幼稚園や保育園、そして小学校時代から大学生まで…。
人は生まれてから約20年あまり「生徒」としての日々を過ごします。
「生徒」がいればもちろん「先生」が存在します。
そんな「先生」とはみなさまにとってどのような存在でしたでしょうか?
ひと昔前、「先生」とは「聖職」であったということをご存知でしょうか?
小学生や中学生にとって先生とは絶対的存在であり、尊敬の的だったのです。
以下のような面白い文を見つけました。
便所で先生も小便をすると知って驚いた子がいた、ということさえあった
ー河合隼雄の”こころ” 河合隼雄
ここまで「聖職」と思われていた先生という存在ですが、今はどうでしょう。
悲しいことに、現代は教師や講師が暴力行為をしたり、セクシュアル・ハラスメントをしたりするというニュースが絶えません。
これはとても残念なことです。
その結果、中学生や高校生になって、先生の言うことには絶対に従わなければいけないと考えている子は圧倒的に減少傾向にあるのではないでしょうか?
聖職という名を失い、威厳さえも薄れつつある先生…。
しかし体罰も禁止となると、今後先生としてのあるべき立場はとても難しいものになるのではないでしょうか?。
ここで、先生はどのようにあるべきかを述べているこんな一説を引用させていただきます。
「カタイ」教師は駄目。今更、「聖職」でもない。教師も「人間だ」と安易に考えて、「教師も生徒も同じですよ」などと言っている人は逆に態度が甘くなりすぎて、心の緩みのために失敗をしてしまう。教師も人間であることは事実であるが、数ある職業の中で、特に「教師」という職業を自分が選んだことの自覚と誇りをもたなくてはならない。
ー河合隼雄の”こころ” 河合隼雄
本記事では、人の教育・成長に関わる仕事に就く心構えとして、これから塾講師を始めようと考えている人たちに、どのような素質の方が向いているのかお伝えしていきます。
また現役塾講師の方々も、もう一度『塾講師』という職業を選んだ理由について、初心に戻って考えてみてもらいたいと思います。
塾講師に必要な素質とは?
① 何としてでも伝えたいという気持ちを持っていること
人に何かを教えるとは、決して簡単なことではありません。
当たり前の事ですが、人の考え方はみんな違います。
よって、中学校や高校で自分が理解した通りに教えても生徒が理解するとは限りません。
教えるという仕事をする前にまず、上記に述べたことを現実として受け止める必要があります。
なぜなら、自分が学生時代に理解した通りに教えても分かってもらえないという事は、想像以上にもどかしいことだからです。
しかし、そのもどかしさにも負けずに、
徹底的に教えることが出来る人こそ、「先生」と呼ばれるのにふさわしい素質
だと私は考えます。
大切なのは、生徒それぞれのレベルや考え方に沿って伝え方を変えていくということです。
私自身、塾講師と家庭教師を合わせて今年で8年目になりますが、いまだに「この教え方をすれば誰でも理解する」という決まったものはありません。
もちろん、教え方の基盤は整っていますが、臨機応変に対応していく必要があるのです。
つまり、技術面ではなくどうにかして伝えたいという強い気持ちが大事だということです。
細部まで突き詰めて、時には基本に戻って、などの柔軟な説明を繰り返し、生徒が理解するまで教えることを諦めないという精神こそが、教えるという職業に大切なことなのです。
そこまで本気で教えるという行為をすれば、生徒からの「分かった!」という一言に感激するでしょう。それこそが、教えるという立場に立つ人間の仕事の醍醐味です。
「一生懸命に伝えたいことを伝え、それが伝わった時の嬉しさ」が私たち塾講師の仕事のモチベーションをさらにあげていくのです。カリキュラムに沿った授業をするだけではなく、何としてでも理解してもらいたいという強い気持ちが、講師には必要なのです。
② 人の役に立ちたいという強い思い
塾講師に課された任務はたくさんありますが、なによりも優先して行うべき仕事は生徒の成績UPです。
最近は、「IQよりEQを育てよう!」「子供の可能性を広げよう!」などと抽象的なスローガンを掲げている塾もたくさんあります。もちろんこれらは悪いことではありません。
しかし、保護者が子供に塾に行かせるほとんどの場合において、「子供の成績を上げたい」「志望校に合格させたい」という思いが先行しているという事実は否めません。
ですので、可能性が無限大である子供たちに様々なことを考える機会や体験する機会を与えてあげられるような多種多様なクラスを考案する前に、まずは目の前に課された任務をしっかりやり遂げることが大切です。
塾講師が絶対に忘れてはいけないことは、
「生徒の成績UPのお手伝いをしている」⇨「生徒の将来の可能性を広げている」
ということです。
