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プロ講師・経営層・独立。キャリア形成のために20代で何をするべきか【キャリアコラム#40】

プロ講師・経営層・独立。キャリア形成のために20代で何をするべきか

こんにちは。プロ講師の原田です。

塾・予備校界をめぐる環境変化は著しく、高齢化とともに少子化も急スピードで進んでいる中、学齢人口の減少と長期不況によって塾・予備校の経営環境は悪化しており、講師時給も上がりにくくなっている。

しかし、悪いニュースばかりではない。公表されている各種統計によれば、保護者が子どもに使う教育費は減っておらず、むしろ増加傾向にあるという。政府の教育への支出(割合)は、相変わらず他の先進諸国と比べて低いのは事実だが、民間の教育への支出(つまり塾や予備校などへの支出)は、高くなっている。

つまり、親は子どもの教育に、昔よりもお金を出すようになっているのである。将来不安が、子どもへの教育支出につながっているのかもしれない。いずれにしても、塾・予備校業界で働く人たちにとっての将来は、決して暗いものではないということは事実だ。

ただ、塾・予備校業界でやっていこうとするならば、どんな優秀な人材でも、いままで以上に真剣かつ冷静に、将来のキャリアパスを見極めていく必要はあるだろう。

では、こうした業界をとりまく環境変化に対応して生き残るには、どんな道が残されているだろうか。不透明な時代の、塾・予備校業界「出口戦略」と、そのためのアプローチを考えてみたい。

目次
時代の変化に対応した「出口戦略」
いま、何をやればいいか
まとめ

1.時代の変化に対応した「出口戦略」

 (A)一流プロ講師になる 

最初に挙げるのは、一流のプロ講師、有名講師への道である。講師としての力量、とくに「指導力」に磨きをかけて、安定した評判と収入を得られる講師になるのは、予備校業界の王道のキャリアパスだ。

「一流講師」と聞くと、東進ハイスクールの林修先生のような、テレビ等のマスメディアで有名な講師を思い浮かべる人も多いが、芸能人のような講師だけが、プロだとか一流だとか言われるのではない。世間的には目立たなくとも、正確な知識と盤石な指導力を身に着け、いい仕事を確実に得ている講師もたくさんいる。むしろ、このような、長期にわたる信頼を獲得して業界内で認められた講師こそが、本物の一流講師と呼ばれるようになるのである。

もちろん、一流と呼ばれるプロの講師を目指すのであれば、指導力に磨きをかけたうえで、身に着けた知識と指導力を活かせる舞台(塾・予備校等)に立つことが必須となる。

いい舞台に立つことは、つまり、評判の良い塾や予備校の講師となることは、それ自体が目標となりうる魅力的な進路だ。ただ、有名予備校のひのき舞台に立つことだけを目指して、表層的なパフォーマンスを追求することのないように注意したい。というのも、パフォーマンスだけが上手な講師は、長期的な生き残りが難しいからだ。

たしかに、ひと昔前であれば、目の前にいるリアルな生徒を瞬間的に惹きつけて1年間の講義をやり切れば、生徒を「わかったつもり」にして、なんとか乗り切ることができたかもしれない。パフォーマンスの裏側の空疎さを見抜いた生徒は遅からず塾・予備校を卒業し、リピーターにはならないからだ。

しかし、現代では先生の情報は、知識の正確さから、説明の適切さや生徒に対する対応の真摯さまで、インターネットを中心とする媒体にのって筒抜けになり、評判は常に上下する。真の指導力がなければ、すぐに化けの皮がはがれてしまう。

だから、やはり演技的な見た目の指導の巧拙を追求するのではなく、実直に知識を確実にし、説明の方法に改良を加え、生徒の学力を着実に向上させることのできる方法を追求していきたいものだ。このような真の指導力を身に着けられれば、塾や予備校の経営者・運営者からも信頼され、1年単位で入れ替わる生徒・保護者の短期的な評価(そこには単なる印象論や好き嫌いも混じっている)に影響を受けずに、着実なステップアップを期待することができる。また、良い条件を提示してくれる評判のよい塾や予備校の舞台に長く立つことができるのである。

なお最近では、ネット予備校、オンライン予備校も増えてきており、授業を収録して繰り返し視聴してもらい、インセンティブで収益を得るという講師の在り方もある。授業準備や収録は大変な作業だが、一度収録してしまえば、あとは自動的に映像が稼いでくれる。このような道を究めるのもありかもしれない。

