~実際にどう教えれば生徒に伝わるのだろうか?~円高・インフレを通して見る
講師は理解できていても、生徒が実際に理解できていないというのはよくある話です。
特に難しい用語や聞きなれない用語、見分けのつけづらい用語などでこうした現象が起こります。
逆に、ニュースなどでしばしば耳にする用語や一般的に認知されている用語であるとしても、
その用語を理解した気でいるだけ、正しい意味が理解できていないということもよく考えられます。
そこで、どのように指導すれば伝わりやすくなるのか、
私の実際の講師としての経験をもとに(特に生徒たちがよくつまづいていた印象のある内容について)
記事にしようと思います。
また、板書例も画像として載せてありますので、あわせて参考にしてみてください
(記事内では板書例に沿っているため、その都度参照されることをおすすめします)。
今回は、
の2点について紹介したいと思います。
まず、「円高」「円安」についてです。
どちらも日常で使われる用語である割には、あまり正答率が良くないと感じられる単元です。
また、中学生指導向けとしてありますが、高校生の政治経済(現代社会)の指導にも有効だと思います。
板書例~1.「円高」と「円安」について
指導手順①:「円高」「円安」という用語の覚え方
まず指導の際に、
「円高とは、円の価値が高くなること」
「円安とは、円の価値が安くなること」
といった形で覚えるように指導しましょう。
「円高」「円安」とそのまま覚えるよりも、
こちらのほうが後々の手順でもイメージがしやすくなると思います。
この単元や科目に限らず、用語をそのまま覚えるよりもひと手間加えたほうが、理解するための手助けになることはままあります。
指導手順②:「円高」「円安」が起こる背景
そもそも、なぜ「円高」「円安」に関する問題は正答率が良くないのでしょうか。
これは「円高」「円安」は、生徒の誤解を招きやすいからではないかと思われます。
例えば板書例を文章に直してみると、
「円高によって1ドル=100円から1ドル=50円に変わり、円安によって1ドル=100円から1ドル=200円に変わる」
と表記されます。
しかし、生徒から見れば、
「円高(円の価値が高くなっているハズ)なのに、円の数字(値段)が下がっている」
「円安なのに、円の数字(値段)が上がっている」
というように見えてしまいます。
これでは、「円高」「円安」を理解できないのも無理はありません。
そこで、この誤解を取り除く必要があります。
それでは、どうすれば誤解を取り除けるのでしょうか。
この点について、私は「円高」「円安」の背景を解説することが有効であると考えています。
「円高」「円安」の背景をしっかり理解した生徒は、「円高」「円安」が絡んだ問題でのミスが少なくなる傾向にあります。
ここでキーワードとなるのは、「貨幣価値=信用」ということです。
「円高」「円安」は、日本のお金と海外のお金を交換する際に起きる現象です。
その際に、海外の人が日本のお金を「どのくらい信用できるのか」が重要となります。
つまり、海外の人が日本円を「信用できない」と考えると日本円の価値が下がり、「円安」の状態になります。
そうすると自分たちの国のお金と交換する際に、「多くの日本円をもらえないと安心できない」と考えてしまいます。
だから、「円安」になると1ドルと交換する日本円の量が多くなるのです(板書例では、1ドル=100円から1ドル=200円に変わっています)。
反対に「円高」では、「少ない日本円でも(価値があるから)安心できる」と海外の人が考えるため、逆の現象が起こるのです(板書例では、1ドル=100円から1ドル=50円に変わっています)。
この背景を具体的に解説してあげることが重要です。
例えば、
「海外の人が『円は信用できないから、今まで1ドルと100円を交換していたけど、これからは200円と交換してね』と言っているのが『円安』」
「海外の人が『円は信用できるから、今まで1ドルと100円を交換していたけど、これからは50円と交換でいいよ』と言ってくれるのが『円高』」
と説明するといいと思います。
また「信用できない」とはどういうことか説明する場合、
「もし日本の財政が破綻したら、日本円は紙くずになってしまう。『信用がない』とは『財政破綻の可能性が高い』ということ。そうした際に、『破綻するリスクがあるお金なんだから、せめて多くの日本円と交換して欲しい』と考えるのではないか」
