【これからのスタンダード】プロ講師が考えるアクティブラーニング授業とは?
こんにちは!国語科講師の中林です。
中林 智人 なかばやし ともひと
高校教師から塾講師・予備校講師に転身し、現在は河合塾・早稲田予備校にて国語を担当しつつ、都内の高校で非常勤講師としても活躍。講師業だけでなく執筆なども行う。「納得できる知識・論理的読解技術」「制限時間内に問題を解き偏差値を上げる戦略」「楽しく国語を勉強できる面白ネタ」をモットーに日々生徒に向き合っている。
突然ですが、皆様は「ラーニングピラミッド」をご存知ですか?
アメリカ国立訓練研究所という所が発表した研究結果なのですが、どの学習方法が知識として定着しやすいかを分類してピラミッド型の図にしたものです。以下の図の通りです。
引用:キャリア教育コラム「平均学習定着率が向上するラーニングピラミッドとは?」
これを見てもわかるように、知識の定着というのは学習者本人による作業が多ければ多いほど効率的に達成されるものです。
特に、学習した内容に関して「討論・説明」を生徒にさせることによって、より生徒本人がその内容を自身で深めることができるのは納得ですね。実際私も、自分が受験生時代は理解が浅かった為無理矢理暗記していた事項を、教育者となって予習・説明する際に理解が深まっていくということがありました。
そして、この「討論・実体験・他者への教授」等の方法で積極的に頭を使いながら学習していく方法を「アクティブラーニング(探究型学習)」と言います。
元々大学のゼミや一部の中学・高等学校の授業で取り入れられていた方法ですが、近年塾・予備校でもこのアクティブラーニングを取り入れているところが増えてきています。何しろ2020年の文部科学省による学習指導要領の改訂でも、新たな学習法として推奨されているくらいですので、次代の教育を担っていくプロ講師たるもの、この学習法を活用した指導スタイルを是非身につけておきたいところですよね。
特に今はコロナ禍の中でzoom等を利用したオンライン授業が盛んですので、以前の私の記事で申し上げましたように、なかなか講義内容を生徒がどこまで定着させられたかが分かり辛い状態の方が多いと思います。
そんな中だからこそ、アクティブラーニングを積極的に行って生徒の定着率を飛躍的に向上し、彼らの成績の向上に繋げることができれば、まさに時代にあった教育のできるプロ講師と言えると思います。
目次
・個別指導のアクティブラーニング
・集団授業のアクティブラーニング
・オンライン(zoom)授業のアクティブラーニング
・注意事項&よくある質問
・終わりに〜「表現力」の必要性〜
個別指導のアクティブラーニング
個別指導の場合、生徒も1対1(あるいは2)なので、基本的には集団授業と比べて「自分だけを講師が見ている」という認識があるので、授業に集中させやすいでしょう。
しかし、それでも集中力が持続し辛い生徒にとっては、講師の説明をずっと聞いているのは苦痛ということもあります。現代文の硬質な評論文や、難解な数式の話などは特にそれが顕著です。
そういったときに、講師はよく生徒の理解度を確認する為に生徒に発問しますが、この発問も多くの先生は「1問1答式の知識や答えの確認レベルの質問」で終わってしまっていることが多いのではないでしょうか?
