塾講師レポートvol.7「非常勤講師の育成と離職防止に向けて」
採用後、どれだけ定着できるか…で経営は変わります
皆様こんにちは。
人材教育コンサルタントの上田一輝です。
数回にわたり業界全体の動向を考えていく「塾業界レポート」。
「正社員としての就職で、塾業界はアリなのか?」と考えている方
既に塾業界で働いているが、将来が描けず転職や離職などを検討している方
経営層として業界全体に課題意識を持っている方
といった方を対象に、連載しております。
(参考)
vol.6「非常勤講師の採用基準」
http://www.juku.st/info/entry/1776
vol.5「求人難の現状」
http://www.juku.st/info/entry/1759
vol.4「就活と塾業界」
http://www.juku.st/info/entry/1744
vol.3「塾業界の希望と未来」
http://www.juku.st/info/entry/1735
vol.2「塾業界の真相~ブラック批判について~」
http://www.juku.st/info/entry/1725
vol.1「塾業界の現状と課題」
http://www.juku.st/info/entry/1705
今回は、前回の続きとして、採用後の処遇について考えていきます。
やっとの思いで採用した人材をいかに早く戦力化し、かつ長く働いてもらうか…。
求人難だからこそ、その巧拙が経営の成否を分けることになるかもしれません。
採用後に意識するべきこととは?
採用通知後、特に意識するべきは「接触回数」です。
繰り返し接すると好意度や印象が高まるという効果を、単純接触効果と呼びますが、これは採用時に大きな力を発揮します。
採用通知をした段階では、まだ他社と迷っていたり、仕事に対する不安が大きいものです。
なるべく自社に対して安心感を持ってもらうためにも、できるだけ採用担当者が直接会う機会をつくるようにしましょう。
また、その際は「○○が良かったから採用したんだよ」と具体的に良かった点を褒めることで、労働意欲にも繋がります。
研修後、仮に与えるコマが無かったとしても、少なくとも週1回は教室に通う習慣をつけてもらうとよいでしょう。(その場合、OJTとして先輩講師の授業を見てもらったり、模擬授業をさせることが適当です)
配属前(授業前)研修の効果的な実施方法
即戦力になる学生講師など、まず存在しません。
そこで研修を実施することになると思いますが、その際のポイントをいくつかお伝えします。
1、基礎知識の拡充
まず、お勧めしたいのは、知識のインプットは極力「勤務時間外」に行ってもらうこと。
例えば
- ビジネスマナーの基礎について書かれた書籍を読んでもらう
- 指導予定科目の問題集を1冊渡し、解いてきてもらう
などは教材を渡し、次回研修までに読んでもらうようにするとよいでしょう。
ちなみに、大学生講師のほとんどは、マナーを知りません。(特に大学1年生はまだ全く!)
例えば社会人常識である「お疲れ様です。」という挨拶ですが、高校生では使うことが全くない為、何も言わないと戸惑ってしまうようです。
そのため、マナー関連書籍を読ませることは、必須と考えたほうがいいでしょう。
(参考)まるわかり!採用後の「講師研修」とは?(1)
http://www.juku.st/info/entry/559
2、経験学習を繰り返す
そして経験が必要な授業部分については、OJTとして授業見学と模擬授業を行います。
授業見学ではなるべく複数の担当者を見せることで、多様な生徒に合わせた、様々な指導法があることを理解してもらいます。
模擬授業では事前に予習をしてもらい、10分程度の授業を行ってもらうとよいでしょう。
ここでフィードバックを行い、次に繋げる…ということを数回実施することで、安心して授業を任せる素地が出来上がります。
なお、ここでは“学生同士に指導させる”と、とても良い効果が生まれます。
年代が近いと、人は親近感を覚えやすく、関係性も強化されます。
最終チェックだけは責任者や人事担当者が行う必要があるかと思いますが、それ以外の研修は極力、先輩講師に任せることが、離職率低減に大きな効果を発揮します。
3、研修時の報酬について
研修には、なるべくお金を払いたくない…というのが本音かと思います。
そこで、自宅でできるものについては、極力自主学習していただくようにします。
もちろん量が多すぎると問題ですが、意欲が高いうちに知識をインプットさせることは有用です。ぜひ取り組ませましょう。
逆にしてはいけないことは、明らかに業務であることに対し、給与を支払わないこと。
- 教室掃除として、時間外勤務を10分強制させる
- 月例ミーティングを行う際の給与を払わない
等を行うと、大幅に労働意欲が下がります。
先ほどのように「自宅でいつでもできる」内容とは違い、校舎にいなければ行えない業務については、原則として給与を支払わなければなりません。
なお、これは採用時のポイントにもつながります。
