前回らりるれろの助動詞について取り上げ(詳細はこちらの記事→塾講師のみなさんはきちんと見分けられる?古典文法「らりるれろ」の助動詞の区別!)、未然形接続の「る」「らる」と已然形接続の「り」は似ているようで全く違う助動詞なので接続には注意しなければならない、と説明しました。今回は引き続き未然形に接続する基本的な助動詞について見ていきます。今回取り上げるのは使役、尊敬の助動詞「す」「さす」「しむ」と推量、意志の助動詞「む」「むず」です。登場頻度も多く、基本的な助動詞なのでしっかりと覚えていきましょう。
使役、尊敬の助動詞 「す」 「さす」 「しむ」
これらの3つの助動詞はセットで覚えてしまうとよいでしょう。活用は以下の通りです。
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
す | せ | す | す | する | すれ | せよ |
さす | させ | させ | さす | さする | さすれ | させよ |
しむ | しめ | しめ | しむ | しむる | しむれ | しめよ |
これらは下二段活用し、「す」は四段、ナ変、ラ変の未然形、「さす」はそれ以外の動詞の未然形、「しむ」は用言の未然形にそれぞれ接続する、という違いがありますがこれらは特に気にしなくても問題ないと思います。
さて、実際に助動詞の働きを見てみましょう。
①使役
例文1:人々に物語など読ませて聞き給ふ。(源氏物語)
例文2:何によりてか目を喜ばしむる。(方丈記)
使役とは、「他の者に動作をさせる」という意味です。(~させる)と訳すのが鉄則です。よって例文1、例文2共に使役の助動詞が使われているので、~させると訳しましょう。
例文1:人々に物語などを読ませて聞きなさる。
例文2:何によって目を喜ばせるのか。
②尊敬
これらの助動詞はもともと使役の意味を主として持っていて、そこから尊敬用法が派生したようです。貴人の動作を直接示さず、「人を使ってさせなさる」という表現で貴人への尊敬の意を強め、ここから尊敬の意味も持つようになったそう。よって、この助動詞が尊敬の意味で使われる場合、必ず他に尊敬語を伴います。一番よく使われるのが尊敬語「給ふ」とセットになった「~せ給ふ」「~させ給ふ」という形。これらは「給ふ」よりも敬意が強く、尊敬語が二重で使われているため最高敬語とも呼ばれます。現在の文法では二重敬語は間違いとされますが、古代では天皇や皇后などとても身分が高い人の動作を記述する際によく使われていました。ですが、尊敬語と共に使われていても使役の意味でとる場合もあるのでそこは文脈に応じてしっかりと判断しましょう。
例文3:この際まで立ち寄らせ給へ。(平家物語)
例文4:君すでに都を出でさせ給ひぬ。(平家物語)
例文3:この門のそばまでお立ち寄りなさいませ。
例文4:天皇(「君」の訳出に注意!)はすでに都をお出になった。
推量・意志の助動詞 「む」 「むず」
未然形 | 連用形 | 終止形 | 連体形 | 已然形 | 命令形 | |
む | (ま) | ○ | む | む | め | ○ |
むず | ○ | ○ | むず | むずる | むずれ | ○ |
○のところは活用は存在しません。また、「む」の未然形「ま」は今まで見たことがないのでほとんど存在しないと考えてよいと思います。また、「ん」「んず」も全く同じ活用になります。
さて、便宜上推量・意志の助動詞として紹介しましたが、実際は推量、意志以外にも勧誘・適当、仮定・婉曲の合わせて4つの用法が存在します。その見分け方とともに紹介しようと思います。
①一人称=意志、二人称=勧誘・適当、三人称=推量
「行かむ」という文があったとしましょう。「行か」は「行く」の未然形、未然形に接続しているので「む」は推量、意志の助動詞です。これの意味について考えましょう。例えば、「私が行かむ」(一人称)だったら「私が行こう」(意志)となり、「あなたが行かむ」(二人称)だったら「あなたが行ったほうがよい」「あなたが行くのが適している」(勧誘・適当)となり、「彼、彼女が行かむ」(三人称)だったら「彼が行くだろう」(推量)となります。このように、主語が一人称=意志、二人称=勧誘・適当、三人称=推量と覚えておくとよいでしょう。
例文5:「我こそ死なめ」(竹取物語)
例文6:月の都の人まうで来ば捕らへさせん。(竹取物語)
例文7:同じくは御手にかけ参らせて、後の御孝養をこそよくよくせさせ給はんずれ。(保元物語)
例文8:いみじきわざかな、恥を見てんずと思へども、すべきやうなし。(宇治拾遺物語)
例文6、例文7には「させ」も含まれているのでそれにも注意して訳出してみましょう。
例文5:「私こそ死のう」(意志)
例文6:月の都の人がもしやって来たならば捕えさせよう。(使役+意志)
例文7:同じことなら、お手にかけ申して、来世のおとむらいをよくよくなさるのがよいでしょう。(尊敬+適当)
例文8:大変なことよ、恥を見るだろうと思うが、どうしようもない。(推量)
②仮定・婉曲
①の用法の他にも、仮定したものとして表現したり、断定を避けて遠まわしな言い方、つまり婉曲表現を使うときにもこの助動詞は用いられます。ぜひ押さえておきたいのが、この意味で用いられる場合は専ら連体形である、ということです。つまり、「む」の後すぐに体言や助詞が続いていたらこの「む」はほぼ100%仮定、婉曲の意味で用いられています。仮定は(~としたら)、婉曲は(~のような)と訳します。
例文9:思はん子を法師になしたらむこそ心苦しけれ。(枕草子)
例文9:仮にかわいく思う子供がいるとしたら、その子供を法師にしているようなのは気の毒である。
ですが、仮定、婉曲の場合は反映させなくても解釈に大きな影響はないので無視する、というのも個人的にはありだと思います。
例文9:かわいく思う子を法師にしていることは気の毒である。
今回は、使役・尊敬を表すさしすせその助動詞と頻出かつ迷いやすい「む」についてまとめました。これらの助動詞はとにかく古文を読んでいる上でよく出てくるので、一回一回しっかりと立ち止まって訳を考えるのがマスターする近道だと思います。また、これらの助動詞がわかると高校入試レベルの古文を読むのにも役に立つので中学生に紹介するのもとても意義があると思います。ぜひ整理して使えるようにしましょう。
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