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学習戦略論【実戦編】

2021/12/17

前回の記事では、学習計画とは単なる予定表ではなく、戦略であるということを書かせていただきました。今度はその戦略をどのようなステップで作成していけばいいのかを書いていきたいと思います。

 

戦略立案のためのステップ

必要性・実現可能性・効率性、以上3点を兼ね備えたものが完璧な戦略と言えます。具体的な戦略の立案方法は以下のとおりです。

 

①   最終的な目標を1つ立てる

複数立ててはいけません。本当に達成したい目標は、基本的に1つだからです。志望校に合格すること、留年しないこと、評定を上げること、とりあえず1つを選択してください。

 

②   目標を具体化すること

目標を掲げたとしても、それが実際に成し遂げられるかどうかは当日になって結果を見るまではわかりません。実際にできることは、目標の一歩手前、「目標を達成できる状態」を作ることです。

まずはその「目標を達成できる状態」を定義しましょう。

例えば「留年しないこと」を目標とします。

すると、学校のテスト対策をすればいいということはわかるでしょう(模試の勉強はする必要ありません)。では仮定法が範囲だったらどうすればいいのか?

目標の定義を、「仮定法を勉強する」ではダメです。「仮定法を理解する」もダメです。なぜなら、その目標は達成したのかどうかを検証することができません。仮定法が範囲なら、仮定法を理解することは確かに必要なのですが、そのときは、

 

「どのような数値を叩きだしたら、仮定法を理解した、と言えるのか?」

 

を考えてみるのです。仮定法に関する例文を全て暗唱出来る状態ですか?英文法頻出問題集1000で仮定法の問題を完答したときですか?どういった状態を「理解した」とみなせるのか。複数の指標を使っても構いません。とにかく、大目標に到達できるとみなせる状態を、定義してください。

 

そして定義したら問いかけてみてください。

 

「その数値目標を達成したら、達成したといえるのですか?」

 

 

③   小目標を立てる

大目標の具体化に成功したら、今度はそれを小目標に落としこんでください。例えば大目標の具体化を「○○問題集で、仮定法のところを完答」と「仮定法の例文を全て暗唱」の2つにしたとしましょう。すると今度は、○○の問題集で完答するためには、何を達成しなければならないのか?テスト前に暗唱できるようになっているためにはどんな勉強をすればいいのか?などなど、色々と疑問が出てくるはずです。

 

それらを言葉にするのです。恐らく、仮定法をマスターしようとすると、その単元をいくつかに細分化された項目があるはずです。最初には仮定法過去があって、次には仮定法過去完了があって、そして細かい文法事項がたくさんある…

 

それらを小目標にしてしまっても構いません。しかし、目標であるからには、それが“測定可能”であることに注意してください。

 

 【測定可能とは】
実は①で掲げた目標を②で具体化するとき、測定可能が意識されています。例えば「仮定法を覚える」といったところで、その「覚えた」という状態を達成したかどうかというのは、どのようにしてわかるのでしょうか?そこには必ず、「○○のテストで、80点以上を取得すること」という数値目標が必要になってきます。けれども数値が入っていればいいというわけではありません。なぜ○○のテストで80点以上を取ることが、「覚えた」という状態とみなせるのかの理由を説明できなければなりません。理由付けられた、数値目標。これが測定可能な目標ということです。

 

 

④ 時間配分を考える

今までは学習しなければならない内容をひと通り洗いだしたわけですが、今度はその学習内容を消化するための“資源”に注目しなければなりません。資源とは、消化を行うために必要なもの全てと思って構いません。典型的なのは、時間でしょう。生徒が部活をしていれば、1日あたり2時間の勉強時間が限度で、その中で消化していく必要があります。他には、モチベーションや資金(個別塾に通う、家庭教師を雇う)があります。

 

洗い出された小目標は、それらの資源で達成することが出来るでしょうか?もしできないのであればそれは“実現可能性”がないということになります。

 

このフェーズでは以下のことを考える必要があります。

・  生徒の当分の間のスケジュール

例えば、吹奏楽部に入っている生徒は学園祭前は忙しかったりしますが、それが終わると、時間が増えたりします。長期スパンで見た場合、生徒はいつ時間を作れるのかを考える必要はあるでしょう。

・  生徒の生活スタイル

1日あたりの睡眠時間。いつ起きていつ寝るのか。部活は何時間あるのか。通学時間はどのくらいか。生活スタイルをひと通り把握していなければ、1日に可能な勉強量はわかりません。

・  生徒の好き嫌い、向き不向き

生徒が好きな科目は何ですか?嫌いな科目は何ですか?好きな科目を時間がある時期にさせてしまうよりも、嫌いな科目を時間がある時期に集中してやるほうが、モチベーションが続いたりします。得意科目は通学時間に勉強してもらうとして、家では苦手科目を集中してもらうなど。とにかく生徒の心理状態を意識してください。

・  生徒のモチベーション

モチベーションを維持させるためには達成感が必要だと言われています。適度に達成感を味わってもらうために、小テストや模試を適度な量で配分してください。

最初2つの時間について考える塾講師は多いですが、生徒の心理状態やモチベーションまでを加味した学習戦略は少ないのではないでしょうか。案外ここは重要です。時間的に可能であっても、生徒の“やる気”という資源がなければ、実現可能性と効率性が欠如することになります。

 

⑤   戦略を生徒に説明する

①〜④までを達成すると、必要性・実現可能性・効率性はある程度担保されていると思います。次に必要なのは、“信念”です。生徒がその学習戦略を理解し、その重要性・必要性を心から認めなければ、戦略は絵に描いた餅になってしまいます。

 

生徒に説明するためには、以下の要素が必要です。

A)   生徒からの圧倒的信頼

そもそも生徒と信頼関係が構築されていなければ話になりません。生徒が塾講師を信頼していなければ、当然その人が作った戦略に従うはずがありません。しかし一方で、信頼をしていれば、その戦略をある程度は認めてくれるはずです。普段からきちんと生徒との関係をマネジメントしておきましょう。

 

B)   1枚のスライド

①〜④までの内容をまとめると、おそらくA4でも10枚ほどのレポートになりかねません。そうした多量な情報量を、どうにか1枚の紙にまとめてください。それは生徒が今後どうすればいいのか、それをしたらどうなるのか、最終的に到達する場所は何なのか、全てを語るものです。生徒にでも理解しやすい、そして「なんだかわからないけれど、これからすごいことをするんだ」という気にさせるような1枚を作ってください。その1枚は、重さは軽くとも、生徒の一生を決める重いものになりえます

 

C)   具体的な語り

スライドを作ったら、最後はプレゼンです。生徒に向けて、今後すべきこととその理由を語ってあげてください。心からの信頼を勝ち取ってください。これをやったら、絶対に大丈夫だという自信を与えてあげてください。そうすれば、生徒に“信念”が生まれるはずです。

 

以上の3つを行えば、生徒はやる気を持って学習戦略に取り組むでしょう。もちろん、うまくいく時も、うまくいかない時もあります。それはまた別の記事に書くとしましょう。

 

あとがき

この方法論は、経営戦略の考え方を応用したものです。経営戦略自体は、企業において用いられるものですが、ある一つの目標達成のために、道筋を立てるといった行為は、学習計画とすごく似ています。

学習計画はわかりませんが、学習戦略は本当にワクワクします。

生徒と講師が、

「これからすげーことをやるんだ」

という気になります。なにせ、これからやることなすことに理由があることを十分に理解していて、そしてその先には到達が難しいと思われていた目標があるのですから。

是非、この方法論を用いてみてください。案外楽しいですよ。

 

 

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