塾講師として、そしてカウンセラーとして【塾講師の役割】
塾講師として、そしてカウンセラーとして
昔のように、「教師は授業で勝負する!」などとは古い考え方でしょうか。
実際、近年塾講師に課せられている任務は確実に多いというのが事実です。授業のみならず、授業外での生徒のフォロー、生徒に対する精神面での相談相手にもなり、保護者への対応も塾講師としての役目の一つです。
一人の人間が、勉強を教えるという仕事をしながら、カウンセラー的な存在になることも出来るのでしょうか。
この記事では、塾講師として社会から求められている私たちの役目に対して、私たち自身がどのような意識を持って仕事に取り組むべきかお話ししていきます。
塾講師の本来の役割
「塾講師とは、勉強を教えるのが仕事。」
わざわざ説明するまでもなく、これが当たり前の事です。しかし、なぜここでその当たり前の事に言及するのかというと、近年その専門性が薄れつつあるのではないかという見方があるからです。
※この記事では、塾講師または塾講師希望者に向けて発信しておりますが、参考文献の引用の関係で一部「教師」との表記に変わる部分もございます。ご了承下さい。
言うまでもなく、塾講師に求められているものは指導担当教科についての専門的知識です。
数学の講師ならば数学の公式を熟知していること、計算能力が安定していること、そして英語の講師ならば英語の文法や発音に長けていること、など挙げたらきりがありませんが、共通していることはそれぞれの指導科目についての知識が十分に備わっている事に他なりません。
しかし近年、そこまでの専門的知識がなくても教えることが出来るという考え方が広まっています。
塾講師は大学生のアルバイトとしてとても人気な職です。例えアルバイトと言えども、塾講師は誰にでも勤まるというものではなく、中学・高校・そして大学受験としっかり自ら勉強に取り組み、成果を上げ、学力という実力が備わっている人にしか出来ないものです。ですから、塾講師をされている大学生やこれから塾講師になりたいと考えている方はそれなりに、自分の学力について自信があるのでしょう。(これは決して悪い意味ではなく、学力に自信がなければ人に教えることなど不可能なのですから、自信を持つ事はとても大切なことであり、良い事なのです。)
しかし今一度、塾講師として、意識改善が必要な面もあるのではないかと思います。
ある程度の知識・それなりの理解だけでは良い授業が出来る訳がありません。
自分の担当科目についての知識は十分か、そしてその指導法は研究され磨かれたものであるのか、もう一度自分に問いかけて見てください。
昔は単純に、「教師は授業で勝負する!」というシンプルな世の中でした。
しかし近年は、授業だけでは勝負出来ないというのが現実です。授業以外のところでも、例えば生徒に対するメンタル面でのフォローや保護者との面談なども塾講師の仕事として認識されてきています。しかし、複雑になっているからこそ、私たちは「勉強を教える」という真の(核となる)任務を忘れないことが大切です。
それにも関わらず、子供達と関わる仕事に就く人にとって(特に教師や講師の場合)、生徒の学力を伸ばすことのみならず、社会的にも心理的にも生徒が成長していくように手助けをするという任務も課せられています。
そのような講師の2つの役割、いわゆる生徒のIQのみならず、EQもを育てていくのが講師の仕事だという社会の視線に、私たちはどう向き合っていけばいいのでしょうか。
スクールカウンセラーの実体
スクールカウンセラーという言葉を聞いたことがあるでしょうか。聞いたことのない方も、言葉の通り想像して頂ければ問題ありません。
スクールカウンセラーの役割及び意義・成果について
スクールカウンセラーの業務は、児童生徒に対する相談のほか、保護者及び教職員に対する相談、教職員等への研修、事件・事故等の緊急対応における被害児童生徒の心のケアなど、ますます多岐にわたっており、学校の教育相談体制に大きな役割を果たしている。
ー文部科学省ホームページ抜粋
上記のように、学校生活や家庭内において悩みや苦悩を抱えている生徒たちに手を差し伸べるのがスクールカウンセラーです。
現代社会ではスクールカウンセラーはものすごく活躍していますし、その需要度も増し続ける一方です。
しかし、数十年前まではスクールカウンセラーなど学校に存在していなかったはずです。
勉強する場所であった学校が、生徒たちにとって悩み事が増えてしまう環境を生み出し(必ずしも学校が悩みの種ということでもありませんが…)、それに加え悩みを解決するための機関が学校に設置されたとは、なんとも皮肉なことだと私は思います。
今の段階ではまだ想像は付きませんが、塾にもカウンセラーと名乗る人が一校に一人配置される将来もそう遠くないと私は考えています。
スクールカウンセラーは学習アドバイザーとは異なります。学習アドバイザーならば今でも塾にその資格をもった人はいるはずです。そうではなく、学習面のみならず、性格面・人生そのものについて生徒の相談に乗ってあげる存在が塾にも必要となる時代が来るはずです。
学校が勉強を学ぶ場から社会的生活を習う場になったように、塾も補習をする場から生活相談に乗る場になっていくことでしょう。
自ら学習に対するモチベーションが高く、より上位の大学を目指し勉強に励むような「予備校」はこの先も「勉強する場」と位置づけられると思います。しかし、個別指導塾や家庭教師、補習塾などはそのようなカウンセリング的立場になることを見据える必要があるのではないでしょうか。
教師カウンセラーという新しい発想
「勉強を教えるという専門職」から一転、「勉強を教えつつ生徒の心理的な面も支えるカウンセラー的存在」が今、私たちに求められているようです。
