「なぜその科目を勉強するのか」を説明できますか?(古典編)
こんにちは!国語科講師の中林です。
中林 智人 なかばやし ともひと
高校教師から塾講師・予備校講師に転身し、現在は河合塾・早稲田予備校にて国語を担当しつつ、都内の高校で非常勤講師としても活躍。講師業だけでなく執筆なども行う。「納得できる知識・論理的読解技術」「制限時間内に問題を解き偏差値を上げる戦略」「楽しく国語を勉強できる面白ネタ」をモットーに日々生徒に向き合っている。
少し前のことですが、とある有名人が「古文は勉強する意味が少ないから大学受験の科目から無くしてしまおう。その代わりに簿記とか税金の仕組みとか、もっと実社会で有益な内容を学校で教えるようにしよう」と言っていました。
私はこの発言を聞いた時、腹立ちより先に「子供達が言うならともかく、いい歳した大人が、自国の文化を学ぶことの必要性も理解していない上に、それをメディアで堂々と言えてしまうものなのか」と、悲しく感じました。
ただ、実際に教育現場(特に高校)に立ってみると、「なぜその科目を勉強しなければならないのか」「実社会に出て何の役に立つのか」を説明し辛い科目というのは存在します。特に「古典(古文・漢文)」は、その最たるものでは無いでしょうか?
聞き分けの良い生徒でしたら「いいからやれ!」で済みますが、人によっては「自分が納得できないものはやりたくない・やる気が起きない」という生徒もいるでしょう。そういう生徒に無理矢理勉強をさせても成績は伸びないでしょうし、その子の講師への印象も悪くなるかもしれません。また、前述の聞き分けの良い生徒にしても、その科目の価値を理解して勉強した方が学習意欲も向上するでしょう。
そこで、今回は実際に予備校や高校で古典を指導している私中林が、対話形式で古典を高校で勉強する意味をお話しさせて頂きます。
登場人物
中林先生・・・予備校や高校で古典を教えている国語講師。アラフォー。好きな食べ物は魚介系つけ麺。
駅田(えきた)君・・・とある私立高校に通う高校2年生。好きな科目は英語。嫌いな科目は古文。サッカー部に所属して、毎日放課後は練習に励む。将来は海外の企業で英語を使って働きたいと思っている。
目次
・「古文」とは、そもそもどういう科目なのか?
・なぜ、学校で古文を学ばなければならないのか?
・なぜ、学校で漢文を学ばなければならないのか?
・終わりに〜国語教育者の責任〜
「古文」とは、そもそもどういう科目なのか?
「あーあ、また古文の定期試験赤点だったよー。苦手なんだよね古文。なんか未然形とか連用形とか日頃考えないし、そもそも昔の文章なんか勉強して何の役に立つっていうんだろう。時代は令和だよ令和!ほんとやってらんねー。」
「ん?なんか聞こえてきたね。やあ駅田くんじゃないか。なんかやたらに不景気な顔をしているね。トイレでも我慢しているのかい?」
「あ、中林先生!こんにちは!いやートイレじゃないっす。定期試験の古文がまた赤点だったんすよー。俺ほんと古文が苦手で。苦手というか、なんか覚えること多いし、やる気起きないんですよねー。」
「ふむふむ、君の学校は私立だったよね。ちなみに君の所の古文の授業はどんな感じなんだい?」
「助動詞の活用表を丸暗記するまで声に出して唱えて、あと用言の活用形と活用の種類を丸暗記して、なんか教科書の文章を先生が品詞分解するのをノートにメモって覚える感じですかね。とりあえず覚えろって言われるから必死で覚えてるんですけど、俺丸暗記って苦手なんですよね。全然覚えられないっす・・・」
「なるほど。それじゃあ古文ができないのも納得だね。まあ学問というのはどの科目でもある程度は覚えないとどうにもならない部分はあるけど、それを何も考えずにただ覚えるのと、「その価値と内容を理解して覚える」ことの間には大きな差があるんだ。君はどうやら古文をただの暗記科目のように捉えているみたいだから、古文という科目はどういうもので、どういう価値があるのかについて話してあげよう。」
「まじっすか?よろしくお願いしますm(_ _)m!」