という例を使うといいでしょう。
また「信用できる」とは、反対に「価値が変わらない・上がっている」「破綻しそうにない」から「安心できる」ことを指します。
こうした背景をぼんやりとでも覚えていると、試験中などでド忘れをしたとしても、自力で結び付けられるようになると思います。
指導手順③:「円高」「円安」のメリット・デメリット
最後にそれぞれのメリット・デメリットにも触れておきましょう。これらは、直接出題される場合があります。
尤も、メリット・デメリットは、指導手順①②がしっかりと理解できていると自然に導き出すことができるので、必ずしも暗記をする必要はありません。
もちろん一纏めにして暗記させてもいいのかもしれません。
まず、「円高」のメリットについてです。
「円高」になれば、「少ない円でドルと交換ができる」ようになります。
つまり、「5ドルの物を買う際、今までは500円払ったのが、これからは250円で済む」ことになり、輸入に有利になります。
また少ない円で多くのドルと交換できるようになるので、海外旅行でもメリットがあることを解説するといいでしょう(海外旅行に有利か不利かは、しばしば設問になっています)。
他方、「5ドルのものを売ると、今まで500円もらっていたけれど、これからは250円しかもらえない」ことになるので、輸出には不利になってしまいます。
次に、「円安」のメリットについてです。
「円安」になれば、「ドルと交換するのに多くの円が必要になる」ようになります。
つまり、「5ドルのものを売ると、今まで500円もらっていたけれど、これからは1000円もらえる」ことになり、輸出に有利になります。
他方、「5ドルの物を買う際、今までは500円払ったのが、これからは1000円も払わなくてはならない」ことになるため、輸入に不利になります。
また、少ないドルと交換するために多くのドルが必要になるので、海外旅行でもデメリットが生じてしまいます。
冒頭でも触れましたが、それぞれのメリット・デメリットは、指導手順①②から自然と導くことができます。
もちろんそうした力のある生徒であれば、指導をせずに問題に取り組ませて、その導き方を実践の中で身につけさせることも有効だと思います。
しかし私個人的には、メリット・デメリットの導き方までも指導したほうがいいと考えます。
「暗記に頼らなくても答えを出すことができる」というのはひとつの強みになるので、その強みの作り方として指導してあげるべきでしょう。
まとめ1
手順の説明は以上です。
背景や思考の流れを正しく理解していることが、この単元のポイントです。
また、板書例を見るとわかると思いますが、「円高」「円安」は背景や思考の流れ、さらにはメリット・デメリットの全てが互いに反転した関係にあります。
そのため、片方を覚えてしまえば、他方も反転させればいいのです。
ですが、できれば両方を覚えさせてください。
なぜならば、片方を覚えそれを頭のなかで反転させるとなると、どうしても時間がかかってしまいます。
タイムロスは受験においては命取りとなるため、少なくとも背景や思考の流れについては、やはり素直に両方を覚えるべきでしょう。
その上で生徒たちに、「基本的には、両方ともしっかりと覚えてもらうが、反転した関係でもあるから、どうしても思い出せなかったり、わからなくなったりしたら、頭の中で反転させてみるといい」と指導しましょう。
絶対に、「どっちかだけ覚えればいい」とは指導しないでください(その言葉を鵜呑みにして、結局覚えない生徒も多くいると思います)。
指導手順①②の流れで絡まってしまう生徒も多いとは思いますが、根気よく覚えさせてください。
そこを乗り越えれば得点源にすることができます。
また覚えられたことが自信につながり、他の単元や科目でも成績が伸びることにつながるかもしれません。
高校受験でも定期的に出題される単元であるので、覚えていて損はないと思います。
次は「インフレーション」と「デフレーション」についてです。
「インフレーション」「デフレーション」は、景気を示すうえでよく使われている単語です。
内閣府が「緩やかなデフレ傾向」などと発表したり、一時期ジンバブエでの「ハイパーインフレ問題」の発生が報じられたこともあり、聞いたことがないという生徒はほとんどいないでしょう。