そこで、個別指導でもできる簡単なアクティブラーニングの方法として、「生徒に説明させる」ことから初めてみましょう。
国語なら文章の流れや要約、あるいは設問に対する解答の導き方、数学なら生徒に「先生になったつもりで」数式から説明させる、などです。大半の生徒は一方的に説明を聞くことに慣れていて、自分が分かりやすく他人に説明する」ことに慣れていませんので最初のうちは難しいでしょう。しかも、雰囲気や内輪ネタの通じる友達同士ではなく、大人である講師に説明する・・・これが難しいのです。
では一体どのように説明できれば良いのか、具体例を示します。
問 以下の文章の内容を分かりやすく説明しなさい。
いづれの御時にか、女御、更衣あまた候ひ給ひける中に、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
はじめより我はと思ひ上がり給へる御方方、めざましきものに、おとしめそねみ給ふ。
同じほど、それより下臈の更衣たちは、まして安からず。
朝夕の宮仕へにつけても、人の心をのみ動かし、恨みを負ふ積もりにやありけむ、いとあつしくなりゆき、もの心細げに 里がちなるを、いよいよ飽かずあはれなるものに思ほして、人のそしりをもえ憚らせ給はず、世の例(ためし)にもなりぬべき御もてなしなり。
上達部(かんだちめ)、上人(うへびと)などもあいなく目をそばめつつ、いとまばゆき人の御覚えなり。
唐土(もろこし)にも、かかることの起こりにこそ、世も乱れ悪(あ)しかりけれと、やうやう、天(あめ)の下にもあぢきなう、人のもて悩みぐさになりて、楊貴妃の例も引き出でつべくなりゆくに、いとはしたなきこと多かれど、かたじけなき御心ばへのたぐひなきを頼みにて、交じらひ給ふ。
(『源氏物語』「桐壺」「光源氏誕生」)
ご存知『源氏物語』の冒頭部分ですね。教科書にも載っている箇所で、大体の高校の授業で一度は取り扱う教材です。
この文章を生徒に説明させるとすれば、どのような答えを出せるようにすれば良いのでしょうか?以下にレベル別に示してみます。
レベル1
「えー、なんか身分が低いのに帝に愛されてる人がいて、他の女に嫉妬されて大変って感じ♪」
レベル2
「えーっと、帝に沢山の奥さんがいる中で、更衣というあまり高くない身分なのに、他の身分の高い奥さん達を差し置いて帝から愛されている人がいて、そのせいでその奥さん達から嫉妬されている人がいました。そして嫉妬だけでなく、身分の高い他の貴族達にも『帝がこんなんでいいのか?』って心配されている状態で、その女性はとても大変でした。でも肝心の帝が愛してくれているから、まだ持ち堪えているって感じですかね」
レベル3
「はい、当時の帝である桐壺帝に沢山の女性が妻としてお支えしていた中に、『更衣』という帝の嫁としては低い身分の女性が、その身分に不似合いな位帝から愛されていました。なので、女御などの彼女より身分が高く、自分が一番帝に愛されるべきだと張り切っていた人達は彼女に嫉妬し、彼女と同等あるいはそれ以下の身分の者達は、自分が何を心の支えにして良いのか分からず、さらに不安を感じました。
それらの人々の不安や嫉妬などの感情を朝から晩まで受け続けたその女性は、心身を病み、実家に帰りがちになったのですが、弱った彼女に対して桐壺帝はさらに庇護欲を掻き立てられたのか、ますます彼女に愛情を注ぐようになります。それはもう後世から見て悪い前例となってしまう位で、もう帝も世間の目も配慮出来ない状態になってしまっているようです。
上達部・上人などの上級貴族の方々も目を顰める位の愛情を桐壺帝が桐壺更衣1人にかけている状況は、かつての中国で玄宗皇帝が沢山の女官の中で楊貴妃だけにのめり込んで、その結果国を破滅に導いてしまったという悪例まで人々の間で引き合いに出される位の良くない状況だったそうです。当然当事者の桐壺更衣さんは、周囲の人々の嫉妬や顰蹙を受け、とても辛い状態だったと考えられますが、一番の権力者の桐壺帝が、誰よりも自分を愛してくれているという恐れ多いことだけを頼りに、なんとか宮廷生活を送っていました。」
いかがでしょうか?レベル3の説明ができる生徒は、この文章の内容を背景知識なども含めてほぼ理解できていると言えるでしょう。
ですが実際アクティブラーニングに慣れていない生徒に説明をさせてみると、良くてレベル2、中には本当にレベル1のような説明しかできない子も少なくありません。
説明できないということは、つまりその内容を正しく理解できていないということです。
最初は短くて簡単な範囲から説明させ、そのあとその説明が何が足りなくて、どうすればより分かりやすくなるのかをその都度優しく指摘してあげましょう。
これを繰り返すことで生徒の説明が上手になってきますし、興味も高まり集中力も向上してくるでしょう。
他にも色々アプローチはありますが、個別指導の場合、まずはこのように生徒の説明を間に挟みながら授業を展開させてみてはいかがでしょうか?
