世界三大宗教②
前回の記事では、世界3大宗教の1つ、「キリスト教」の教材研究を執筆してきました。
本稿ではイスラム教について説明していきたいと思います。
さて、昨今はイスラム過激派の話題が絶えずニュースに出ていますよね。
最近に限って言えばこの「イスラム教」は中高生にとってはある意味キリスト教以上に日頃耳に触れる
機会の多い宗教かもしれません。
それらの問題はどのような背景のもとで起こっているのか?
イスラム教の原典を学習することで、こうした背景を把握し、
現代社会を考えるきっかけとなるような授業ができるようにしたいですね。
実は、このイスラム教を説明するにあたっても、これまで説明したキリスト教やユダヤ教との関わりが
有効になってきます。
ここでは、実際の指導に使えるよう、現代社会にもつなげるイスラム教の指導例を紹介したいと思います。
イスラム教とは
イスラム教は順番で言うと、ユダヤ教、キリスト教の次に生まれた宗教です。
授業する際には順番通りにその関連を含めて説明するようにしましょう。
さて、ユダヤ教、キリスト教と同じく一神教ですが、イスラム教はそれがより完全な形に
なったものとしています。
イスラム教では造物主(神)のことを「アッラー」と呼びますね。
後ほど詳述しますが、イスラム教は3大宗教の中でも最も神を「超越的な存在」と考えています。
超越的すぎる故に、イエス・キリストのように神が直接民衆に話すわけはないと捉えているのです。
そうすると、「神の言葉」を伝えるのは誰か?それが、「預言者」ですね。
興味深いのはキリストもこの預言者の1人であるとしているところです。
この「預言者」の言葉の意味は「神の言葉を預かった者」から来ています。
「神様はこのようにおっしゃっています」というのを教徒に伝える役目を持っているため、
録音再生するかのような正確さが求められていました。
そしてこのイスラム教の最後にして最大の「預言者」がムハンマドなのです。
よく生徒の中には預言者がムハンマド1人しかいないと考えてしまう子がいるのですが、
預言者はモーセやイエスも含まれます。ただ、「最後にして最大の」という言い方で
彼らとの差別化をはかり、最も優れた預言者であるとしているんですね。
教典『コーラン』には、キリスト教カトリック派の「三位一体」論への批判的まなざしや
アッラーへ許しを請うべきだとするような内容が書かれているのですが、これらの意味するものが何か
わかるでしょうか?生徒たちにこれまでの知識を総動員して考えてもらいましょう。
イスラム教徒からすると、キリスト教は「三位一体論」や「キリスト」という神の偽物を
信じているが、イスラム教はイエスは神でなく、1人の預言者にとどめ、
さらに超越的な唯一神アッラーを信じている完全な形の宗教である。
と考えているのです。
こうした論理を持っていると、
預言者の一人にすぎないイエスを信仰しているキリスト教はどうしても下に見えてしまいますよね。
というように、指導をする際にはキリスト教からのつながりを「比較」することでよりイスラム教の全体像が見えてきます。ここからは具体的な特徴をあげていきましょう。
偶像崇拝の禁止
先ほど、イスラム教で考える神は非常に「超越的な存在」であると伏線をはりました。
それが最も端的な形で現れているのがこの「偶像崇拝」ですね。
身近な例で言えばお寺などにある「仏像」も「偶像」に入ります。
なぜ、これを認められないかというと神は超越的であるがゆえに人の手によって作られるはずが無いと考えるのです。
つまり、人の手によって偶像を作るというのは神への冒涜になってしまうそうです。
皆さん観光地などでモスクを訪れたりしたことはあるでしょうか?
