初めに
鎖国を終え、開国した日本は、不平等条約なども相まって、「海外との遅れをどうやって取り戻すか」が大きな課題となりました。
そこで、他国の文化や技術を積極的に取り入れ、遅れをいち早く取り戻そうとしました。
こうした思想は、文明開化や岩倉使節団などにも見られるのではないでしょうか。
また当時、「未開の地=搾取対象」として、侵略する帝国主義が幅を利かせていました。
そして、「国際的な地位を向上させ、列強として自らを守る」ためにも、日本は日清戦争・日露戦争を行い、さらには第一次世界大戦にも参加したのです。
こうした背景から、この3つの戦争は歴史的にも重要な意義を持っているため、しばしば試験でも問われます。
しかし、各々の間隔が短いことから、生徒たちには混乱を招きやすく、覚えることも多いため、嫌い・苦手な単元になってしまうこともあります。
そこで、この3つの戦争と講和条約、またそれらに付随する出来事について、「何をどう解説すべきか」を今回は扱っていこうと思います。
以下に、板書例も載せますが、指導手順内ではそれに準拠しているので、その都度参照して頂ければと思います。
板書例
指導手順①:事前知識
それぞれの戦争などの指導前に、まずは事前に生徒に解説すべき内容を記そうと思います。
それは、「戦争名と講和条約名は必ず一致させる」ということです。冒頭でも述べましたが、この3つの戦争は時期が近いため、同時に学習することが多く、知識が混ざってしまいがちです。
せっかく覚えたのに、そのせいでミスをしてしまったら目も当てられません。
そのため、「戦争の行われた順番(流れ)」と「戦争名に対応する講和条約の名前」を優先させて暗記させてください。
講和条約の内容や関連事項などは、後回しで構いません。
まずは全体的な流れを覚えてしまうことが必要です。
そのあとに、細かな部分を暗記すればいいのです。
また年号を覚えることも重要ですが、基本的に「戦争」と「条約」の年号だけで十分です。
あまり、年号を問う設問は見たことがありませんが、年表問題は出る可能性があります。
その際に、目安とできる年号として活用することができるでしょう。
最も、日清戦争~第一次世界大戦は10年ごとに行われています。
さらに、第一次世界大戦以外は、戦争の翌年に講和条約が締結されています。
なので、実際に年号を暗記するのは、「1914年 第一次世界大戦」と「1919年 ベルサイユ条約」の2つです。
残りは、簡単に導くことができます。
もちろん、初めからすべて暗記させても構いませんが、「1914年 第一次世界大戦」と「1919年 ベルサイユ条約」から逆算することで、自然と頭に入れさせることをおすすめします。
指導手順②: 「日清戦争」と「下関条約」
では、具体的にそれぞれの戦争と条約を見ていきましょう(年号順に解説していきます)。
まず、「日清戦争」について触れていこうと思います。朝鮮において、「甲午農民戦争(東学党の乱)」が起こります。
これは、朝鮮政府の開国政策に対する、東学党と呼ばれる朝鮮の人々の反発を指します。
そして、中々鎮圧できない朝鮮政府は、清に対して応援を頼み、清が軍隊を派遣します。
一方、日本も独自の判断で、軍隊を派遣します。
反乱収束後、相互の軍隊が衝突し、「日清戦争」となり、結果として、日本の勝利に終わります。
こうした背景からもわかる通り、「日清戦争」の目的の一つに「朝鮮の獲得」が存在していました。
この目的は、後々、「日露戦争」でも大事な要素となります。
「なぜ日清戦争が起きたのか」をはっきりさせて解説しましょう。
次に、「下関条約」に関して見ていきましょう。
上述の通り、「日清戦争」は「朝鮮の獲得」が目的の一つでした。
つまり、両国とも「朝鮮の支配権」を欲していたのです。
植民地は、国家の安定的な維持にとっては重要でした。
故に条約内で、「朝鮮の独立(=清が指図できない状態)」を明記したのです。
しかし、勝利した日本が植民地化を行うのは、まだ先のことになります。
日清戦争後、「すぐに韓国併合をできていない」ことに注意を促してください。
引っかかる生徒が多いです。
また、「台湾・遼東半島を領有」しますが、ロシア・ドイツ・フランスによる「三国干渉」により、遼東半島は手放すことになります(遼東半島が戦略的に重要な位置にあったため)。
さらに、賠償金を得たことで、「八幡製鉄所」などの官営工場を作り、国内の工業の発展を目指します。
「下関条約」はこうした3本の柱から成り立っています。
1つずつ順序立てて、因果関係を指導してください。これは、他の単元でも当てはまりますが、「なぜ条約で認めさせる必要があったのか」は言い換えれば、「戦争の目的はなんだったのか」ということです。
特に、「朝鮮への権利」と「三国干渉」は、「日露戦争」でも関係してきます。
最後に、終戦後についてです。