学生は無賃労働にとても過敏になっています。
そのため、担当者が「これぐらいいいだろう」と考えるサービス残業があるだけで退職してしまう実情があります。
例えば時給1600円×3時間で、無賃労働(前後拘束)が1時間だったとしたら、
平均時給は1200円、悪くないですよね。
しかし、このような働き方は「ブラック」と言われ、定着率を大きく下げてしまいます。
それであれば授業給1200円、前後1時間に1000円、と契約して、それを遵守します。
すると、支払額は4600円となり、賃金は下げながらブラックと言われるリスクを回避することができます。
人事考課は行うべきか
授業に慣れてくると、徐々に入社時の気持ちを忘れ、ルーチンワークのように業務をこなしがちになっていきます。
そこで年に2回程度、人事考課面談を行うとよいでしょう。
とはいえ、正社員のようにじっくり行う必要はありません。
1対1の閉じられた空間で、10分も話せば十分です。
話す内容としては
- 今の勤務に対する不満/課題を聞いたうえで、こちらの要望を伝える
- 次の半年における、働き方の相談(大学生は授業変更に伴い、勤務日が変わりやすい為)
たったこれだけのことで、大学生講師の離職率が下がります。
日頃と違う環境で“講師一人一人を見てくれている”という感覚は、とても印象に残ります。
人は、期待を持ってくれる人のために成長するものです。
ぜひ日頃の感謝を述べたうえで、こちらの期待を伝えるようにしましょう。
なお、ここで昇給の話ができるようであれば、ぜひ検討してあげて下さい。
多くの人は昇給をすること自体が、その期間の貢献に対する直接的成果だと感じます。
金額の多寡はその際、あまり重要にならないものです。
離職率を減らすために
大学生である以上、いつかは必ず退職する時が来ます。
(もちろん、会社に惚れ込んで正社員になりたい!という人はいますが、ずっと非常勤で働く方は少数派です)
ですので、ある程度は退職時期を予測して、人数が充足していても採用活動は継続して行うとよいでしょう。
とはいえ、仕事とのアンマッチや人間関係から、入社してすぐに退職してしまう講師もいます。
特に研修直後に退職されてしまうと、金銭的・時間的な損失ばかりでなく、職場のモチベーションも下がってしまいますよね。
そこで、このような事態が起こらないようには、とにかく対話をすることが重要です。
- 研修期間の途中で「入社前に思っていたことと、実際の業務で違うこと」はあるか
- 授業でわからない点や気がかりな点はあるか
- 働いて数か月たった時点で、もっと○○したい!と思うことはあるか
等の質問を通して、なるべく不満を早期に解消します。
人は1つの不満を感じてすぐに辞めることはありません。
植物のように少しずつ、自分の中で不信感を成長させていき、結果的に退職するのです。
その対策として、こまめに「退職に繋がる芽」を摘み取るようにしていきましょう。
補足 プロ非常勤講師について
本記事では、主に大学生・新卒の採用・教育面について扱ってきました。
しかし現場では、ベテランの社会人講師が、難関クラスを中心に合格実績を作り上げてくれている…という会社もあるのではないでしょうか。
母集団としては少ない社会人講師ですが、採用できればメリットは大きいといえます。
それは“勤務可能日が多く、かつ複数校舎の勤務をしてもらいやすい”ということです。
さらに保護者からみても、年配の先生がいることは、安心して任せられる一つの理由となります。
但し、社会人講師は生活がかかっているため、特に時給にシビアな方が多いです。
そのため個別指導塾では中々定着しづらく、どうしても大手集団塾に集中する傾向にあります。
今回は地元密着型の個別指導における採用を想定して執筆したため、あえて本内容は外しました。
ご了承ください。
まとめ 仕組みを整備する
最後に、重要なことを伝えたいと思います。
それは「お伝えした内容を、誰が担当しても実現できる状態にする」ということです。
正社員を強みとしている塾以外では、ほとんどの講師は学生アルバイトに頼っていると思います。
彼らの平均勤務年数は数年程度であり、常に補充が必要です。
そのため、あまり採用費をかけられない中で、継続的に採用し、育成する仕組みづくりが重要となります。(正社員比率を下げることで、コストを抑えるはずが、退職者が相次ぐことで、結局、あまり変わらなかった…となってしまっては、本末転倒ですよね。)
全ての人事業務を正社員が担っている限り、限界があります。
そこでなるべく、ベテランの学生アルバイトに面談や研修をお願いしていくのです。
人は、任せることで成長し、やりがいを感じていきます。
それこそが、最大の離職率低減効果に繋がるものです。
ぜひ本記事を読まれた後、実際に行動してみてください。
必ず、組織は変わっていきます。
次回、Vol.8では今までお伝えした情報を総括しながら、塾業界が今後目指すべき方向性について、論じていきます。
次回もお楽しみに!