塾業界とアクティブラーニングの関係性について
「アクティブラーニング」とはなんでしょう?
講師の皆様、こんにちは!上田一輝です。
突然ですが「アクティブラーニング」という言葉をご存知ですか?
多くの方にとっては“聞いたことはあるけど、具体的な内容はわからない…”かもしれませんね。
一時期マスコミで取り上げられ、
今後の学校教育において重要な方針転換だと言われる「アクティブラーニング」。
そこで今回は、教育業界で話題になりつつある新しい教育手法について、詳しく取り上げていきたいと思います。
【目次】
そもそもアクティブラーニングとは何か
まず、「アクティブラーニング」とはそもそも、どのようなことを指すのでしょうか。
元々は海外で主流となっている教育手法のことで、
中央教育審議会(2012年8月28日)の報告書において使われ、一躍有名になりました。
報告書ではアクティブラーニングについて、以下のように定義しています。
教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、 教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査 学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である。
出典:
http://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/
__icsFiles/afieldfile/2012/10/04/1325048_3.pdf
ポイントは2つあります。
1つは、講義形式とは対比されて述べられていること。
先生が一方的に話し、生徒がひたすら聞く…というスタイルが現在の主流であることを踏まえた上で、
それ以外の方法で「能動的な」態度を引き出すことを求めています。
もう1つは、方法がたくさんあること。
体験学習のように手間がかかるものだけでなく、
ディベートやグループ単位での学習も、有効だと論じています。
このことから、文科省としては「知識詰め込み型学習」からの脱却を求めており、その手法として「アクティ
ブラーニング」に期待を寄せていることがわかります。
塾業界での取り組み
では、その状況に塾はどのように対応し、取り組んでいると思いますか?
…実は、塾業界では既にアクティブラーニングは実施されています。
例として、いくつか有名塾の授業方針を見てみましょう。
Z会の教室
原則1クラス定員5~15名の少人数制授業で、指名なども行い、講師と密にコミュニケーションをとり、授業を進めます。ただ聞いて「わかったつもり」になることはありません。講師と生徒が一体となり、入試や将来に役立つ思考力と表現力を磨きます。
http://www.zkai.co.jp/juku/high/tm/concept/index.html
栄光ゼミナール 少人数グループ指導と個別指導
生徒の学習意欲を引き出すためには、教師が1人ひとりの理解の度合いはもちろん、
個性や性格まで把握した上で、じっくり対話しながら指導することが必要不可欠です。
また、生徒同士が積極的に発言しあい、他者の意見に刺激を受けながら、
自分の考えを作り上げていく、このプロセスこそが大きな成長を生み出します。
http://www.eikoh-seminar.com/about/style.html
サピックス中学部 双方向授業
SAPIXの授業は一方的な講義ではありません。講師からの発問を基に、授業が進んでいきます。講師が投げかけた問いに、生徒たちが応えるという双方向授業は、生徒たちの自ら考える力、自ら発信する力を鍛えます。
http://www.sapix.co.jp/policy/interactive/
日能研 系統学習の学び
日能研の集団対面授業は、子ども達が「自分の学びを自分でつくる場」。けして先生が「業(ルビ:ワザ)を授ける」場ではありません。先生の投げかけやテキストの仕掛けによって、「どんな『思考技法』について学ぶか」を意識し、「素材」を道具として使いながら、自分の中に生まれた「なぜ?」「どういう意味?」について考えます。そして考えたことを先生や仲間に向けて発表したり、仲間の発表も聞いたり。いろいろな「考える」に出会って、刺激し合い、磨き合い、笑い合う「知のシナジー」がダイナミックに働く時間。それは今のオトナの皆さんが知っている「授業というもの」をはるかに超えた「学びの場」です。
http://www.nichinoken.co.jp/learning/curriculum/grade_h/03.html
いかがでしょうか?
お読み頂ければわかるとおり、既に塾業界ではアクティブラーニングは実施されていることが伺えます(それ
も公教育よりもずっと前から、です!)