ここは、参考程度の指導で構いません。結果として、清は他国から軽んじられるようになります(元々は「眠れる獅子」と呼ばれていました)。
そして、イギリスなどの国から領土を割譲されてしまいます。
これに国内から不満が溢れ、義和団事件という排斥運動が起こりますが、すぐに鎮圧され、清はさらに苦しい立場に追いやられます。
指導手順③:「日露戦争」と「ポーツマス条約」
第二に、「日露戦争」を見てみましょう。その前提として、先ほどの「三国干渉」の存在があります。
「三国干渉」の結果、日本は遼東半島を手放したわけですが、その後ロシアは、遼東半島を自身の支配下に入れてしまいます。
日本から見れば、手柄の一部を横取りされたようなものです。しかし、清との戦争後、すぐにロシアと戦えるほどの余裕はありませんでした。
こうした理由で、日本はイギリスと「日英同盟」を結びます。
イギリスは、ロシアにこれ以上アジアで支配力を強めて欲しくなかったので、互いの利害が一致したのです。
イギリスはあくまでも日本に名前を貸しただけですが、日本は、当時の世界最強の国を味方につけた形となりました。
「日英同盟」自体もしっかり暗記させるために、この背景は解説しておきましょう。
「日英同盟」は「第一次世界大戦」でも出てくる要素です。そして、締結後「満州」を巡って戦争に突入します。
次に、「ポーツマス条約」に触れます。注意しなくてはならないのは、「戦争が引き分けに終わった」ということです。
そのため、仲介に入ったアメリカのポーツマスで条約締結となりました。
ただし、実質的に日本が有利の終戦だったことから、講和条約は日本に有利なものとなっています(板書例では一応の勝敗も示しています)。
これによって、日本は南樺太・南満州鉄道・旅順や大連を実質の支配下とすることができました。
さらに「朝鮮への権利」を認めさせました。
アジアで朝鮮に対しての権利を邪魔できる国はなくなり、日本は「韓国併合」を成し遂げます。
その後、韓国では三・一独立運動が起こりますが、これは参考程度でいいでしょう。
しかし、引き分けだったので、ロシアから賠償金が取れず、反発する市民の暴動である「日比谷焼打事件」が発生しますが、この事件も参考程度の指導でいいでしょう。
こうして、日本はアジア最強に君臨します。
指導手順④:「第一次世界大戦」と「ベルサイユ条約」
最後に「第一次世界大戦」を考えてみます。
オーストリアの皇太子が暗殺された「サラエボ事件」を引き金に、ヨーロッパでは「第一次世界大戦」が起こります。
三国協商(イギリス・フランス・ロシア)と三国同盟(ドイツ・イタリア・オーストリア)に分かれての戦争となりました。
重点的に、「アメリカ・日本は途中参加である」ことを解説してください。
よく誤った選択肢で使われます。
日本は、ここに「日英同盟」を理由に無理やり途中参加します(アメリカは不干渉の立場をとっていましたが、ドイツの作戦に巻き込まれて途中参戦します)。
戦争は、三国協商側の勝利で幕を閉じます。また、日本は、大戦中の国に物資を輸出する「大戦景気」で国力を増やします(戦争中の国は、物資を作る余裕がないための需要であり、大戦終了後には崩壊してしまいます)。
それと同時に、国際的地位の弱くなった中国に対して「二十一カ条の要求」を突きつけ、そのほとんどを了承させます。これはいわゆる内政干渉であり、大戦中に欧州の目が届かないところで中国への影響力を強めました。
これに対して、「五・四運動」という反発が起こりますが、参考程度で結構です。細かい部分はともかく、まずは大筋を理解させてください。
そして、「ベルサイユ条約」についてですが、条約そのものよりも、「これによって何が起こったか」を指導することが重要です。
まず、敗戦国ドイツで「ワイマール憲法」が成立します。
これは「社会権」を初めて認めた憲法としても有名です。
また、スイスのジュネーブで「国際連盟」も設立されます。
「国際連盟」では、日本はイギリス・フランス・イタリアとともに常任理事国となります(アメリカは不参加)。
現在の国際連合とは様々な点で違うので一緒くたに考えないように指導してください。公民の授業を既に行っている場合は、比較をしてみてもいいかもしれません。
まとめ
指導手順は以上です。
最初にも述べましたが、まずは、「戦争の行われた順番(流れ)」と「戦争名に対応する講和条約の名前」を暗記させましょう。
その上で肉付けしていく方が、記憶もしっかりとし、結果的にミスも少なくなると思います。
また、講師自身の判断で必要無さそうな部分は切り落として指導しましょう。
記事では細部まで触れていますが、最悪、「戦争名と対応する講和条約名」「講和条約の内容とその産物」程度でも十分かもしれません(「参考程度」の内容は、余裕があったらでいいと思います)。欲張り過ぎないこともまた、成績アップにつながる大事な要素です。