AO入試や推薦入試では、小論文は必須!
昨今の入試では、AO入試や推薦入試の際、出願書類を揃える時に、A4ぎっしり一枚ほどの量の小論文を提出するのが必要な学校は多いです。題材は、「志望理由」や「大学生活でやりたいこと」など、面接で質問される内容と重複している場合が多いので、この小論文は、大きなアピールポイントになります。
学校側も、生徒の知識レベルや熱意を測るツールとして、小論文を重視している事実は言うまでもありません。予備校で、小論文対策ゼミを単科で受講するような生徒ならば、自分の力で対応できるでしょう。しかし、自分で文章を書くことにさえ慣れていない生徒には、私たち講師はどこまでアドバイスをすれば良いでしょうか。
宿題代行や論文代行などの存在は、半分都市伝説のように言われてきましたが、最近はニュースでも取り上げられています。今はメディアでもグレーゾーンのような扱いですが、これから大きな問題となる可能性がとても高い事例です。塾講師が生徒の小論文指導や出願書類の指導を行う時は、決して生徒自身に「先生に書いてもらった」とは言わせない指導方法が必要です。特に、科目に縛られずに、学校の定期テスト対策全般を指導する場合の多い個別指導講師の立場から、指導方法を紹介します。
ここでは、生徒の学力レベルはかなり低く、一般入試での受験は極力避けたい状態の、勉強に慣れていない段階にいると想定しています。難関校や国公立の二次対策の小論文に苦戦している場合でも、応用できる技もありますので、是非、参考にしてみてください。
まずは、自分で書かせる。
応募書類のコピーを数枚取って、その書類の規定に入る分量で、とにかく生徒自身に第一稿を書かせます。
時間は、どれだけかかっても構わないので、宿題に出してもいいかもしれません。この時はいくら生徒本人が面倒臭がっても、必ず最後まで、自分ひとりの力で書くようにさせましょう。あわよくば、講師に代わりに書いてもらいたい、くらいの気持ちでいる生徒もいますので、ここで甘い顔をすると、後で大きなトラブルにつながります。
同様に、万が一保護者にお願いされた場合も、まずは生徒本人に一度は自分の力で最後まで書かせる!という姿勢は崩さないようにしましょう。この時点では、塾講師からは特に論文の書き方をアドバイスする必要はないでしょう。まだ何も自分で文章を書けていない状態では、丁寧に書き方のアドバイスをしても、生徒側にまったく実感が持てません。
一行も書けないレベルの場合のみ、「起承転結」について解説しても良いかもしれませんが、それも、あまり時間をかけないように気をつけてください。中途半端にアドバイスをすると、生徒の苦手意識が刺激されて、より文章を書くのに構えてしまう場合があります。
この第一稿は、小論文の書き方作法はめちゃくちゃでも、本人の考えていることが自然と湧き上がるようなものができていれば、それだけで成功です。
生徒からヒアリングをする。
次に、出来上がった第一稿を前に、生徒とじっくり話し合います。たとえ、誤字脱字か凄まじく判読が怪しいほど汚い字で書かれたものであっても、講師は誠心誠意読んで、内容を確認します。その際、生徒が伝えたいことは、「~~の方向性で良いのか?」と、こまめに質問を繰り返しながら、講師がメモを取りましょう。
生徒一人の力では、入試に対応できるまともな小論文を書けないことは、生徒自身が一番わかっています。
「自分の将来を左右する書類くらい、もっとしっかり書きなさい!」と思わず言いたくなるようなボロボロの小論文でも、こちらが自分ひとりの力で書けと言った以上は、絶対に厳しい評価を言ってはいけません。ちなみに私がかつて指導した生徒の中には、この第一稿が小学生の日記レベルの高3生も普通にいました。
文章を書く事は、自分の意見を伝えようと苦心することにほかなりません。自分の書いた文章を全否定される体験は、テストの成績を責められる以上に、生徒の心に大きな負担になってしまいます。生徒の考えていることを引き出すためには、とにかく「マイナス発言をしない」ことが大事になります。
相手のアイディアを決して否定しないことで、新しい視点の切り口を探し出す、ブレイン・ストーミングの手法が、使えると思います。
メモを前に、一緒に検討。
生徒から口頭でヒアリングした内容が、生徒がこの小論文で「本当に伝えたかった」ことになります。ここからは、ヒアリングの際に講師が作ったメモを前に、小論文の構造を生徒と「一緒に」考えてみます。何をメインテーマにするか。どんな意見やエピソードを入れるのか、などです。もちろん、講師は、一緒に考えているかのようでいて、正しい形に辿り着くように導く必要があります。正解を教えるのではなく、あくまでも対話の中で本人に気付かせる、という形を取りましょう。この時に、生徒に伝えるのは、講師と一緒に行ったこの作業を、今後は自分ひとりの頭の中でできるようにならなくてはいけない、ということです。
小論文の作法を指導する。
ここで、初めて、通常の集団指導の授業で実施される内容の、小論文の指導を行います。高校生の小論文指導の詳細は、別の機会に詳しく書きますが、ざっくり言うと、
「まずは結論→その考えに至った理由の説明→予想される反論をきちんとすくい上げる→補強された結論を再度述べる」
という定型の中に、文章を落とし込みます。文章を書くことが苦手な生徒のほとんどが「書きながら、何を書いたらいいかを考えている」という状態です。実はそのテクニックはかなり高度で、大人でも苦戦する人が多いでしょう。論理的な文章を書くのに一番簡単な方法は「あらかじめ設計図を作ってから書く」ことです。先の講師との対話で、書きたいことが既に決まってきた状態なら、受験小論文の定型に、自分の伝えたいことをパズルのようにはめれば良いとわかります。
再び、生徒自身に書かせる。
講師の指導内容を踏まえて、再度自力で書かせます。私の指導では、本人がすべてを書くのはこの第二稿までです。この段階まで来れば、講師が代筆したことにはなりません。これから先に行うのはあくまでも「添削」になります。生徒も、新たな知識を取得して、文章を書く方法を学んだと言えるでしょう。
添削は、思う存分やってあげてOK。
自力で二度まで書き上げる努力をした生徒には、講師側も、かなり親身になって添削を行いました。誤字脱字や日本語がおかしいところの指摘、この時点では、講師側から「ここに、部活のエピソードを入れたら?」などと、具体的な内容のアドバイスもしました。生徒が書いたものが赤ペンで真っ赤になるくらい添削をしたら、完成です。必ず日をあけないで、その日か次の日のうちに清書をするように指導します。
最後に、小論文の重要性を、きちんと生徒に伝えましょう。
小論文は、志望校の入試科目にない生徒にとっては、かなり軽視されている科目です。むしろ現代文の授業で扱うだけで、正式な科目ではないので、自分には必要ないと考えている生徒がほとんどでしょう。
しかし、小論文の作法は、これから先大学生になったら、レポートや卒論を書く際に必要です。社会人になったら、今度は入社試験から始まって、報告書、昇進試験など、常について回るものです。すなわち、一度、きちんと小論文の書き方を身に付ければ、今後どんなシチュエーションにも応用できます。生徒にはこれを機に、小論文を学ぶ大切さを、具体的なシーンを提示して、しっかり伝えていきましょう。