難民が”問題”となる理由:もくじ
ーなぜ難民には「無期限」の滞在が許可されるのか?
ー最近話題のシリア難民について
ー難民の数が多すぎる
ー受け入れる国が少ない
ー国の主権という壁
1. 難民問題の難しさ
「難民」という言葉は、おそらく今年のニュースで注目されるべきキーワード、トップ10に入ります。
とはいえ、難民問題は日本人にとって少しかけ離れた問題であり、多くの方にとってなじみのない問題ではないでしょうか。
しかし、もはや難民問題は「対岸の火事」と見過ごすにはいかない状況になりつつあります。
それは、シリアでの難民をきっかけとして、かつてないほどの話題を呼び起こしているからです。
本記事では、
難民問題とは何か?どういった点で問題になっているのか?
について、わかりやすく解説していきます。
2. 難民と移民の違い
難民を理解するためには、移民と比較しながら見ていくといいでしょう。
移民とは、
ある国に国籍を持っていながら、別の国で永住権または市民権を獲得し、そこに定住する人のことを指します(そのとき、もとの国籍を捨てることが一般的です)。
そこに住所を持っていますし、仕事も家族も持っていることが多いです。
アメリカは移民大国と謳われるだけあって、毎年70万人ほどの移民を受け入れています。
一方で、難民は、そういった永住権や市民権を認められていません。
ただし、「滞在」だけは許可されるのです。
移民も難民も他国に身を置くという点では変わりはないのですが、住所や仕事を持つことはたいていの場合許されていません。
これはある意味、「無期限の観光ビザ」を持った外国人といった見方もできるでしょう。
なぜ難民には「無期限」の滞在が許可されるのか?
それは、難民が自国において危機的状況にあったためです。
自国が内戦状態であるとか、政治的な虐殺が行われているとか、そういったたぐいのものです。
人道的見地から、彼らを救うために、「国内が安全になるまで、ここにいていいよ」と許可を出しているのです。
3. 難民が一番多い国はどこ?
内戦や虐殺が起こると、難民が発生します。
難民が最も多い国は、2014年末まではアフガニスタンがトップでした。
その数はおよそ260万人です。
しかし、今年に入るとシリアがトップになりました。
その数はおよそ390万人。
3位はソマリアの110万人で、それ以降はアフリカ諸国が順位に上がっています。
アフガニスタンの難民はソ連のアフガニスタン侵攻(1978年)から続いています。
アフガニスタンは断続的に戦争あるいは内戦が発生しているので、その度に難民が発生しています。
実際に、今年に至るまでにイランやパキスタンにそれぞれ300万人以上が避難しました。
中には避難先で永住することを決めた人もいます。
最近では、アフガニスタンでの情勢は落ち着いてきていますが、その数があまりにも多すぎるため、政府が対応しきれていない現状です。
アフリカ諸国では、民族間での内戦が難民を生み出す原因となっています。
特に、ソマリアは、一応“国”ということで各国に承認を受けていますが、国内に3つの勢力が内戦を起こしている状態で、無政府状態と言われています。
当然、このような国で生活はできないといって、国外に逃れる難民も多いのです。
最近話題のシリア難民について
シリア難民の原因は、2011年から起こっていたシリア内戦とIS(イスラム国)の虐殺行為です。
彼らから逃れる形で、シリアから難民が発生し、
ヨルダン等の中東諸国、そして裕福な層はヨーロッパを目指しています。
しかし、それは必ず成功するものではなく、長い砂漠を渡ることもあれば、海難事故覚悟で海を渡ることもあります。仮にその国にたどり着いたとしても、その国が受け入れてくれるとは限りません。
特にハンガリーでの難民騒動はニュースに取り上げられるぐらいです。
難民となっている人は、シリア国内で逃げたいと思っている人のうちのほんの一部であることを意識しておかなければならないでしょう。
逃げるためにはやはりお金やコネが必要で、それが工面できた人が難民となるわけです。
シリア難民は過去最大規模の人数となりました。この対応を受けて、ヨーロッパ諸国のいくつかは難民の受け入れを申し出ることになります。
EU全体で16万人の難民を受け入れるとして、それをどのように各国に割り当てるかが議論になっていました。
ドイツは2万人の難民を受け入れることを表明し、イギリスも1万5000人強の難民を受け入れることを表明します。
しかしEUも一枚岩ではありません。比較的経済が安定している先進国と異なり、ハンガリーをはじめとした東欧諸国は難民を受け入れることを嫌う姿勢があります。
難民“問題”と言われるからには、難民特有の問題があるわけなのです。
4. 難民が問題となる理由
難民の数が多すぎる
数百万の難民を、シリアからヨーロッパに連れて行くことがかなり困難であることは明らかです。
もし、これが実行できたとしたら「ゲルマン人の大移動」以上の移動になります。
しかも、仮にそれが実行できたとしても、避難先で支援が受けられるかどうかは別問題です。
何十万人の人々の“生活を保障する”ことはかなり難しいことです。
日本にも生活保障のようなものがありますが、すでにそれが財政を圧迫する原因と言われています。
それが仮に、10万人単位で増えたらどうなるでしょうか?
