プロ講師による、顔出しNGの覆面座談会を実施してみた!
今回は塾・予備校・学校で働くプロ講師のA先生とB先生のお二人に本音トークをしていただきました。
どんどん話が盛り上がり…プロ講師ならではの本音や苦労が明らかになりました。
A先生
講師歴約15年のベテランプロ講師。予備校や塾にて文系科目を教える。
歯に衣着せぬ物言いで人気を博し、日々生徒を魅了している。
B先生
講師歴約20年のベテランプロ講師。塾や学校にて文系科目を教える。
指導力だけでなく、業界知識や受験に関する細かな情報まで仕入れているため、
生徒からの信頼が厚い。お酒を飲むと通常の三倍饒舌になる。
目次
・プロ講師という不安定な働き方だからこそ、身につくスキルとは?
・片道2時間もNOと言わない?仕事を請ける基準は?
・プロ講師のお金事情、交渉はしている?
・プロ講師の自己研鑽、授業力UPの思考とは?
・学校から嫌な顔をされる?プロ講師が働きやすい職場環境とは?
・生き残れない先生達。プロとしてのプライドとは?
・プロ講師はオススメしません?
プロ講師という不安定な働き方だからこそ、身につくスキルとは?
それでは早速始めましょう。まずはなぜ、一つの組織に所属しない、このプロ講師という働き方を選ばれたんでしょうか?
僕はどちらかというと、なりたくてというより、なってしまったという感覚ですね。非常勤講師だけでは食えないな、と思い掛け持ちを考えました。
僕も非常勤講師として働いてくれないかと声をかけられて始めたのがきっかけですね。そのときに他にも周囲で掛け持ちで働いている方がいたので、話を聞いて“そういう働き方があるんだ!”と知って興味を持ちました。
果たしてやっていることがあっているのか、間違っているのか、当時は探り探りでした。まあ、今も思いますが。
本当にこれでいいのか、何かトラブルがあったときに働けなくなるということはあります。ですが正社員・専任でも一生同じ仕事をするとは限らないですよね。ただし、こういった不安定な仕事ではあるので、常にアンテナは張り巡らせていないといけないな、と思います。
僕は複数の現場を掛け持ちして根性と要領が身についたなと思います。それに経験ですね。こういうやり方もあるのか、と現場で学ぶことも多いです。当時は4つの派遣会社に登録していました。
なるほど。不安定な仕事だからこそ、複数の仕事を掛け持ちされるんですね。コロナ禍で副業などに興味を持った方が増えた一方で、安定志向の方も増加しており、二極化した印象を受けます。
大学も福祉系学部の受験者が爆増したらしいですね。これも安定志向の一つかもしれませんね。福祉系は仕事先がありますからね。
まとめ
必ずしも最初からプロ講師を目指していたわけではなく、外部環境や周囲のプロ講師の方に影響を受けて、模索した結果このような働き方を選択している。複数の現場を掛け持ちすることで経験、個人として生きていくための根性が身につく。
片道2時間もNOと言わない?仕事を請ける基準は?
お仕事を選ぶときはお住まいの近くで探すんでしょうか?
僕の場合は、もう首都圏近郊ならどこでもいいと言っています。茨城の方まで行っていたこともありました。
確かに家の近くとは限らないですね。僕も予備校の授業で茨城に行っていたことがありますし、今でも移動にかなり時間をかけることもあります。そのおかげで地下鉄には詳しくなりました。それに電車に座ったら3秒で寝れるようになりました。(一同爆笑)
乗り過ごすことはないんですか?それだけでプロ講師できる自信がなくなりました…。
大体起きれますね。たまに乗り過ごすことがあるんですが、ほとんど大差ない場所で目覚めます。それに場所によってはアラームをかけています。元々掛け持ちのため、先方には日程調整で無理を言っているので、場所まで絞っちゃうと仕事が来ないです。
そうですね。基本的には条件を絞り過ぎず広くお仕事を請けています。狭くしか請けないで、いい案件を逃してしまうと勿体ないので、ちょっと無理かな…と思っても請けてしまうことが多いです。ただ実際移動が遠すぎて、“請けなきゃよかった~”って思うことが多いですけど。(一同爆笑)
ちなみに交通費はどうするんですか?
もちろん出してもらいます!
お二人の意見が合いすぎて…今日初めてお会いしたとは思えません。ちなみに移動中は電車の中で何をされているんですか?勉強したり?