集団授業のアクティブラーニング
対面授業において一定数の生徒がいる場合、班に分かれたグループワークがアクティブラーニングの王道です。
やり方は先生方によって様々ですが、もっとも一般的なパターンを以下に挙げます。
1、講師からグループワークの趣旨・手順・注意事項等の説明。
2、複数名ごとの班に分かれてテーマに沿って協力して討論・活動等を行う。
3、指示された時間になったら各班ごとの代表発表者が全体に向けて活動の成果を発表。
このような活動で授業内容について自分で考えた事を級友・講師の前で発表することによって、ただ受身で授業を聞くより生徒自身で深くその内容について考え、その結果、知識としても定着しやすくなります。
1の時点での講師によるテーマ設定・活動の注意事項等が曖昧だと生徒も何をすれば良いのか分からず、折角の活動がただの雑談タイムになってしまったり、また生徒同士の関係性や性格によっては、グループ内で活動量・発言量に大きく差が出てしまうこともあります。
また2のグループワーク中も、講師が机間巡視をして、行き詰っている班などに適切にアドバイスすることも効果的です。1の説明さえ済んだら後は生徒に投げっぱなしではなく、常に指導者側が教室全体を俯瞰し、通常の講義形式以上に生徒1人1人の様子に気を配る必要がありますね。
インターネット上で、様々な先生方のグループワーク授業の実践例がアップされているので、色々研究して御自身のやり方にマッチする方法を構築してみて下さいね!
オンライン(zoom)授業のアクティブラーニング
オンライン授業でも工夫次第でアクティブラーニング授業を実践することは可能です。いやむしろ、生徒を直接見ることが出来ないオンラインだからこそ、積極的に生徒に発言をさせて彼らの学習態度を観察することが必要とも言えます。
zoomで複数の生徒が授業に参加している場合は、“ブレイクアウトルーム”という機能を使用する方法があります。授業を行っているzoomミーティングにおいて、参加者を少人数のグループに分けてミーティングを行える機能です。
またグループミーティング中に、講師(zoom内では“ホスト”となる)が各グループの活動を自由に見学することができ、気になったグループにはチャットでメッセージを飛ばしたり、画面共有で映像や画像を共有することもできます。
非常に便利な機能なので、使いこなせばオンライン授業でも高い学習効果が期待でき、生徒の学習満足度を上げることも可能です。ただ実際のところ、機械の不調や接続の不備など、それでなくとも様々なトラブルが起きやすいオンライン授業で、その上ブレイクアウトルームを使ってグループワークをするとなると、普段の授業以上に綿密な準備が必要となります。
教材研究だけでなく、zoomの機能・設定の確認などもしっかりやっておかないと、いざ本番となってマシントラブルや生徒への情報的不備によって授業が成り立たないという事態も生じかねません。もし授業で実践されるなら事前に機能を確認してリハーサルなどを行うことをお勧めします。
ちなみに私もzoom授業でブレイクアウトルームはあまり使用しません。成績上位層のクラスが中心というのもありますが、どんどん生徒に演習問題を解かせて、その解説をして、生徒に点数の報告や質問をチャットやメッセージで送ってもらうという使い方が主流です。後は課題をロイロノートを利用して提出させるという感じです。
特に「説明しなさい」型の記述問題に対する生徒の答案や、本文の要約課題を提出してきた生徒の答案を見れば、彼らの理解度が大体分かるのです。ですので、あくまで生徒数や学力レベル等の状況に応じて、効果的に利用して下さい。
注意事項&よくある質問
さて、では次はアクティブラーニングに関して、多くの方々が疑問に思っていることに対して、Q&A方式で解説させて頂きます。
ちなみにこの学習方式は(少なくとも塾・予備校では)まだまだ歴史が浅く、確固とした理論も確立されていないので、あくまで私の主観が混じった考え方ですので、御自身で納得された場合のみ御参照下さい。
Q.授業内でグループワーク等の活動をやったとして、それはペーパーテストなどの数値で評価し辛い。アクティブラーニング授業においての生徒の評価はどうすれば良いのか?
評価対象として、以下のような所に注目されてはいかがでしょうか?
グループワーク中にどれだけ自分の役割(リーダーシップが出せたか・分かりやすい発表が出来たか・メンバーとして建設的な意見が出せたか等)を果たせたか?
班全体として、最初に講師が話した趣旨・課題にどれだけ則った発表が出来たか?
グループワークで探求した範囲のアセスメントテスト(確認テスト)で、どれだけ点数を取れたか?
これらを総合して、その生徒の評価システムを作り上げてみてはどうでしょうか?
Q.シラバスや試験範囲に基づいて期間内に説明を終わらせないといけない。ゆっくりとグループワークをやっている暇なんてない!