1人に月1万円支給したとして、月10億円。単純計算で毎年120億円もの費用がかかります。
もちろん費用はそれだけではありません。
彼らの安全を守るための警備も必要でしょうし、土地を貸し出すこともしなければなりません。
時には彼らの移動も手助けしてやる必要があります。
これを、経済力の観点で劣る東欧諸国が受け入れることができないのも頷けるでしょう。
そして彼らが避難したとして、もし祖国が安全な場所となったら…
それは素晴らしいことなのですが、それはそれで問題なのです。
数百万人規模の大移動を“もう一度”する必要があるということです。
しかもたいていの場合、祖国はなんとか生き返った政府。
財政や政治が盤石なわけがありません。
そんな中、数百万人の受け入れ体制を整えることは、大変に困難なことなのです。
受け入れる国が少ない
難民が大量に発生しても、それを受け入れる国が少数であるというのが、もう1つの問題と言えます。
シリア難民において、ヨーロッパ諸国もなんとか受け入れ体制を整えようとしますが、“国民がそれを許さない”こともあるのです。
いわば、何万人の外国人が、ある一帯に住むこと。それはちょっとした恐怖心を生みます。
また、難民ではなく、すでに移民が、フランスやドイツで問題となっているのです。
移民による集団の暴動があったこともあれば、移民によるテロもありました。
もちろんみんながみんな同じだとは言えませんが、それだけで十分「移民は怖い」という恐怖心を生み出すには十分だったのです。
国の主権という壁
難民といっても、国外に逃れた難民はいいほうです。誰かに救われるチャンスがあるのですから。
しかし、国外に逃れていない難民(“国内避難民”と呼びます)は、国際的な保護を受けることができません。
なぜなら、主権という壁がそれを邪魔するからです。
国家には主権があります。
主権は、その国における最高意思決定はその国が決めるというものであり、他国はそれに口出しすることができません。
例えば、その国が国民を虐げることをしていたとしても、それはその国の意思ですから、他国は手出しできないのです。
国内避難民がもし、その国の政府の虐殺によって生み出されたものだとしたら、当然他の国はその国民を保護しようとします。
しかし、その国の政府は「うちの国民を勝手に連れて行こうとしないで」と言うのです。
5. まとめ
難民問題はその数の多さから発生しています。
数百人ならまだしも、それが何百万人となっているのです。
これは悲劇の最中にある人がそれだけ多いということを意味しています。
その問題を解決するには、当然難民を発生させていない国、先進国や周辺諸国の協力が不可欠です。
しかし、その数を受け入れられるだけのキャパシティを持っていないのもまた事実です。
国内避難民は同じ国民だからいいかもしれませんが、「他国の人々」を「自国の税金」を使って救おうとなるとどうしても本気度は下がってしまいます。その上、時には、国民がそれを反対します。
移民問題と同じように”国”という枠が、難民を救うことを難しくしているように感じられます。
このような問題意識の下で、日々のニュースに注目するとよいかもしれません。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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