古典文法を学ぶ上で避けては通れないのが助動詞の学習です。助動詞を始めとする文法知識が完璧でないために古文を苦手としている高校生がとても多いように感じます。古典を教える上で、体系化され整理された文法知識を生徒に与えることが必要だと思うので、数回に渡って助動詞を重点的に整理して取り上げます。ぜひ教える上で参考にしていただければ、と思います。
らりるれろの助動詞…① 「る」 「らる」
助動詞「る」「らる」は現代語に存在する助動詞「れる」「られる」の前身となったもので、その意味や活用の仕方はほとんど一緒です。以下が「る」「らる」の活用をまとめた活用表です。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
る | れ | れ | る | るる | るれ | れよ |
らる | られ | られ | らる | らるる | らるれ | られよ |
ごらんのように、これらの助動詞は下二段活用です。接続について、「る」は四段、ナ変、ラ変の未然形につき、「らる」はそれ以外の活用をする動詞の未然形に接続します。つまり、未然形に接続するということをしっかりと押さえてください。
続いて意味です。意味は4つあり、①受身 ②尊敬 ③自発 ④可能です。それぞれ例文を見ながら判別法や意味を見ていきましょう。
①受身
例文1:この間に使われむとてつきて来る童あり。(土佐日記)
例文2:ありがたきもの、舅にほめらるる婿。また、姑に思はるる嫁の君。(枕草子)
受身は「~される」と訳します。また、らりるれろの助動詞が受身の意味で使われる場合は文脈から大体わかります。誰が主語なのかをしっかりと押さえながら読んでいれば、受身であるかどうかは自ずとわかるものです。
例文1:この間に使われようとしてついてくる少年がいる。
例文2:めったにないもの(「ありがたし」の訳出に注意)、舅にほめられる婿。また、姑に愛される嫁。
②尊敬
例文3:(忠度が)故郷の花といふ題にて、詠まれたりける歌一首ぞ、(俊成卿が)詠み人知らずと入れられける。
尊敬の訳し方は色々ありますが、「~なさる」と訳しておけば間違いは基本的にありません。尊敬に見分けるのは少し難しいのですが、自発、可能、受身でなかったら尊敬と思えばいいと思います。尊敬語については謙譲語、丁寧語と合わせて次回しっかりとまとめます。
例文3:忠度が故郷の花という題にて、詠みなさった歌を一首、俊成卿が詠み人知らずの歌として入撰しなさった。
③自発
例文4:秋来ぬと 目にはさやかに 見えねども 風の音にぞ おどろかれぬる(古今集)
例文5:けふは、みやこのみぞ思ひやらるる。(土佐日記)
自発とは、「自然とその動作がなされる」という意味です。例えば、「卒業アルバムを見ると中学時代のことが自然と思い出される」の「れる」が自発であり、この「自然と~される」というのが自発の訳し方です。
さて、自発の見分け方ですが自発の助動詞の前には心情語を伴う場合がほとんどです。心情語とは「思う」「感じる」といった心の働きについての動詞のことで、例文4では「おどろく」、例文5では「思ふ」がそれにあたります。心情語があれば自発!と覚えておきましょう。
例文4:秋が来たと目にははっきりとは見えないが、吹く風の音によって秋が来たと自然に気づかれたものだ。
例文5:今日は、都のことばかりが自然と思いやられる。
④可能
例文6:恐ろしくて寝もねられず、(更級日記)
例文7:冬はいかなるところにも住まる。(徒然草)
可能は「~できる」と必ず訳すようにしましょう。確かに「~れる」のままでも可能に訳したのだな、と解釈できるのですが、「~できる」と訳したほうが「可能でとることが私はわかっています」ということを採点者にしっかりアピールできます。
可能は「~できない」と訳す場合がほとんどです。つまり、下に打ち消しの言葉が伴っている場合は可能である確率が高いです。実は、平安時代までは可能の意味でこの助動詞を使う場合は必ず打ち消し、反語を伴って専ら不可能の意味で使われていました。この可能の助動詞が肯定文でも使われるようになったのは鎌倉時代以降です。
例文6:恐ろしくて寝ることもできなくて、
例文7:冬はどんなところにも住むことができる。
らりるれろの助動詞…② 「り」
さて、今までらりるれろの助動詞「る」「らる」について見てきましたが、以下の文はどう解釈できるでしょうか?
例文8:祖父は、百三十ばかりにてぞ失せ給へりし。(宇治拾遺物語)
例文9:ありとしある人は、皆浮き雲の思ひをなせり。(方丈記)
らりるれろが接続している言葉に注目してください。例文8では「給へ」、例文9では「なせ」と①とは少し形が違うことに気づきましたでしょうか? これらは未然形ではなく已然形です。よってこの助動詞も「る」「らる」ではなく完了、存続の助動詞「り」です。已然形に接続しているらりるれろは完了、存続の助動詞であるということをしっかりと区別して覚えましょう。「り」については他の完了の助動詞たちとセットでとりあげたいので今回はさらっと紹介しておく程度にとどめておきます。
例文8:祖父は、百三十ほどで亡くなりなさった。
例文9:ありとあらゆる人は、皆浮き雲のような不安な思いをしている。
文法まとめ…らりるれろの助動詞
・未然形に接続→「る」「らる」……心情語を伴う→自発
下に打ち消し→可能
文脈から判断→受身
それ以外→尊敬
・已然形に接続→完了、存続の助動詞「り」
整理してまとめるとこのようになります。特に未然形についてるのか、已然形についてるのかを判断することが非常に重要です。ぜひらりるれろの助動詞を区別してしっかりと覚えて、読解に役立ててほしいと思います!
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