(B)塾・予備校内で指導講師、経営層へ昇進

次に挙げるのは、塾・予備校でのマネジメントのポジションだ。つまり、英語科、数学科など、教科の主任講師、それから教務部長や、経営方針の決定に参画する取締役への昇進を目指すキャリアパスである。

塾・予備校の講師を職業として選ぶ人の中には、子どもと教えることが好きで、会社や学校での昇進には興味はない、という人も多くみられる。しかし、だからこそ、組織内でのマネジメント、塾・予備校の運営や経営にも興味があり、適性があるという人は希少なのだ。そういった興味を持っているひとは、ぜひともマネジメントを目指すべきである。

塾・予備校でのマネジメント・ポジションを目指す人は、当然だがただ教えることだけ、生徒のことだけを考えているのでは済まない。塾を取り巻く経営的な側面にも目を向けなければならない。

そもそも、塾や予備校は、公的な学校教育が完璧であれば、本来必要のないものである。塾はある意味、学校教育の補完物と言ってもよい。したがって、学校教育で提供される知識や教育サービスに加えて、何を生徒・保護者に提供できるか、さらにはどのような教育サービスが提供できるかを考え続け、それを説明し、情報発信し、生徒・保護者を含む社会から理解をしてもらう必要がある。

また、生徒や保護者に働きかけて入塾してもらうような「営業活動」も出来なければならない。たとえ講師としての立場が主要な役割だったとしても、マネジメントに関わる人は生徒募集・獲得・入塾面談などの「営業」活動に積極的にかかわる意思がなければならないのだ。

経営とは、とどのつまり、お金である。お金と指導は、時として矛盾したり、逆のベクトルを向いたりすることがある。たとえば、ある生徒へ合理的な指導をすると、その保護者から嫌われて講座の受講に結びつかないといったジレンマは常に存在する。しかし、だからと言ってそういったジレンマを避け、指導だけに専念したり、お金だけに執着したりしたのでは、塾・予備校経営はすぐに立ち行かなくなる。

このような大変な立場にあるのが、塾・予備校あるいは学校のマネジメントに関わる人たちなのである。彼らは、こういったプレッシャーに負けないことで、比較的良いサラリーをもらっているのである。 

(C)独立

このキャリアパスは、あまり気軽に勧められるものではないが、マネジメントに興味があり、理想の塾・予備校を作ってみたいと思う人は、独立を意識したキャリアを目指すとよいだろう。

いまや、独立は簡単である。資本金もそれほどなくてもスタートはできるため、屋号を決め、事業計画を立て、不動産を借りて、登記するだけで会社はできてしまう。会社形態は、さまざまなもの(株式会社、合同会社など)があるが、どれが経営的には望ましいかを検討し、まずは会社を小さく立ち上げ、やれることから始めて少しずつ大きくしていけばよい。

ただ、独立し自分の塾・予備校を作るのは相当な覚悟と入念な準備が必須であり、投下した資金を回収するまでに、少なくとも2〜3年の期間を意識していた方がよい。どうしても早く結果を出したいなら、実店舗(教室)を持たずに、インターネット上でできるアプリをフル活用して、ネット上のサービスを広げていくとよいだろう。

なお、独立に際して極めて重要なことがある。よく、自分が勤めていた塾・予備校の生徒や先生を、無理に引き抜いて自分の塾の生徒にしてしまうトラブルが発生している。これは違法ではないものの、ルール違反・ビジネス倫理違反であり、巌に慎まなければならない。塾や予備校は、駅前の乱立しているフランチャイズ系の教室を見ても常に競争をしていて大変だろうなと感じるが、先生や生徒の引き抜きが頻繁に行なわれる塾で長期に継続できている校舎をまったく見たことがない。必ず塾内の雰囲気が悪くなり、かえって塾の評判を落とすようなことにつながるからであろう。

将来独立を考えている人は、可能ならば中堅以上の塾や予備校で、ある程度マネジメントに近いポジションを経験し、最低限の手元資金と塾経営のノウハウをつかえるようになってから実際に動くのが良いと思う。会社自体の設立は簡単になっているものの、塾業界は過当競争の時代に突入しており、思い付きで「ポン」と始めてうまくいくほど甘い世界ではなくなっている。

リスクを最小限にして始めたい人は、インターネット上での教育サービスを検討することから始めたらどうだろうか。筆者自身10年にわたる塾経営の経験があるが、最初は教材(予想問題)の販売から始めた。教室運営は、教材販売で得た顧客リストを頼りに生徒募集をインターネット上でも行ない、レンタルオフィスを借りてスタートすることで初期費用を抑えたのである。 