同様にその言葉が示す状況についても、理解している生徒は多くいることと思います。
しかし、実際に問題集や過去問をとかせてみると、正答率はそれほど高くはありません。
前と同様に適宜板書を参照しつつ読んでいただければと思います。
板書例~2.「インフレーション」と「デフレーション」について~
指導手順①:「インフレーション」「デフレーション」の意味
まず、「インフレーション」「デフレーション」の言葉と意味をしっかりと覚えなくてはなりません。
「インフレーション」とは、端的に言えば、「お金の価値が下がったことにより、物価が上昇する」ことを指します。
他方「デフレーション」とは、「お金の価値が上がったことにより、物価が下落する」ことを指します。
これらをしっかりと暗記するように、生徒に指導しましょう。
特に「お金の価値が関係していること」については、知らない生徒がほとんどです。
なので、そのことにもしっかりと触れる必要があります。実際に、この解説を授業で行わない講師もいます。
後にも述べますが、「インフレーション」「デフレーション」を扱った問題は、物価の上下に関する知識だけではとけないことが多いです。
余談になりますが、「インフレーション」「デフレーション」は、しっかりと省略していない形で覚えさせるようにしましょう。
「インフレ」「デフレ」でも確かに通じますし、教科書・参考書などにも( )でその表現も記されています。
ですが、正式な言葉で答えさせられることが多いですし、たとえ問題文で求められていなくても、その答え方の方が無難です。
これについても指導内で言及してください。講師自身が、指導内では省略形を意識して使わないようにするのも有効かと思います(本記事でも、省略形は極力避けて執筆しています)。
指導手順②:「インフレーション」「デフレーション」の背景と流れ
そもそも、なぜ正しく理解している生徒もいるのに実際の正答率が高くないのでしょうか。
先程も少し述べましたが、その理由は、2点に分けることができると思います。
第一に、「インフレーション」「デフレーション」がどのような形で問われることになるのかを分かっていないため。
「物価が上昇したが、これは『インフレーション』『デフレーション』のどちらか」と問うようなシンプルな問題はなかなか出ないと思います(一問一答や問題集の例題などは別にして)。
第二に、「インフレーション」「デフレーション」の物価の上下以外の部分を理解していないため。
先ほどの「お金の価値」も含めて、背景と流れが分かっていないのです。
そこで、それぞれの背景と流れの指導を行います。この部分の理解である程度の問題に対応できるようになります。
まず「インフレーション」についてです。
「インフレーション」は「市場(生徒がよくわかってなかったら、「世間」と言い換えるといいかもしれません)にお金が出回りすぎた状態」をいいます。
出回りすぎると、お金の価値が下がってしまいます。
たくさんあるものには、需要があっても、たいして価値はありません。
すると、お金の価値そのものが下がってしまうために、物を買うのに今まで以上にお金が必要になります。
例えば「インフレーション」によって、お金の価値が現在の半分になったとしましょう。
そうすると、「インフレーション」のあとに、今まで100円で買ってたものを買おうとすると、お金の価値が半分になっているので、今まで通りに100円では買えません(「インフレーション」後の100円の価値=「インフレーション」前の50円の価値になります)。
なので、購入の際に、「インフレーション」後は、200円が必要になるのです。こうして、「インフレーション」は「物価の上昇」を招いています。
次に「デフレーション」についてです。
「デフレーション」は「インフレーション」とは逆に、「市場にお金が出回らなすぎた状態」をいいます。
出回らなすぎると、お金の価値が上がってしまいます。
みんなが欲しいと思っているのに、需要に対して総数が不足しているのです。
数が少ないほど、どんどん価値が上がります。すると、お金の価値そのもの上がってしまうために、物を買うのに必要なお金が今までより少なくなります。
例えば「デフレーション」によって、お金の価値が現在の2倍になったとしましょう。
