プロ講師が教える「受かる」模擬授業のススメ 〜前編〜
こんにちは!国語科講師の中林です。
中林 智人 なかばやし ともひと
高校教師から塾講師・予備校講師に転身し、現在は河合塾・早稲田予備校にて国語を担当しつつ、都内の高校で非常勤講師としても活躍。講師業だけでなく執筆なども行う。「納得できる知識・論理的読解技術」「制限時間内に問題を解き偏差値を上げる戦略」「楽しく国語を勉強できる面白ネタ」をモットーに日々生徒に向き合っている。
さて、2学期が始まりましたね。
塾講師をやっているとこの時期は結構忙しいものです。何しろ怒涛の夏期講習が終わったと思ったらそこから間髪入れず2学期の授業が始まってしまいますからね。授業準備に追われる日々は、夏休みも9月も変わらないのです!
そういえばご存知かと思いますが、私は昼間は都内の高校で非常勤講師をしていますし、複数の高校に出張授業に行っているので、色々な高校の行事などもある程度把握しているのですが、今年は多くの高校がオンラインなどではなく、実際にお客様を呼ぶ形の文化祭を行うようです。
もちろん色々と制限はあるでしょう。しかし、この数年間あらゆる行事がコロナによって中止になり、貴重な青春のイベントを次々と潰されてきた生徒からすれば、どんな形であっても文化祭を実施できることは嬉しいに違いありません。出張先の高校で楽しそうに談笑しながら何やら展示物らしきものを作っている生徒を見て、心が暖かくなりました。
では、そろそろ本題に入りましょう。
プロ講師として様々な塾・予備校の採用試験を受ける際に、大半の所では模擬授業を要求されます(紹介による入社など、一部の場合は除く)。
この模擬授業ですが、短時間で自分の授業力をしっかり発揮して合格を勝ち取る為に色々と気をつけるべきことがありますので、今回はそれをお話しさせて頂ければと思います。「なかなか模擬授業の試験で緊張しちゃって、うまく行かない」等の悩みを持つ方は是非ご覧くださいませ!
目次
・その1「テーマ・授業箇所を絞る」
・その2「話し方・発声・目線」
・終わりに
その1「テーマ・授業箇所を絞る」
私は今まで様々な会社の採用試験で模擬授業をやらせて頂きました。もちろん授業を仕事としているので大体のところで好評は頂けたのですが、中には結果に結びつかなかった時もあります。そういう時に大体共通していたのが「授業テーマ・内容を絞り切れていない」ということでしたね。
採用試験における模擬授業というのは大体が時間が限られています。5分〜15分位のところが多いですかね。授業をスタートして適当なところで試験官が「はい、もう結構です」と言って終了するという形が多いですね。
その短い時間の中で採用側が求めているものを確実に示さないといけません。具体例を示しますね。
課題
次の文章を15分位で授業して下さい。対象は高校2年生の基礎クラス(偏差値50以下)を想定して下さい。
中納言参り給ひて、御扇奉らせ給ふに、「隆家こそ、いみじき骨は得て侍れ。それを張らせて参らせむとするに、おぼろけの紙はえ張るまじければ、求め侍るなり。」と申し給ふ。
「いかやうにかある。」と問ひ聞こえさせ給へば、「すべて、いみじう侍り。『さらにまだ見ぬ骨のさまなり。』となむ人々申す。まことにかばかりのは見えざりつ。」と言高くのたまへば、「さては、扇のにはあらで、海月のななり。」と聞こゆれば、「これは隆家が言にしてむ。」とて、笑ひ給ふ。
かやうのことこそは、かたはらいたきことのうちに入れつべけれど、「一つな落としそ。」と言へば、いかがはせむ。
高校の授業でもよく扱われる『枕草子』の「中納言参り給ひて」という文章です。
この内容を基礎クラス、つまり古文があまり得意でない高校2年生の生徒に授業する場合は主に以下の内容に触れる必要があります。
①『枕草子』の情報(成立時期・ジャンル・主な内容)
②作者の清少納言の人柄・日常(中宮定子にお使えしている女房としての生活について)
③登場人物の位置付け・位・身分などについて(中宮・中納言・女房とは)
④「参り給ひて」「奉らせ給ふ」などの二重尊敬・二方面敬語の仕組み・口語訳・敬意の方向などについて
⑤「こそ〜侍れ」に見える係り結びの法則
⑥「それを張らせて」の「それ」という指示語が指す内容
⑦「参らせむ」の「む」の助動詞について(ここでは「意志」となる)
⑧「おぼろけ」という単語の意味
⑨「え〜まじけれ」に使われている「不可能」を示す呼応表現
⑩「ば」という接続助詞の順接確定条件
これでやっと本文の3分の1程度です。この①〜⑩を全部丁寧にやるだけで1時間かかってもおかしくありません。高等学校などの通常の授業でしたらそれでも良いでしょう。しかし今回は「文章(全体)を15分位で」授業せよという指示ですので、そんなに時間をかけるわけにはいきません。
ではどうすれば良いか?答えはシンプルです。「大事なところに説明を絞る」のです!