いやいやいや…
電車で書き物はできないので、予習としてテキストを読むことはありますね。でも眠くなってしまうので簡単な読み直し程度です。寝るか予習か、です。
まとめ
移動時間は休憩時間。電車で寝るときは乗り過ごさないようにアラームを!多少自宅から遠くてもエリアで仕事を断ることはしない。ただし条件や待遇は細かくチェックしましょう。
プロ講師のお金事情、交渉はしている?
先ほど不安定な働き方という話がありましたが、2020年コロナ禍での休校の影響は受けましたか?
僕がいた学校は休校になっていち早くZoom授業を開始しました。もう一か所の勤務先でも保健所の衛生指導を受けて、すぐに対面授業をスタートさせましたね。
4月は対面授業できなかったですよね。僕は休業補償を全額出してもらえたんです。あの時は助かりましたね。A先生も4月は休みでしたか?
休みでしたね。でも補償はしてくれました。多分出さないところもあったんでしょうけど…確かそういったところは持続化給付金の申請を勧められていましたね。でも飲食業の方とかを見ていると、本当に安定した業界だと思いました。時代に合わせたスキルさえあれば、喰いっぱぐれない業界だと思います。
確かにそうかもしれませんね。ちなみに昇給はどのように決まっているのでしょうか?
学校は基本的には年功序列ですね。ただし今勤めている学校では、以前の学校の経験が加味されたうえでスタートできました。基本学校の非常勤は時給2,600円スタートですが、以前の教員経験を踏まえ2,800円でスタートできました。
単価を上げていくことは大事ですね。今働いている大手だと1コマで他の場所の2コマ分くらいの単価だったりするので、掛け持ちとはいえメインで働く仕事は調整しています。
僕もいくらとは言いませんが、今働いている塾は入社したときと比べると1,200~1,300円くらい単価が上がりましたね。
塾・予備校の場合はどのように昇給が決まるんでしょうか。
授業アンケートが評価の中心ではないでしょうか。ただしアンケートの結果と、受け持つクラスの生徒数なども評価項目になっていることもありますね。生徒の増減率というような塾もあるようです。評価については、思ったことは直接伝えます。社長と話して交渉したこともありますね。
まとめ
重宝されているプロ講師は、フリーランスでありながらも休業時はしっかり休業補償を受け取れていた!学校と塾・予備校では評価基準は異なるが、コマ単価を上げるための行動をとる。決して自分を安売りしない。
プロ講師の自己研鑽、授業力UPの思考とは?
皆様はどのように自己研鑽や情報収集をしているんでしょう?横の繋がりはあるんでしょうか?
YouTubeを見たりして研究することはあります。ただその人と直接話したり情報交換の機会はあまり無いですね。単に私がコミュ症なだけかもしれませんが。本当はもっとコミュニティによって得られる情報もあると思いますし、損してるなと思うこともあるんですけど、今更難しいですね。他の先生もそうかもしれません。業務委託だと、皆組織に縛られたくないのがベースになっているので、一匹狼的な人は多いですね。
この先生を目指しているなど、ロールモデルになる方はいるんですか?
僕はないですね。目の前のテキストと向かい合って、自分の頭から紡ぎ出していくタイプなので。それで紡ぎ出した答えや考えが、後に他の先生の参考書や映像を見て“同じ考えだ!”と気づくことはあります。本から入るとどうしても知識でごり押しというか、頭でっかちになったりするので。でも、たまに新しい発見もあります。同じ帰着点でもアプローチが違ったりとか。その先生はこういう考えで答えにたどり着いたとか。
よく生徒から面白い質問とか来るんですよね。こういう生徒からの素直な質問に、しっかりと向き合って論理で解説をする。これが僕のネタになりますね。他の先生とは違う自分の強みになります。プロ講師には重要かもしれませんね。
例えば過去問ですと解説が丁寧に書かれていないことも多いですよね。だから自分で考えて考えて考えて…解説を予習します。
それがプロ講師の強みになるわけですね。カリキュラムも自分で作るんですか?