筆者は一度シンガポールにあるイスラム教街のモスクに行ってみたことがあります。
日本の旅行感覚で奈良の東大寺の大仏のような何かがあるのではないかというような期待をしてしまった
のですが、そういったものがない限りあるものがおいてあります。
それは、方向を示す立て札のようなものでした。イスラム教は偶像崇拝する代わりに聖地である
メッカ(ムハンマドが神の啓示を受けた場所)の方向に向かって巡礼をします。
ここで「巡礼」の単語が出てきます。この用語が出たところで次の説明に入りましょう。
信仰をどうやって表現するか
さて、ここで私はいつも生徒に次のような問いかけをしています。
本稿を読んでくださっている講師の方にも考えていただきたいと思います。
まずは以下のイラストを見てください。
カフェでコーヒーを飲む女性が2人いますね。
問「2人のうち、片方はイスラム教徒です。さあどちらでしょう?」
という発問をすると生徒はじっと考えてくれます。
色々な意見が出た後、最終的には「わからない」という答えが出てくると思うのですが、
実は「わからない」が正解です。
いくら心のなかで「~教大好き!私はずっと信者です!」と思っていても、
宗教の何らかの儀式をしたり、上記のことが書いてあるTシャツを着ていたり、
看板に書いて持ち歩いたりしない限り
外見からだけでは信じていない人と何ら変わりないですよね。
ほとんどの宗教はこれをよしとしており、信仰を何らかの形で外見に表さなくても破門したりはしません。
しかし、イスラム教はこういう考え方をせず、外側の形(戒律)を重視します。
この部分がイスラム教の最も特徴的な部分といえるでしょう。
その具体的なものが以下のものです。
六信(イマーン)・五行(イバーダート)
まずは、イスラム教徒が信じなければならない6つのことから説明します。
●六信
①アッラー
まずはアッラーそのものがいることを信じなさいということですね。信仰の根本部分です。
②天使
その次は神様の使徒である超越的な力を持った天使がいることを信じるようにという内容です。
旧約聖書に書かれているガブリエルもムハンマドに啓示をした天使の1人です。
③コーラン
聖典のことですね。イスラムの考え方の根本的な部分がのっているコーランを重視しましょうということで
す。
④預言者
聖典『コーラン』を伝えた=神の言葉を預かり伝えた預言者たちの事を指しています。
繰り返しになりますが、イエスも含まれています。もちろん最大の預言者はムハンマドですね。
⑤来世
イスラム教にも天国か地獄かの最後の審判があります。イスラム教への信仰心と戒律を守ることができれば
天国に行けるという考え方です。
⑥天命
キリスト教の聖霊の考え方と近いのですが、世界で起こる様々な現象、それこそビッグバンか
ら始まって天災などはすべてアッラーの意志によるものとする考え方です。
さて、ここで先ほどイラストを用いて発問した部分に入ります。
外側からは「私は信じている」といっても本当なのかどうか確かめる術はありません。
そこで、神の命令が載っている『コーラン』に書いてあることを100%こなし、「行動」で示します。
それが以下の五行です。
●五行
①信仰告白
「私はイスラム信徒であり、アッラーが唯一の神であり、ムハンマドは最後にして最大の預言者である」
ということを人々に対して宣言しなさい、という内容です。
②礼拝
告白するだけでなく、アッラーへの信仰を形にして示すのがこの礼拝です。イスラムの信者は世界中
どこにいてもこの礼拝をする方向のメッカが自分から見てどこにあるか把握しています。
③断食
イスラム暦の第9月に毎年日の出ていない時間のみ行います。
以前、筆者が米国へ留学した際にイスラム教徒の友人と一緒にカフェテリアに行ったのですが、
お腹がグーグーなっている友人の前で食べるのは心苦しいものがありました。
④喜捨
日本語で聞きなれない言葉ですね。簡単に言うと喜んで困っている人を助けるという行為です。
「施し」という言葉が最もしっくりくるでしょうか。
⑤巡礼
メッカに、一生の中で一度は実際に訪れるということです。これだけはあまり、強制ではありません。
実際問題、全てのイスラム教徒がメッカに来るのは現実的に不可能なので、行けたら尚良いという程度
で今は捉えられているそうです。
まとめ
ここまで、ユダヤ教、キリスト教とのつながりでイスラム教の指導例を紹介してきましたが、いかがだった
でしょうか?
センター試験ではよく、イスラム教の六信・五行の部分が正誤問題などで出題されます。
はっきり言って正確な知識が確認されるかなりやっかいな問題です。
しかし、そうした時にイスラム教の原理をしっかりと把握しておけば、ありえない選択肢などは
削除して、消去法による得点も狙えるのです。
もちろん、原理を理解していれば六信五行も覚えやすくなります。
生徒の武器を増やすためにも講師は深い知識を持っていればいるほど良い指導ができるのです。
本稿はこうした思いから執筆させていただきました。以上です。
ここまで長文ご精読ありがとうございました!