今最も世間を騒がせているニュース
昨今、集団的自衛権を巡る論争が連日報道されています。
2014年末の衆議院議員総選挙によって、与党が3分の2位上の議席数を確保した現在、
2015年は、憲法9条の改正に向けて間違いなく動き出す年であろうと推測されています。
大学入試は、教科書に書いてあることだけではなく、
「常日頃きちんと社会に関心を持っているかどうか」
というのも、試したい力であるため、時事問題の中でも「集団的自衛権」に関連するトピックは
まず間違いなく出題されることが予想されます。
そのため、講師だけでなく生徒にも新聞をしっかり読み込む癖を付けさせていただきたいのですが、
しっかりと自分なりに授業以外の場でも新聞を活用して主体的に調べる力をつけ、
「集団的自衛権」というトピックに対して自分なりの意見を持つには、
新聞やニュースだけではまだ足りません。
実際に、議論をする場を経験してみるとわかるのですが、
「集団的自衛権」という言葉が出てくるまで、どのような歴史的背景があったのか
この部分をふまえて意見を持たなければ根拠の無い空中戦になってしまうのです。
そこで、本稿では生徒たちが「現代社会」そして今後も選択が迫られるであろうこの問題の中でも
「集団的自衛権」によって、直接的な影響のある
「自衛隊」が生まれた背景と現代の我々が考えなければならないこと
について、授業でどのように指導すればよいのかについて述べていきたいと思います。
集団的自衛権についての記事は、【社会科講師必見】集団的自衛権とは何か!? シリーズにおいて、解説しております。あわせてご活用ください!
【社会科講師必見】集団的自衛権とは何か
・①~歴史的背景~
http://www.juku.st/info/entry/1264
・②~日本国内での議論~
http://www.juku.st/info/entry/1271
自衛隊の誕生
さて、まずは、自衛隊そのものについて一度考えてみましょう。
自衛隊というのは発足以来これまで非常に微妙な立場にありました。
後ほど詳述しますが、自衛隊というのは「憲法9条」に違反しているのではないか?
「軍事協力」と「自衛」の線引はどこでするのか?ということ等が度々議論されてきたのです。
防衛費をドルに換算して「軍事費」がアメリカについで世界第2位という順位をマークしたこともあります。
自衛隊は世界的に見ても、最高峰の装備を整えているものの1つなのだそうです。
しかし、それでも「軍隊ではない」というのが日本の政府の公式説明です。
これに関連して1つ情報提供をします。
「軍事費」という数字が出てきましたが、講師の皆さんに1つ見ていただきたいテレビ番組が有ります。
それは、毎年8月に富士山麓で自衛隊による公開訓練です。(テレビで必ず毎年放送されます)
あらゆる場面を想定して、実際に戦車を用いて狙撃したり、迎撃を加える練習を行っています。
きっと、教科書だけでは味わえない自衛隊のリアルな姿を感じることが出来ると思います。
これを実際に見て、この自衛隊が「軍隊ではない」のかどうか、一度考えていただきたいのです。
ただ、注意していただきたいことが1つあります。
こうした教材研究をしていく中で。政治的意見を持つのは大切なことですが、
講師が生徒に対して特定の政治的意見を押し付ける授業をしてはいけません(教育基本法にも規定されています)。講師はあくまで政治的に中立の立場に立って事実を伝えることに努めるようにしましょう。
しかし、授業をするにあたって、実際に目にしておくかどうかで教材への理解が全く変わってくるのでここでおすすめさせていただきました。
日本国憲法第9条
話を戻します。次に、先述した自衛隊と切っても切り離せない関係にある憲法9条について説明しましょう。
先ほど日本政府が自衛隊を「軍隊ではない」と説明していると述べました。
その最も中心的な理由は日本国憲法が「戦争放棄」を定め、「武力」を持つことを禁じているからなのです。
その直接的な根拠となる憲法第9条の条文を見てみましょう。
<憲法第9条>
第1項 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
第2項 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。
国の交戦権は、これを認めない。
つまり、世界最高峰の装備を整えながら、「戦力」ではないとしてきたのは、
憲法は自衛権行使のための必要最小限の実力を保持することまでは禁じていない。
という説明をしてきたからなのです。「戦力」ではなく「実力」である。
では、その「実力」はどこまでの範囲を指しているのか?
これについてはその時々の「世界情勢の変化」に左右されると説明しています。
世界情勢をどう捉えるかで自衛隊の「実力」もいくらでも伸ばす可能性があるということなのです。
「集団的自衛権」を行使しなくとも、このように自衛隊の位置づけをいくらでも可能性があったということ
をしっかり授業ではおさえるようにしたいですね。
朝鮮戦争との関連
さて、具体的な誕生のきっかけを見るために1950年まで時計の針を戻してみましょう
同年6月25日、朝鮮戦争が勃発しました。
朝鮮半島を南北に分けていた北緯38度線喜多川の北朝鮮は、南下策を実行し続け、韓国軍は一時総崩れになります。
ここで、アメリカは韓国軍を全面支援することを決定します。
1950年当時、アメリカ軍は関東、関西、北海道、九州にそれぞれ計4個師団の陸軍が駐在していましたが、
この殆どの舞台が朝鮮半島に応援に出動します。
つまり、日本は軍事的に空白地域となってしまいます。
日本国内の戦前の旧日本軍は、GHQによってすでに解体されていました。
アメリカはこれによって、日本国内が完全な無防備な状態になることを恐れました。
日本が軍事的に空白になってしまうと、当時対立していたソ連が日本を侵攻するかもしれません。
日本国内に駐在していて朝鮮に出動したアメリカ軍兵士の家族も日本にいます。
そこである対策をします。
警察予備隊発足
そこで、GHQ総司令官マッカーサーは7月に当時首相を務めていた吉田茂に「National Police Reserve」
を設立をし、海上保安庁の職員を8000人増加することを「許可」するという内容の書類を送ります。
カッコ付けをしたのですが、実際には「許可」という名の「命令」でした。
この「National Police Reserve」をどう解釈すればよいのか、議論があったのですが、
最終的にはこれを「警察予備隊」という日本語に訳しました。
同7月にアメリカから渡された詳細な案(部隊編成案などが載っている)を確認したことで、
それが実質的に「再軍備」であることを理解しました。
アメリカは朝鮮戦争が勃発する以前から、アメリカとソ連を対立軸とする東西冷戦に備え、戦後徹底的に
行っていた「武装解除」の方針を変更していました。
将来アメリカの間接統治が終えた後にも、日本を西側(資本主義陣営)にとどめておくためには、軍事的な
空白を作ってはならないと判断したからです。
しかし、それはあくまでアメリカ軍の指導に従い、小規模かつ軽武装の軍隊を作る計画でした。
なのではじめは日本国内で共産主義に同調する勢力が武装蜂起した際に、鎮圧するための勢力として
考えられていました。
それが朝鮮戦争の勃発により、かなり計画を早めて実行したのです。
まとめ
本稿では、現代でも議論がとても錯綜している「自衛隊」をどう考えるかについてかなり踏み込んで
指導法をご紹介してきました。
もともと1記事で指導法を全て紹介する予定だったのですが、自衛隊の前身である「警察予備隊」までしか
本稿では取り扱えませんでした。
改めて記事を執筆しながら「自衛隊」というテーマは奥が非常に深いものだと実感しました。
筆者は「社会科授業では授業の後に生徒に何を感想としてもってもらいたいか」
ということを意識して、これまでもまとめの段階でこれを紹介して締めていましたが、
この点についても次回の記事にまとめてお伝えしたいと思います。
本稿は以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!