授業中の雑談は"オマケ"ではない!
こんにちは。物理・数学科講師の池末です。
今回は「授業における雑談の捉え方」をテーマにお話していこうと思います。
池末 翔太 いけすえ しょうた
高予備校で物理・数学を教えるプロ講師。大学在学中にブログを開設。出版社の目にとまり、そのまま書籍化を実現。他にも、勉強法・受験メンタル・物理・数学などに関する書籍を計6冊を出版しており、若くして講師職以外にも活躍の場を広げている。生徒目線で「自分の授業を受けたいと思うか?知的好奇心が満たされるか?」を常に考えた授業スタイル。
皆さんは授業中に「雑談」を取り入れているでしょうか。
私は意識して「雑談」を授業に取り入れています。ほぼ年間で「この項目を説明するときは、この雑談。この問題を解説をするときは、あの雑談。」ということを決めて毎年、授業をしています。
この「雑談」の必要、不要については賛否分かれるところなのですが、私は絶対に必要であると考えています。
ただ、ここで言う「雑談」というのは「ただ面白おかしいお話、すべらない話」の類ではなく、「生徒の学習意欲を高める、ないしは生徒を勉強モードに切り替えることを主たる目的とした話」であると、この記事では定義します。(いわゆる生徒を笑わせる目的の「雑談」を否定はしませんが…)
一般的に「雑談」は一見無意味に見えるもので、人によっては「言っても言わなくても、どっちでもいい」と思われがちですが、少なくとも講義の中では「言っても言わなくてもいいこと」などは存在せず、「言うべきことか、言ってはならないこと」しかありません。
もちろん私は「雑談」は、授業で「言うべきこと」であるという認識をしているわけです。私自身、生徒だった頃に聞いた様々な講師の「雑談」は今でも心に残っていますし、その雑談があったからこそ、そこからの勉強が加速的に進めていけたという経験があります。
また、「雑談」は大きく以下の5つのタイプに分類できると考えています。
目次
1、成功体験&失敗体験
2、問題解説の導入時でする話
3、最先端研究レベルの話
4、教科に登場する人物史
5、入試に関する情報
これらの話は直接、生徒の学力向上に結びつくものではないかもしれませんが、最終的には生徒のモチベーションアップに(遠回りかもしれませんが)つながるものです。1つ1つ詳しく見ていきましょう。
1、成功体験&失敗体験
人の「成功体験」と「失敗体験」はやはり気になるもので、受験生も例外ではありません。ただ、ここで注意したいのは「誰の」成功体験、失敗体験かによって生徒の捉え方、感じ方はまったく異なるのです。
成功体験は「教え子の成功体験」を、失敗体験は「自分の失敗体験」を言うと生徒はグッと惹きつけられるでしょう。
今まで過去に教えてきた生徒の「成功体験」を話せば、生徒は「この先生の教え子はこんなにすごい結果を出したのか、じゃあ自分もこの先生についていけば受験で合格できるかも!」と思ってくれます。
ところが講師が講師自身の成功体験を話すと単なる「自慢話」に聞こえてしまう可能性があり、そうなると生徒は引きます。
また、失敗談は「講師自身の失敗談」を話すことで信頼感が生まれます。やはり生徒の目線から見ると「先生」という立場の人間は、「昔から勉強が得意で成績が常に良かった人」に見えがちのようです。
しかし、そんな「先生」でも学生時代は「勉強や学生生活でこんな失敗をしてきたんだ」ということを伝えてあげれば「あ、自分と同じ悩みをこの先生も持ってたんだ!」と感じてもらえ、共感が生まれ講師と生徒間で信頼が少しずつ生まれるのです。
成功体験は、教え子の成功体験を。失敗体験は、自分の失敗体験を。
2、問題解説の導入時でする話
講義では当然どんな科目でも「問題解説」は避けられませんが、生徒を見ていると「ただひたすら問題を解き、正答を出すためだけに勉強している子」が決して少なくありません。
しかし、はっきり言ってやはりそれは本来の勉強の方向性としてはズレていると思います。さらに講師の中にも「問題解説」を「問題を解いて答えを出すための説明」と認識している方もいらっしゃるようです。
