株=知っているけど知らないもの?
中学校社会で中学生が経済分野で学ぶ「株の仕組み」は、非常に実感を持たせることが難しい範囲です。
というのも大半の中学生は、「資産運用」というものを経験したことがないからです。
「資産運用」とは、その名の通り資産として持っているお金を用いて、株に投資したり、金利を見計らって
預金をしたり、ローンを組んだりすることです。
一般的には、社会人として働き、一定期間を経てある程度お金がたまってから、
こうした資産運用をするのがほとんどです。
まだ学業や部活に励んでいる中学生にとって遠い存在であることは仕方のないことといえる
かもしれません。
しかし、この「株」という仕組みがあるからこそ、日本の経済は成り立っています。
まだ「株」を購入することができない中学生にとっても、この日本経済の動きは無関係ではありません。
何より、将来生徒が大人になって、企業に勤めればこの株の恩恵を受ける機会があるはずですし、
自身が資産運用をする際に、多くの情報に惑わされることなく正しい選択をするためにも
「株」の仕組みはきっちりと理解していなければなりませんよね。
生徒の反応を見ていると、経験上9割以上の生徒がこの「株」という言葉自体はニュースなどで
聞いたことがあるといいます。
しかし、「では株とは具体的に何ですか?」と聞かれると知らない生徒もほとんどです。
ニュースで株の仕組みそのものを説明することは少ないため、「知っているけど、知らないもの」
という状態が起こっているのです。
よって、本稿では、経済分野で「株」を教える際に、
①「株」というものをどうやって生徒の目線で考えさせるか②どのような具体例を示せば理解させることができるのかの2点について、講師の皆さんに考えていただけるような情報を提供します。
「株」とは何か?
まず、授業の冒頭ではそもそも「株」とは何か?というところから入りましょう。
皆さんだったら「株」をどのように定義するでしょうか?
いくつかの言い方がありますが、基本的な定義としては
「株式会社」が資金を集めるために発行する証明書
とされています。
中学生の生徒たちに具体的なイメージを持ってもらえるように、筆者は授業
で以下のような教材を提示しました。
会社が事業を行うためには、工場を作る、店舗を出す、人材を雇うなど多くの「資金」が必要になります。
筆者は、学生時代のアルバイトで民間企業に勤めた経験があります。
その時、
新しい事業を行う、新商品を開発するための研究を行う、その新商品のPRを行う、などなど
会社の利益をあげていくためには「資金」は必要不可欠なものなのだということを身をもって実感しました。
そこで、こうした会社の事業のために資金を投資してくれる人が登場します。
これが「株主」ですね。図に乗っているように、自分の貯金(資産)から会社に資金を投資するのです。
この時に「あなたは我が社に??円投資してくださいました」という証明をするために、
この「株」というものを発行します。
とはいえ、後述しますが株主はボランティアでお金を株式会社に渡すわけではありません。
なので、授業で説明する際には、「投資」を「提供」という用語に置き換えないようにしましょう。
一見、「提供」という言葉はニュアンスが近いように思えますが、会社にタダであげるわけではないので
意味が全く異なってしまいます。
さて、それでは株主は、なぜ株への投資を行うのでしょうか?
授業ではこれを突き詰めていくことで「株」の全体像が見えてきます。
株価の変動
この問いを考えるためには、まず、株価の変動を考えることから始めましょう。
もう一度だけ株式会社にとっての株のことを考えてみましょう。
株は、会社に必要な「資金」を投資によって協力してもらうシステムでしたね。
実はこの株というものは価格が付きます。これを「株価」といいます。
この株価の説明は難しいのですが、筆者は以下のように説明していました。
例えば、購入した株式会社の業績が良ければ、配当金として、利益の一部が株主に還元されます。
逆に購入した株式会社の業績が悪化しており、赤字が出る場合は、配当金が下がることもあるし、
配当金が全くないということも起こりうるのです。
そのような見込みが出た時、株主はどのように思うでしょうか?