(D)教材、カリキュラム作成、書籍執筆

塾・予備校は、なにも教えることだけが仕事ではない。授業などで使用する教材の開発、授業やテストの計画、カリキュラム作成といった教務の仕事、それから、勉強法や参考書などの書籍の執筆、それに準じるような情報発信といった仕事も、塾・予備校の本質的な部分であり、重要な仕事である。

教材は、時代や入試制度、指導要綱が変わると、大きく書き換えていかなければならず、その都度、教材作成の人材が必要になる。教材作成ができるようになるには、ある程度の講師経験がある方が望ましい。教材を自前で作れる講師は、塾や予備校側でも頼りがいのある人材である。講師を長く続けたいという人であっても、戦略的に教材作成をできるように研究をしていくのは有望な出口戦略である。

教材を作れる、作問ができるとなると、アイテムライターと呼ばれるようなテスト制作の専門家への道が広がる。これはこれで、地味だが廃れない仕事である。

また、教材や問題が作れるようになれば、その解説も書けるようになる。長じて、参考書や書籍を執筆できるようになる。こうして、参考書作家や啓発本(勉強本)作家への道が開かれる。とくに、評判の良い教科書や参考書、問題集などを作ることができれば、毎年かなりの冊数が販売され、多額の印税を得ることも夢ではない。学校の副教材などに採択されたら、それだけで生活が成り立つくらいの収入も期待できる。

教材を作るための研究は、教材作成そのものだけでなく教える仕事にも役立つから、意識しておいて損はない進路である。  

2.いま、何をやればよいか 

講師としてのキャリアの積み方、そこから派生するキャリアプラン、そして出口戦略を紹介した。では、このようなキャリアを確実なものとするために、20代、30代の若手講師は、いま何をすればよいのか。

(1)  盤石な知識を身に着ける

どんなキャリアを目指すにしろ、塾・予備校業界でプロと呼ばれる立場になるためには、担当科目における盤石な知識を身に着けることは必須である。

指導する対象の年齢層が低い場合であっても、あるいは、授業で話す内容がそれほど難しくない場合であっても、講師は教えることの10倍の知識を持っていなければ、確実な指導はできないと心得るべきだ。

教科の知識を獲得するにあたっては、表層的なものを覚えるような受験生レベルの勉強ではなく、研究者が参照するレベルのテキストや専門書も用いて、本質的な研究を行なってほしい。

また、講師に必要な知識の中には、教科そのものの知識に加えて指導する生徒の受験する学校(中学、高校、大学等)の出題傾向(過去問)に関する知識や、入試(制度・変更)の全般的な知識も含まれる。特に、受験学年を指導する講師には、入試制度や出題傾向に関する知識が必須である。入試問題を念入りに研究し、生徒や保護者、所属する塾・予備校の運営者に説明できるようにしておくことが重要だ。

さらに、可能ならば、担当教科のスタンダードな勉強法(自宅学習の仕方も含む)について研究をし、定評ある参考書や問題集でどんなものがあるのか、その書籍のレベルや使い方も含めて研究しておくのがよい。

現代の講師の役割は、「教師」(狭い意味での)から「コーチ」へとシフトしている。仮に、講師に求められている仕事が一方的な知識の伝授(教師)であるとするならば、映像授業の大手が配信する授業だけで満足してしまうだろう生徒も多いだろう。しかし実際には、ほとんどの生徒が必要としているのは、単に知識を伝授してもらうことではない。そうではなく、生徒たちの多くは、覚え方、知識の運用の仕方、テストでの解答の仕方、覚えた知識を忘れないでいること、モチベーションの保ち方まで、勉強に関する幅広い「困りごと」に答えてくれる先生(コーチ)を求めているのである。

以上のように、単なる学科の知識だけでなく、幅広い知識を身に着けるように心がけたい。

(2)  誰にも負けない得意な領域をつくる

幅広い知識、盤石な知識と書いたが、もちろん時間の制約や能力の個人差もあり、すべての分野・領域で完璧な知識を身に着けることは至難の業である。だからこそ、選択と集中が重要となる。講師としては、将来の進路を見据えつつ、自分の得意な領域を早期に見つけて、その得意分野を伸ばすことを考えるようにするとよいだろう。

具体的には、

  1. 教科の知識をとにかく徹底的に究める(大学の研究者レベル)

