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プロ講師が教える「受かる」模擬授業のススメ 〜後編〜【キャリアコラム#51】

本記事は「プロ講師が教える「受かる」模擬授業のススメ 〜前編〜」の続編となります。
前篇をまだお読みではない方は是非こちらからご覧ください。

こんにちは!国語科講師の中林です。


中林 智人 なかばやし ともひと

高校教師から塾講師・予備校講師に転身し、現在は河合塾・早稲田予備校にて国語を担当しつつ、都内の高校で非常勤講師としても活躍。講師業だけでなく執筆なども行う。「納得できる知識・論理的読解技術」「制限時間内に問題を解き偏差値を上げる戦略」「楽しく国語を勉強できる面白ネタ」をモットーに日々生徒に向き合っている。 


今回の記事は以前掲載されました「プロ講師が教える『受かる』模擬授業のススメ 〜前編〜」の続きとなっております。

大手予備校を始めとしてプロ講師としての採用試験を行なっている会社は、「授業力」を非常に重視します。もちろん「出身大学が◯●大学以上の人のみ採用します」などの学歴重視の所や、筆記試験重視の所もありますが、講師としての仕事のメインはあくまで授業なので、短時間の採用試験時間で自身の授業力を最大限見せつける必要があります。

そして前編でも書きましたが、日頃行なっている生徒を前にした授業と、短時間で試験官の前で行う的を絞った模擬授業は大きく異なります。この差を理解せずに「模擬授業か〜まあ日頃沢山授業しているから楽勝でしょ」などと気軽に構え、それ用の準備をせずに臨むと残念な結果になりかねません。

ですので、今回もプロ講師採用試験における模擬授業において気をつけるべきことをお話しさせて頂きます!

目次
※本記事は前編の続きとなるため、その3からとなります。

その3「板書の方法・半身の姿勢」
その4「プリント・教材」
その5「オリジナリティ」
終わりに

その3「板書の方法・半身の姿勢」

板書の方法

授業において欠かせないのが「板書のスキル」です。
 
予備校によっては電子黒板やプロジェクターなどを使用して講師が授業中にほとんど何も書き入れないで説明するパターンもありますが、大半の所はホワイトボードか黒板に書き入れながら説明していくスタイルですよね(ちなみに、日本で初めて黒板が製造されたのが明治7年で、全国に広まったのが明治10年位らしいです。未だに多くの学校・塾・予備校で使用されていると考えると、不思議な気分になりますね笑)
 
さて、その黒板や、ホワイトボードにおける板書の方法ですが、私は講師のスタイルによって大きく分けると3つあると考えます。以下の通りです。
①書道をやっていたと思われる、とめはねを意識した非常に流麗で美しい達筆の板書
国語の先生に多いですね(国語の教員免許と合わせて書写免許を取得されている方も多いです)。
 
非常に達筆で美しい字が黒板いっぱいに広がり、見る者を感動させます。私の知り合いにもこのタイプの先生方は少なからずいらっしゃいます。古文の本文が流麗な字で黒板いっぱいに書かれた様子を見ると、もはやこれも一種の芸術だなと思ってしまいます。
 
もちろんこのような字それ自体が採用試験においてマイナスになることは無いと思います。ただ気をつけてもらいたいのは「字を綺麗に書くことに気を取られすぎて、肝心の説明のテンポが遅くなってしまう」ことです。
 
採用試験で求められているのはあくまでも「ポイントを絞った、分かりやすい解説」です。特に難関大クラスなどを想定した模擬授業では、ゆっくり丁寧に書いている時間に、もっと効果的な受験テクニックや問題の要点を解説してくれ!と思う生徒が多いでしょう。板書に求められる最低ラインは「書いてある内容が理解できること」さらに言うならば「分かりやすくまとまっていること」です。これらをクリアできていれば、必要以上に時間をかけて字を綺麗に書く必要はありません。
 
もちろん、スピードと綺麗な字が両立していればそれは素晴らしい武器ですので、どんどん活用しましょう!
 