・配当金がないなら、配当金が出るような業績の良い株式会社の株を購入したほうが良いのではないか ・最悪の場合を想定して、預けておいてなくなることはない銀行に預けるほうが安全なのではないか
このように考えます。
最悪の場合とは、株を購入している株式会社が倒産した場合を指します。
(これを専門用語で「倒産リスク」といいます。)
倒産してしまえば、その株式会社が存続していた時に購入した株の価値が0になってしまうのです。
つまり、例えば自分が購入していた10万円分の株が一瞬にして0円になるということです。怖いですよね。
株にはこのようなリスクも有るということを生徒にきちんと伝えましょう。
話を戻します。
逆に良い例で、順調に成長している株式会社であれば、配当金も高くなりますし、
発行している株の信用性も高いので、人気が上がります。
人気がでるとどうなるか。その株を購入したいという人たちが増えてきます。
需要と供給の関係で、供給よりも需要が集まっているものは値段が上がりますよね。
逆もまたしかりで、人気のない株は買いたい人がいない、少ないので価格は下がっていきます。
このように、「株価」というものは常に変動するもの、ということがこうした説明で生徒に伝わると
思います。
さて、ここまで説明したところで、生徒に以下の様な例を出します。
ある株式会社が経営が行き詰まっており、株価が下がっている時に100万円の株を購入したとしましょう。ところが、一発逆転!新商品が爆発的にヒットして株価がぐんと上がって110万円になりました。この株を売ったらいくら利益が出るでしょうか?
実際のケーススタディです。
この例で行けば購入した時よりも株価が高くなっているので
10万円の利益が出ていますよね。
このように、”変動”をうまく利用すれば資産を増やすことができるのです。
もっと簡単にいえば「安く買って高く売る」このシンプルな法則で利益を得られる、ということですね。
もちろん、予測をつけることはシンプルではありません。
日本の景気の状態、トレンドの予測、国際情勢など様々な要因を踏まえて予測しなければならないからです。
最初の、何故株主は、株への投資を行うのでしょうか?という問はこれで解決です。
もちろん、最初に説明したように、それは株式会社が株主に投資してもらった資金を
もとに上手に利益に持っていけた、という点で双方にメリットが有るのです。
最後にまとめておくと、株主というのは
①株式会社がどのような経営状態なのか・自分が狙っている株式会社の株を買うことにメリットはあるのか、リスクはないのか、
・すでに購入している株もメリットやリスクはあるのか
②世間の人は株をどう捉えているか・世間の人が配当の見込みが低い、ないし株の信用の低いと思う会社でも、実は今後大きく伸びていく
要素があるのではないか
・多くの人に人気はあるが、実は数字を見ると今後危ないのではないか
というような2点の正と負の側面に常に気を配って、株を売買しているのです。
まとめ~授業を興味深くするために~
ここまで、「株」という言葉を中学生の生徒にとっていかにわかりやすいものにするかという
ことに焦点を絞って説明してきましたが、いかがだったでしょうか?
冒頭でも述べたのですが、将来必ず資産運用をすることになる生徒たちが義務教育の段階でこうした「株」の勉強をすることはとても大事なことです。
しかし、資産運用をしたことがないかつ、
資産運用するまでどんなに早くとも4~5年くらい
は先がある中学生にとって切実性を持たせることはほんとうに難しいことも事実です。
筆者はもともとこの「株」の授業を講義形式で行っていました。
「株とは~ものであり、配当金があって・・・」というように説明するだけの授業でした。
生徒は一生懸命ついてきてくれたのですが、やはり中々乗り出すような授業にはできずにいました。
そこで、授業に1つ生徒と共通目標を作ってはどうだろう?と考え、設定した発問が、
「なぜ、株主は株への投資を行うのか」というものでした。
何故、株式会社に対してわざわざ働いて稼いだ貯金を削ってまで投資して協力をするのか
1つでも彼らの中にこうした疑問や明らかにしたい気持ちをもたせるだけで、
生徒の授業への乗り出し方は全く変わってきたのです。
今回の発問はあくまで一例ですが、授業をする際には講師の皆さんが考える教える内容の
重要な部分をこうした発問にしてみることを試してみてはいかがでしょうか。
きっと説明するだけの授業とは違う、生徒にとって魅力的な授業にできると思います。
皆さんのご活躍をお祈りしています。以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!
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