塾業界の今を探る塾業界レポートvol.1「塾業界の現状と課題」
Vol.1 「塾業界の現状と課題」:もくじ
講師の皆様こんにちは!
人材教育コンサルタントの上田一輝です。
今回から数回にわたり「塾業界レポート」と題して、業界全体の動向全体を考えていく記事をお送りしていきます。塾講師はバイトとして見ると楽しいけど、就職はどうなんだろう…。
将来教員になりたいと思っているけれど、採用試験は難しいし…塾に興味もあるけど、あまり良い評判を聞かなくて不安…。
子供のことが好きで、塾講師になりたい!正社員として、実際に働くイメージを知りたい!
といった、「正社員としての就職として、塾業界はアリなのか?」と考えている方、必見です!
1、「塾業界の将来性はない」は真実か?
初回では、塾業界の現状を確認していきたいと思います。
というのも”塾業界は少子高齢化で潰れる”という論調が後を絶たないからです。
(もしこれが真実であれば、どの会社を選んでも意味が無い、ということになってしまいますよね?)
そこで、手始めに各社の統計データを引用させて頂きました。
ご自身でお読みいただいたうえで、将来性について考えてみましょう。
教育業界は小・中・高校生を対象とした進学向けと、キャリアアップを目的とした社会人向けの2つに分けられます。(中略)少子化による影響で子供の数は減少傾向にあるものの、塾通いの子供の数は増加。特に中高一貫校に人気が集まり、中学受験を中心に、全体でも堅調な伸びを見せています。しかしながら、長期的には少子化の影響は逃れられず、長期的には緩やかな縮小傾向が続くと見られます。こうした動向を受け、教育業界では生き残りをかけた再編が加速しています。
(出典:http://gyokai-search.com/3-kyoiku.htm)
2014 年度の学習塾・予備校市場規模は前年度比0.2%増の9,380 億円となった。前年度は当該市場の拡大を牽引してきた個別指導塾の成長鈍化などを受け縮小したが、2014 年度はわずかながらも前年度を上回った。ただ、少子化の進行によって当該市場の対象人口は減少を続けており、限られた顧客層を奪い合う形で、業績を伸長させる事業者とそれ以外の事業者において、明暗が分かれている。また、高卒生の減少は、予備校市場に大きな影響を与えている。2015 年度も、参入事業者間の業績に両極が見られることが考えられ、これらが相殺される形となって、学習塾・予備校市場規模は横ばい基調になるものと予測する。
(出典:教育産業白書2015年版 矢野経済研究所)
大学全入時代への突入など、少子化の進展や教育に対するニーズの変化による影響が顕在化した現在、学習塾業界は大きな転換期を迎えています。その象徴といえる出来事として記憶に新しいのは、予備校御三家(駿台予備学校・河合塾・代々木ゼミナール)の1つである代ゼミが、2014年8月に大規模な事業縮小に踏み切ると発表したことです。 (中略) 従来、教育関連への支出を「聖域」とみなす保護者が多いとされてきました。しかし、世帯年収の減少などを背景に教育関連への支出を削り、家計への負担が大きい私立よりも国公立への入学や、現役合格を希望する保護者が増えているといわれています。一方、教育に熱心な保護者は一定数存在しています。このような保護者は、子どもの習熟度に合わせた個別指導や、難関校の受験に強みをもつ学習塾に子どもを通わせる傾向があるようです。学習塾では、多様化する教育へのニーズに対応していくことが求められています。
(出典:http://www.bk.mufg.jp/houjin/riseupclub/2014/11/post-85.html?readmore=1#main)
さて、異なる出典元から引用させて頂きましたが、メッセージは意外にもあまり変わらないことに気付かれたでしょうか。私の観点から、いくつかピックアップして分析してみましょう。
2、少子高齢化の影響は意外と少ない
冒頭に申し上げた「塾業界は少子高齢化が進んでいるから先はないぞ!」という観点。
これは明らかに間違っていると考えられます。
なぜなら、少子高齢化は国の統計から予測を立てることができる“ほぼ確実な未来”であるため、対策をすることができるからです。
確かに市場規模としては縮小し、雇用者総計は少なくなっていくと思われます。
しかし、だからといって“雇用されている人全員が不幸になる(収入が減ったり、リストラされる”だったり、”就職先として絶対にダメ”と決めつけるのはあまりにも乱暴な論理です。
冷静に考えればわかりますが、少子高齢化のダメージを受けるのは日本企業全体であって、塾業界に限った話ではありません。
むしろ怖いのは“予期せぬ変化”です。シャープの経営危機は記憶に新しいところかと思いますが、技術革新に伴う需給バランスの変化は急速で、対応できずに倒産する会社が相次いでいます。
この点において、製造業や小売業に比べ、固定費用(お客様の人数に関わらず、常にかかる費用)が少ない塾業界は、リスクが低いといえるでしょう。
Tips 少子高齢化予測
国土交通省が毎年、予測を出していますが、その公表によると出生率が1.35程度で推移した場合、2050年の人口は1億人を割り込み、2100年にはその半分の5千万人を割り込むまで減少すると推計されています。
出典:http://www.mlit.go.jp/hakusyo/mlit/h26/hakusho/h27/index.html
3、高卒生の減少
高卒生(浪人生)は急速に減少している、といわれています。
これは推薦入試やAO入試といった、現役生優位な入試が増えたことに加え、浪人に価値を見出さなくなった受験生・保護者が増えたことが影響しています。
