位置ベクトルの本質に迫る!
はじめに
講師のみなさん、こんにちは!
いよいよ今年も残り一か月ですが、いかがお過ごしですか?
さて、今回はベクトルについてお話したいと思います。
平面ベクトルは、センター試験数ⅡBにおいても出題範囲であるうえ、二次試験でもよく出題される分野ですので、生徒がベクトルを苦手にしていて困っているという講師の方も多いと思います。
ベクトル分野の問題では、新しく作った点の位置ベクトルを求める問題が頻出の問題となっています。「・・・直線ABと直線CDの交点をEとするとき、OEベクトルをOAとOBを用いて表せ・・・」といった問題です。実例として、2009年度大阪大学の過去問を以下に紹介します。
平面上の三角形OABを考え、a=OA,b=OB,t=lal/2lbl とおく。
辺OAを1:2に内分する点をCとし、OD=tbとなる点をDとする。
ADとOBが直交し、BCとOAが直交するとき、次の問いに答えよ。
(1)∠AOBを求めよ。
(2)tの値を求めよ。
(3)ADとBCの交点をPとするとき、OPをa、bを用いて表せ。
(3)で交点の位置ベクトルを求める問題が出題されていますね。このように、出題率の高い問題ですから対策は必須です。
今回は、平面ベクトルおよび空間ベクトルにおいて、このような新しい点の位置ベクトルを求める問題の本質的な解き方について迫っていきたいと思います。
*この記事では、以後ベクトルを太字とイタリック体で表現していきます。
Ex.)OAは辺OAのこと、OAはOAベクトルのことです。
平面ベクトルにおける位置ベクトルの求め方
平面ベクトルの分野では、直線と直線の交点の位置ベクトルを考えます(直線でなくとも、線分や半直線、あるいは三角形の辺であってももちろんいいわけですが、説明では直線で説明していきたいと思います)。
直線と直線の交点を求める問題において重要なことは、求める点の位置ベクトルを二通りに表す ということです。
例えば直線ABと直線CDの交点Eの位置ベクトルOEを基本ベクトルOAとOBで表す場合を考えます。
Eの位置ベクトルを求めるということはつまり、Eがどこにあるのか、Eのいわば“住所”を考えるということになります。
そこでEがどういう点かをよくよく考えてみると、直線ABと直線CDの交点でした。すなわち、直線AB上にあり、かつ直線CD上にもある点というのは点Eしか存在しないわけであり(平面内の2直線は平行でなければ必ず一つ(だけ)の交点をもちますよね)、逆に言えば、点Eは直線AB上にあるという情報からその位置ベクトルを表すこともできるし、直線CD上にあるという情報から表すこともできるわけです。
このようにして点Eの位置ベクトルを二通りに表しましたが、どちらの表し方も満足しなければならないので、互いに一次独立な基本ベクトルで表す場合、その表し方はただ一通りになることより未知数を求め、Eの位置ベクトルを求めることになります。
ここで、おおまかに平面ベクトルの位置ベクトルを求める問題の解法をまとめると次のようになります。
Ⅰ.位置ベクトルを二通りで表す
Ⅱ.二通りの表し方のどちらも満たすことより未知数を求める
Ⅰ.位置ベクトルを二通りに表す ですが、例えば直線AB上にあるという条件から点Eの位置ベクトルを表す場合、その表し方には実は2パターンあります。つまり、次のそれぞれの考え方を利用します。
①OE=sOA+(1-s)OB となる実数sが存在する (下図の[1]参照)
②AE=kABとなる実数kが存在する(下図の[2]参照)
基本的にはどちらの表し方でも大丈夫ですが、①の考え方の方がややオーソドックスです。②の考え方は、すでにABをOAとOBで表せられているときに便利です。
以上が平面ベクトルにおける、位置ベクトルを求める問題の基本ストラテジーです。では、次の項では空間ベクトルにおける、位置ベクトルを求める問題の解法を見ていきます。
空間ベクトルにおける位置ベクトルの求め方
平面ベクトルでは直線と直線の交点だけでしたが、空間ベクトルでは直線と直線の交点のほか、直線と平面の交点や直線と球の交点も登場します。ですが、基本的な解法戦略は平面の時と全く同じです。
Ⅰ.位置ベクトルを二通りで表す
Ⅱ.二通りの表し方のどちらも満たすことより、未知数を求める
ただそれにプラスアルファで、点Eがある平面上にあるという条件や点Eがある球状にあるという条件からどのように位置ベクトルを表すことができるのかを押さえられればよいだけです。
点Eが平面ABC上にあるという条件から位置ベクトルを表す
平面ベクトルの時と同様に、平面上にある点の位置ベクトルの表し方には二種類あります。
①OE=sOA+tOB+(1-s-t)OC となる実数s、tが存在する(下図の[3]参照)
②AE=sAB+tAC となる実数s、tが存在する(下図の[4]参照)
点Eが球S上にあるという条件から位置ベクトルを表す
