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【社会化講師必見】わかりやすい公民分野指導法~国会の仕組み②~【中学社会】

中学生

2021/12/17

国会関連の用語

拙稿「中学校社会公民分野指導法~国会の仕組み①~」では、国会の仕組みをいかにして説明すればよいのか
民主主義との関連、三権分立の中でどこに位置づくのか、衆議院と参議院の違いは何か。
という点についての指導法をご紹介しました。

簡単におさらいをすると、国会は日本国憲法第41条に規定されているように、

「国権の最高機関であり、唯一の立法機関である」

存在でした。そして、権力を乱用することのないように、「三権分立」。権力を分散させ、お互いが
お互いを監視しあっているが、その中でも選挙によって選ばれた構成員から成る「国会」が最も重要と
されていました。

大体、ここまでの説明で国会そのものの存在意義や、仕組みについては生徒たちに理解させることが
できたと思います。
しかし、これだけでは日々報道されているニュースや新聞などを読みこなすことは
おそらくまだできません。

たとえば、新聞やニュースで
・「現在は臨時国会が行われており・・・」
・「ねじれ国会のために政策が進まない状況が続いています。」
・「○○党と××党による連立政権は・・・」

というように、国会の内部の事情によって、言い表し方も異なってきます。

よって、本稿ではこうした事を踏まえて、国会の基礎知識の土台を基にしつつ

国会に関連する時事問題を理解するために必要な説明の仕方

について講師の方に考えていただける記事を書いていきます。

国会の何を教えるか

国会の本質を教え終えたら次は、
国会の何を取り上げて生徒の理解をより深くするかという問いに直面します。
本稿を読んでくださっている講師の皆さんにも考えていただきたいですし、さらに本音を申し上げると
一緒に考えさせていただきたいくらいの問題です。
というのも、官僚・選挙・国会の種類など、応用の部分は切り口がいくらでもあるからです。

はさみ

これは言い換えれば、授業の最終的な着地点を定める作業でもあります。
なので、その着地点をどう定めるかは結局は講師の裁量次第ですが、筆者はやはり現代社会、そして今後
につながる「ねじれ」というトピックを取り上げて授業を行いました。
以下でその具体的ポイントを述べていきます。

「ねじれ国会」とはなにか?

2000年代に入ってから、国会で問題となってきたのが「ねじれ」とよばれる現象です。
ねじれ

ここに、昨今の政治状況、そしてさらにいえば投票状況も大きくかかわってきています。
なので2014年現在であれば、授業で取り扱う意義が非常にあると考えています。

この「ねじれ」というのは、
衆議院において、多数をとっている政党(与党)と、参議院で多数をとっている政党が違う状態の
ことを指しています。
とはいえ、さすがにここまで極端な状態はなかなかおこりません。
最近の社会状況と照らし合わせ、現在では

衆議院において過半数を取れている政党(政党)が参議院では過半数が取れていないという状態のこと

を指しています。本記事も参考までに以下の票を載せておきます。

衆参

さて、生徒に考えさせたいのはここからです。筆者は以下のような発問をしました。
「この”ねじれ”が起こると、どのような問題が起こるでしょうか?」

これは、これまでの政治を見てきた皆さんは肌で実感されていることかもしれないのですが、
衆議院と参議院の多数派の意見が一致せず、法律が成立しなくなるということです。

法律が成立しないとどうなるか、当然政府は法を根拠とする政策を打ち出せなくなってしまいます。
つまり、この「ねじれ」は政治の停滞へとつながってしまう危険があるのです。

このねじれが起こってしまった場合に政治が全く進まなくなるのは避けたい、
そうしたことから、予算案や諸外国との条約に関しては衆議院の優越が認められているのです。

ちなみに衆議院の優越とは、
予算案、条約、総理大臣の指名などは衆議院で可決されれば、参議院が否決しても30日後に
衆議院の決議が優先されて成立することです。

授業でこの部分を説明する際には、このようにもしもの場合にそなえて大衆の代表である衆議院に
優越が認められている、という説明をすると生徒は論理的にこれを理解することができます。

経済との関連

さて、これに関連してもう1点指導例を紹介します。

予算案を通す際には、衆参両院の可決を持って成立する、そして参議院が否決した場合にも
衆議院の優越が認められているという説明をしたばかりなのですが、
じつは、昨今の日本ではこれをもってしても、予算案を通すのが非常に難しくなっています。

会議

本来予算案というのは「黒字」となることを見込んで作成しなければなりません。
これは国会においても同様であり、財政法も「赤字」を見込んで予算案を作成してはならないと
規定しています。

しかし、拙稿「中学校社会科公民分野指導法~日本銀行と経済~
でも取り上げたことがあるのですが、現在日本は700兆円を超える多額の国債(国の借金)を抱えています。
つまり、今の状況では赤字を見込まずに予算を組むことは不可能になっているのです。

そのため、財政法とは違う別の法的根拠が必要になります。
これが「特例公債法」というものです。
簡潔に言えば「今年だけは赤字を伴う予算案で構いません」という内容です。

この法律をもってしてようやく予算とともに必ず通すことで予算案が最終的に可決されるように
なっているのです。

先ほど「今年だけ」という部分に下線を引きました。これはどういうことかというと、
予算とともに毎年通さなければならない法律である、ということです。

ここで問題が発生します。予算案に関しては衆議院の優越が認められているため、参議院が否決をしても最終的な決定は出せます。
しかし、
特例公債法は、普通の法律であるため、この衆議院の優越が適用されません。
つまり、予算案があまりにも納得することができなければ、参議院は予算案ではなく、こちらの
「特例公債法」を否決すれば、予算案を予算にすることにストップをかけられる。ということです。

このように、別の手段ができてしまったことにより、予算案が通りにくい、ということが起こっているのです。

低投票率の要因

最後に、これは直接的に入試などでは問われませんが、最後に政治教育について講師の皆さんに
考えていただきたいことがあります。

まずは背景からです。
現行の政権では幸い起こっていませんが、日本の政治では、時々与党の中で分裂が起こります。
本来、政党というのは最終的には考えを一つにして政策を進める党首を応援するものなのですが、
与党の中での意見の対立が原因で主流派から分かれたグループが誕生することがあります。
そのため、同じ政党なのに、政策を有利に進めていくための議席の数が法案を決定する際に別れたグループは賛成票を入れなくなってしまう。
これは政策を進めたい与党にとっては大きな痛手です。
与党の中で分裂が起こり、最終的には野党の党員が協力するという状態も起こりました。

協力

本来政党と与党は対立軸を明確にして国の行く先を議論しなければなりません。しかし、これでは
何が政治の争点となっているのか、国民はわからなくなってしまいますよね。
政治学の分野では、こうしたことが投票率の低下の一因になっていると分析しています。

今後も、同じようなことが起こらないとは限りません。
こうした状況の中、講師の皆さんは争点が見えにくい選挙の重要性を授業でどう伝えていくでしょうか?

将来有権者となる生徒たちに国政への関心を持たせるためにも、社会科講師は常にこうした
国単位での問いを考えていかなければなりません。

本稿は、国会に関連する題材を中心に扱ってきたので、これだけから答えを出すことは出来ないと思います。
今後も政治分野の指導をご紹介していく中で、こうしたことも考えていただけるような記事にしていきます。

本稿は以上です。皆さんの指導の参考にしていただけたら幸いです。
ここまで長文ご精読ありがとうございました!

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