スタディサプリ独自調査によると、現在は7.7人に1人が浪人生活を送っている計算になるそうです。これは、1985年は2.5人に1人、2000年は5人に1人が浪人生であったことを考えると、急激に減少していることがわかると思います。
参考 http://goukaku-suppli.com/rounin-nannin/
このことから、塾業界は「現役合格率が高い=効率よく学習指導ができる塾」が生き残っていくと考えられます。
4、限られた顧客層
そもそも、塾に通わせることができるのは「学歴の価値を感じており、かつ塾費用をねん出できる」家庭のみです。学力や学歴にまったく興味がなければ塾に行かせよう、とはならないですし、費用が用意できない家庭は残念ながら塾に通わせることはできません。
では、実際にどれくらい顧客になる可能性がある方がいらっしゃるのでしょうか。
簡単な推計をしてみましょう。
- 全国の世帯は約5000万世帯
- 学歴に興味がある親の割合を大学の進学率である56.5%
- 年収600万以上で塾に通わせられる
- 未婚の子がいる世帯のうち、半分が就学児である
- 一世帯当たりの子供人数は1.69人
と仮定すると
5000万世帯×56.5%(学歴に興味あり)×33.2%(600万以上)×28.8%(未婚の子がいる世帯)×50%×1.69=228万人となります。
参考
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa14/index.html
http://www.garbagenews.net/archives/2014387.html
この結果から、塾業界は皆様が思う以上に、極めて限られた市場で顧客を奪い合っていることがわかると思います。
サラリーマンの所得にも大きく揺さぶられる業界であることも意識しなければなりません。
ただし、一度顧客獲得が成功すると単価も高く、継続的に通ってくれる方が多いことから、いかに生徒を初期段階で獲得することが重要か、ということが窺えます。
5、ニーズの二極化
更に顧客ニーズ(求めているもの)は細分化されつつあります。
その象徴的な現象が「個別指導塾の急増」です。
個別指導塾はフランチャイズ(自分で経営したい、オーナーを集って規模拡大させるビジネスモデル)を中心に、急激に勢いを増しました。
これは会社側の利益率が良かったことに加え、「一人ひとりのニーズに柔軟に対応してほしい!」という保護者の要望をうまくくみ取った結果といえます。
引用:http://www.tact-net.jp/fc/ie/
全国学習塾協会から引用すると
個別指導では「自分のペースで学べるから」が56.5%と最も多く、次いで「きめ細かく
対応してくれるから」(53.3%)、「子供の性格にあっているから」(44.9%)となった。
引用 全国学習塾協会 塾生保護者に関する実態調査結果
http://www.jja.or.jp/information/201005chousa/shohisha.pdf
となっています。
学力に不安がある生徒を持つ保護者は“苦手分野から、丁寧に教えてほしい”と考えることが多いため、個別指導塾の人気につながっているようです。
一方、難関校受験対策としては、中学受験のサピックスは集団指導、東進ハイスクールは映像授業を中心に展開しており、いずれも人気を伸ばしています。
この2社に共通するのは“圧倒的な合格実績”。
既に自分で学ぶ力があり、さらに高みを目指したい生徒・保護者にとっては、個別指導塾よりも専門性が高いプロ講師に教わることを望むようです。
このことから、顧客ニーズも大きく分かれてきており、“中途半端な塾”は生き残りが難しくなっていくことが予想されます。
6、総論
感情論に振り回されず、ロジカルに分析していくと
少子高齢化は決して怖い存在ではなく、うまく経営側が付き合うべき課題である
高卒生は減少の一途をたどっており、高卒生だけのビジネスは成り立たなくなりつつある
顧客層は狭く、日本経済の動向により世帯年収が下がることは大きなリスクにつながる
ニーズは受験対策か補習に二極化しており、勝ち組企業・負け組企業がはっきりしている
ということがご理解いただけたのではないでしょうか。
最後に私の意見をいくつか。
まず、業界全体が地盤沈下しているとは言えないことが、この分析からわかると思います。
「少子高齢化」や「学力偏重主義からの脱却」といった要素も、予め経営に織り込んで考えれば、決して対処できない課題ではありません。
むしろ、経営者の力量が問われる局面に来ている、と言えるでしょう。
次に、企業間競争の結果として、脱落している企業と伸びている企業の二極化が進行している点は見逃せません。
既に業界全体が成熟しつつあり、小規模塾の経営は更に厳しくなってくることが予想されます。
あとはいかに”限られた顧客”のニーズを1つずつ、丁寧に救い上げることができるかが、その後の明暗を分けることになるでしょう。
最後に、塾業界への就活を考えている学生は、自分が補習型教育・受験型教育のどちらに力点を置きたいかによって、就職するべき塾ブランドが変わっていくことに注意が必要です。
大手だから安全・有名だから良い、と短絡的に考えず、自分が行いたい教育をきちんと考えることが「こんなはずじゃなかった!」という離職を防ぐことに繋がります。
さて、次回は「ブラック企業が多い」と言われる事が多い、塾業界の真相を探っていきたいと思います!
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