私は「問題解説」とは「ただ答えを出すための説明」であってはならないと思います。正直、そんなのはテキストの「解答」に載っているわけですから、それを話すだけなら別に講師なんていなくていいのです。大事なのは、その「問題」から何を理解するのか、なぜこの問題が出題されているのか、目の前にある問題はこの先何に繋がっているのかを汲み取ることなのです。本来、そこまでの話ができて「問題解説」だと私は思います。
私は普段、物理や数学などを中心に授業をすることが多いのですが、問題を扱う際には必ず導入時に「なぜこの問題が出題されるのか、出題者はなにを感じ取ってもらいたいのか」を説明するようにしています。
特に物理の場合、生徒は式をいじくって答えを出すことに注力しがちなのですが、その前にこの「問題」で問われているテーマが日常生活のどこに現れるようなものなのか、または単なる理論的な練習問題なのか、などを話すことでまず「問題に対する興味の度合い」を高めてもらうようにしています。
問題解説は、出題の意図や抑えてほしいことを導入に説明する
3、最先端研究レベルの話
ときには教科書の範囲外の話をすると、生徒のその教科に対する意識を強めることも可能です。
私の経験で言うと、数理科学における最先端の研究の話などをするときは、やはり理系の生徒はグッとそれまで以上に聞く姿勢に変わります。例えば「4次元とはどんな世界か?」「宇宙人は存在するか?」「今年のノーベル物理学賞の研究とはどんなものか?」などはよく話します。
もちろん、それらの数式やより深い話などは一般的には大学の専門過程レベル以上になるわけですから、いわゆる「教養程度レベル」で話は抑えるしかありませんが、それでも生徒の学習のテンションを上げるためには、このような「雑談」は結構役立つのです。
あえて教科書レベルを超えた話をすることで生徒の意欲を喚起する
4、教科に登場する人物史
学校教科には、様々な人物が登場します。日本史や世界史などの歴史科目は当然のこと、数学や理科においても「数学者や科学者」は数多登場するのです。
しかし、教科書にはそれらの人物の人生についてはあまり多くは語られません。だからこそ、講師が話すべき「雑談」の内容にふさわしいのです。
例えば理科で「オームの法則」が出てきますが、これは中学理科でも登場するので多くの高校生(文系・理系問わず)は知っているようなものですが、「オーム」という人物についてはほとんど知らないのです。「数学者や科学者」の人間臭い人物史を伝えることによって、その科目がより身近に感じられることもあるのです。
数学者、科学者の人物史を語ることで身近に感じてもらう
5、入試に関する情報
受験生である以上、受験についての情報は気になるものです。
入試の形式や日程などは、「塾・予備校の担当職員」などが一般的には講師より詳しいのでその方たちが話すべき内容になると思いますが、「科目」の専門家である「講師」だからこそ「〇〇大学の数学はよくこの内容が出てくる」「△△大は計算が煩雑だから時間配分が大事になってくる」「□□大学の物理はかなりの頻度で実験をテーマにした問題が出題される」などが生徒に伝えるべき内容になってくると思います。
特に2学期以降、本格的に受験が近づき、生徒自身の心の内側に危機感が生まれ始めるころになるとこのようなテーマの話はかなり食いつきが良くなってくるものなのです。
受験を意識しはじめる2学期以降は入試に関する雑談は食いつきが良い
最後に
いかがでしたでしょうか。「雑談」は授業における「おまけ」ではなく、講義本編と同等の価値をもつ立派な講師の「商品」の1つであると認識すると、今後の授業のクオリティも上がってくるに違いありません。
「雑談」こそ「雑」にではなく、「丁寧」に考え、練りに練って話すべきなのです。
ご参考になれば幸いです。
では今回はこのへんで、また別の記事でお会いいたしましょう。
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