②板書をほとんどせず、しても殴り書きだったり字も汚い。しかし話術やプリントが秀逸。

個人名を出すことは憚られるかもしれませんが、心からの敬意を払って紹介させて頂きますと、元東進ハイスクールの「やまぐち健一」先生の授業などが該当すると思います。板書される字はお世辞にも綺麗とは言えませんが、素晴らしい語り口とマシンガントークで物理の真髄を語られるので、多くの受験生が惹きつけられていたのでしょうね。(残念ながら2018年に御逝去なさっています)

全てが100%の授業なんてものは存在しません。 その講師の売り、武器とするものがなんなのか、そしてそれは採用試験を行なっている会社のニーズに合っているのか。結局の所採用試験というのはそれを確認する場です。板書の見やすさの代わりに深い教養と熱い語り口で生徒を惹きつけ、あるいは復習しやすい作り込まれたプリントで生徒をフォローする、これも1つのプロ講師の形だと思います。

ちなみにこういうタイプの授業は成績上位クラスの生徒に受ける傾向が高いです。丁寧に板書している時間を削って、プロの予備校講師からしか得られない貴重な話や受験テクニックを聞いて、それを自分の中で昇華したいと考える生徒等です。こういう生徒達は基礎的知識はある程度自分で学習できていて、プラスαの内容を効率的に獲得したいと思っているので、そのニーズに合っているのですよね。

ただ、このスタイルはかなりの経験者の方で無いと受け入れられないことが多いと思います。新卒や20代前半の経験が浅い講師がこれを真似て大物ぶっても逆に「板書の基礎もできていないのか」と呆れられてしまうことにも繋がりかねません。教科書レベルの知識だけでなく、御本人の桁外れの教科知識や指導理論、また生徒を惹きつける人柄やカリスマ性を持ってして成立する形ですので、正直紹介やコネでもない、新たに採用試験を受けようとする人がやるのはおすすめしません。

③達筆ではないが、順序よく整理された、無理なく見やすい板書

講師採用試験の模擬授業において、最も多くの方におすすめしたいのがこの形式です。

達筆でなくとも文字が列からはみ出したり汚すぎたりしないで、内容がしっかり黒板に整理されていればそれで良いのです。

また本来板書とは、授業中の重要事項を文字や図で復習しやすいように残したり、口頭では伝えづらい概念を視覚的に表現したりするものですので、なんでもかんでも板書しすぎるのも考えものです。

要点や分かり辛い部分を板書で整理し、語彙や背景知識などは口頭やプリントで補充・・・などと、上手に使い分けるのが良いですね。

ちなみに、以前別の記事に載せた私の実際の授業中の板書画像です。ご参考までにどうぞ!

 

また、板書で大事なことですが、「しっかり書き写して欲しい内容」と「ここは見るだけで良い部分」をしっかり生徒に伝えることも大事です。

「はい!ここは大事な内容なのでしっかりノートに書き入れておいて下さい」「ここは後でプリントでも補充するからとにかくしっかり説明を聞くことに集中して、確実に理解して下さい!」という感じで、指示を明確にすると生徒は授業に集中しやすくなります。

また、いうまでもありませんが、模擬授業という限られた時間内で最大限のパフォーマンスを行う以上、事前に板書案を考えておいた方が良いのはいうまでもありません。「書いてまとめるべき場所」と「口頭での説明で十分な場所」をしっかり区別して準備して下さい。

半身の姿勢

これに関してはもう塾・予備校講師をやる者は必須で身につけるべき技能としか言いようがありません。

生徒に背中を向けて板書している時間が長いと、集中力の無い生徒はふざけたりしますし、こちらも生徒から目を離すことになります。

また、板書を生徒が書き写す際も、講師の体が邪魔になって板書が見えないということもあります。

黒板から90〜120度くらいの角度で立って、生徒の目線にも気を配っているように振る舞いながら、正面から書いているのと同じくらいのクオリティの板書ができるように練習して下さい

 板書も授業の一部であり、こちらが生徒に提供する商品の一部であるという認識を持って、模擬授業に臨んで頂きたいと思います。

その4「プリント・教材」

模擬授業の場合、大半の場合は教材は会社側が事前に指定してきます。その場合はその教材をしっかり予習・準備して授業に臨むことになりますが、もしこちらが教材を自由に選定して良い場合はどうすれば良いのか?という話です。
 
その際、向こうから「〜大を目標とする高3生を対象として」など、具体的な指定がなされることが多いです。その場合は当然そのレベルに合っていて、さらに自分の授業力を活かせる教材をセレクトして下さい
 
あまりにも簡単すぎて説明しがいのあるポイントがほとんど無い問題をセレクトしたり、逆に難関大志望クラスを想定しているからと言って複雑すぎたり答えの判断の分かれる問題をセレクトしても自分の首を締めるだけです。この場合、どのような教材をセレクトするかのセンスも問われていると考えておきましょう。
 
また、授業プリントですが、模擬授業でプリントを用意する場合、当然講師としてのあなたの教材作成能力を遺憾無く発揮しましょう!
 
