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塾講師レポートvol.8 塾業界で生きるということ

2021/12/17

塾業界で生きていくということ

皆様こんにちは。
人材教育コンサルタントの上田一輝です。
数回にわたり業界全体の動向を考えていく「塾業界レポート」。

「正社員としての就職で、塾業界はアリなのか?」と考えている方

既に塾業界で働いているが、将来が描けず転職や離職などを検討している方

経営層として業界全体に課題意識を持っている方

といった方を対象に、連載しております。
(参考)
vol.7「非常勤講師の育成と離職防止に向けて」
http://www.juku.st/info/entry/1801
vol.6「非常勤講師の採用基準」
http://www.juku.st/info/entry/1776
vol.5「求人難の現状」
http://www.juku.st/info/entry/1759
vol.4「就活と塾業界」
http://www.juku.st/info/entry/1744
vol.3「塾業界の希望と未来」
http://www.juku.st/info/entry/1735
vol.2「塾業界の真相~ブラック批判について~」
http://www.juku.st/info/entry/1725
vol.1「塾業界の現状と課題」
http://www.juku.st/info/entry/1705

今回は最終回として、今までお伝えした情報を総括しながら、塾業界が今後目指すべき方向性について、論じていきます。

 

塾業界で生きていくことを決意したあなたへ

ここまで、塾業界の大枠から具体的な就活対策・経営目線の視点など、実に幅広い角度から塾業界を眺めてきました。
最後に、ここまで読んだうえで「塾業界で生きていく」と決めた皆様に対して、将来シナリオを一緒に考えていきたいと思います

 

 予測される未来の形

仮に今年就活をして塾業界に入り、定年まで同じ業界で働き続けた場合、少なく見積もっても40年、塾業界で働くことになります。
塾業界は比較的新しい業界で、今のような形は1980年代に出来上がったと言われています。
つまり、まだ40年弱しか経っていないのです
今までの本レポートでは、数年先の未来の話しかしてきませんでしたが、最終回である今回は“数十年先”に、この業界がどうなっているのか、一緒に見ていきたいと思います。

 

業界全体の大幅な縮小

少子高齢化は、予測される未来であり、経営上「回避できる」リスクである、とvol.1で述べました。
しかし、それは中期的な見通しです。
先を考えてみると、日本の少子高齢化が今のままで推移すると、2100年にはなんと4,959万人まで人口が減少すると考えられています。
それに伴い、0~14歳人口も激減。
ピークであった1980年代には約3,000万人もいた人口が、2100年には約500万人になると予測されています
 

(出典:厚生労働白書)

このことから、業界全体の大幅な縮小は避けられません
現在の塾業界市場規模は、9,380億円。
もし人口の減少=市場規模が減少する、と単純に考えた場合、なんと
10年後に2割、30年後に半減、そして80年後に8割縮小してしまいます
だからといって企業数も一緒に減っていく、ということは考えられませんから、企業同士の競争が激化していくことは、避けられない未来と言えそうです。

 

IT化

また、IT化の影響は教育業界にも大きな影響をもたらすことになりそうです。
現在、ITを使用した手法では「講師の動画を撮影して、配信する」というモデルが一般的ですが、これは臨場感に欠けたり、生徒の習熟度に応じて進めることができなかったりという課題があります。

しかし、VR(バーチャル・リアリティ)の技術発達によって、この問題は劇的に解消されます。
VRとはコンピュータによって作り出された世界である人工環境・サイバースペースを現実のように知覚させる技術のことを指します。

実際に高級車メーカージャガーでは、VR技術を活用した試乗体験を行っています。
こちらから実際の動画がご覧いただけます。 

https://youtu.be/h9sTXocvp7E

(出典:http://www.jaguar.co.jp/new-xe-debut/experience.html

 

今年は個人向けに「PlayStation®VR」も発売されるほど、一般的になりつつあるVR.。
ゴーグルをかけるだけで、まるで教室に移動して、実際の先生と相対しているように感じさせる技術ができる日も、そう遠くはないでしょう

さらに、従来は1対1しか対応できなかった双方向のコミュニケーションも、インターネットの速度が向上するにつれて複数人でも可能となっています。
既にIBMでは「22の言語で、1000人までのオンライン会議を開催できる」システムを実用化しています。
こういったようにVR技術と組み合わせることで、生徒同士が討論し、それに先生が答えるという、本当に学校にいるような状況を作り出すことも可能になってくるでしょう

 

低価格化

競争とIT化の果てにあるもの。それは止まらない低価格化の進行です。
特に受験に関する知識は誰でも手軽に入手できるため、どんどん低価格になっている現状があります。

2013年にスタディサプリ(旧:受験サプリ)が出たことは、業界に衝撃を与えました。
あのリクルートが、自ら価格破壊を仕掛けてきたからです。

なお、スタディサプリは小学校~大学受験まで全てカバーしており、さらに英語学習も可能。
月980円とは思えない講師陣・テキストなどで、既に25万人の優良会員を抱えています
中学校や高校でも活用されており、もはや塾業界の垣根を超えた存在と言えるでしょう。