先生と呼ばれる立場である私たち塾講師は、中学生や高校生の生徒よりは年齢も経験も上回っている人生の先輩です。そして、生徒の成長を心から願っているのですから、人生の先輩として相談に乗ってあげることはそんなに難しくないはずです。
おそらく塾講師の道を選んだ方は(私自身も含めですが)、自分の知識・経験を使って人の役に立ちたいという願いが強い人が多いのかと思います。教えることが好きとは結局、人の為に役に立つことが好きとそんなに変わらないことでしょう。
しかし、そのような考え方が、私たちに誤った考えをもたらすこともあります。
塾講師もカウンセラーも、生徒の為に役に立ちたい、成長の手助けをしたい、という同一意識から、例え資格がなくとも塾講師もカウンセラーをやれるというように思ってしまいがちです。しかし、この二つは求めるものが生徒の成長という最終目的は同じであっても、専門領域が全く異なる二つの専門職であるのです。
よって、塾講師をしながらカウンセラーも担うことが出来ると高をくくってしまうと、どちらも中途半端になってしまう可能性があることを忘れてはいけません。
教師が教育のプロフェッショナルであり、カウンセラーも領域を異にするプロフェッショナルであることである。よほどの場合を除いて、一人の人間が二つの異なる専門的領域をカバーすることはできない。
ー氏原寛「実践から知る学校カウンセリング」培風館
先生と呼ばれている職業柄、勉強以外のことでも何でも教えることが出来ると思ってしまいがちです。
しかし、「勉強を教えることが出来る」と「人生についてのカウンセリングが出来る」とは同じではないということを私たちは認識する必要があるのです。
求められる専門性
教師カウンセラーが心理カウンセラーと同じ働きを目指すならば、所詮は真似事であり、せいぜい二流・三流のカウンセラーにとどまざるをえない。本気で職業的カウンセラーを目指すならば、おそらく教職を断念しなければならない。
ー氏原寛「実践から知る学校カウンセリング」培風館
上記にも述べたように、先生と呼ばれる立場である私たち塾講師は、もちろん中学生・高校生の生徒よりは年齢も経験も上回っている人生の先輩であることは確かですので、人生の先輩として生徒に自分の経験や体験を伝えることは出来ます。ましてや、友達同士の会話で生まれるアドバイスのようなものは、 相手のことをしっかり考えれば誰にでも出来ることです。しかし、それが私たち塾講師の専門ではないということは認識しておく必要があるのです。
以前は教師は授業で勝負すれば良かったものの、学校の制度や社会そのものが複雑になってきた為、カウンセラーの存在が必要になった現代社会。これからは、ますます世の中は複雑化すると思われます。ですので、塾講師が全てを担うのではなく、自分の専門分野に特化して仕事に専念する方を私は推奨します。
今でさえ、授業以外の面でやることが多すぎて猫の手も借りたいと思いながら塾講師をされている人は多いはずです。一人で全て担うのではなく、自分の専門をより磨く方が、今後の社会にも求められる存在となること間違いありません。
少しずつ全部出来る人は、裏を返せば結局、全てのことをちょっとずつしか出来ないということです。大切なのは、専門性であるということを忘れてはいけません。
本来の指導
一つの教科に精通している場合、ただ公式を生徒に暗記させるだけの授業は行わないはずです。
豊かな授業をすることで、生徒の自由な発想を手助けすることになり、公式だけを覚えるのではなく、想像力・発想力の豊かな生徒が生まれます。暗記するだけでは、応用の効かない脳が育ってしまいます。塾講師側も授業以外の業務に追われていたり、生徒側も学校の宿題や部活、塾以外の習い事で忙しい日々を送っている人も多いでしょう。しかし、じっくりと一つの問題に向き合う余裕を持つことが大切だと私は思います。
ところで、教室では一人の教師が数十人の生徒に授業しており、それが一つの授業として考えられている。しかし、これは教師の側から見た場合である。生徒の立場から見ると、授業とは学習の場に他ならない。しかも学習とは、本来個人的な営みである。つまり、ひとりひとりの生徒がそれぞれ独自の学習の過程にあることになる。いい代えれば、授業とは、教師からみれば一つの授業であるが、生徒からみればひとりひとりの学習であり、そこには生徒の数だけの学習があるのだ、ということになる。
ー氏原寛「実践から知る学校カウンセリング」培風館
塾講師をされている方、一つ一つの授業にどれだけ熱意を込めているでしょうか。
一コマ一コマ、やっつけ仕事のようになってしまっていないでしょうか。
私たちの提供している授業が、生徒の脳を、そして人間そのものを形成させていくのです。
決してどの授業もないがしろにせず、一つ一つの授業を大切にしていくことが重要です。
塾講師の立場
とはいえ、勉強を教えるプロフェッショナルである必要があると同時に、それだけ行っていれば良いというものではありません。
生徒の悩みの相談に乗る事、進路指導をする事、将来の夢に向けて今何をするべきか問いかけること等、専門性はなくとも、結局カウンセラーのような仕事も私たちは投げ出してはいけません。
しかし、やはり一番大切なのはご自身の指導科目においての専門知識だと考えます。
「教師は授業で勝負する」などという考えは古いかもしれませんが、やはり本当の質の良い授業を提供出来るようになる為にも、私たちが意識しなければいけないのはこのことです。
もちろん塾講師を本業としている人にとっても、ましてや大学生のアルバイトとしては、塾講師はかなり考えること、やることが多いのは事実です。
しかし、生徒の成長を見守る、手助けをするという志を常に捨てずに、その信念に従って仕事を全うする塾講師が増えることを期待致します。
参考文献:
「実践から知る学校カウンセリング」氏原 寛 著 培風館