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【歴史を知る】冷戦をどう教えるか②「開戦」

高校生

2021/12/17

何が「冷戦」を起こしたか

前稿「冷戦をどう教えるか①『開戦前夜』」(URL:http://www.juku.st/info/entry/1023)では第2次世界大戦後世界の秩序はどのように変化したのか、戦時中のヤルタ会談から戦後のイギリスのチャーチル首相による「鉄のカーテン」演説など、アメリカがソ連に対して「封じ込め」政策を実施するに至るまでの指導法を
ご紹介しました。本稿に繋がる部分なので簡単におさらいをします。

1945年2月、第2次世界大戦において、ドイツ敗北の見通しが立ち、ソ連黒海沿いにあるヤルタでアメリカ、イギリス、ソ連が戦後のヨーロッパについて意見交換をします。
この会談によってルーズベルトの提唱によりドイツ敗北後ドイツから解放されるヨーロッパ諸国において出来る限り早く暫定政権を作り、ヨーロッパの復興を行うことを協力して進める約束をします。

しかし、戦後スターリンを筆頭とするソ連の影響下に入った東ヨーロッパでは、不穏な空気が漂い始めていました。アメリカ、イギリスに対してソ連だけは違う方向を向き、しかも情報が入ってこない、チャーチルはこうした不気味さを「鉄のカーテン」という言葉で表現しました。
カーテン
ソ連は実際に占領した国々で共産党が主導するソ連よりの政権を次々に作り、衛星国化していきます。
このような行動に最初は戸惑いを見せていたアメリカは、次第に警戒意識を強く持つようになり、ついに
「封じ込め」政策にまで踏み込みます。

ここまでが前稿でお伝えした部分でした。
本稿はこの「封じ込め」政策によって、対立が深まるアメリカ西側陣営とソ連の東側陣営のその動きを
丁寧に負うとともに、
何故アメリカとソ連はこれほどに対立が深まったのかを生徒が授業後しっかり説明できるような指導法をご紹介します。

「冷戦」開戦~トルーマンの問いかけ~

1947年3月当時の米大統領トルーマンがアメリカ議会において国民に対してある選択を問いかけます。
それは、
①民主主義の政治の中での自由な生活か(資本主義
②一部の者が多数の民衆を抑える生活か(共産主義

という2択です。
演説

かなり唐突になってしまったので、この2つの対立軸について簡単に内容を説明します。
資本主義、共産主義の説明は経済制度の話なので、詳しくは拙稿「資本主義・社会主義・共産主義の違いをわかりやすく教える方法」(URL:http://www.juku.st/info/entry/685)をご確認頂きたいと思いますが、
資本主義とは要するに「国民が自由な経済活動を行える状態」を指しています。
誰でも自分の持っているお金(資本)を元手にして、会社を立ち上げることが出来る、つまり私有財産を否定
しません。こうした国民の自由な経済活動で国を支える、つまり国民に主権がある民主主義の国家になります。

それに対して、共産主義は、資本主義では自由な経済活動を行える反動で、その競争の中で負けてしまう人は取り残されてしまう、余剰生産物などが出て不景気が起こってしまうことを指摘し、
労働力も必要なところに必要なだけ供給し、生産・消費等も国が全て管理すれば不景気も起こらず、
コンスタントに良い経済状態を作ることができ、国民の生活も安定する理想の社会になるとする考え方です。
つまり、こうした社会では国家の幹部が経済を全て管理する=少数によって多数の民衆を統治するという
ところに行き着きます。

もちろん全てにこれが綺麗に当てはまるわけではありませんが、少なくともアメリカとソ連の対立軸を考える
際にはこの理解が出来ていれば大丈夫です。トルーマンの問いかけもこの構図であるからです。
では、またトルーマンの問いかけに戻ります。
トルーマンは要するに、この問いかけを通して、世界を資本主義と共産主義を善悪で2分しています。
(もちろんアメリカ側資本主義が”善”です)これを「トルーマン・ドクトリン(理論)」と呼びます。
本来世界の社会を、経済制度だけで簡単に分けることは出来ないのですが、このわかりやすさが功を奏して、
多くのアメリカ国民に「資本主義=善、共産主義=悪」の考え方が浸透します。
さらに、トルーマンはこれに

「武装した少数者や外部からの圧力に対して抵抗する自由な諸国民(西側陣営)を援助する事こそアメリカ合衆国の政策である」

と付け加えます。これ以降、アメリカは世界のあらゆる分野において、ソ連を筆頭とする共産主義の運動と対決する姿勢を見せます。まさにこの「トルーマン・ドクトリン」が「冷戦」の開始の合図だったのです。

ソ連の対抗

アメリカによる「封じ込め」政策や、対決姿勢に対してソ連も動き出します。
まず1947年、「共産党・労働者党情報局(コミンフォルム)」を設立します。これは各国の共産党の幹部を
結集させて行いました。
ここで重要なのが東側の共産党幹部だけでなく、西側資本主義諸国の共産党の幹部も集めていることです。
この説明をするとよく生徒から

「先生、資本主義諸国なのに共産党ってあるんですか?」

という質問が飛んできます。
西側資本主義諸国は民主主義に加えて自由主義も大切にしているので、基本的に国内の違う考え方を持つ政党を弾圧することはしません。
現にアメリカにも共産党の考え方を持つ政党は存在しますし、同じ資本主義国の日本も現在でも共産党は
ありますよね。

ソ連が狙いをつけたのはまさにこの部分でした。同じ「共産主義」を目指す同志として結束を強めるだけでなく、西側資本主義諸国の共産党幹部にもこの志を同じくしてもらい、反米運動を盛り上げてもらい、内部分裂をさせようとしていたのです。

もう1つここで生徒に思い出させたいことがあります。それは戦前の共産主義連携組織です。
実はソ連を中心として戦前にも「共産主義インターナショナル(コミンテルン)」というものがありました。
この時も、世界各国の共産党を”支部”とし、その”本部”をモスクワに置き、世界中を共産主義にする
「世界革命」に向けて動く組織として指示体系を作っていました。

指示計島

ソ連は「コミンフォルム」については戦前の「コミンテルン」のようなものではないと説明していましたが、
その中身はスターリンの指示に従おうとしない共産党を徹底的に叩いたり、西側資本主義陣営の中で活動する共産党に対して活動方針を押し付けようとするなど、結局はスターリンの独裁の枠をソ連から東側陣営さらには西側へと伸ばそうとするものでした。

これに対して当然アメリカは世界を共産主義で埋め尽くそうとしているものとして批難し、対立はより深まる結果になってしまいました。

まとめ

本稿では、第2次世界大戦の後の世界体制「冷戦」がいよいよ始まる部分を入り口として、
その対立軸を生徒がより深くするためにはどう教えればよいかという点について述べてきました。

本稿を通して、資本主義・共産主義の経済用語がとても重要な鍵になっていたことがお分かりいただけたのではないでしょうか。

第2次世界大戦も世界恐慌が遠い引き金となっていたように、日本史に限らず近代史の大半は実は
経済をしっかり理解しておかないとその全体像をつかむことが出来ません。
そのため、本稿でも具体的な生徒の姿を想定して、資本主義・共産主義が意味することをもう一度確認する
ことから始めました。

丁寧に追えば決して難しくはないのですが、資本主義国家に何故共産党があるのかというようなことは
講師も細心の注意を払って勉強しておかないと答えられないところです。
「冷戦」の中身をしっかり見ていく中で、1つ1つ丁寧に教えて頂く際の参考になれれば幸いです。
本稿は以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!

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