表現力の伸ばし方
(前回記事:【ここまでやるか!?の小論文】-第1回-論理的な文章を見分けるための4つのポイント)
今回の記事では表現力に言及したいと思います。
表現力は、論理力や分析力よりも、ある意味、伸ばしにくい分野なのではないでしょうか。
実際、表現力について言及した参考書なんてほとんどありません。
けれども、前回の記事で紹介したとおり、小論文における表現力を評価するという大学があるのもの事実です。
表現力と聞くと少し怖くなるかもしれませんが、別に小説を書くわけではありません。
「分析に基づいて構成された論理的なアイデアをどのように表現するか」の問題なのです。
そして英語の授業で習った品詞、そして論理性の技術を少し応用するだけでグンと表現力が伸びます。
ここでは"表現力がある=少しかっこいい文が書ける”ということで、とりあえず定義して、
そうした文をかけるためにはどうしたらいいのかのポイントをまとめました。
① 名詞化する
少し知的に見せる技術の1つとして、
表現を名詞化するというものがあります。
特に、動詞や形容動詞を名詞化する技術は大変有効と言えるでしょう。
例えば以下の文章を例にとってみましょう。
「少子化問題を解決するためには、子供の教育費を減らすことである」
このうち動詞または形容動詞に該当するのは“解決する”“減らす”の部分です。
これらを“解決策”“軽減”に変更すると次のようになります。
「少子化問題の解決策は、子供の教育費の軽減である」
かなりシンプルになりましたし、少し知的な感じがします。他にも例を出していきましょう。
-例1-
「日本の職場では残業で夜遅くまで働くことが問題となっている」
【変更するワード】“夜遅くまで”“働く”“問題となっている”
「日本の職場では残業による深夜労働が問題化している」
-例2-
「自殺する人の数がかなり増えている」
【変更するワード】“自殺する人”“増えている”
「自殺者数が増加している」
-例3-
「日々私たちが食べているものの多くは輸入されたものである」
【変更するワード】“食べているもの”輸入されたもの“
「日本にある食品の多くは輸入品である」
ただし注意点が1つ。
確かに名詞化を意識することで知的に見せる、かつシンプルにすることができます。
けれども、名詞化された文章が全てにおいていいというわけではありません。
実際、名詞化された文よりも動詞や形容動詞を多用した文の方が、すっと頭に入ってくることが多いです。
というのも、私たちの日常会話において“解決策”や“軽減”といった言葉を用いないためです。
名詞化された文はある意味文語体とも言えるのです。
② 形容詞や副詞を多用する
さて、今度は別の方面から攻めてみましょう。
皆さんは形容詞や副詞の役割をご存知でしょうか?
形容詞は名詞を修飾するものであり、副詞は名詞以外を修飾するものです。
では、ここでさらに踏み込んで“修飾”とは何でしょうか?
それはその言葉を飾る、つまり説明しているのです。
表現力とは、受験者が考えた論理的なアイデアをいかにそのまま伝えるかですので、
修飾は必ず必要となります。
例えば以下の文。
「日本の自給率を向上させるためには農業全体の改革が必要だ」
これを
「日本の低迷している自給率を向上させるためには、農業全体の段階的な改革が必要だ」
と書き換えるとよりわかりやすくなります。
後者の文の良さは以下の点にあります。
・ 日本の自給率の状態を端的に表現している
・ 改革の内容をイメージしやすい
前者の文に比べて、後者の文を読むと、日本の「自給率が低い」という問題点を意識することができるのです。
さらに改革が必要だと言われてもどのような?と気になってしまうところを“段階的な”を付け加えることで、その改革に複数のフェーズがあることがわかります。
③トピックを切らない
論理的な文章との関連もありますが、文章を書く時は人の思考の流れを意識する必要があります。
例えば以下の文章を読んでみてください。
小論文を書くためにはどうしても論理の話をしなければならない。主張とはその人の言いたいことであり、理由とはそれを支持するものである。論理はこのセットが組み合わさって成立するものと考えて良いだろう。
1文目と2文目の間に何か大きな溝があるような気がしませんか?
これは1文目が「論理」について述べている一方、2文目では「主張と理由」について述べており、トピックが途切れています。
読み手は1文目を読んで「論理」について話すんだと心構えをしているところに、「主張と論理」の話が出て不意をつかれているのですから、少し読みにくくなることが予想されます。
(もしかしたらすでに論理のイメージを “主張と理由”として捉えているのであれば問題はないかもしれませんが、誰もがそうだとは限りません)
では、「論理とは主張と理由の組み合わせのことであるが、」という補足を加えるとどうでしょうか。
小論文を書くためにはどうしても論理の話をしなければならない。論理とは主張と理由の組み合わせのことであるが、主張とはその人の言いたいことであり、理由とはそれを支持するものである。論理はこのセットが組み合わさって成立するものと考えて良いだろう。
少しすっきりしたかと思います。
というのも、1文目と2文目が挿入した補足によって連動しているからです。
人は読みながら何かを考えます。
「ここでは何の話をしているのだろう」「この人は何を考えているのだろう」。
読み手がその部分を読むとき、どのような思考を展開しているのかを意識しながら小論文を書くことが大切です。
ですからある意味、あなたが小論文を添削しているとき、
“よくわからないけれど頭にすっと入ってこない文”
に出くわしたとき、容赦なく減点してください。
それはその文章が美しくない(文同士のトピックがつながっていない)からだと思います。
実際よくわからない文章を読んでみると、文と文のトピックがバラバラになっていたりするものです。
表現力を鍛えるためには
今まで紹介してきた技法は簡単に使いこなせるものではありません。
それでは表現力を鍛えるにはどうしたらいいのでしょうか。
私が提案することは2つ。
品詞の意識
他人の小論文を批判すること
です。
品詞について
上で紹介した技法の3つのうち2つは品詞に関係するものです。
ですから、品詞について理解がなければそもそも使いこなすことはできません。
どの部分が名詞・形容詞・形容動詞・副詞なのかの理解だけでもいいので、それらの知識を総復習するのはひとつの手でしょう。
さらにいえば、自分が書いた小論文を書き直すこと。
書いた小論文で名詞・動詞に○をつけ、そこに形容詞や副詞を付け加えるとしたらどのようなものが適しているのかを考えるのもありだと思います。
他人の小論文を読むこと
生徒に誰かの小論文を添削させてください。
あるいは記事を添削するのもいいかもしれません。
生徒に名詞化をさせるのは少し難しいかもしれませんが、名詞や動詞に新しい修飾語を付け加えることはできます。
また、他人の小論文を深く読むことで、新しい表現方法を習得することもあります。
これは是非やってもらいたいと思います。
まとめ
簡単な文章は往々にして動詞で書かれていたり、端的に書かれていることが多いです。
それを正確にかつ知的に表現するためには、以下のことが必要となってきます。
できるだけ名詞化する。特に動詞や形容動詞。
名詞には形容詞を、動詞には副詞を付け加えるようにする。
文の間でトピックを区切らない。
表現力は小論文においてかなり軽視されがちな分野だと思います。
けれども表現力も大学に評価される1つのポイントです。
表現力について書かれた参考書はかなり少ないですし、表現力について言及する講師も少ないと思います。
今回の記事が、表現力について指導しようとする講師が増えるきっかけになればと思います。