  2. 教科の指導法や勉強法を究める

  3. 入試分析・過去問分析に特化し教材作成を究める

といったやり方が考えられる。このような、得意領域に研究のためのリソースを割くことで、上に述べた(A)~(D)の具体的な進路、あるいはそのほかの可能性もはっきりと見えてくるはずである。

また、複数教科を教えられるように得意分野を横に広げるというやり方もある。特に、小規模から中規模の塾や、家庭教師、派遣型塾講師で必要とされる人材を目指すなら、この戦略は有効だ。特に、理科の講師で、物理・化学・生物のすべてを教えられる先生は少ない。社会の講師でも、地理系・歴史系・公民系と指導可能分野が分かれている場合が多く、複数科目を教えられることは、それ自体が価値となる。

教科指導講師が、小論文や面接指導といった入試科目にしかない科目を教えられるように研究を進めることも推奨される。大学受験を例として言うならば、現在大学の入学者の半数以上は、推薦や総合型入試(旧AO)で入ってくる。推薦入試や総合型選抜の肝は、出願書類・小論文と面接である。この指導の需要は、今後もっと高まってくることは確実である。教科指導をメインにしつつ、自分の出身学部での総合型選抜の入試研究から始めることをお勧めする。

(3)  業界知識を得る、人脈を作る

塾・予備校業界で長く仕事を続けるためにどうしても避けられないのが、業界知識と人脈である。

特に、大手予備校講師としてのデビューを考えている人は、業界知識と人脈は必須である。紹介者がいなければ応募できないという予備校もあるし、講師募集の情報すら入ってこない場合も多い。また、人脈を広げておくことで、講師に欠員が出たときにファーストコールで声をかけてもらえるようになるというメリットもある。

一人で塾をやる場合は別として、将来独立して塾を開業したい人も最初から見ず知らずの講師をリクルートして始めるのはリスクが多い。他の先生を雇わなければならない段階で、信頼できる知り合いの講師に声を掛けられるよう、講師室で知り合った先生たちの輪は少しづつ広げておくのがよいだろう。

一方、誰とも関わることなくYouTube等の個人発信型メディアを使って生徒(視聴者)を集め、その収益だけで生きていくという道もある。しかし、その場合であっても一定程度の業界知識はあった方が自分ブランドの差別化を図るとき有利になるし、人脈だって多い方が認知度を上げたりコンテンツを充実させるうえでも有利になるはずだ。

(4)  情報発信をする

最後に、情報発信である。SNS(Twitter, Facebook, Instagram,…)や動画投稿サイト(YouTube,Tick-Tock)などでアカウントを開設し、教科に関する情報などを発信できるようにしておくのも、今後のキャリア形成に役立つ。SNSやYouTubeに抵抗感がある人はnoteなどのサービスを利用し、実直な勉強Blogを作っていくことをお勧めする。

こういった情報発信は、自分の講師としての研究経歴として、転職やキャリアアップの際の「ポートフォリオ」としても利用できる。それを数年も続ければ、その原稿をAmazonで電子出版したり、出版社に持ち込んで著者デビューを飾ることだってできる。

とにかく、自分が教えていること、教えたいこと、研究したことを記録し情報発信することは、その営み自体が価値になり、自らの講師と資産となることを覚えておいてほしい。この記事の著者も、このような情報発信のための原稿をもとにすることで、いままで5冊の書籍をリリースすることができた。著書を持つことは、講師としてのキャリアアップに大きなメリットをもたらしてくれることは言うまでもない。ぜひトライしてほしい。

まとめ

以上、講師の出口戦略として、

(A)一流プロ講師になる
(B)塾・予備校内で指導講師、経営層へ昇進
(C)独立
(D)教材、カリキュラム作成、書籍執筆

という4つのキャリアパスを提案した。そして、そのために「やっておくべきこと」として

(1)盤石な知識を身に着ける
(2)誰にも負けない得意な領域をつくる
(3)業界知識を得る、人脈を作る
(4)情報発信をする

という4つのアプローチを説明した。

これらのアプローチは、1年、3年、5年と継続的に続けることではじめて成果が見えてくるものである。地道に続けられるかが勝負だ。ただ、これらはやってみたが無駄だったということは一切ない。必ず将来のキャリアに何かしら役に立つアプローチである。著者は、大学時代から塾講師を始め、大学卒業後の多くを教育業界で過ごしたが、これらの考え方が無駄であったと思った時期は一度もない。ぜひ、いますぐにでも始めてみてほしい。

 

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