特集記事のサムネイル画像

【英語講師必見】前置詞は感覚でおさえよう!upとdownの概念②

英会話

2021/12/17

downの感覚

前回の記事の続きになります。前回はupの概念についての指導法を紹介しました。今回はその対照的な意味を持つといわれるdownの概念の指導法、またupとdown、この二つを照らし合わせて、さらに生徒の理解を深めていこうと思います。なので、前回の記事を読まれていない方は話についていけないと思います。その点はご了承ください。面倒ではございますが、ぜひ目を通してみてください。ではさっそく内容に入っていきます。

downの例文を見るときはマイナスイメージを常に意識しながら見るように指導しましょう。

寝転がるdown

upの時に紹介した、上向きが「身を起こす」経験と関連しているように、下向きは「寝転がる」経験と結びつきます。人間は人生の三分の一は寝て過ごすとどっかで聞いたことがありますが、人はみな疲れたとき、病気の時、落ち込んだ時、横になりますよね。downはそのような経験と結びつくイメージがあります。

I'm so tired today.  I'll go and lie down for a while.

(今日はひどく疲れた。しばらく横になるよ。)

落ち込む、落ち着くdown

先程説明したように、「寝転がる」時の感じがdownの基本的な意味ですが、人間の場合には、精神的・情緒的に「下向き」の状態も、downで表します。

She felt down.

(彼女は気落ちしていた。)

I proposed to her, but she turned me down.

(彼女にプロポーズしたが断られた。)

二つ目の文の句動詞turn downは<断る>という意味ですが、日本語でも却するという言い回しがあり、下向きのイメージが一致します。turn downはrejectやrefuseと同じ意味ですが、このようにdownを使うと断られてガッカリした感じがよく表されます。このような前置詞が出すニュアンスまでしっかり指導しましょう。

もちろん下向きは悪いネガティブな事ばかりではありません。Calm down(落ち着け)などと、興奮して舞い上がった気持ちをおさえて冷静になるような場合にもdownが使われます。

休止、停止のdown

人と限らず無生物についても、休止の状態や力が弱まった状態を、良かれ悪しかれdownで表します。普段目にすることが少ないからでしょうか。生徒は人を主語にしなくてはいけないと思っている傾向にあります。もちろん人を常に主語に用いることもできますが、複雑な文になってしまい伝わりにくくなってしまいます。自分が言いたいことが複雑そうで難しいなと感じたら、物を主語、また前置詞もうまく使ってみるようにと指導しましょう。

Keep your voice down.(声量を落としてくれ。)

The system was down.(システムが動かなくなった。)

Lines are down because of the typhoon.

(台風のせいで、電話がつながらない。)

The wind calmed down.(風がおさまった。)

The market settled down(市場は沈静化した。)

downはこんなところです。次からupとdown、この二つを比較していきます。

upとdown

では、これまでのまとめをかねてupとdownを比べていきます。

He closed up the shop for the day.

(彼はその日は店じまいにした。)

We closed down the shop.

(私たちの店は倒産した。)

ここでのupとdownは、upが本日の開店、downが倒産の意味になります、と言いたいところですがそんな単純なものではありません。close upのupは前回の記事で説明した<完了するup>で、店の扉を閉める動作が完了したことを意味します。それがその日だけのことなら<本日開店>を意味し、二度と開けないならば<倒産>を意味することになります。一方、close downには<倒産>の意味しかありません。また、こちらの倒産には、再起不能というニュアンスが含まれています。実際に、建物自体が壊されてなくなる可能性があるということです。次の例でもupとdownの違いがよく分かります。

Tom shot up the lion.

(トムはライオンを撃った。)

Tom shot down the lion.

(トムはライオンを撃ち倒した)

 

shoot upは、トムがライオンを一発、あるいは何発も撃った、射撃を完遂した、という事実に焦点が当たります。なのでトムがライオンを撃った後、ライオンがよけた、または銃弾が外れたなどの可能性もあるので、その後ライオンがどうなったのかはこの文ではまるでわからないのです。これに対してshoot downでは、撃たれたライオンが、撃たれて死んだ、または捕まったことに焦点が当たります。生徒にはここで、upが完了という抽象的な意味を表すのに対して、downが単に物理的な下方向への動きを表していることに注目させて下さい。また、他の単語を使って、しっかりとニュアンスの違いを理解しているか確認するのもいいと思います。

(例)この二つの文をうまく前置詞を用いて言ってください。

アキラがトラを撃った。(アキラがトラを撃って捕獲した場合)

アキラがトラを撃った。(ただアキラがトラを狙って数発撃ったというだけの場合)

プラスイメージとマイナスイメージ

このようにずっと説明していると、upにはプラスの良いイメージが、downにはマイナスの悪いイメージが生徒につきまとうと思います。

日本語の表現に、「天と地ほどの差がある」や「上様」、「下々の者ども」という言い方がありますが、英語でも、私たちの住む地上は、神が住む天上と比較すると、卑しいものの住む浮上の場所だと言うことができます。なので下に移動することは極端に言ってしまえば悪いことなのです。次の例を見てください。

She's really come down in the world.