例えば私でしたら次のように時間を使います。
①はプリント参照、もしくは説明済みの前提で②・③を話し、平安時代の女性貴族の日常を生徒に理解してもらい、古文の世界に興味を持ってもらいます(ここまでで3分位)。
④の敬語について、板書で分かりやすく示し、二重尊敬・二方面敬語などの仕組みや解釈を説明する(これが5分位)
文章後半の、清少納言の機知・及びそれを認めた中納言隆家の評価・それを自分の作品に載せてしまう清少納言本人の自己顕示欲を説明し、この文章自体が何を伝えようとしているのかを説明する(これが5分位)
全体のまとめ、平安時代の女性文学を読む際のコツ、そもそも古文を読む際の心構え、そして文法や古文単語の知識をどうやって文章読解に活用していくかの話をして、授業の締めくくりをする(2分位)
こんな感じで、「あれもこれも自分が知っていることは全部話したい!」「自分の知識を話して生徒の尊敬の眼差しを得たい!」と言う自己顕示欲を抑えて、指示された条件を意識して、指定時間内で最も伝えるべきことを分かりやすく伝える授業をする・・・
これが大変なのですが、実は1番模擬授業において大事なことだと思っております。
ですので実際に模擬授業に臨む際の予習としては「課題全体の徹底的な予習→時間内に授業を済ませる為に伝えるべきポイントの絞り込み」を必ずやって下さいね。
また、絞り込んだテーマを授業の最初にしっかり説明しましょう。「本日は○○について学習していきましょう。頑張っていきましょうね!」という感じで宣言するのです。
その2「話し方・発声・目線」
模擬授業の場合、生徒の代わりに採用担当の方が生徒役をしている場合が多いですよね。これがまたこちらを緊張させるのですが、基本的には生徒を相手にしている時と同じイメージで授業しなければなりません。その際の話し方・発声・目線など、基本的なことですがお話ししておきます。
話し方
上位層や大学受験生を対象とする場合は少々早口でも良いかもしれません。ただ「大事なところはゆっくり大きく話す」などの抑揚をつけて下さい。逆に成績下位層や小学生が対象の場合はテンポを落としてしっかり聞かせるなどの工夫が望まれます。
そして、話しに区切りをつけ、抑揚をつけましょう。文章でいう読点に該当する部分は若干強めに発音してしっかり区切って話した方が聞き手には伝わりやすいです。具体例を示します。
「はい!ここは尊敬の助動詞になっているので、その上の活用形は未然形になっていますね。助動詞の知識は文章を口語訳するだけでなく、活用形の判断をする際にも役立ちますので、しっかり覚えるようにしましょうね!」
強めに発音してもらいたい所に太字傍線をつけておきました。読点の直前及び生徒に伝える新たな情報、具体的知識以外に学習の心構えなどの内容など、強調すべきところをしっかり発音して抑揚をつけることで、聞いているものの頭に残りやすくなります。
発声
当たり前の話しですが、相手が聞き取りやすい、ハキハキとした声でしゃべりましょう。特に昨今はマスクをしながら授業をするところが大半では無いでしょうか?それだとますます声を響かせないといけません。
私は元々喉と肺が弱く、肺活量が少なく、声も聞き取り辛いと言われた方だったのですが、20代の頃にちょっと音楽をやっていて、歌声を響かせる為に腹式呼吸やミックスボイス(地声と裏声が混じった中間の声。高音域を得意とする歌手の方でこの歌声をマスターしている方は多い。有名な方だとB’zの稲葉浩志さんとか)を練習しました。
そのおかげで授業中の声も昔と比べてかなり通るようになりました。「歌手になるわけじゃ無いから関係ない」と思われる方もいるかもしれませんが、より喉に負担をかけずに声を響かせる為に基本的な発声を勉強して見ると良いと思います。特にミックスボイスの練習はしてみると効果的ですね。
