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日本の歴史を教える心構え~古文書学編~

高校生

2021/12/17

歴史の魅力を伝えるために

授業を作っていると教材研究ってどこまでも終わりが無いですよね。
日本史を教えるためにどこまで講師は予習しなければならないのでしょうか?

日本史を興味深く教えるための1つの手段として、エピソードをあらかじめ予習しておいて、ところどころで歴史の面白さを伝えることも重要な事だと思います。


しかし、歴史を教える以上講師として最も重要なことは「歴史学」との連携をしっかり取ることです

以前、筆者の拙稿「日本史の授業準備について」(http://www.juku.st/info/entry/650)でもご紹介したように、「歴史教育」というものは常に歴史学の成果の上に成り立つものです。

現在でも活発な研究がなされており、最新の教科書の記述が新しい発見よって入試までに覆る可能性を常に秘めています。

講師は”学者”としての要素も持ち合わせなければならないため、こうした論争には常に耳を傾けると同時に
自分自身で歴史の”現場”に出て、研究を深めることでより高い専門性を磨き上げていくようにしましょう。

ここでいう”現場”とは歴史の「一次史料」のことを指しています

 古文書

「一次史料」とは、例えば鎌倉時代だったら鎌倉時代の生の人間が残した「史料」のことです。
一度歴史学の論文などを「Cinii」(http://ci.nii.ac.jp/)などでご覧になってもらうとわかるのですが、
歴史学というのはこの「一次史料」を根拠に組み立てています。

もちろん、自国に有利に書かれているなどの「政治性」や「客観性」は常に批判的視点を読み取っていかなければならないものです。しかし、こうした「一次史料」がなければ教科書の記述も組み立てることができないのです。

高校生が大学受験のために学ぶ日本史であれば、各出版社から刊行されている日本史の史料集で十分ですが、
講師である皆さんは歴史の魅力を伝えるために必ずこうした”現場”で何が起こっていたのかを調べ、歴史の深さを生徒たちにも伝えて欲しいのです。

もちろん受験指導にもメリットがあります。例えば、生徒の志望する大学の過去問を講師が研究する際に
その大学の教授の専門分野の「一次史料」を読みこめば過去問題から傾向もつかめますし、予想問題を作成することもできます。

大学入試では必ず「史料問題」が出題されるので、講師がこれを読んでおくのは指導の際にも大きく役立ちます。
本稿ではこうした「一次史料」を読むときに何を気をつけなければならないかについて述べていきます。

一次史料を読むための基礎知識

「一次史料」と一言でまとめてみても、それは時代によって形式も様態も異なります。
例えば近代以降の史料であれば、現代語に近いですし、様式も今と近いのでそれがどのくらい重要かというのは大体今の感覚でわかります。

 研究

これを近世、中世、古代とさかのぼっていくと、これらの史料の形式がや様態が独特になってきます。
しかし、その根底にあるのは現代でも言えることです。

なので、この記事では近世以前の史料全般を古文書学に依拠して述べていきたいと思います。

①形式論

 まずは「形式論」からです。


皆さんもこの形式論については日本史の教科書などで読んだことがあるかもしれません。

これは「史料」がどのような「形式」で出されたものかで歴史を分析する理論です

ちょっとイメージしづらいですね。現代の例で置き換えてみます。

これから出張や研修などで数日間家を空けることになるとしましょう。家に残る家族に対して干しておいた「洗濯物」を夕方にとりこんでほしいけど、今は家に自分以外いない。

さて、どのような置き手紙を残すでしょうか?人によってもそれぞれかと思いますが、大半の人はおそらく

例:「夕方16時頃に干しておいた洗濯物取り込みお願いします。」

というくらいのメモではないでしょうか?
ここでいちいち「拝啓 ~様 ご機嫌麗しく・・・2014年○月○日」
と手紙のように形式張って書く人はおそらくいないと思います。

