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戦後の経済成長と公害をいかに分かりやすく、飽きさせずに生徒に教えるか?

高校生

2021/12/17

現代社会という科目

「現代社会」この科目は、どこからどこまでの範囲を示すのかが非常に定義しにくい科目です。
現代の社会に通ずることであれば、歴史を踏まえた上での考察をしていかなければなりませんし、
まだ表面化していない問題でも、潜在的に今後考えていくことになるであろう社会問題であれば範囲に含まれます。

社会

さらに、その範囲は国内にとどまらず、世界もこれに含まれます。
世界情勢に目を向けると、必ずといっても良いほど歴史やそれに含まれる宗教のことなどが
絡んできます。講師は教材研究の段階でこれらのことにも専門的な知識を蓄えなければなりません。
「現代社会」は歴史・地理・公民各分野の中でも科目の名前の通り、
最も”今”の社会に直結した科目であるかもしれません。

さて、こうしたカテゴリーの広い現代社会に適応した授業を行うために、
講師は何をしなければならないのでしょうか?
これは、現代社会に限らず社会科の講師は常にしなければならないことかもしれませんが、
必ず毎日新聞記事を読むようにしましょう。

新聞

読んでいただくとわかるのですが、新聞は、最新の社会問題を出来る限り広く、深く取り上げています。
その中でも特に・(対象となる)社会問題の本質は何か。
・何故それが問題となっているのか
・どのような意見が出ているのか

という3点が、しっかり読み込むとよくわかります。
可能であれば社会を専門とする皆さんには、1社だけでなく複数の新聞社の記事を読んでいただきたいと思います。
新聞を読み比べることで、例えば1面に載っているニュースの取り上げ方で
・何がその新聞社の最も注目している社会問題なのかということや、タイトルの付け方でその新聞社が
・その社会問題をどう捉えているのかということがわかります。

これをすることは、1つの社会問題を相対化するということだけでなく、事実の書き連ね方を読み、
「ちょっとA社とB社の言っていることは矛盾していないだろうか?実際はどうなのだろうか?」
と批判意識をもって捉え、主体的に社会に関心を持って調べていく、という作業が大事なのです。

というのも、
生徒たちに社会に出た時に主権者として社会問題を理解し、自分の意見をもつための能力を培うこと
こそが、授業の先に置かなければならない目標であるからです。

ここまで、現代社会の科目そのものについて述べてきましたが、本稿では
上記の目標を達成するために、どのように現代社会の授業を行えばよいか

という点について、現代社会につながるトピックである「公害」の指導法を通してお伝えしたいと思います。

戦後の高度経済成長

まずは授業の冒頭の部分です。
本指導法の「公害」に限らないことですが、あるテーマを授業で説明する際には筆者は
その背景から説明するようにしています。

例えば、「水俣病」というのは、現在の熊本県水俣市で大量に発生した病気であることから
この名前がつきました。
この病気の原因となったのが、広い言い方で言えば現在でも問題になっている「公害」です。

筆者も調べていく中でわかったことなのですが、
この「公害」という言葉は戦後に生まれた言葉であることをご存知でしょうか?

高度経済成長による大気汚染などの問題が広く世間に知れ渡るまで、この言葉は辞書にも載っていなかったのです。では何故このような言葉が生まれるようになったのか?
これを探ると現代にもつながる問題が見えてきます。

戦後日本は適切な経済対策と冷戦による特別需要にも恵まれ、飛躍的な経済成長を遂げます。
これが、「高度経済成長」と呼ばれる時期です。

本稿は「高度経済成長」についての記事ではないので詳述は避けますが、簡単に述べると
・1955年から約10年にわたる経済成長率が著しく高い時期
・産業構造の高度化により、
 第2次産業(製造業、建設業、電気・ガス業など)と第3次産業(小売業・サービス業など)の地位が高まっ
 た時期
を指しています。(高度経済成長についてはまた別記事で指導法とともにご紹介します)

成長

この「高度経済成長」が当時の日本にとって、どれほど威力のあるものだったのかを示すエピソードがあるのでご紹介します。よければ授業でもネタにお使いください。

<ある日本人の視点>
第2次世界大戦中にブラジルへ渡っていた日本人がいました。
彼らはニュースで「敗戦」を聞くも、「日本が負けるはずは無い」と事実を認めず、
1955年頃覚悟を決めて日本へ帰ります。
彼らは「敗戦」によって日本は焼け野原になったと聞いていたのですが、帰ってみると焼け野原どころか
ビルが立ち並び、戦前以上に栄えています。
これをみて彼らは「ほら、やっぱり日本は勝ったのではないか」と思ったそうです。

このように、敗戦後の「国敗れて山河荒れ果て」という状態からわずか10数年で日本は大きな
飛躍を遂げることが出来たことが、第2次大戦前後を直接比較した当時の人のフィルターを通すことで
見えてきます。
本稿では、著作権の関係上載せられませんが、自治体の歴史博物館などに行ってみると、こうした写真を
展示しているところが多いので、そこで撮った写真を授業で教材として利用しても良いと思います。

