社会科の目標と生徒を結びつけるもの
社会科を教える講師にとって、生徒の「なぜ?」という好奇心を利用して、
生徒を自身の展開する授業の世界に入り込ませるということは、講師の専門性の見せ所ですよね。
生徒の反応というのは、とても素直なものです。
生徒が興味をもてない授業には、講師が必死に教えていても暖簾に腕押しをしているような感触になりますし、
逆に生徒の心を導入の段階で掴めば、後はその期待に答えられるような
授業を展開をすると、生徒は自ら授業に乗り出してきてくれます。
社会科でも他の科目でもそうですが、授業をする以上は必ず「ねらい」を持たなければなりません。
言い換えればそれは、授業が終わった後、「今日の授業では??を学びました」の「??」
を考える作業です。
しかし、そこでいかに明確な「ねらい」を設定することが出来ても、
社会科という教科は、授業での板書と口頭の説明だけでは、伝わりにくいことがあります。
例えば、日本史の授業で以下の様な授業のねらいを定めたとしましょう。
ねらい「古墳文化の前期、中期の副葬品の違いから、被葬者の性格を読み取ることが出来る」
いかがでしょうか?
もちろん、これを以下のように口だけで説明することも出来ます。
・前期:銅鏡や碧玉のような祭器→宗教的司祭者
・中期:武器や馬具→軍事的権力者
しかし、説明だけでなく、生徒にこれのより具体的なイメージを持たせるために、
以下の様な写真を用いるとより効果的です。
これらの写真は、仕事が休みの日に筆者が上野にある国立博物館で実際に撮ってきた写真です。
このように、実際に被葬者のまわりに置かれていた副葬品の写真を教材として提示することで、
講師の説明をより具体性をもって記憶に定着させることが出来ます。
そして、何よりこうした博物館で、実物に触れてその説明をしっかり読んで時代への認識を深めることは
社会科講師としての専門性を高めることにつながるのです。
少し、話がそれてしまいましたが本稿では、社会科授業の重要な構成要素である
①社会科「教材」とは何か
②「教材」をどう用いるか
の2点について、社会科を教えている講師の皆さんに考えていただけるような内容を
記事にしていきたいと思います。
「教材」とは何か?
冒頭で教材の重要性について述べてきたのですが、「教材」とはそもそも何でしょうか?
教材というものは、非常に守備範囲が広いので簡単に説明をすることは出来ないのですが、
あえて一括りする言い方で言えば、教材とは
生徒が学習可能なように教育内容を何らかの形で体現し、具体化したものである
という定義がなされています。
なので、もちろん授業内容そのものではなく、授業という全体に対して従属的な立場にあり、
これを補佐するサプリメントのようなもの、ということですね。
授業の狙いを明確にすること、そして提示する教材を選び、それがどのような有効性を持つのか、
そして授業のどの部分に位置づけることが出来るのか。
これらを講師が予習の段階で考察し、研究しておくことを「教材研究」と呼びます。
とはいえ、社会科という科目は、社会全般を対象にしている学問なので、漠然としたまま
教材研究をしても着地点が見えなくなってしまいます。
そこで、教材研究の際に気をつけたい点は以下の様なことです。
①教材の理解
まずは、授業の狙いに沿った教材を選択することから始めましょう。
選択するためには、教材の理解をすることが重要です。
つまり、教材の候補となった素材や題材について調査し、その内容や現状、問題点、背景事情などを
分析しましょう。
例えば、先ほどの例で言えば、日本古代史の古墳文化で教えるべき内容に合った教材か、
その教材(資料)は学問的に正統な根拠があるものか、どのような背景でそれが置かれたのか。
などなど分析しなければならないことは多いのですが、生徒に間違えたことを教えないためにも
慎重に教材を調べましょう。
②教材の作成
実際に、授業をイメージした教材づくりです。①で調べた教材の中で、授業の指導内容や指導目標の中に
最も合致しているものはなにか。これを選び抜くことです。
それが出来たら、授業で使う用に実際にプリントアウトする、持ち運びが可能なものであれば持っていく、
プロジェクタを使うなど、やり方は講師次第ですが、生徒が最もわかりやすい提示の仕方を考え、
作成しましょう。
③教材構成
②まで完了したら、次は教材をどう組み立て、どう配列し、どう組み合わせればよいのかを考えましょう。
授業をより生徒にとってよりわかりやすく、魅力的になるためのツールですが、
あくまで教材は授業に対して部分的なものでなければなりません。