(彼女は本当に落ちぶれてしまった。)

downと限らず、下向きを意味するsink(沈む)などの動詞を使ってもShe is sinking (彼女はみるみる堕落していく)のようにやはり悪い意味が出ます。

ですが、その悪いもの、たとえば汚れなどを下に落とすときも、downのマイナスイメージが働きます。では例文です。これは、外国の飛行機のトイレに貼ってあったものです。

As a courtesy to other passenger, please wipe down the basin after use.

(他の乗客のために、使用後は洗面を拭いてください。[紙で水を取り除く])

このほかにwipe down the toilet(便座を…)という張り紙もあります。このwipe down…は「…を拭いて汚れを落とす」というニュアンスを持っています。このようにwipe downを含めてdownを用いた表現は下向きの動きを伴うことが多いです。上の例文でも、そのdownの基本的な意味は保たれていましたね。

ではwipe upはどうでしょうか。

You must wipe up these dishes.

(これらの皿を拭くのを手伝ってちょうだい。)

wipe upでは、汚れを落としのではなく、皿などをきれいに拭きあげる感じが出ます。他の例も見てみましょう。

I brushed down the coat.

(上着のほこりを払い落した。)

I must brush up on my English before I go to America.

(アメリカに行く前に英語に磨きをかけなくちゃ。)

一つ目の文では、服についたほこりを下方向に落とします。(これと似たbrush down the houseも「家中のほこりを払う」ことを意味します。)また、これと対をなすbrush upになると、身繕いというよりは二つ目の例のように<語学力などのスキルや能力を磨き上げる>という慣用表現に使われることが多くなります。なのでやはりここでもプラスの意味が出ていますね。

服については、日本語になりつつあるdress upがあります。

She dressed up for a night out.

(彼女は夜の外出のために正装した。)

このようにupは基本プラスイメージ、downは基本マイナスイメージであると指導してください。

正装をしてパーティなどに行くときはdress upをします。一方、バーやちょっとした旅行に行くときはdress downします。しかし、最近の若者の間ではdress downが良い意味で使われるようになってきたそうです。日本語でも、<カジュアルファッション>と言って、古着やダメージジーンズなどが、かっこいいものとして認識されます。若者の間では、見た目を少し汚らしくdress downして外出することが、良いイメージになっているのでしょう。生徒が海外に行ったときに混乱しないように、言葉の意味は時代背景に合わせて、姿、形を変えるものであることを覚えさせてください。これを知っているか知っていないかではだいぶ違います。このことは言語を学ぶにあたり大切なことです。

決して対照的とは言い切れない

ここまでのところで、upが上方向のイメージのほかに、完了、創造、気分の高揚など様々な意味を表すのに対して、downは単に下向きのイメージのみを表していることについては生徒は理解したと思います。ですが、このように、一見対照的に見えるupとdownは、実はその意味の広がりや使い方においては、かなり非対称的なものになるのです。このことを最後に説明して終わりたいと思います。

垂直の非対称性

まずは次の例を見てください。

He sped up his car.(彼は車を加速させた。)

He sped down his car.×

 加速する、というときにspeed upが使えるならば、反対に減速するときにはspeed downと言えそうなものですが、そうはいかないことからも、upとdownの意味が対照的でないことが分かります。では次の例です。

He slowed up his car.(彼は車を減速させた。)

He slowed down his car.(彼は車を減速させた。)

今度は、slow upもslow down も両方言えますが、意味はというと、どちらも減速を表します。一般的に加速はup、減速はdownという正反対のイメージがあると思いますが、必ずしもそうではないというのが、ここでのポイントです。slow upのupは「スローの度合いをアップする=減速する」という意味になるのに対し、slow downは、「速度そのものをdownする=減速する」という意味になります。この例からも、upとdownが単純に対照的でないことが分かっていただけると思います。

この部分を通して最後に私が最も伝えたいことは、一見対照的に見える前置詞をそのまま対照的だと思い込まないことです。一つ前の章で、私はupは基本プラスイメージ…と言いましたが、この基本という抽象的な言葉こそが英語を理解する鍵なのです。前置詞は対照的なもの、ちゃんとしたルールがある、などのような単純なものではありません。なのでしっかりと正確な英語を話したいならば、一つ一つ丁寧に学んでいくように指導してください。決してupとdown、対照的な意味だからどっちか勉強すればいいか、などと近道を考えないように生徒に注意してください。

 

 

 

キーワード

関連記事

新着記事

画面上部に戻る