球Sの中心をS、半径をrとすると、点Eが球S上にあるということは、EとSの距離がrだと言うことです。すなわち、点Eが球S上にあるという条件を定式化すると
(SEの大きさ)=r (下図の[5]参照)
ということになります。
以上が、Ⅰにおける二通りの位置ベクトルの表し方に関する考えで、二通りで表すことができれば平面ベクトルの時と同じくⅡの考えに従って位置ベクトルを決定することができます。
空間ベクトルにおける解法を見ましたが、基本的な解法戦略は平面ベクトルの時と同じですので理解しやすかったかと思います。
実は二通りに表さなくてもいい
いままで平面ベクトルおよび空間ベクトルにおける、位置ベクトルを求める問題の解法について見てきました。その中で、求めたい点の位置ベクトルを二通りで表すと言いました。しかし本質的には、「直線AB上にある」かつ「直線CD上にある」という条件をきちんと考慮していれば、わざわざ未知数二つを用いて二通りに表す必要は必ずしもありません。言葉で説明してもなかなかピンと来ないと思うので、以下に示す問題で、具体的に考えていこうと思います。
・・・
⊿OABにおいて、辺OAを3:2に内分する点をC、辺OBを3:4に内分する点をD、線分ADとBCとの交点をPとし、直線OPと辺ABとの交点をQとする。次のベクトルをOA、OBを用いて表せ。
(1)OP (2)OQ
・・・(下図の[6]参照)
このような問題の(1)を解くことを考えてみます。
先ほど解説した解法に従うと、
Ⅰ.位置ベクトルを二通りに表す
実数sを用いてAP:PD=s:(1―s)とおくと、OP=(1-s)OA+sOD=(1-s)OA+3sOB/7
実数tを用いてCP:PB=t:(1-t)とおくと、OP=(1-t)OC+tOB=3(1-t)OA/5+tOB
(二つとも①の考え方(OE=sOA+(1-s)OB となる実数sが存在する) を用いた)
Ⅱ.二通りの表し方のどちらも満たすことより、未知数を求める
ⅠでOPを二通りで表しましたが、OAとOBは一次独立なので、OPはOAとOBを用いてただ一通りに表せるはずです。よって、OAとOBの係数を比較することにより、
(1-s)=3(1-t)/5、3s/7=tという連立方程式を得ます。この連立方程式を解くと、s=7/13、t=3/13と求められるのでOP=6OA/13+3OB/13が答えとわかります。
このように二通りに表すためには、sとtのように二つの未知数を用いて表さなければなりません。
しかし、本質的には未知数を一つだけにすることも可能です。次にその方法で解いてみたいと思います。
解.)
実数sを用いてAP:PD=s:(1―s)とおくと、OP=(1-s)OA+sOD=(1-s)OA+3s=5(1-s)/3・3/5OA+3s/7OB=5(1-s)/3OC+3s/7OB
点Pは線分BC上の点であるので、5(1-s)/3+3/7s=1 が成り立つ。これを解くと、s=7/13
が答え。
どうですか。未知数一つだけで問題を解くことができました。
未知数は一つだけでしたが、条件はきちんと二つとも使っています。
すなわち、点Pが直線AD上にあるという条件から、実数sを用いてAP:PD=s:(1―s)とおくことで、OP=(1-s)OA+sOD としました。これをOAがOCになるように式変形をしてやります。OP=5(1-s)OC/3+3sOB/7 ここで点Pが線分BC上の点であるという条件より 5(1-s)/3+3s/7=1 が導かれます。このOAからOCが出てくるような式変形をしてやることがこの解法のミソであり、始めは少し慣れるのに時間がかかるかもしれませんが、特別難しい変形ではないと思います。
この解法もsとt二つの未知数を用いる解法と本質的には同じであり、どちらもただ、
点Pが線分ADとBCの交点である、つまり
「点Pは線分AD上にあるという条件」と「点Pは線分BC上にあるという条件」がどちらも満たされる
ということを利用しているのです。
以上は教科書には書いていないようなやや発展的な解法だったかもしれませんが、身につけると計算量が少なくて済むので特にセンター試験などではこの方法は便利かもしれません。
位置ベクトルを求める問題を苦手にしている生徒には、最初に説明した、パターン化した解法を身につけてもらい、逆に得意にしている生徒には今お話した内容を指導すると、難易度の高い問題に出会っても問題の本質を捉えて柔軟に解答できるようになるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、平面ベクトルおよび空間ベクトルにおける、位置ベクトルを求める問題の解法を本質的な内容を意識しつつ見てきました。ここでもう一度基本的な解法ストラテジーを確認しましょう。
Ⅰ.位置ベクトルを二通りで表す
Ⅱ.二通りの表し方のどちらも満たすことより、未知数を求める
また、最後にやや発展的な内容として、未知数一つだけで二つの条件を処理する解法も解説しました。
もしよければ、生徒にこれらの解法を使って指導してみてくださいね。