【必読】教育心理学の観点から考える生徒の動機付け
動機づけ(モチベーション)とはなにか?
<とある塾経営者>
建物の脇にはられた「○○塾新規開校!」ついに自分の塾の貼り紙が完成だ。
待ちに待った自分の塾の経営がこれから始まる。
講師も各教科無事に集めることができ、いよいよ準備は整った。
事前の広告活動がうまくいき、生徒はスタートにしてはまずまずの数だ。
来週からすぐに授業開始しよう。
さて、授業で生徒の数を現状維持ないし増やしていく方保を考えなければ・・・
塾にとって生徒の数はそのまま経営に直結する重要な数字ですよね。
サービス業ではあっても、1歩踏み出してみればそこはもうライバル塾との生徒の取り合いなど利益を追求した運営をしていかねければなりません。塾の社員の方ならわかると思うのですが日々真剣勝負ですよね。
塾を維持するために重要な要素とは何でしょうか?できるだけ無駄な出費を抑えて利益内の経営をする
などの経済的諸要素ももちろんあると思います。
しかし、塾にとって何よりも大事なのは
「授業の質が高いかどうか」
です。
では質の高い授業ができる講師を集めるだけで良いのでしょうか?
あともう1つの要素が必要です。
たくさんの生徒を教室に集め、優秀な講師を揃えておくことができても
生徒自身が学習しようとする意欲や意志を持たなければ授業が成立しません。
良い授業を準備している講師のみなさんにとっても、
せっかくならやる気満々の生徒と向き合いたいと思います。
本稿ではそうした思いを形にするためにはどうしたら良いのか、
教育心理学の今日までの成果をもとに「動機づけ」について述べていきます。
「動機づけ」の定義
動機づけ(モチベーション)は動機と同義に使用される場合が多いのですが、その定義は
「行動の原因となって行動を始動させ、目標に向かわせる力」
とされています。この動機づけの基盤には生徒自身の「欲求」が存在していなければなりません。
つまり、いくら保護者が首根っこつかまえて嫌がる子供を塾に連れてきたとしても、この定義にあるような
「目標」を達成したいという「欲求」を生徒自身が持たなければ、講師がどんなに良い授業をしても
生徒が主体的に授業に望むことはできないのです。
人間は様々な欲求をもっているため、この「欲求」を全てひとまとめにすることはできないのですが、
ここではまず、学習場面に照準を絞って用いられる分類の2つをご紹介します。
外発的動機づけ
「外発的動機づけ」とは学習と直接的に内容の関係ない外部の事柄が目標となり、学習活動がその目標を実現するための手段となっている場合を指しています。
その例としては、以下の様なものがあります。
・報酬:成績が上がったら携帯電話を買ってもらうから頑張る
・叱責の回避:悪い点数を取ると父親が怖いからテスト前は頑張る
・競争:友人のA君には何事でも負けたくない
・上級学校への試験のため:あの学校で高校時代を過ごしたいから頑張る
etc.
これらを見ていただくとわかると思うのですが、学習そのものは目的になっていませんよね。
どちらかというと、よい成績を取ることで報酬をもらえるなど、その確約された「結果」がモチベーションとなっています。
つまり、これらの事柄がなくなってしまうと「途端に学習意欲をなくしてしまう」ということが起こりかねないのです。
こうした事情から、教育界ではあまり好ましくない動機づけとされています。
ですが、私の個人的異見を載せるなら、荒療治かもしれませんがこうした外発的動機づけ
というのはきっかけとして利用するぐらいなら使っても良いものだと思います。
以前、私が務めていた塾で「漢字テスト10回連続満点特典」として、満点を10回連続でとれた子に対して
かなり有用なノートを景品として用意したところ、もともとあまり勉強が好きでない子も思いっきり頑張ってその後も合格するまで勉強を頑張り続けたことがありました。
講師の方は経験があると思いますが、一度やる気を出させてみるとあとはそれを維持し、上昇させるよう導くのは意外と簡単ですよね。
ですが、この「一度」がなかなか難しいもの。
生徒の実態に合わせてこれを試してみる価値はあるかもしれません。
内発的動機づけ
外発的動機づけが外部の事柄を目標としているのに対して、内発的動機づけとは学習活動それ自体が目的となっている状態のことを指しています。
学習の内容そのものに対する興味や知的好奇心のことですね。
学習が楽しく感じられたり、内容が面白いと感じられたりするという状態を指しますが、
その守備範囲は広く、新しい物への好奇動機、操作動機なども意味しています。
これらの動機には先ほど外発的動機づけで説明したような報酬というようなものへの動機はありません。
生徒は「知りたい・学びたい」と言う気持ちが内側から湧き上がってくることで、
常に高いモチベーションを維持して授業に臨んでいくことが出来ます。
ここまで読んで頂いてお分かりだと思うのですが、やはり、講師が目指すべきは外発的動機づけよりも
こちらの内発的動機づけ ではないでしょうか。
つまり、講師は生徒の目線に立って「わからないことがわかるようになる」という
プロセスをどのように組み立てればもっともわかりやすいか、
そして興味深いのかを日々研究して授業を作り上げなければなりません。
色々な手法があると思いますが、私は具体的な手段として「生徒の思考の流れ」を意識して作ると良いと
若手講師たちに研修などで伝えています。
すでに教える内容を知っている講師の目線で授業を作ってしまうと、必ず難しい用語の説明をすっぽかしてしまうなどのミスが出てきてしまいます。
初めてその内容を学ぶとしたらどこでつまずくだろうか?何が分かりづらいのか?これの次に知りたいことは何か?生徒の思考の流れに沿って授業を組み立てると非常に狙いの明確な授業になります。
そして、その思考の流れに沿った授業をすることで生徒たちの頭の中の”知りたいこと”への欲求を満たし、
この内発的動機づけが可能になるのです。
補足
ここまで二つの動機づけについて説明してきました。最後に内発的動機づけの補足をします。
生徒の内発的動機づけ、そしてそれを維持するために有効なものがあります。
それが「成功体験」を積ませることです。
中々学習成績を伸ばせていない生徒に対して、難しい問題の解き方を教えていくよりも、
基礎となる部分の簡単な問題からもう一度解かせて正解させる事によって成功体験を積ませます。
基礎的な学力が確認できるとともに生徒が「自分にはできるんだ」という”有能感(コンピテンス)”
を持たせることで学習意欲を湧き立たせることが出来るのです。
先ほど紹介した内発的動機づけが挫折によって折れてしまった生徒には、この「成功体験」をもう一度積ませて自信を取り戻させてあげると良いでしょう。
まとめ
さて、ここまで生徒の主体的な学習意欲を持たせるための”動機づけ”という教育心理学の分野から基礎的な事を紹介してきましたがいかがだったでしょうか?
どれほど講師が努力して良い授業を作っていっても
学ぼうとする生徒がそこにいなければ空中戦になってしまいます。
現代において日々進む多様化。
それは社会だけでなく家庭や学校、そして生徒も同様です。
学ぶ主体である生徒へいかに意欲を持たせるか、教育心理学の知見を利用して改善策を練ることが必要となってきているのです。
今回はあえて科目を絞らず教育全般について述べました。
なので読んでいる講師の方にとって何か1つでも今後の授業の参考になれば幸いです。
以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!