授業のどの部分でどれほど使うか、考えながら構成しましょう。
以上が、教材を授業で使うまでの具体的な手順です。ここから、授業で実際にはどのような
教材を用いてきたのか、筆者の経験をふまえながら説明したいと思います。
パネル教材
まず、授業の冒頭の部分で提示する教材として有効なのが、このパネル教材です。
まずは、実物を御覧ください。
この2枚は筆者が実際に授業で使ったものです。
2つの写真を生徒が見えやすいように大きめのA3サイズで印刷し、黒板に貼り付けることから始めました。
「3つの違い」の方では「社会主義経済」の失敗を説明する際に、そもそもこの3つの違いを生徒がちゃんと理解しているかどうかを確認すると同時に、これから行う授業の方向性を示すものとして提示するのに用いました。
「現在不況」の方のパネルは、バブル景気が起こる前提となった、「円高不況」が起こった時に
日本政府はどう対応したのかを説明する授業で、冒頭で提示したものです。
このパネル提示を利用するメリットとしては、前述したように、生徒の基礎知識を確認できる
ということと、板書の時間を省くことが出来るということです。
読んでいただいている講師の皆さんはご経験がお有りだと思うのですが、
授業というのは時間との勝負ですよね。そして、思った以上に板書には時間がかかるものである
ということも実感されていると思います。
そんな時にこうしたツールを用いることは、授業をうまく作っていく助けになってくれるのです。
もちろん、こうした問いかけだけでなく、冒頭で述べた古墳の副葬品の写真もこうしてプリントアウトする
ことで有効活用できます。
映像教材
次に紹介するのがこの「映像教材」です。
映像教材というものも、範囲は広く、歴史であれば50年前のニュースの映像であったり、
戦争映画であったり、当時実際に用いられていた紙芝居を再現したりなど、
視覚と聴覚に直接訴えかけられる教材です。
例えば、筆者は第2次世界対戦の授業を行う際に、生徒の
「太平洋戦争時、アジアはとにかく全面的に戦地になっていた」というイメージを払拭させる事を
目的として提示しました。
あまり知られていないのですが、当時「飛び石」作戦を用いていたアメリカ軍は、
軍事戦略上重要なところ以外には目もくれていませんでした。
そのような目もくれていない島にいた日本軍は上空を飛ぶアメリカ軍の飛行機をよそ目に、
農業をしたり、占領している島の子ども達と遊んだり、終戦まで平和な毎日を送っていたのです。
こうした加害、被害の二項対立だけではない戦争の持つ多面性を生徒たちにわかってもらうための
教材であったと思います。
使う際の注意が2つあります。
まず1つ目に、内容に間違いがないかをしっかり確認するようにしましょう。
こうした映像は営利目的で作られているものもあるので、事実とは違う脚色がなされている場合も
あります。
当時の一次史料や、論文を読んでいれば、事実との相違点に気がつけます。
こうした基礎知識の習得も怠らないようにしましょう。
2つ目に、「著作権」を必ず確認するようにしてください。
大抵の場合、教育上の目的であれば使っても良いという文面がこうした映像教材にはついているのですが、
そうした文面がない場合には、事前に使っても良いか制作側へ問い合わせてみましょう。
許可が下りれば使っても何も問題はありません。経験上、大抵教育の目的であればと
快諾をもらうことが出来ます。
まとめ
ここまで、教材とは何か、そして、教材を具体的にどう用いるかの2点について説明をしてきましたが、
いかがだったでしょうか?
最後に、読んでいただいた皆さんにこのような言葉をご紹介したいと思います。
「うまい寿司屋は、仕入れが7割、握る技術が3割」
美味しいお寿司屋さんは、握る技術だけでなく、良いネタを市場でしっかり仕入れてきている、
むしろ仕入れをきちんとしているから美味しいお寿司になるのだ。という格言です。
確かにいくら技術が素晴らしくても、寿司のネタが腐っていたりしたら元も子もありませんよね。
本稿で説明してきたように、これは社会科の授業にも当てはまることです。
説明の仕方がいくら上手でも、話だけでは生徒は飽きてしまいますし、具体性を与えることも出来ません。
本稿は筆者の授業で実際に使用した教材の一例を示しましたが、
皆さんの行う授業ではこれらにとらわれず、オリジナリティある教材を用いて生徒を社会科の魅力に
どんどん引っ張っていってあげてください。
最後にこの言葉を送って、本稿を締めたいと思います。
「良い社会科授業は、教材研究が7割、説明が3割」
以上です。皆さんのご活躍をお祈りしています。ここまで長文ご精読ありがとうございました!