「ではまず、君は『古文ができるようになる』為には何が必要だと思う?あ、ちなみにここでの「古文ができる」というのは、模擬試験や大学入試などで初見の文章を読んで、問題に正解できるという意味ね」
「えー?やっぱり学校でやってるような、助動詞とか用言とかを全部覚えて、古文単語覚えればいけるんじゃないですか?英語もそうだけど、単語知らないと文章読めないでしょ」
「ふむ、まあ半分正解という所だね。もちろん君の言うように古典文法や古文単語の知識は前提としてあった方が良いけど、初見の文章を読めるようになる為には実はそれだけじゃダメなんだ。古文というのは御存知のように江戸時代およびそれ以前の文章の事を言うんだけど、そういう文章はその時代の文化や風習、さらには人々の考え方などをある程度理解していないと実は読み解けないんだ。」
「へー、じゃああれだけスパルタで覚えさせられてる面倒な文法って、それだけじゃ文章も読めないんですね。なんだかますますやる気無くなっちゃうなあ・・・」
「ちょい待ち!ちょっと誤解してるね。例えば君は英語が好きだったよね。英文法を勉強しないで、単語だけで英語圏の人達と会話してみようと思ったら、はたしてどんなことになると思う?」
「それはキツいっすね!俺は将来海外で働きたいから英会話の勉強とかも頑張ってますけど、やっぱ文法無いとちゃんとした文章作れないし、ちょっと難しいこと話そうと思ったらすぐ行き詰まりますよ。『そこのお醤油取って!』位の内容だったらジェスチャーと単語だけでなんとか伝わるけど、やっぱ英語でビジネスしようと思ったら、正しい英文法を踏まえた会話ができないと信用されないって英語の先生に言われました」
「同じことなんだよ。英語も古文も結局言語なんだから。単語を繋げる文法を理解しないと、正しく文章を読めないし、表現もできない。そもそもさっき君が嫌っていた助動詞だって、英語にもあるだろ。それらを正しく理解しないと、結局文章としての古文を正しくは理解できないんだ。」
「へー、古典文法って、やっぱ大事なんですね。その価値が理解できるとちょっとやる気も出てきました!あ、でも先生さっき、文法と単語だけじゃ文章が読めないっておっしゃってましたよね。あれはどういうことなんですか?」
「例えばね、駅田君、君気になる女の子はいる?」
「え?なんすかいきなり!?んー、まあ、はい、実は同じクラスの女の子で、ちょっと気になっている女の子はいるっちゃいるんですけどね・・・」
「その子に告白しようとしたら、君ならどんな風にする?」
「告白っすか?そうですねー、まあもしするならいきなりじゃなくて、LINEとかで声かけて一緒にご飯食べに行ったりどっか遊びに行ったりして距離縮めてから、どっか景色の良いところでデート終わりに『付き合ってくれ』っていう感じですかね・・・いやー恥ずかしいなあ・・・」
「意外とロマンチックなんだね(笑)まあそれは良いとして、それが21世紀の告白の仕方だとすれば、例えば平安時代とかの貴族の告白の仕方は全く異なるんだ。まず貴族の女性は基本的に近親者以外の人に姿を表さないし、男性が女性に声をかける場合は基本的に和歌を詠んで相手に送る。しかも直接渡すのではなくお互いの部下を経由して送る。女性が男性にお返事する際も和歌のお返しをする・・・なんて具合にね。こういう『その時代ならではの風習・常識』を理解していないと古文が正しく読めない場合も多いんだよ。『この人はこの時代の常識ならこうするはずだからこの単語はこの意味で解釈しないと通じない』なんて感じで、古文単語の意味もひとつの単語に複数ある意味からその時代の常識を踏まえた文脈でどの意味をその時に使用するかを判断する必要があるしね。」
「なるほど、考えてみれば昔はスマホも電車も無かったから、当然その時代ごとの常識も違ってきますしね。」
「そう!つまり古文というのは大きく分けると次のようになる。」
そもそもの素材である「古文単語」
文章を組み立てる際に必要な「古典文法」
場面・心情を理解し、文章を正しく読解するのに必要な「古典常識」
「これらを全て駆使して古文に向かい合えば、どんどん新しい文章が理解でき、古文が面白くなってくると思うよ!」
なぜ、学校で古文を学ばなければならないのか?