(出典:http://www.soumu.go.jp/main_content/000425451.pdf

 

他にも「とある男が授業をしてみた」という有名なyoutuberがいます。
この方は無料で自身の講義動画を公開し続けており、その本数は2,000本、再生数は既に6,600万回を誇ります。
これも塾業界にとっては大きな脅威と言えるでしょう。

(動画はこちらからご覧いただけます:https://www.youtube.com/channel/UCzDd3Byvt91oyf3ggRlTb3A

 

他にも、2007年に創業し、わずか7年で上場までたどり着いた「レアジョブ」等も、低価格で勢いを伸ばした企業と言えます。
レアジョブはフィリピンとオンラインでつなぐことで、劇的に安価な英語学習を提供するサービス。
人件費が日本よりはるかに安いことに着眼し、Skypeを使って英会話学習を支援する、というコンセプトは一世を風靡しました。
 
(出典:https://www.rarejob.com/promotion/rarejob_for_student/

 

塾業界が今後目指すべき方向性

先のことを考えると、あまり明るいニュースが多いとは言えない塾業界。
しかし、業界全体が無くなることは決してないでしょう
なぜなら、教育ニーズが多様化していることに加え、私教育が無くなることはないからです。

では、この激動の塾業界で生き残るために、どのような方向性を目指せばいいのか。
私なりのアイデアを、いくつか提示してみたいと思います。

 

顧客ニーズ多様化への対応

Vol.1でお伝えした通り、顧客ニーズはすでに二極化がすすんでいます。
今後は2020年改革もあり、更に学習内容が広がっていくでしょう。
しかし、残念ながら現在の塾業界で、対応できる!と言える企業は、ごく一部の大手に限られます

そこで、既存科目の延長線上を超える学習を、提示する必要が出てきます。
例えば、栄光ゼミナールでは自社のシェーン英会話と協業して、新しい教育スタイルを模索しています。

 
(出典:http://www.eikoh-seminar.com/information/torikumi/2016/003301.html

 

また市進では、実技4科に対応する指導を展開されています。
 

(出典http://www.ichishin.co.jp/event/c/tabid/517/Default.aspx

(参考)2020年大学受験改革の詳細はコチラ
http://www.juku.st/info/entry/1743

今後、必修化されるプログラミングや、生きる知恵としての経済・投資に関する勉強等、幅広い内容をカバーできる塾が生き残る可能性は高いと考えられます。

 

学童保育との連携

学童保育とは、主に日中保護者が家庭にいない小学生児童(=学童)に対して、授業の終了後に適切な遊びや生活の場を与えて、児童の健全な育成を図る保育事業の通称です。
いくらIT化や低価格化が進展しても、保育は人間に任せたい!良質な環境で育てたい!と思う保護者の方は多いものです。
そこで、保育との連携を強化することで、顧客の囲い込みを図る戦略は有用です。


例として、日能研ではすでに西日暮里でテストマーケティングを始めています。


 
(出典:http://www.nichinoken.co.jp/gakudou/

 

組織の強化

Vol.5でお伝えした通り、採用難が一層加速することが予想されます。
講師の多くは若手層である以上、若手の人数が減ってしまうことは、まさに塾業界の死活問題と言えます。

ですから、個人の力に頼らない組織作りが必須です。
Vol2,3にも書きましたが、ブラック業界と呼ばれないように、業界全体で労働環境の整備・改善に努めていく必要があるでしょう。
また、採用面の強化だけに頼ることは危険です。
少子高齢化がすすむにつれ、全入大学が増え、学力の低下が予想されます。
そのため、講師育成に真剣に取り組む必要に迫られるでしょう
特に多くの個別指導塾ではほとんど講師育成が行われていない実情があります。
採用難は定着率を上げることでしか改善できない時代が来ます。

 

まとめ 変化し続ける業界人になることが、生き残りのカギ。

塾業界レポート、いかがでしたか。
本レポートを通して、少しでも塾業界への視野が広がったのであれば幸いです。

最後に、読者の皆様にお伝えしたいことがあります。
それは「塾で最も重要なのは、人間力である」ということです。

思い出してみてください。
塾業界にいきたい!という方は、原体験として幼いころに

  • ○○の教科が好きになった
  • 勉強が楽しくなった

経験があるはずです。
では、なぜ楽しいと思うようになったのでしょうか

実は「科目の内容が楽しいから」と答える方はほとんどいません。
多くの場合「先生が面白かったから」や「先生が好きだから」といった、先生との関係性で決まるのです

塾業界に属する人は皆、誰かに教える仕事をしていると思います。
その時にぜひ、忘れないでください。
皆様との出会いが、生徒の興味・関心を変え、一生を変えることがある、ということを

今までお読みいただき、ありがとうございました。

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