塾業界レポートvol.3「塾業界の希望と未来」
塾業界はこれからどうなるのか?
講師の皆様こんにちは!
人材教育コンサルタントの上田一輝です。
数回にわたり業界全体の動向を考えていく「塾業界レポート」。
「正社員としての就職で、塾業界はアリなのか?」と考えている方
既に塾業界で働いているが、将来が描けず転職や離職などを検討している方
経営層として業界全体に課題意識をお持ちの方
といった方を対象に、連載しております。
さて、今回は「塾業界の希望と未来」について、明るく論じていきます。
前回は“ブラックな部分”をお伝えしましたが、実は塾業界には明るいニュースもたくさんあります。
特に就職先として塾業界を考えていらっしゃる方は、ぜひ参考にしてみてくださいね。
(参考)
塾業界レポートvol.2「塾業界の真相~ブラック批判について~」
http://www.juku.st/info/entry/1725
塾業界レポートvol.1「塾業界の現状と課題」
http://www.juku.st/info/entry/1705
プロが重宝される時代が来る
Vol.1では「少子高齢化は意外と影響が少ない」と述べました。
このことを裏付けるように、ここ最近の求人動向はとても好調です。
出典:http://diamond.jp/articles/-/85861
この図は非常勤講師ですが、現場でも「講師が(正社員・アルバイトともに)足りないよねぇ」という声をよく聞くようになりました。
これは一過性のものでない、と私は考えます。
なぜなら「アルバイトに授業を頼る」というスタイルが、少しずつ崩れてきているからです。
塾講師=ブラックバイト、という認識が残念ながら定着してしまった今、塾講師応募者数は減少を続けています。「昨年、首都圏の塾大手は前年比で応募数が30~50%も落ちました。必要な講師を確保できず、開校を断念する塾もありました」(富田氏)
出典:http://diamond.jp/articles/-/85861?page=2
にも関わらず、個別指導塾の増加で講師は必要数が増えています。
よって、地方の中小塾を中心に、深刻な人材不足に陥っている塾が相次いでいます。
また、塾は月謝でお客さまの選択が変わりやすいため、すぐに客単価を上げることが難しい業界です。むしろ顧客獲得のため客単価を下げる傾向にあります。
結果、しわ寄せとしてアルバイトの時給が少しずつ下がりつつあり、ますますの求人難につながっています。
※とはいえ、アルバイトとしての時給は高額ですが…
2016年6月のアルバイト時給の全国平均は982円。
塾講師・家庭教師は1385円となっています。
http://www.baitoru.com/contents/info/20150420.html
また、保護者が講師に求めるレベルが高くなり、受験対策なら、(失礼ですが)大学生よりも専門で教えている人に…という声が増えています。
そのため正社員の求人を増やしたり、プロ講師を募集したりする塾が増えました。
しかし、講師はすぐには育ちません。
授業で試行錯誤を繰り返し、ときには保護者のクレームで落ち込みながら、成長していくものです。
単にマニュアルを読み込むだけでは、生徒を合格に導くことは難しいものです。
そのため、経験を積んでいる講師の方は、当面仕事が無くなることはないように感じています。
そしてこの傾向がしばらく続くことは、ほぼ間違いないでしょう。
新たに塾業界に入りたい!と考えている方にとっても、今はとてもよい時代ではないでしょうか。
学習塾の淘汰は、労働環境改善に繋がる可能性がある
Vol.2で見たとおり、現在の塾業界の構造は“競争過多”と言えます。
特に「新規参入者」と「業界内の敵対関係の強さ」が、塾業界を疲弊させる大きな要因となっていることは間違いないでしょう。
しかし、少子高齢化に対応できない・自社の強み(セールスポイント)を明確にできない企業は、今後10年で淘汰されていくと考えられます。
事実、増収減益(売上は伸びているが、利益が減っている)の企業が増えており、また年々赤字企業も増えていることがわかっています。
最新期決算の売上と利益は、最多が「増収増益」の81社(前期比6.8%減、前期87社)だったが社数は前期より6社減少した。一方、「増収減益」は57社(同23.9%増、同46社)で11社増加した。…(中略)…赤字企業は、最新期で58社(構成比18.0%)にのぼった。前々期が46社(同14.3%)だったが、前期が49社(同15.2%)で年々増加を続け、業界の経営環境が厳しさを反映している。
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141008_3.html
塾業界が淘汰され、寡占化していく(生き残った少ない企業だけが残る)ことは容易に予想がつきますね。
そして、意外なことにこのことは労働環境改善につながるケースが多く見られます。
なぜなら大規模することで効率化がすすみ、不要な労働が減っていくためです。
部長・課長などの管理職ポストも増えていくため、昇進による給与向上も期待できるようになります。