これは歴史における「史料」でも同様で、その「史料」がどのような「形式」で書かれたものなのか注意して読む必要があります。

具体的なポイントとしては、以下の2点です。

①日付
まずは日付です。先ほどの例でも示したように、ちょっとしたことを伝えるくらいなら、わざわざ日付を書く必要はありませんよね。現代でも何かの紙に日付を書く時は「婚姻届け」だったり、「出生届」など特別な時に記載するのと同じように
歴史における「史料」においてもそれが「いつ」かかれたのか正確に日時を示しているか否かでその史料の重さが変わってくると言われています。

②宛先
次に宛先です。それが誰に対して書かれたものなのかを示す部分です。
今でもお礼状を書く時と親しい友だちに手紙を書くときは「~様」「~くんへ」など敬称を使い分けますよね。
それと同様に、例えば大名が将軍に対して出す手紙でどのくらいへりくだっているか、
どういう敬称を用いているのかを分析することで
将軍が当時どのくらいの権威を誇っていたかが分析可能なります。

形式を見ることで上記のような事がわかり、歴史像がより鮮明に浮かび上がってきます。

②機能論

 続いて機能論です。

これは「史料」が歴史の中でどのような機能を果たしたのかを分析する理論です

先ほどの形式論だけでは補えない実質的な部分を指しています。

例えば、古代においてある人物の暗殺計画を練っている際には、万が一手紙などが途中でバレてしまっても大丈夫なように、「誰から誰へ」という部分をあえて書かなかったり、一般庶民の名を装って出した手紙などがあります。

しかし、この手紙のとおり暗殺が起こったりすると、この「誰から誰へ」がない手紙は非常に重要な意味を持った史料になります。

歴史の流れと照らし合わせて、「史料」がどういう機能を持っているのか。これを分析するのが機能論です。

③伝来論

 これは、先ほどの史料への「政治性」への話でも述べましたが、「史料」というものは常に批判的視点を持って分析しなければなりません。

基本的に「史料」というのは自国に有利になるように残すものだからです。みなさんもよくご存知のようにある人物や一家を正当化し、神格化するような歴史史料はたくさんあります。

あれも、統治をするにあたって「神聖」なものと民衆にしらしめる「政治性」があるため、都合の悪い部分は隠したりしています。順番が前後してしまいましたが、つまり伝来論とは

「史料」がどのように伝来したか。また誰が伝えようとしたものかを把握することでその史料が歴史において客観性をがあるかどうか調べるための分析理論です。

④様態論

最後に、様態論です。様態論とは

どのような状態で残されているのか、から歴史的な価値を分析する理論です。

これは文化財保護の専門家の学者でない限りあまり触れることもないのですが、一応ご紹介しておきます。

史料保存から説明します。
まず、歴史における「史料」は今でも発見し尽くしていません。
それは、例えばお寺などに代々残る史料では紙がいたんできてしまっていると専門家が調査に来ても出してくれないことがあるからです。

しかし、ボロボロになっても差し支えのないものは調査のためにならともらえたりもします。
様態論はこうしたことをヒントに分析するものです。

お寺などの中にある厳重な箱で何十にも施錠されている箱のなかに入っている史料と、そこらへんに散らばっている史料ではおそらくその2つの史料の「価値」って全然違いますよね。

これらを見分けてそれがどのような意味を持つのかを分析します。

まとめ

以上ここまで「一次史料」を分析するための方法を紹介してきました。なかなか聞き慣れない4つの分析論っだったと思うのですが、いかがだったでしょうか。

実際に「一次史料」にあたって見る際には上記の4つのポイントを意識して読んでみると、その史料を根拠にした教科書の記述はあっているだろうか?なども疑いの目をみって観察することが出来ます。

筆者は、これまでも日本史関係の記事を執筆してきましたが、
どの記事でも「専門性を持ってほしい」ということをベースにしています。

高校の日本史はあらゆる研究をしてその歴史の現場調査に出てこそ、日本史の全体像がつかめてその魅力を教えられる科目です。

入試問題の出題傾向を探るための強力な武器となるので是非日本史を教える方は「一次史料」の調査にあたって専門性を磨いていってくださいね。

こうした史料については各地の歴史博物館や「東京都公文書館」で

(http://www.soumu.metro.tokyo.jp/01soumu/archives/)

閲覧できるので是非足を運んでみてください。

以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました。

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