「古文がどういう科目なのかは分かりました!ところで先生、古文の先生にこんなこと質問するのはすごい失礼な気もするんですが、古文って昔の文章じゃないですか、なんでわざわざ今学校で勉強しないといけないんですか?現在を生きる時に、古文の知識って正直必要ない気がするんですけど・・・」
「実際そういう疑問を君達が抱くのは自然なことだと思うよ。ところで君は、『令和』という元号の由来は知っているかな?」
「あ、なんか聞いたことあります!確か万葉集でしたっけ?」
「そうだね。万葉集は現存する最古の和歌集で、約4500首の和歌が収録されている。その中の『梅花の歌』という作品の『初春の令月にして、気淑く風和ぎ』という部分から一部の漢字を抜き取ったものだね。」
「へーそうなんですね。今の元号が古文の作品から作られたってことは、やっぱ作った人は古文を大切にしているんですかね?」
「そうだと思うよ。この元号の考案者は中西進という国文学者の方なんだけど、それを元号として採択した際の総理大臣は『日本が持つ四季折々の自然や文化を、後世に残したい』『春の訪れを告げる梅の花のように、明日への希望と共に、一人ひとりが大きく花を咲かせられる日本でありたいとの願いを込めた』と説明している。つまり令和の時代の総理大臣が、古くからの日本の文化を大事にして、後世に伝えて行きたいと宣言したということだね。」
「なるほど、総理大臣が古文の大事さを宣言したって事ですね。」
「そう、そしてそれだけじゃないよ。例えば駅田君、君は海外に憧れているって言っていたよね。君だけじゃなくて多くの日本人が海外に憧れ、グローバル社会の中で海外の文化を楽しんだり、海外で活躍したいと願っている。でもさ、逆に考えてごらん、海外の人が日本に憧れるということは、考えられないかな?」
「え?海外の人が?そんなのあるんですか?」
「そりゃもちろんあるよ。日本は戦後数十年で世界有数の経済大国に成長し、多くの国と経済交流や文化交流を行なっている。その中で日本の技術だけでなく、文化にも興味や憧れを持つ海外の人は数多く存在する。例えば古文で有名な『源氏物語』は、世界各国の30カ国以上の言語で翻訳され、世界中で読まれているからね。私の大学の国文学科でも、海外からの留学生で『源氏物語』が好きで、日本で勉強したくて留学して来たなんていう人もいたね。また日本の漫画なんかもサブカルチャーで、今や世界中で好評を得ているよね。」
「そういえばyoutubeとかネットの掲示板とかで、海外の人が日本の作品にリアクションしたりした動画や書き込みって結構見たことありますね。」
「でしょ。グローバル社会って言うのは、本来地域や国家の枠を超えて、世界規模でお互いに影響を与え合う社会形態のことを指すんだから、日本→世界だけじゃなく、世界→日本の流れも意識しないといけないと思うよ。つまり、海外の人々が日本の文化に興味を持っていることも理解しないといけない。だからさ、例えば君が将来海外に行った時、現地の人から日本文化について質問されたりすることもあり得るんだよ。」
「その時自分の国の文化の事を答えられなかったら、なんか恥ずかしいですね。」
「『自国の文化も勉強していない人間が、よその国の勉強をしに来るなんておかしい』なんて思われてしまうよ(笑)」
「そもそも、何が役に立つか立たないかと言うのも、長い人生の中で分からないものだと思うよ。確かに簿記の資格とか英会話とか、すぐに働いてお金を稼ごうとした場合はそういう技能の方が役に立つかもしれないけど、知的な国際社会の中でのエリートとして誰かと話す場合、もっと深い文化的な教養が求められる場合が多い。もっと言うと、高収入や高い地位で働くエリート層の人々ほど、一見直接ビジネスとは関わりないと思われる文化的教養の知識が豊富で、そう言う知識が無いと『薄っぺらい人間だな』と思われてしまうことが多いものさ。」
「なるほど。そういえば友達のお父さんが、バリバリ外資系企業で働いているエリートサラリーマンなんですけど、その人海外や日本の文学にもすごく詳しいんですよね。聞いてみると、海外のビジネスパートナーとそう言う話をすることも多いって言ってました。やっぱり文化として古文を学ぶことって、グローバル社会でエリートになる為には必要なんですね!」
「わかってくれて嬉しいよ!これで次の古文の試験は頑張れそうだね(笑)」
「ははは(笑)はい!がんばります!」
なぜ、学校で漢文を学ばなければならないのか?