加えて、大手企業になると官公庁の監督も厳しくなるため、オーナー企業のような“無茶な振る舞い”が許されにくくなります。
労働基準監督署もより厳しく目を光らせるようになりますから、サービス残業がゼロになることはないにしても、減っていくことになるでしょう。
実際の企業における、改善取り組み事例
さて、ここまでは主に“塾業界の未来”について語ってきました。
思っていた以上に明るい!と感じた人が多いのではないでしょうか。
最後に、労働環境の改善や、既存の状況を打破しようとチャレンジしている企業を、いくつかご紹介します。
明光義塾(株式会社明光ネットワークジャパン)
個別指導塾の業界最大手、明光義塾。
破竹の快進撃を続けてきましたが、ブラック企業大賞2015にノミネートしてしまい「ブラックバイトの代名詞」になってしまいました。
現在はこの企業イメージを払拭しようと、労働状況の数値をしっかり出すようになりました。
特に好感が持てるのは、残籍率や育休のリターン率を明示していること。
ありのままの姿を出すことで、自社をしっかり見て欲しい、と考えていることが伺えます。
https://meiko-saiyo.com/feature/#feature04
昴(株式会社昴)
鹿児島・宮崎・熊本・福岡の4県で77校を開設している中堅塾。
ここでの面白い取り組みは、ブログを活用して企業の情報を発信していること。
人事部主導で情報を開示すると、どうしても生の声やリアルタイムの状況がわかりづらいもの。
ここでは人事以外の方も積極的に情報開示することで、雰囲気を応募者にわかってもらおう!と思っていることが伝わります。
1965年から50年、地元密着型塾として愛されていることからも、その強みがわかりますね。
http://subaru-net.co.jp/blog/
進学塾ena(株式会社学究社)
2015年11月に東証一部に上場した、勢いのある企業。約300校を首都圏中心に展開しています。
ここでの求人のウリは「教育業界改革」。
リクナビのトップページで“残業禁止”を打ち出しているのは、業界においてはすごいことです。
また、年間休日も業界トップクラス。
就活生の「塾業界に対する不安」をうまく捉え、解消しようと考えていることが伺えますね。
https://job.rikunabi.com/2017/company/employ/r582300005/
秀英予備校(株式会社秀英予備校)
東証一部に上場しており、全国14道県に240以上の校舎を持つ秀英予備校。
先ほどお伝えした「プロ講師ニーズが増える」という点に、いち早く対応していたのがこの企業です。
「業界中、正社員比率はNo.1」を軸に、自社で優秀な講師を育てることに注力しています。
一般的な授業はアルバイト、管理は正社員…というスタイルではなく、講師も自社で抱えることで、独自性を
発揮しようとしていることが見て取れますね。
https://job.rikunabi.com/2017/company/top/r555700061/
まとめ 塾業界の将来性
ここまでの塾業界レポート、いかがでしたでしょうか。
Vol.1で過去から現在
Vol.2で現在の課題
Vol.3で現在から未来への挑戦
について、様々な情報を引用しながらお伝えしてきました。
総論として、この3回でお話ししてきたことをまとめておきましょう。
少子高齢化は予測できる未来であるため、業界にとって大きな脅威にはなりません。
もちろん、それを見越した経営ができることが前提ですが、少子高齢化を予測せずに経営している経営者はほ
ぼ存在しないため、大手なら生き残ることは可能でしょう。
むしろ考えるべきは、顧客のニーズ変化。
限られた顧客を奪い合う競争過多な市場において、きちんとニーズを汲み取り、顧客を満足させることは企業
存続の必須条件と言えます。
従って、ただ単純に規模が大きい企業よりも、他の企業より優れた点を持っていることが重要な時代になっています。
ブラック企業批判については、残念ながら事実の部分も多々あります。
個別で見れば少しずつ改善事例も出ていますが、業界全体が厳しい環境のため、大幅な改善は望めない状態です。
また、給与が安いことよりも労働時間が長く、離職率が高いことが大きな課題となっています。
この点については企業間の差が大きく、就職先をきちんと選ぶことが応募者にとっては重要になってくるでしょう。
とはいえ、塾業界の未来は決して暗いものではありません。
企業間競争が淘汰により穏やかになると、少しずつ業界が成熟し、労働環境が整備されていくことが予測され
ます。
また、生徒数が減っても講師求人は上昇、あるいは横ばいの状況が数年は続き、優秀な講師は“引っ張りだ
こ”の状況が続くでしょう。
だからこそ、業界で生き残るためには「自分の力で生徒を合格に導くことができる」教務力を高めていくこと
が肝要です。
次号からは「実際に正社員として応募すること」を検討している方向けに、より具体的な手法をお伝えしてま
いります。
引き続き、次号もお楽しみに!