高い専門性が求められる高校日本史
授業において、日本史は特に教材研究(講師の予習)の質と量が求められる科目です。
日本史を(世界史も)習得するには、単に歴史を追うだけでは不十分ですし、
経済や法律、地理など様々な分野に立脚した知識が必要になります。
例えば、近代以降だと経済学の基本用語である「資本主義」、「社会主義」、「共産主義」の言葉を前提知識としておさえておかなければなりません。
<参考>
・資本主義・社会主義・共産主義の違いをわかりやすく教える方法
他にも、明治新政府の「民法典論争」を理解するには法学・政治学の知識を持っていなければなりません。
このように、日本史は様々な分野の教材研究が必要となってくるのです。
今回は日本史に絞って話を進めますが、社会科で大事なのは、
予習の段階で「何を、どのように準備したらよいか」をイメージできるようになることです。
本稿では、そんな問題意識から、日本史(歴史)を教える皆さんに、
授業準備で大切な4つのポイント
をお伝えします!
コンテンツ
結論から言うと、授業準備のポイントは以下の4つです。
4つの項目について、以下解説していきます!
①教科書内容の確認・分析
まずは、教科書の内容の確認及び分析です。
社会科の先生方は教科書を使わずに授業をする方も多いと思います。(自分もあまり使わないタイプでした)
しかし、高校日本史の軸はやはり「教科書」です。
筆者は大学で歴史学を専門としています。
用があって教授の研究室にお邪魔した時、高校日本史の指導内容を教科書で確認していました。
その教授は大学入試問題を作るために、一度確認したかったのだそうです。
年によって記述が変わるため、毎年各出版社の教科書を購入しているとも言っていました。
つまり、大学入試の受験生にとっても、出題者側にとっても共通のものなのです。
であるならば、これを読まない手はありません。
「何を教えればよいか」をより明確にするため、授業者の視点から教科書を読んでみましょう。
内容を知っている皆さんでも、改めて読むと受験生の時には気がつかなかった新しい発見がたくさんあるはずです。
例:なぜ平安新仏教は当時流行したのか、その社会的背景は何か?奈良仏教との違いはなんだろう?etc.
一度勉強したからこそ見つけられる歴史の魅力を改めて発見できるのです。
講師が教科の「魅力」を把握していない限り、生徒に「魅力」は絶対に伝わりません。
これは日本史の場合はそれが経験上特に顕著です。
一つでも多くの「魅力」を伝えるために、教科書から授業のネタを集めましょう。
きっと生徒に教えたくなる題材を見つけられます。
<ここがポイント>
教科書を再読し、受験生の時には気が付けなかったポイントを見つけよう!
②単元の学習目標(何を教えたいか)を設定
①を終えたら、いよいよ授業準備です。
教科書を再読すると、授業に向かって教える題材が見つかると思います。
題材が見つかったら、歴史を学ぶ意義は何か=それを学ぶことが生徒にとってなぜ大切なのか
を考えてみましょう。
抽象的なので、具体化しますね。例えば、現代史で「戦後の復興」というテーマの授業をイメージしてください。
色々勉強すると、日本が戦後復興できた背景には、
- 適切な経済対策
- 国民の不断の努力
があったことを学べます。
東日本大震災が2011年に起こり、震災後の復興をどう計画し、実行するのか。
議論がわかれている今だからこそ、戦後の歴史から現代を見つめなおす材料とできるのです。
上記のものは1例ですが、
まずは、マクロの視点から単元を通して何を一番伝えたいか、狙いを明確にしましょう!
<ここがポイント>
単元を通して何を伝えたいかが明確になれば、伝えるべきことも見えてくる
③授業1コマ分の学習目標を設定
単元の目標を立てたら、次に授業1コマ分の目標を立てます。
例えば、先程の例で言えば、「戦後の復興」がマクロの視点でした。
この授業では「マッカーサーの民主化政策」について、
- どうしてマッカーサーは五大改革指令を行ったのだろうか
- 農地改革によって日本の経済にどういう影響があったのか
など、諸政策が戦後の復興の軸になったことがわかるよう繋げられるとなお良いだろう・・
という具体的な学習目標を設定します。
この学習目標を設定することによって、授業1コマ分の教材を考えることが出来ます。
<ここがポイント>
全体図→1コマという順番で授業を練れば、1つの授業の役割が見えてくる
④授業内容の予習
ここまで来たら、あと1歩です。
授業1コマの学習目標を設定するため、講師が何を深く研究しておくべきかがわかってきます。
そこで、
- ちょっと説明するには自信がない
- 教科書や概説書にはこう書いてあるけどこれはどうしてこうなるのだろう
と不安がある場合は、文献調査にあたってみましょう。
新人講師にも必ず伝えますが、
1つ1つの説明のために、最大限の研究をしましょう。
つい最近、鎌倉時代成立期について有力な説が1185年に変わり、大きな話題を呼びました。
これも「有力」なだけであり、新しい発見があれば、今後記述がまた変わるかもしれません。
<参考>
・【必読】何故鎌倉幕府の成立年がイイクニからイイハコになったのか?【歴史を教えるあなたに】
教科書に書いてあることが入試の問題として問われるときには答えがかわっていた・・・
なんてことが、日本史では本当に起こりうるのです。
そのため、講師は現在どのような学説が論争の種となっているのか、など
常に最新の研究成果をふまえて授業しなければなりません。
論文は、「Google scholar」や「Cinii」を利用して、最新のものを検索することが出来ます。
また、図書館などで日本史関係で出版されている概説書を多く読んでみましょう。
1冊読めば脚注や参考文献などで他の研究所が紹介されています。
多くの本を読み、引き出しをたくさん蓄えていってください。
<ここがポイント>
たくさんの文献を読むことで、1つ1つの説明に説得力を持たせよう!
まとめ~日本史を教える皆さんへ、2つのアドバイス~
本稿では、授業を準備する上で大切な4つのポイントをご紹介しました。
4つのポイントを今一度、確認しましょう。
- 教科書内容の確認・分析
- 単元の学習目標(何を教えたいか)を設定
- 授業1コマ分の学習目標を設定
- 授業内容の予習
最後に塾で日本史を指導した経験をもとに筆者から2つアドバイスをして、本稿の締めとします。
①大切なのはどうやって教えるかよりも、教えたい内容をどれほど理解しているか
「どのように教えるか」は、研究をちゃんとしていればいくらでも応用が効きます。
何より大切なのは教えたい内容をどれほど講師が理解しているかです。
これによって生徒の理解の質が全く変わってくるからです。
まずは日本史の内容をしっかり研究するようにしましょう。
②生徒たちの思考の流れに沿った学習を作る
1つの出来事を理解するために、どんな手順を踏んで伝えればよいか?
説明に飛躍はないか、など生徒が無理なく学べるプロセスを考えていきましょう。
そうしことを考えながら授業をイメージすると、より具体的なプランができるはずです。
以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!皆さんのご活躍をお祈りしています。