を、わかりやすく解説します。
【呼称について】
イスラム国はISIS, ISIL, IS と様々な呼称があります。ここでは日本のニュースでよく用いられている呼称「イスラム国」を用います。
2. イスラム国の経緯
イスラム国の起源はイラク内部に存在するテロリスト集団でした。
2003年のイラク戦争後に度々テロ行為を行い、2009年までに他のテロリスト集団との合併を繰り返してきました。
2012年ごろからテロ行為の規模が大きくなり、イラクの首都バグダッドのみならず、基地や収容所への攻撃を初めます。
2014年初期にはさらに力を増し、徐々にイラクの領土の一部を占領下に置くようになってきます。それのみならずシリア方面までも占領。
そして、
2014年6月、イラクの北部にあるモスルを占領後、シリアのラッカを首都としたイスラム国の樹立を宣言。
国家としての承認は未だ得ていませんが、いくつかの組織から支持を得ることに成功しています。
これに対し、アメリカを中心とした有志連合が結成され、断続的に空爆を行うことになりました。
3. イスラム国とは
イスラム国のイメージ
まずイスラム国とはどのような集団なのでしょうか。
端的に言ってしまえば、”テロリズムの集団”としてしまってよいのですが、単なるテロリズム集団とは異なり、効率的かつ高度な組織体系を持った集団と考えていいでしょう。
イスラム国出現以前も、2001年の9.11事件をきっかけにテロリズムが注目を浴びましたが、いずれの集団もある意味小規模なものでありました。
おそらくテロリズムという言葉を知っている皆さんも、その規模が大きいものではないと思っていることだと思います。
それが2014年6月下旬、ある集団が”国家”を宣言したのです。
日本と同程度の支配領域を持つテロリズム集団が、この世界に登場した。
しかもその集団は高度なインターネットテクノロジーを持ちつつ、高度な組織化がなされているという。
そして、その集団が、
「北アフリカからチベット地方までが我々の領土だ」
と言い出したのです。
イスラム国の主張
カリフ制の復興
彼らが主張することは端的に言ってしまうと、「昔に戻りたい」なのです。
問題は彼らが言う昔とはいつのことなのかというと、それは、
正統カリフ時代・ウマイヤ朝・アッバース朝(初期)
これらの時代のことを指しています。
そしてこれらの時代の特徴といえば、
カリフ制がきちんと整っていた
ということ。
アッバース朝初期まではカリフはたった1人しかいなかったのです。
しかし、後ウマイヤ朝をきっかけとして3人のカリフが擁立された時代に突入し、そこからアッバース朝がどんどん分裂していった...
イスラム国はそんな分裂以前に戻ろうと主張しているのです。
【カリフとは】
カリフとは正しい手続きを踏んで選出された、”預言者ムハンマドの後継者”を意味します。正統カリフ時代の4代目のカリフをアリ−といいますが、彼が暗殺された際、アリ−の血を引き継ぐ者だけがカリフに選ばれるべきだと考える宗派をシーア派と呼び、血統を特に気にせずムハンマドの言葉に従えば良いと考える宗派をスンナ派と呼びます。ちなみにイスラム国はスンナ派です。
宗教の強制
もうひとつイスラム国の特徴としては、宗教の強制があるでしょう。
つまり、「誰もがイスラム教を信じるべきで、信じないのならば死を」と考えているということです。
イスラム国がキリスト教の街を支配したときには改宗を迫り、それを拒むのであれば処刑を行うということもありました。
しかしある意味、この風潮はアッバース朝と似ている点があるのです。
過去にはジズヤと呼ばれる一種の税金がありました。
ジズヤとはイスラム教徒ではないものが支払わなければいけない税金のことです。
ウマイヤ朝まではアラブ人以外は(たとえイスラム教徒でも)支払わなければならないとされていたのですが、アッバース朝を契機として「イスラム教徒は皆平等」と確認されたのです。
イスラム教徒以外に対しては厳しい対応を取るという点においては、似ているといえば似ています。
しかし、異教徒への対応において「税金を支払えばよい」と「改宗しなければ死を」の間には大きな差があります。
宗教を変えるというのは、ある意味その人のアイデンティティを全否定しかねないことがらですので、それを考慮に入れたら税金は比較的軽いものといえるのです。
実際、「税金を払えばよい」王朝を”宗教に寛容”と考えられることもあります。
主張する領土
イスラム国はカリフ時代を取り戻すことを目指しているわけですが、その領土は次のようになります。
ほぼアッバース朝と同じ領土のように見えますが、それよりも一回り大きい領土を主張しています。
さらに東南アジアのイスラム国家であるインドネシアまでも領有を主張しているのです。
4. イスラム国の何が問題なのか
人道的な問題
まず第一にあげられるのは人道的な問題を起こしていることでしょう。
イスラム国は誘拐による身代金や収奪を財源としていると言われています。
実際、日本人もこの問題に巻き込まれ、身代金の請求を受けました。
それのみならず、現地においては異教徒に対して徹底的な抑圧を行い、殺戮を行っています。
さらに、子ども兵を用いているとの報告もあります。
安全保障上の問題
もうひとつ上げられるのは安全保障問題です。
イスラム国はテロリズム集団ではありますが、それに賛同する若者や小規模のテロ組織があります。
これはある意味、イスラム国が他国の内部にパイプを持つことを意味し、それを通じて他国に対するテロ行為が起こりうるということなのです。
もちろんそれのみならず、中東地域においてはイスラム国が直接の脅威となっています。
イスラム国に接している国は、イラク、シリア、レバノンなどありますが、彼らはイスラム国と直接対決している形になります。
しかも、最悪なことに、イスラム国の捕虜となってしまえば処刑される可能性がかなり高いということです。
2014年の半ばには以下のような支配領域を持っています。
もちろん他国に承認されたものではありません。
5. 最後に・・・イスラム国を理解する上で1番大事なこと
何度も主張しておきたいことですが、イスラム国という国があるからといって、イスラム教が危険というわけではありません。
1番危険なことは、思想を他者に強制することです。
キリスト教だって過去には十字軍のような残虐性を持つ集団を作り上げましたし、あるいは”異端審問”というようにキリスト教を信じないものを処刑することだってありました。
カリフ時代に戻りたい、シャリーアに徹底して基づいた時代を築きたい...仮にイスラム国がそう思うだけで、徹底した宣言活動を行うだけでしたら特に問題にならなかったでしょう。
問題は他者に「改宗か、死か」を迫ったこと。
これがなければイスラム国はまた別の道を辿っていたかもしれません。
また、昨今の一部のイスラム原理主義者によるテロ事件を受けて、イスラム教徒全体が差別的な目を向けられているという現状も理解すべきでしょう。
当然のことですがイスラム教徒=危険な人、ではありませんし、イスラム教=危険な宗教、でもありません。
テロリズムについて考えるときには、この視点を忘れないようにしたいものです。
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