基本的な話ですが、誤字脱字・フォントの不統一・情報を盛り込みすぎて生徒が見辛い・文字が偏って空白が目立つなどのことが無いようにして下さい。
 
加えて、プリントに説明内容を盛り込みすぎると口頭で説明することが無くなるので、口頭と板書だけでは試験時間内に扱いきれない、プラスαの情報や、紙媒体で生徒に渡しておきたい情報等を吟味してプリントを作成して下さい。
 
ちなみに私は今まで受けた模擬授業で自作プリントを用意して持っていったことは1回しかありません。「センター試験対策授業として、センター試験国語の大問1の評論文の問題解説を、15分ほどでポイントを絞って行え」という試験内容に対して、本文中の重要語句の解説と自作の段落構成表と、本文理解の為の背景知識をまとめたものをB5版1枚にまとめたものです。15分でそれらを板書していては肝心の口頭説明ができませんし、効率が悪い授業になってしまいますからね。プリントはあくまで授業の補助だと思っています

その5「オリジナリティ」

模擬授業だけでなく、授業全般に言えることですが、「オリジナリティがあった方が良いか?」ということを悩んでいらっしゃる方もいるかもしれません。

ひと昔前の予備校講師のような奇抜な衣装を着用して授業をするとか、一部の大手学習塾のようにとりあえず大声と元気を全面に押し出して行くとか、あるいは「元◯の肩書きを活かした個性的な授業」とか、まあ実際問題売れている講師の中にはそのような個性的な特徴を持つ方が色々いらっしゃいます。

あくまで私の私見ですが、「これらがあった方が良いか」という質問には「武器として持っていて悪いことは無い」と答えますし、「これらが無いと採用試験に受からないから無理にでも自分のオリジナリティを用意した方が良いか」という質問には「やめておいた方が良い」と答えます。

 

「80〜90年代の学生は講師にパフォーマンスや雑談を求め、それによって勉強の疲れを癒していた。中には授業時間の大半を雑談に費やして、それで人気講師となっていた人もいた」と、よくベテラン(50〜60代、あるいはそれ以上)の方々はおっしゃいます。

ですが、今は時代が違いますより分かりやすく、より密度の高い、より楽しい授業を、制限時間内にしっかり提供できる講師の方が求められる時代だと、教育業界を見ていて思います。

この「楽しい」というのは、パフォーマンスだけの話ではなく、「分かることによって勉強が面白くなる」「講師の話を聞いてやる気が出てくる」「勉強に対して前向きな気持ちになれる」という意味での「楽しい」だとお考え下さい。ですのでその為に適度に雑談や講師自身の人生訓などを入れてあげても良いでしょう。しかしそれはあくまで前向きに勉強に向かわせるための補助的な位置付けでちょうど良いと思います。

実際、そういう話の方が卒業後の生徒の頭の中に残っているということも、多いですからね(笑)。

ですので、例えば15分の模擬授業を行うとしたら、「こういう話もできますよ」ということを示す為に30秒位の雑談を入れてみるものありかもしれません。ただ、あくまで「分かりやすい説明」の骨組みをガッチリ作って、その中に効果的に組み入れないといけませんので、少なくとも短時間の模擬授業では無理にやる必要も無いと思います。

そして、そういう雑談や個性とかは、あなたがあなたの人生を必死に生きて来た中で自然と身についたり手に入ったりしたものがあると思うので、それらを自然に出すべき時に出せば良いのです。自分自身の受験勉強の話とか、学生時代のバカ話とか、恋愛の話とか、それらをちょっと工夫して、面白おかしく生徒に話すことができれば、それは生徒にとっても良い気分転換にもなります。

「面白い雑談」「爆笑のパフォーマンス」を優先して、無理に自分の授業スタイルに合わないものをねじ込んだりはしない方が良いですね。

終わりに 

さて、前編・後編に分けてお送り致しました「模擬授業」の方法論、いかがでしたでしょうか?

上記の内容を踏まえて、さらにそれだけでなく「その上で自分がこれを解説する場合どうしようか」と、ご自身でもよく考えて、後は自信を持って採用試験に臨んで下さい。採用試験は御縁の有無もあるので、自分ではできたと思っても結果が伴わないこともあるでしょう。でもあなたが本当に生徒のことを考え、学びを止めない講師であるなら、良いご縁にきっと巡り会えると思います。頑張って下さいね!

ではまた次回の記事でお会い致しましょう!

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中林 智人

記事執筆者:中林 智人

高校教師から塾講師・予備校講師に転身し、現在は河合塾・早稲田予備校にて国語を担当しつつ、都内の高校で非常勤講師としても活躍。講師業だけでなく執筆なども行う。「納得できる知識・論理的読解技術」「制限時間内に問題を解き偏差値を上げる戦略」「楽しく国語を勉強できる面白ネタ」をモットーに日々生徒に向き合っている。

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