場所によりますね。学校の出張授業を行うときは、自分でテキストを作られることも多いです。ただ大手塾・予備校だと完璧に決められたテキストがあるところが多いので、そこから逸脱した授業をするとすごく嫌がられます。昔の予備校のような自由さは薄れている印象ですね。しっかりテキストに基づきつつ、その中でオリジナルを出す感じです。
コマ完結が大事ですね。講師の代行もありますし、別の校舎の生徒が振替で来ることもありますからね。僕は通常の授業とは別の特別授業だけ、自分のオリジナルをやってくださいと言われています。
中堅だと自由にやっている所もありますね。テキストは決まってるんですけど、自由に演習をさせることもできますね。あまり大きな声では言えないですけど、古いテキストを使っていたりすると足りない部分があるので…そういう箇所は自分で不足項目を補うこともあります。
まとめ
プロ講師たるもの、何より自分で考え抜いた上で得られた知識が、他の先生とは違う価値になる。ただし、勤務先の方針に従うことは大前提。その中で如何にオリジナリティを出せるかが腕の見せ所。
学校から嫌な顔をされる?プロ講師が働きやすい職場環境とは?
塾・予備校、学校のそれぞれの違いや、やりがいは何でしょうか?
予備校というのは講師を看板商品にしています。塾は会社全体として生徒に向き合うので、講師はどちらかというと全体の中の一部という印象を受けます。自分の授業力に自信のある人は、やりがいを感じられる分、予備校のほうが合うかもしれません。
一方で塾・予備校の先生と学校の先生が対立することは多いですね。元塾の先生ってわかったとたん、学校の先生にすごく嫌な顔をされたことがあります。周りを見ていると学校の先生は、自分達は塾の先生と違うと思っているし、塾の先生は学校の先生より自分達のほうがいい授業してるよね、って思っていますね。
塾的な教え方を学校の先生は嫌がります。学校ではしっかりと指導要領に沿って授業を進めていくわけですから。学校の先生は全人教育をしているという考えがあると思うので、求められることが授業が上手いことだけではありませんよね。
確かに学習塾は経産省管轄で、学校って文科省管轄ですよね。元々根本が違いますよね。
教員採用試験を受けるときに、日本国憲法とか学校教育法を経て、それを学んだうえで学校教員になるわけですから、すべての子どもを平等に扱うということがベースの考え方ですよね。
お二人のように学校と塾・予備校、うまく勤務するにはどうしたらいいでしょうか?
例えば私立の中堅進学校は、スキルをもっている先生を重宝してくれます。合格実績、進学実績を学校のHPに掲載するわけで、塾の経験を考慮してくれるところが多いように思います。もちろん学校のシステムに従ったうえですが、特に出張授業などは私立の学校で取り入れていることが多いですし、こちらのオリジナルで授業を任されることもありますね。
学校にもよると思うんですけど、私立の先生のほうが塾・予備校の先生を受け入れる体制ができている気がします。変な言い方ですけど、“塾の先生だったんですね!”と前向きに経験を評価してくれる。公立の先生は無関心ですね。やりやすさが全然違います。
公立の非常勤は、まず我々に求めるものが全く違います。偏差値や進学実績を上げることに重きを置いていないですから。公立は高校3年生の2~3学期になってもまだ教科書をやっていたりするんですよね。そこで一人入ってきた先生が、突然塾・予備校的な授業をすると困りますよね。一方で、私立は生徒を獲得する必要があるので、実績を上げる必要がありますからね。
まとめ
授業力に自信のあるプロ講師の場合、進学実績に重きを置く私立学校のほうが相性がよい。公立学校に比べて、私立学校では塾の経験を考慮して評価してくれるところが多い。
生き残れない先生達。プロとしてのプライドとは?
生徒から進路の相談を受けることもありますか?