そうすると、「デフレーション」のあとに、今まで100円で買ってたものを買おうとすると、お金の価値が2倍になっているので、100円では価値が釣り合わなくなってしまいます。
つまり、モノの値段に対して、払うお金が多すぎるのです(「デフレーション」後の100円の価値=「デフレーション」前の200円の価値になります)。
なので、購入の際に、「デフレーション」後は、50円あれば買うことができるのです。こうして、「デフレーション」は「物価の下落」を招きます。
見比べればわかると思いますが、「インフレーション」「デフレーション」では、それぞれ反対の出来事が起こっています。
記憶違いやド忘れを防ぐためにも、授業内では対比させながら指導していくことをおすすめします。また解説時の具体例としては、「芸能人・有名人(生徒の好きな人物を出すと、より興味を引き、印象に残しやすいかと思います)のサインが今1枚しかなかったら、とても高い値段がつく。
しかしどんなに人気でも、例えば1億6000万枚あって、国民みんなが持っている・買うことができるとしたら、どんな値段がつくだろうか(値段がとても安くなるハズです)。『インフレーション』『デフレーション』では、それがお金に起きている。」などと説明すると、よりわかりやすいかと思います。
この時授業や生徒に余裕があれば、「デフレスパイラル」も合わせて解説しておきましょう。「デフレーションが原因となって、新たなデフレーションを引き起こす」ことを指します。あまり試験などで出題されているのを見かけませんが、まとめて解説しておきましょう。
指導手順②:「インフレーション」「デフレーション」の脱却策
もう一つ背景や流れ同様に、理解している生徒の少ないものがあります。
それが、「インフレーション」「デフレーション」の脱却策です。
当然、「インフレーション」「デフレーション」を政府などがそのままにしておくわけがありません。
何かしらの対抗策を用い、脱却しようとすることでしょう。それが問われることがままあります。
しかし、指導手順①での内容をきちんと把握していると、暗記をしていなくとも簡単に答えが導き出せるので、この部分はすぐに得点源に変えることができます。
キーワードは、「市場のお金の量の調節」です。
まず、「インフレーション」の脱却策についてです。
指導手順①では、「お金が市場に出回りすぎている」のが「インフレーション」のひとつの原因であると述べました。
つまり、市場のお金が「出回りすぎていない」ならば、この状態を回避できるはずです。
そこで以下に、脱却策の例をいくつか示します。
まず、税金を増やす。
これは、市場からお金を多く回収できるということです。
次に公共事業(「国が民間に頼む仕事」と解説すると、わかりやすくなります)を減らす。
これは、国が民間に頼む仕事の量を少なくし、払うお金の量を減らすことにつながります。
最後に、公定歩合(「中央銀行が日本銀行からお金を借りる時の利子のこと」と解説する必要がありますが、日本銀行の機能についての授業が行われていないならば、「そういうものもある」と深く考えさせなくていいです)を増やすことも挙げられます。
これもお金の回収の際に、今までよりも多くのお金を回収できるということなので、脱却策の一つと言えるでしょう。
「デフレーション」の脱却作は、「インフレーション」の真逆の現象ですので、上記と反対の策をとることになります。
要するに、「お金が市場に出回らなすぎている」のが「デフレーション」のひとつの原因なので、市場のお金が「出回らなすぎていない」ならば、回避できます。
そこで以下に、
まず、税金を減らす。
次に公共事業を増やす。
最後に、公定歩合を減らすことが脱却策です。
お金の市場からの回収を極力失くし、お金を市場に投入できればいいのです。
まとめ2
いかがだったでしょうか。前の「円高」と「円安」の記事と同様に背景や流れさえ理解していれば、その他の部分の答えも導くことができるようになる単元であり、定期的に入試問題にもなる単元です。少し細かくなってしまっても、指導する価値のある単元であるとも思います。しっかりとした指導で、少しでも得点アップを狙っていきましょう。
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