学力だけを見るのはNG? 離職率を大きく左右する選考方法
1.講師が定着しない原因
せっかく採用しても講師の勤務期間が短いうちに様々な事情で退職になってしまった、というケースは珍しくないと思います。過去の二つの記事、「塾講師の長期間の定着を図る秘訣とは?」「塾講師の長期間の定着を図る秘訣とは?②」では、その原因について大学生のアルバイトに対する価値観の変化や、塾講師として働く上での労働環境の現状という視点から述べてきましたが、今回は講師の採用時の選考という視点で分析してみようと思います。
採用後に急に講師の生活環境や価値観が変わってしまった、であるとか、労働環境が悪化した、という場合を除けば、採用時の選考で注意することで実際に勤務がスタートしてからミスマッチが顕在化するという問題を少なくすることができるのではないでしょうか。
それでは、選考時にどのようなことに気を付ければよいのでしょうか?
2.採用基準があるか
さて、講師の選考をする際ですが、採用基準があるかないかでよい採用ができるかどうかの明暗が決まると言っても過言ではありません。採用基準とは、どのような観点から人材の良し悪しを判断するかの価値基準のことです。「良い講師」を採用したいと一言でいっても、「良い講師」にもさまざまな特長があると思います。学力レベルが卓越している、学問以外で何か突出した経歴がある、人間的に優れている、指導能力が高い、長期間勤務ができる、塾の理念への共感度が高い、などです。どんな要素も兼ねそろえている万能人材はいませんから、どの要素の優先順位を高くして人材を求めるか明確にしておくことが大切です。この作業がないと、たとえば本来であれば長期間勤務できることと、指導力の高さを求めたかった一方で、応募してきた方は長期間勤務できるか不明でありながら学力レベルが相当に高いといった場合は、本来の獲得したい人材像からずれてしまっていても採用してしまうといったケースがあるのではないかと思います。こういった採用時の若干のずれが、勤務開始後に顕在化し、短期間で退職してしまうという結果につながることがあるのではないかと思います。
しばしばマーケティングで使われる考え方に、ペルソナ設定というものがあります。製品のターゲット設定をする際などに使われるのですが、いくつかの抽象的な顧客特性を集めていき、それらの条件を兼ねそろえた具体的な架空の人物像を一つ設定するというものです。ペルソナ設定は、ペルソナを商品開発者や社内の他部署などと共有することで、本来のターゲットからのずれを防ぐために使われます。
今回の採用基準の例でいえば、どのような人材を獲得したいかを抽象的な条件を集めていき、一つ具体化した架空の人物を設定することになります。この作業を行うことで採用したい人物像がはっきりしてきて、選考時の判断ミスが少なくなるはずです。また、ペルソナ設定ができていないと面接などは判断基準がずれないように選考を1人で進める必要性が高くなってしまいますが、ペルソナ設定ができていればイメージ共有が可能なので複数人で選考を進めることも容易です。
3.応募者が求めるやりがいを提供できるか
2で述べた採用基準とペルソナを設定する際に、何のために仕事をするのかという価値観が一致しているか、または共に働くスタッフとして受容できるものであるかという観点は非常に大切になってきます。
志望動機、つまり、なぜ塾講師をやるのかという問いにどのような答えを持っているかはとても大切です。「将来学校の先生になるために経験を積みたいから」「お金が欲しいから」「将来ビジネスマンとして活躍するために他人に分かりやすくものを伝える力を身に着けたいから」など多岐にわたると思います。
これらさまざまな動機に対し、
①その人が塾講師に求めるものはこの職場で提供できるのか
②メンバーとして受け入れるに当たり妥当なものかどうか、
の2点から判断することが大切です。
①その人が塾講師に求めるものはこの職場で提供できるのか
将来学校の先生として活躍するために経験を求めて応募してきた大学生がいたと仮定します。学校の先生と塾講師では共通部分も多くありますが、実際には異なる部分もたくさんあります。応募者が求めるものを本当にこの職場で提供できるかどうかは実に大切です。応募者にとっては実際に勤務する際、その点が勤務のモチベーションとなるわけですから、自分が得たいものがこの仕事からは得られないとわかれば途端に辞めてしまいます。
②メンバーとして受け入れるに当たり妥当なものかどうか
これは言いかえれば、勤務する上で適切なモチベーションを持ち続けることができる人かどうか、ということになります。お金が欲しいから、という理由で働く人は、それできちんと業務をこなし、勤務が長続きすれば問題はないですが、往々にしてそうはいかないのが現実です。塾講師という、決して楽ではない職業を続けていくに足るモチベーションがあるかどうかという点は採用を決めるうえで非常に重要な観点となります。
4.まとめ
講師が定着しない原因がどこにあるのかという問題はとても複雑な問題ですが、今回は選考という観点から分析してみました。せっかく応募者が来たのにお断りするというのは残念なことですが、安易に採用してしまうのは危険です。実は欲しい人材にマッチしていない人物で、後々早期に退職してしまいまた採用活動が必要になる…という負のスパイラルに陥ってしまします。是非今一度ご自身の塾の採用基準を考えてみてはいかがでしょうか。