公立高校の国語の入試問題では、作文が課されることは多いのですが、通常の読解問題に比べて、作文は、どうすれば効果的な指導になるのかが分かりにくいものだと思います。そこで、私の指導経験をもとに、ヒントを提供できたらと思います。
(ちなみに、私は、東京都内の個人経営の塾で、主に国語・英語の指導を担当しています。個別指導も集団指導も両方しています。)
生徒にとって、つかみどころのない作文問題
通常の読解問題に比べて、作文問題は、答えが決まっているものではなく、また、市販の入試過去問題集にも、作文問題の解答・解説は省略されていることが多いため、一体何を書けばいいのかが分かりにくいものになっています。また、通常の学校では体系的な作文の指導がなされない場合もあり、そもそも作文とはなんなのか分かっていない生徒もよく見受けられます。生徒の答案を見ていると、小学校等でなされる感性重視の作文の影響で、思ったことを好き勝手に書くような例も多いです。
そこで、以下で述べるように、生徒には、作文問題では何が問われているか、そして高評価を得るためにはどのように書かなければいけないかを、最初に明確に示すことが大事になります。
時間との戦い
作文問題には、時間との勝負という面もあります。都道府県によってバラツキはありますが、およそ、10分程度で、200字程度のものを書かなければいけないものとなっています。10分という時間の短さは、作文が苦手な生徒にとっては結構厳しいものです。私の指導経験のなかでも、作文の対策を始めた頃は20〜30分かかってしまう生徒も多数いました。
時間の制約があるなかで重要なポイントとしては、
作文は完成度にこだわりすぎては良くないということです。
仮に非常に素晴らしい作文が書けたとしても、配点が10点のところで20点もらえるということはありません。また、時間をかけすぎるあまり、他の設問を解く時間を失ってまで満点取っても無意味です。
したがって、10分で8割の得点をもらえる答案を仕上げるほうが実践的でしょう。
また、作文は配点が非常に高いので、白紙になるのも避けたいところです。このことからも、一定の答案を書くことができるような、再現性の高い指導が必要となります。
よって、以下に述べるように、パターンに則って、採点基準に適うものを効率よく仕上げる技術を伝えることが大事になります。
生徒によっては、完璧主義すぎたり、あるいは先生にいいところを見せようと気合いを入れすぎる人もかなりいます。度が過ぎると、試験で点を取るという意味で実践的ではなくなるので、一定の時間でに8割の答案を仕上げることが大事だというのは何度も強調します。ただ、良い文章を書こうと努力すること自体はよいので、一生懸命書いてきたものは、まずはしっかりと読んで評価するようにしています。
採点基準・答案例を示し、目標を明確に
先ほどから述べてきましたが、生徒には、最初に採点基準・答案例を示し、どのようなものを書けばよいのかを、まずは理解してもらうようにしています。そうすることで、努力の方向性が明確になり、生徒も安心して作文を書くことができます(よく分からないけど自分は点数が悪い、自分はセンスが悪いのだと自信を無くすようなことがない)。以下、私が採点基準と答案例をどのように示しているか、例示していきます(私は都内で講師をやっているので、具体例は都立高校の話になります)。
採点基準
都立高校の作文問題の細かな採点基準は講評はされていません。ですので、私は大手の模試の採点基準と都立高校の出題方針が分かる資料を参考にして、以下のように採点基準を設定しています。
例:10点満点の場合
▽表記面:5点満点
・誤字・脱字は1カ所につき−1点(繰り返しのミスはカウントしない)
・原稿用紙の使い方のミスは1カ所につき−1点
・不適切な表現(文体の不一致・文のねじれ)は1カ所に付き−1点
など
▽内容面:5点満点
・設問の要求を満たしているか
・(本文の内容を踏まえる必要がある場合)本文の内容が適切に踏まえられているか
・自分の意見(主張)が明確に示されているか
・自分の意見(主張)を論理的に説明できているか
など
重要なのは、採点の仕方を生徒にきちんと示すことです。それをせずに生徒の答案を採点だけして返却したのでは、生徒にとって何となく解いて、場当たり的に評価されるものになってしまい、進歩のある有意義な練習にならないからです。
私は、作文でどのような能力が評価されているか、そしてどのように採点されている(と予想されるか)をまとめた資料を、最初に生徒に見せるようにしています。そうすることで、採点基準に適うものになるように作文を書き、添削によって気付かなかった点を修正する、ということをしながら、練習を重ねるにつれて減点されにくい、精度の高い答案になるような一貫したトレーニングになります。
答案例
また、生徒には、最初に答案例をきちんと示すようにしています。人には、真似する能力があり、作文では、この真似する能力が生かされると思うからです。理屈で説明しただけだと、それをどう形にするのか分からないことも多いです。逆に、見本を見せれば、それを真似しようと生徒はいろいろと考えてくれます。
答案例をつくる際は、なるべく、作文指導の方法論に合わせたシンプルなものにするほうがよいです。生徒が実際に真似できてこそ意味があるので、名文すぎるものを書くのは有害になります。私自身は、以下のように答案例をつくっています。
例:平成25年度都立西高校入試の国語の作文問題
解説部分で、
主張→主張の理由→理由の具体例(ここで本文の内容を踏まえる)
という型を示したうえで、
私たち人間は、自然を好き勝手に利用することを改めなければいけない。なぜなら、そうすることで環境が破壊され、私たちの生活が脅かされることになるからである。例えば、人間は好き勝手に木を切ってきた。木は二酸化炭素を取り込み酸素を出す。木が少なくなったことは地球温暖化の原因とされている。地球温暖化がこれ以上続くと、人間はこれまでのように生活できるか分からない。節度を守らない自然の利用はやめるべきである。
という、型に則った解答例を示しました。
具体例で勝負する
高校入試の作文では、具体例をうまく書けるかが勝負になることが多いです。上記の例でも、具体例が字数の半分ほどを占めています。
具体例なしで書くと、文章力が安定しない中学生は論理の飛躍を起こしやすいです。また、時間がかかりすぎることも多くなります。逆に、具体例を用いると、一貫した文章になりやすく、また、時間内に書くことも容易になります。よって、基本的には、具体例を上手く書けるかが作文の得点力を左右することが多いです。
ただ、具体例を上手く書けない生徒も多く、よくあるパターンとしては、
- 自分の主張等と対応していない
- 本文の内容と矛盾する(あるいは表面的な理解にとどまる)
- 具体性が弱く説明になっていない
といったものがあります。
個別指導では、具体例が適切でなかった場合、生徒と一緒に、どのように書けば良かったのかを考え、適切なものを出すようにしています。
(苦手意識を持つ)生徒の能力を引き出すには
作文は、生徒によっては苦手意識を持つ者も少なくありません。知的な営みの中でも、機械化(パターン化)の程度が少ないものは、メンタル次第でパフォーマンスが大きく変わります(社会の問題では、メンタルの善し悪しでは解く能力はさほど変化しない。せいぜい勘がよくなるかどうか)。だから、苦手意識を持っている生徒に対しては、指導方法も工夫する必要があります。
私が行っている例としては、作文が苦手な生徒に対しては、最初は採点を甘めにして、作文を書けば点数がこんなにもらえるのだということを実感させることから入ることもあります。また、あえて点数を書かずに返却して、生徒の答案のよいところを褒めたうえで、「こういうところで点数をひくのもしょうもないと思うけど、一応点数をつけると、こういう感じで減点されてしまうので…」と採点結果を示したりすることもあります。
作文問題は、指導次第で、多くの生徒に高得点を取ってもらうことができ、やりがいを感じられる分野です。ぜひ、様々な工夫をしてみてください。
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