「ところで先生、古文を勉強する意味がよく分かったのですが、漢文はどうなんでしょう?あれなんかそもそも中国の文章ですよね。実際大学入試でも漢文は出題しない所が多いし、漢文を学校で勉強する意味はあるのでしょうか?」
「簡単な話さ。漢字をはじめとした日本の文化の多くは中国から伝わってきたことは君も知っているだろう。中国の文学を勉強することは、結局は日本の文化の来歴を勉強することにつながるんだよ。」
「そうでしたね、でも漢文もレ点とか一・二点とかあって、書き下し文を作ったり面倒なんですよね。あれってなんのためにあるんでしょうか?」
「ああいう訓点は、中国から漢文を輸入した日本人が、自分たちが読める形に変換するために作り出した記号なんだよ。漢文を中国から輸入した当初は漢字だらけだから、それを古文のように読めるようにするために訓点を考えて、日本人が読めるために作り変えたのさ。だからレ点とか一・二点を勉強して白文を書き下し文にするというのは、『漢文を古文にする』というイメージだと分かりやすいかな。ただ漢文で使って古文で使わない文法事項もあるからまったく同じというわけではないけどね。」
「漢文を勉強する意味の話に戻るけど、日本文化の来歴を知る以外にも意味はある。駅田君は、今世界最大の経済大国といえばどの国を思い浮かべるかい?」
「え?アメリカじゃないですか?資本主義国家アメリカって感じで。もうぶっちぎりですよ!」
「そうだね。しかし後数年でそのアメリカを抜いて中国が世界一の経済大国になるかもしれないと言われているのは知っているかい?」
「え?そうなんですか?中国の文明が発展してるのは聞いたことがあるけど、そこまですごいことになってるんですね!」
「そうなんだ。だから中国は日本の隣国で、さらにこれからは世界の経済を引っ張っていく立場になると言われている。君は海外で英語を使って働きたいと言っていたけど、つまり英語圏だけじゃなくて海外ビジネスの世界で中国を無視できない状態になるかもしれない。だから中国の古代文化を知ることは、中国の方々とビジネスをする上でも効果があると思うよ。」
「また漢文の中でも例えば『孫子』や『論語』など、現在のビジネスや人生に活かせる内容が書かれている書物も多く、多くの日本の経営者や政治家の方々もこれらの書物を勉強していらっしゃるね」
「そういえば『彼(敵)を知り己を知れば百戦殆からず 』っていう言葉も確か『孫子』が出典ですよね。うちの部活の顧問がよく言ってました。対戦相手の研究と自分達の弱点・強みの把握をしないと、試合で勝てないぞって。実際その通りですよね!」
「そうやって考えると、漢文を学ぶ意味も、多いにあると思うんだ。と言っても学校を卒業して社会人とかになってしまったら、なかなか古文や漢文を勉強する暇も無いだろうし、だからこそ学校で古典を教えてもらえるという機会を大事にして、そこから教養を深めていって欲しいね。」
「はい!なんかやる気出て来ました!頑張ります!!」
終わりに〜国語教育者の責任〜
いかがでしたでしょうか?駅田君もどうやら古典に対してやる気を持ってくれたようで、ひと安心です。
対話の中でも書かせていただきました「グローバル社会だからこそ自国の言語や文化をしっかり勉強することの重要性」を、子ども達に1番しっかり説くべきは、やはり講師をはじめとした教育者であり、特に国語教育を行なっている方々はその責任があると、私は考えています。
他の科目に関しても同じです。「今すぐに分かりやすい形で効果が感じられない科目」に対して、長期的な視野でその必要性を生徒に説明して、「やりたいことだけやる」ではなく「やりたく無いことの価値を説明して、やる気を出させる」ことも、プロ講師の技術のひとつだと思います。
それではまた次回の記事でお会いしましょう!
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