そうなってくると、そもそもの試験範囲やシラバスから考え直す必要があると思います。最初から一方的な解説でギリギリ終わるレベルの授業計画を組んでいたら、当然間にグループワークを挟む余裕も無いでしょう。
ラーニングピラミッドを踏まえて、本気で生徒の総合的な知性を上げようと思ったら、アクティブラーニングの導入を踏まえた授業計画を組んでいくしかないと思います。その分生徒が自分でできる課題等を効果的に設定して、無駄を省いてスピードアップできる所はしていかないといけなくはなりますが・・・。
Q.実際にグループワークをやってみても、中々こちらが期待する結論に生徒が辿り着かず、むしろ「何を話して良いか分からない」という生徒もいる・・・
その場合、大体は事前の講師の説明不足が原因だと思います。
例えば「今学習した文章について班ごとに分かれて話し合ってみましょう!」なんて曖昧な課題を出していませんか?そんな事を言われても、生徒はその文章のどこをどう話せば良いか分からず、結局「この文章のここが面白かった」などという、自分の感想を言い合うだけで終わってしまって、それ以上議論が発展しません。
生徒に議論をさせたかったら、「人によって意見が別れる」「生徒が興味を持って自分の意見を言いたくなる」課題を出して、その上で「何分間で出した課題に対する意見を集約すること。班ごとの代表発表者を決め、指定の時間になったら発表できるように討論内容をまとめあげておくこと」「班ごとの発表時間は3分程度とするので、それに合わせて討論内容のまとめを工夫すること」等と、具体的な指示が必要になるでしょう。
講師からの説明の出し方の例を示してみます。同じく源氏物語からになります。以下をご覧下さい。
『源氏物語』の中で、光源氏は若い頃自分の継母であり、育ての親である藤壺に恋愛感情を持って苦しんでいました。しかし彼女は当時の天皇であり、自分の父親でもある桐壺帝の嫁です。禁じられた恋に苦しんでいた光源氏は当時18歳でしたが、偶然藤壺によく似た(実際に藤壺の姪だったのですが)若紫を見つけ、当時彼女は11歳であったのにも関わらず、それまでなんの関係性も無い他人だった若紫を無理矢理屋敷から奪い去り、自分の嫁としてしまいます。そこから源氏は彼女を、自分の理想の嫁になれるように育て上げていくのです。
さて皆さん、この光源氏の振る舞いは、今でしたら衝撃的でしょうが、当時は一夫多妻制が当たり前でしたし、才能があり、身分も高く、しかも帝の子供である光源氏ですので、当時はお咎めはありませんでした。まあフィクションの物語の中ですので、作者次第でなんとでもなるのですが、ここで質問です。この源氏の振る舞いに対して、彼のそれまでの人生も踏まえて、あなたは裁判官として有罪・無罪・どちらの判決を下しますか?理由も合わせて考えて下さい。ちなみに法律的な知識は一回無視して、現代人の感覚で倫理的・論理的に考えてみましょう。もちろん班として結論は統一して下さい。15分間話し合って、配布したワークシートに話し合った結果を書いて下さい。そのワークシートも授業後回収します。また15分経ったら班ごとに決めた代表発表者にそれぞれ全体発表してもらいますので、代表発表者も班で相談して決めておいて下さい。
こんな感じですかね。指示内容が明確で具体的で無いと、生徒も動きようが無いですからね。
終わりに〜「表現力」の必要性〜
いかがでしたでしょうか?
「色々と面倒だな」と感じられた方もいらっしゃると思います。アクティブラーニングはあくまで生徒が活動しながら学習する形ですが、だからといって講師側が暇にできるというわけではなく、むしろ生徒が円滑に活動できるように、そしてその活動を学力向上に結びつけられるように、さまざまな「学びの仕掛け」を施しておかなければなりません。こちら側も準備が必要なのです。
この記事の最初に「学習指導要領」の改訂の話を致しましたが、その中で、生徒に身に付けさせたい学力の3要素として「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」が挙げられています。私は特に「表現力」の必要性を強く感じています。
講師の授業を聞く、選択肢の中から正解を選ぶ等の、与えられた知識や内容を理解して判断する力も大事ですが、それらを組み合わせ、そこに自身の独創性を加えて、他者に分かりやすく伝えることは、実社会でも大事なことです。
特に日本人は昔から「言わなくても空気を読んで理解する文化」を重視して来ましたが、これからの国際化の中でその文化に頼り切って自分の表現力を磨くことを怠れば、必ずどこかで痛い目を見ると思います。「討論・発表・説明」などの活動的な学習や、探求的な学習を御自身の授業に上手に組み込んで、より時代に合った教育者を目指して行きたいですね。
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