必ずしも「心の教育」に力を注がなくとも、今、直面しているテストや入試に一つ一つ取り組んでいけば、結果として将来の選択肢が広がるのです。
塾講師として出来ることは、強制せず、さりげなく生徒の将来の土台作りをお手伝いしているんだという自覚を持つことではないでしょうか。
冒頭でも述べた通り、「聖職」とはもはや呼ばれない先生というお仕事。何事も上から物を言うのではなく、生徒の人生が豊かになるお手伝いをしているという意識が大切です。私は多くの職業を経験している身ではありませんが、これほどまで深く人の人生に関われる職業はないのではないでしょうか。
子どもの役に立ち、子どもの成長にかかわっているという時間と手ごたえが仕事のやりがいになっています。
ー『「教育」で働く』杉山 由美子著 ぺりかん社
③ "人"が好きであるということ
教育業界は、人と接することなしには成り立ちません。先生と生徒との間の会話が求められることはもちろん、講師は、保護者や他の講師たちともコミュニケーションをとる必要があります。
よって、何よりも人と接することが好きであるということが求められる仕事です。そして、塾講師とは学校の先生よりもさらに難しい立場にあるのです。
学校の先生は完全なる「教育者」であるのに対し、塾講師の場合は「教育者」であると同時に「サービス業」でもあるのです。その境界がとても難しく、悩まされるところです。
例えば授業中に怠けている生徒や宿題をやらない生徒に対して、注意したいと思うことはあるでしょう。しかし忘れてはいけないのは、子供も生徒でありながらあくまで「お客様」なのです。ですので、真っ向から叱ってしまっては、保護者とのトラブルにもなりかねません。
かと言って弱々しい態度で生徒に接していると、「あの先生は宿題をやらなくても怒らないから大丈夫」という考えが生徒の中に生まれてしまいます。
このように、塾講師は「教育者」であり「サービス業」でもあるのです。
そのような観点からすると、塾講師の立ち位置はとても難しいのです。その板挟み状態で苛立ってしまうことも時にはあるでしょう。
前項で述べたように「生徒の人生が豊かになるお手伝いをしている」という誇りをもって、「人と向き合うこと」そのものに楽しさや生きがいを感じることが出来る人でないと、なかなか出来ない仕事なのです。
④ 求められる知的好奇心や企画力
塾講師は世の中の情勢に敏感な人が向いていると思われます。
なぜなら教育とは、時代によってニーズの異なるものだからです。現在はもっぱら受験ブームですので、各高校・各大学の受験の傾向や人気の推移など、調べるべきこと、考えるべきことはたくさんあります。
傾向は常に変わっていくため、常時更新されている状態のテキスト作りや新しい授業作りなどの企画力や行動力も求められるのが塾講師です。
ここまでやらなくても…と思う面もありますが、ここまで塾業界が大きくなってきている日本社会において、さらに少子化問題なども含めて考えれば、これほどのことはもはや斬新とも言えないでしょう。
教育に携わる喜び、重みを感じて
- 生徒に対して根気強く指導し、何としてでも伝えたいという気持ちを持っていること。
- 「生徒の将来の可能性を広げるお手伝いをしているんだ」という自覚を持ち、人の役に立つ事に喜びを感じることが出来ること。
- 教育者でありながらサービス業であるという曖昧な立場に立ち、どんな人ともコミュニケーションを取ることが出来るほど、人との関わり合いが好きであるということ。
- 現代社会の教育という現場に何が求められているのかを素早く感知し、新しいアイデアを常に生み出す好奇心を持ち、自分らしい授業を作り出すという「ものづくり精神」を持っていること。
以上、「先生」と呼ばれる仕事に就こうと考えている人が持っていてほしい素質を述べました。
初めから全て整っている必要もありませんし、最初からうまくこなそうとする必要はありません。
また、授業内容に関しては経験や先輩塾講師からのアドバイスを受け、試行錯誤していくことでどんどんよくなっていくものです。強調したいのは、塾講師にとって一番必要なのは、技術面ではないということです。
責任感を持って塾講師という仕事を貫き通す芯の強さ
これが何よりも必要なのではないでしょうか。
強制だけでは子供達は言うことを聞きません。「聖職」とは言われなくなった「先生の地位」を考え、自信と誇りを持ってやり遂げられる人に、塾講師として活躍してもらいたいと強く願い、筆を擱くことにします。
最後までお読み頂きありがとうございました。
参考文献:『河合隼雄の”こころ” 〜教えるとは寄り添うこと〜』 河合 隼雄 著 小学館
『「教育」で働く』 杉山 由美子 著 ぺりかん社
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