高度経済成長の表と裏

さて、次にいよいよ「公害」について考えていきましょう。
高度経済成長期、経済の発展を示す”経済成長率”は年平均10%を超えていました。
「生産」「消費」活動が行われることによって、1人あたりの賃金も増え、生活が豊かになる
という大きな進歩があったということですね。

しかし、何もかも良い事ばかり、という事は中々起こりません。
必ずそうした経緯の中でリスクやデメリットも生まれていないかを探らなければなりません。
高度経済成長の場合であれば、経済格差も誕生しましたし、何より民衆の生活に悪影響をおよぼす
「公害」という概念・言葉が誕生します。
公害

例えば、上記の写真は工場から出るスモッグの様子を表しています。
このようなスモッグは工場が大量に排出すると、車の排気ガスなどと同様に、
大気汚染のもとになります。

大気汚染であったり、海水汚染にはこのように会社や個人が生産活動を行う過程の中で
有害な物質を空気中に放出したり、海水に流したりすることで起こってしまうのです。

これが1個人であったり、1企業が行ったものであると特定ができれば責任を追求することが出来ます。
しかし、例えば同じ地域に工場がたくさんあったり、同じように環境に有害な事をする
企業が複数ある場合、原因を突き止めることが非常に困難になります。

原因をはっきりさせることは難しいが、それによって多くの人が被害を受ける。
これが「公害」とされるようになりました。

公害への意識

さて、このような公害に対して、当時の社会はどのように受け止めていたのかを考えてみましょう。
今現在では、環境への意識はこの当時に比べて、非常に高くなっています。

例えば、車などでは最近はエコカーという排気ガスが少ない車や、そもそもガスを排出しない電気自動車
などへの注目が集まっています。
車

研究が活発に進められているだけでなく、エコカーを利用する人には「自動車取得税」と「自動車重量税」
の車にかかる中の2つの税金が優遇されるようになっており、国政も環境問題に取り組む自動車産業
を支援しています。

しかし、高度経済成長期の人々の意識は違いました。
「仮に工場の廃水がとても汚れていたとしても、海の膨大な量の海水に流れ込めば薄まるであろうから、地上の生活には影響はないだろう。」

今から考えてみると非常に楽観的なのですが、当時はまだそれによる被害が表面化していないこともあり、
このように環境への負担を軽視してしまいました。

しかし、社会には大きな問題が起こります。具体的なポイントは2つ、
①人体への影響
工場から有害物質のある廃水が流されると、まずはそれを小さなプランクトンが食べます。
そのプランクトンを餌にしている魚がそれを体内に取り込み、最終的には人間が食料とします。
このように、まわりまわって結局人間の身体に深刻な影響を及ぼします。

②漁業への影響
こうしたことで、人体に有害な物質を蓄えている魚が売られていることがわかってくると、消費者はそれを購入しなくなります。
そうすると当然、生産者側である漁業に勤めている人たちは収入がなくなるなどの大ダメージを受けます。

このように、消費者である国民の生活を危険に陥れるだけでなく、漁業に務める人にも大きな影響が出ます。
そして、それはこうした問題が起こった一部の地域の被害ではおさまりません。

「ある地域で魚を食べた人たちが大変な病に陥ってしまった」この噂が広まるだけで、
被害が報告されていない安全な地域でも、「果たして自分たちの食べている魚は大丈夫だろうか」
「とりあえず今はしばらくやめておこう」というように、「買い渋り」と呼ばれる現象が広がってしまう
のです。

このように、一部の公害が非常に日本社会に大きな影響を与えることがお分かり頂けると思います。

まとめ

本稿では、現代社会という科目の特性を述べた上で具体的に生徒たちが主権者となった際に
どういう姿になっていて欲しいか、ということを設定して指導法を紹介してきました。

今回の「公害」というのを授業で取り扱っていく中で、筆者が生徒に培ってほしいと思ったことを具体化すると以下のようになります。

・経済の発展と環境への配慮のバランスをいかに取るか
東日本大震災以降、「原子力発電所」をどうするべきか、という事がずっと議論されています。
この事例も「電力」という社会にとって便利であり、発展のために必要であるものを
追求してきた結果、実は危険と隣り合わせであることを痛感する1事例でした。



戦後の高度経済成長期と時代は異なりますが、本稿で扱った公害を勉強していくことで、
我々が今後上記の「原発」のような問題と向き合っていく中で教訓としていかなければならないことを
考えることが出来るのです。
そして、これこそが筆者にとって生徒たちに培わせたい力でした。
あくまで一例ではありますが、このように目標を明確に設定することでそのための授業に必要な
準備も見えてくるのです。

次回記事からは、「4大公害病」をテーマにし、よりこの観点について深く掘り下げられる指導法を紹介していきたいと思います。本稿は以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!

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