また、相手に伝わりやすい音域として「ファ〜ソ」が良いとよく言われます。声というのは低いと相手が聞き取り辛く、逆にキンキンと高すぎても耳に痛く、聞いているとストレスを感じます。駅のホームでのアナウンスを思い出してみて下さい。私は正直中年男性の低い声のアナウンスは、マイクの質から来る雑音と混じって非常に聴き取り辛いと感じてしまいます。低すぎず高すぎず、程よく響いて聴き取りやすい音域がファ〜ソなのです。
と言っても絶対音感の持ち主とかでなければ、メロディの無いただの声をファ〜ソの音域で出せと言われてもピンと来ないでしょう。私のよく使う例なのですが、「アルプス一万尺」の歌が、ちょうど良い感じでファ〜ソの音域を多用しています。ちなみにキーはFです。つまり最初の一声が「ファ」から始まる感じですね。そうすると以下の太字傍線の部分がファ〜ソになります。
アルプスいちまんじゃく こやりのうえで アルペンおどりを さあおどりましょ
いかがでしょうか?歌詞の半分以上がファ〜ソなので、これを歌ってみると「ファ〜ソを中心に話をする」ということの感覚が掴みやすいのではないでしょうか?
なんならこの歌詞を自分の担当する教科の内容に替え歌感覚で置き換えて歌ってみましょう。私は古典文法の助動詞の接続をこの曲に合わせて替え歌で歌って授業で生徒に覚えさせています (ちなみに、この曲の原曲は著作権がもう切れているので、著作権侵害には当たらないはずです)。
目線
授業中の目線の位置も重要です。
基本的にテキストや下を向いている時間をできるだけ少なくしましょう。
例えばテキスト上の本文や設問を読んでいる時はしょうがありませんが、基本的な公式や学習法のアドバイスなどはテキストに目を落とさずしっかり生徒(試験官)の目を見て話すべきです。
また一人の生徒の方ばかり見ているのも良くないので、教室中の生徒を満遍なく見渡したりして、バランス良く生徒の反応を確認しましょう。
プロ講師は授業中の生徒の反応を細かに確認して、それに応じて授業を臨機応変に組み立てていきます。それができる講師なのかどうかも、試験官は見ているはずです。
ちなみに私はとある予備校の採用試験の模擬授業の際に、(こちらを向いている試験官しかいないのに)「授業中に居眠りしている生徒がいる」設定で空席に向かって生徒を注意するふりをして、その後全体に向かって「受験生としての心構えを説教する」という離れ技を演じたこともあります(ちなみにその採用試験は合格しました) 。
ただ前を見るだけではなくて、「ちゃんと授業を受けている生徒の反応を観察している」ということをしっかり試験官に示すことが大事ですね。
終わりに
少子化の昨今ではありますが、だからこそ我が子に優れた教育を受けさせたいと考える親御様は多く、優秀なプロ講師を各社とも喉から手が出るくらい求めています。
その中で多くの企業は「模擬授業」「面接」で、講師の性格や授業力をチェックします。ですので、その重要性をしっかり意識して「どうせこんなのその場のノリでなんとかなるでしょ」と甘く見ず、しっかり対策しておくべきだと思います。
「ノー勉でいけた」「準備してないけど受かっちゃった」なんて余裕綽々な態度がカッコいいなんていうのは学生までです(本当は学生だってそれではダメなのですが)。一流の講師だって、授業では余裕な態度を見せていても、裏では徹底した準備を行なっているのです。
特に駆け出しの講師の方は、「自分の授業を録画して見返して確認し」て、徹底的に自分と向かい合いながら授業の質を高めるために努力してみて欲しいと思います。
プロ講師は上司などからガミガミ言われることが無い分、自分に厳しくないと生き残れません。是非頑張って欲しいと思います。
次回の「『受かる』模擬授業のやり方 〜後編〜 」では
・その3「板書の方法・半身の姿勢」
・その4「プリント・教材」
・その5「オリジナリティ」
などについてお話しさせて頂きたいと思います。乞うご期待!
ではまた次回の記事でお会い致しましょう!
後編へ続く・・・
「プロ講師が教える「受かる」模擬授業のススメ 〜後編〜」の続編はこちらからご覧ください。
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