塾の本質的な役割は、塾に来てくれた生徒を志望校に合格させることです。
そのためには、単に一方通行の講義では不十分です。
なぜなら難関校の入試問題は知識だけでなく、思考力や記述力も問われるからです。
そこで、双方向で対話をしながら学びを進めるスタイルが、合格に近づく最短ツールだ!と多くの塾では考え
ていることがわかりますね。
従って、アクティブラーニングが学力向上にも有用であることは疑う余地がありません。
たまに「アクティブラーニングを取り入れると、前のゆとり学習に戻ってしまい、学力が低下してしまうので
はないか?」という懸念を耳にしますが、それは誤解です。
むしろ、生徒のやる気を引き出す“武器”になることは、現場で奮闘されている皆様ならご理解頂けるかと思い
ます。
自分の授業での取り入れ方
アクティブラーニングの効果を体感するには、
実際の授業で取り入れてみることが一番です。
そこで、お読みいただいている皆様にも手軽に取り入れて頂ける、いくつかの手法をご紹介します。
1,問いかけ
まずは生徒に“問いかけ”をしてみることから始めてみましょう。
その際、単に「この答えはいくつになる?」という質問をしても、
アクティブな回答は返ってきませんよね。
そこで、より抽象度の高い質問をしてみると良いでしょう。
× 植物のここの名前は何?(道管を指差しながら)
○ なぜ植物は道管が内側にあるんだろう?
2,ゲーム化
子供たちは対戦ゲームが大好きです。
これをうまく活用し、授業にゲーム性をもたせることも良いアイデアです。
例えば英語の文法をただ教えこむのではなく、英語を活用したクロスワードパズルにするだけで、
生徒の目は一気に輝いてきます。
3,協力させる
今までの学習は「常に1人」で行うものでした。
実際、授業中に生徒同士が話すことは禁止され、ただ前を向くことが強要されていますね。
ですが、1人で数時間、集中して聞き続けるのは大人でも難しいものです。
そこで授業時間内に“協力して”何かを成し遂げる時間を作ってあげると良いでしょう。
私はよく、教室を4つのグループにわけ、問いかけの回答をつくらせるようにしています。
その知識を皆で共有し、ときにはディベート形式にすることで、
生徒が一生懸命考え、発言してくれるようになります。
注意しなければならないこと
補習レベルではアクションラーニングは逆効果になる可能性もある
補習では一方通行のほうが良い場合も多いです。
なぜなら、先述した方法は意欲づけにはよいですが、整理された情報にはなりません。
そのため、理解が遅い生徒は、ついていけなくなってしまいます。
さらに効率性も下がるので、短時間に一気に成績を上げたい!という要望がある場合は、
無理をしてアクティブラーニングを取り入れる必要はありません。
基礎知識は教えこむ必要がある
最低限の知識は教えないと、議論になりません。
例えば、数学での公式を導くのは相当賢くないと不可能です。
まずはルールや前提条件を伝え、その上で考える訓練をさせることが重要になります。
ふざける生徒には厳しく接する
対話型にすると、授業に関係のない話をしたり、他人の悪口をいう生徒が必ずいます。
このような生徒には、必ず厳しく接するようにしてください。
単に騒いでいるだけでは議論になりませんし、発言したい生徒が萎縮してしまいます。
ブレーン・ストーミングの原則を最初に示しておくと、このようなトラブルは防げるケースが多いです。
参考にしてみてください。
・批判をしない
・自由奔放
・質より量
・連想と結合
http://www.ritsumei.ac.jp/~yamai/kj.htm
まとめ 今後の教育の方向性について
さて、本記事ではアクティブラーニングをご紹介しました。
最後に「アクティブラーニングを取り入れることで、今後の教育の方向性はどうなるのか?」
ということについて、考えていきたいと思います。
アクティブラーニングは、生徒の動機付けや、受験合格のため“だけ”のツールではありません。
能動的な学習を通して、一人ひとりが興味ある学習を推進できることが目的です。
本当に正しい正解はありませんし、速度が早ければいい、というものではありません。
興味あることを引き出し、追求することが善とされるわけです。
このことは、今までの「決められた枠の中で学習する」「インプットの量とアウトプットの速さが学習能力で
ある」という大前提を覆すものになります。
もう、コンピュータがさらに発達し、いつか人間を越える日が来ようとしています。
(Wikipediaを見れば一目瞭然ですが、知識の正確性・学習速度においては、既に人間を遥かに超えていますね)
さらに今後、自ら学ぶ(ディープラーニング)が行えるようになると予測されています。
そのため、「人間の役割」そのものが問われるようになっていくでしょう。
その中で教育が果たす役割は、単に知識を詰め込むことではありません。
より幅広く思考し、論理的に考え、一人ひとりが主体的に興味あることを仕事にできることこそ、教育の役割です。
決して教育は“社会的正しさ”を追求したり、画一的な情報を教えることではなくなります。
それは教師にとっても、未知の世界を切り開くことになります。
これからは教える側も、新しい挑戦が必要になっていると感じています。
「唯一の正解」がない教育を、どのように時代の要請に合わせていくか。
皆様もぜひ、授業をただ淡々とこなすのではなく、考えながら行ってみてはいかがでしょうか。
その“アクティブラーニング”は、必ず皆様の成長につながりますよ。
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