もちろんあります。進路指導の知識も持っていたいのですが、どうしても学校の専任の先生じゃないと入ってこない情報もありますね。私立の主任のレベルの方だと、受験日程とか全部頭に入っていて、情報量がものすごいです。やばいですよ。募集要項や日程で進学実績が大きく変わるから、私立の中堅だとそういう研鑽積んでいる方が何人かはいますね。たまにそういった先生と話して情報を得ることはありますね。
ここ数年大学受験は進路指導の難易度が高いですよね。直近だと定員問題など、あの時は大変でしたね。本当に研究を続けていないと。“そんなの知らなかった~”と思うことがいっぱいあります。
基本は授業を売りにしているプロ講師が、進路指導まで研究されているのは生徒さんのためですか。
そうですね。受験が近い3年生とかだと「●●受けたいんですけどどうしたらいいですか?」と相談に来ることもあるので、当然知っておくべきですね。講師の圧倒的な授業力が評価される文化も残っていますけど、進路指導をはじめとしてもう授業力だけでは生き残れないような気がします。そういえば「Zoomの授業はやりたくない」と言って辞めていった先生はいましたね・・・。
私の周りにもいました。やりたくないのか、できないのかわかりませんが、未だに映像とか電子黒板とか何も使わずに授業をやっている先生もいますね。
もちろん厳しい世界ですから生き残れなかった先生もいるわけですね。生き残れなかった先生はどうなるんでしょう。
ゆるゆるとコマが減っていって、ゆるゆると消えていくんですよ。
嬉しそうですね。ニコニコでした。
嬉しくないですよ!(一同爆笑)
まあ然るべくしてそうなるわけですね。そもそも生徒からの人気と授業力には相関はあるのでしょうか。
大手だと、若いときに実績を残してきて、ベテランになって授業力にキレが無い先生というのはいるかもしれませんね。ただ人気がある先生っていうのは、生徒の心に火をつけるので、先生が言ったとおりに頑張った結果、実績が出るわけで。繋がっているとは思いますね。
生徒からの人気と先生の授業力は比例するんじゃないですかね。僕はそう思います。そういう先生は適切にやれって言うので、それが結果的に成績が伸びます。
ただ大学受験など上位の生徒になると、それプラス自分で選択させ、考えさせつつ、我々が引っ張るというテクニックの使い分けをします。こちらで調整してうまく生徒に考えさせられるアプローチが、もしかすると人気講師のスキルの一つかもしれませんね。
僕は生徒からの質問を受けるときに、まず“自分はこう思う”“この本にはこう書いてあったけど自分はどう思う”というように、生徒の意見を確認してから質問を受けるようにしています。それに対してうまく説明できるのが先生だと思います。なぜ?は、ちゃんと答えられないとダメですね。プロ講師ならプロ意識を持てってことです。子供たちが可哀そうですから。
生徒に質問されて“あーそうかもね”とかいうの嫌ですよね。生徒にどう聞かれても大丈夫なように徹底的に論理理屈で、根拠も全部自分で考えています。自分のプライドにも関わってきますね。“わからない”って言ったときの生徒の残念そうな顔を見たら夜寝られないです。(一同爆笑)
まとめ
プロ講師と言っても授業を売りにするだけではなく、受験情報といった幅広い情報をインプットしている。生徒からの質問や相談に真摯に向き合うことがプロ意識であり、それが生徒の心に火をつける。
プロ講師はオススメしません?
多くの経験を積まれてきたお二人ですが、今後何か新しく考えていることはありますか?
この先教壇に立つことが難しくなったときに、例えば新人講師を集めた研修なんかができるといいですね。結構研修って責任者の立場からすると大変じゃないですか。それに僕は個人でやっているから育てる人間がいないのでつまらないなと思うんです。後進に何か残したいなと思っていますね。
本気でついてくる人がいれば育てたいと思いますね。ただしこういう仕事なので厳しさもありますし、その分やりがいも大きいです。メリットデメリットを見据えて、本当に目指すなら応援したいです。
確かにここまでのお話を聞いていると…もちろんどの仕事も大変だと思いますが、志を持っていないと続けられないお仕事ですよね。教育業界に関心があっても、働き方を迷っている人は多いかもしれません。
教育といっても、教育自体を漠然と捉える人が多い印象です。なんとなく小学校の先生になりたいって思っていても、どういうものかはわかっていない。教師のバトンなんかが広まったときには、いい傾向だなと思いました。教師の仕事がどういうものか知ることは本人の選択のためになりますからね。
まとめ
プロ講師は全員が全員目指すべきものではない。それぞれのメリットデメリットを見据えて働き方を決めればよい。
座談会を終えて…編集部より
今回の座談会は塾・予備校・学校という、幅広い形態で活躍いただいているお二人からお話をお伺いしました。
大変なお仕事だからこそ簡単には推奨できない。
そんな厳しいお言葉もありましたが、後継者育成への積極的な姿勢、応援したいという気持ちを垣間見ることができました。
なによりもこのような横の繋がりが普段は少ないとのことで、座談会中のお二人の活き活きした様子が印象的でした。
この記事を読んでいただいた皆様の参考になれば幸いです。
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