生徒とのトラブルは、講師が自衛する!
トラブルを事前に防ぐのも、講師の仕事です。
小さい子供を狙った凶悪事件が多発している現代、生徒も保護者も子供が巻き込まれるトラブルにかなり敏感になっています。私たち塾講師は生徒の安全を心から願い、受験勉強の指導によって子供たちの健全な成長を助ける存在であるのは大前提です。
しかし、年少の子供たちを相手にしている以上、講師側が「そんなつもりではなかった」や、「冗談だった」などという言い訳は一切通用しないと、肝に銘じておかなくてはいけません。生徒のことを思っての行動でも、生徒がショックを受けたり、怖い思い、嫌な思いをさせてしまったら、それは、講師の責任です。生徒とのトラブルを防ぐために、私と、周囲のベテラン講師が気を付けていたことを、紹介します。
見た目は、大切!
その塾に採用された時点で、あなたの外見は、講師としてふさわしい身だしなみが整っていたと考えて良いでしょう。しかし、あくまで面接の時のあなたを評価してもらえたことを忘れてはいけません。長く同じところで働くうちに、少しずつ気の緩みが出て来るのは、避けられません。
気を付けておきたいのは、「実際に注意されるのはよほどひどく目に余る場合のみ」という事実です。もちろん、常に上司が講師の様子に気を配り厳しく注意をしてくれる塾もありますが、大多数の塾では上司の裁量で「見逃して」くれている場合もあるのが現状です。
注意を受けないからと言って身だしなみに気を抜き続けていると、生徒や保護者から不信感を持たれる状況になりかねません。最低限の身だしなみを整えるのは当然のこととして、男女別に、「トラブルを避ける身だしなみ」を紹介します。
男性講師の場合
とにかく、清潔感を保つように心がけましょう。進学のためにひとり暮らしを始めたばかりの大学生講師は、特に注意が必要です。ワイシャツの黒ずみや、スーツのヨレなど、生徒には気付かれないと思っていても、保護者は案外チェックしています。社会人としてだらしない先生、と思われてしまうと、信頼関係は生まれません。
また、個別指導の際はタバコの臭い・口臭などが生徒の間で知らないうちに噂になって嫌がられている場合もあります。生徒に信頼されるためには、授業内容を充実させるだけではなく、相手が気持ち良く授業を受ける環境を整えるのも業務の一環です。
私服が許されている塾の場合もカジュアルすぎる洋服は避けましょう。ぜひこちらの記事を参考にしてみてください。
女性講師の場合
派手で華美な格好は、極力避けましょう。基準は、同世代の友達ではなく、保護者世代です。女性講師は、スーツ着用が絶対ではなく、オフィスカジュアルや、適度な茶髪は許されている場合が多いです。
そのため、学校や遊びにそのまま行けるような服装で授業に臨んでしまう講師もいます。生徒にも慣れて授業内容も充実していれば、よほど度を越さなければ塾から服装に注意を受ける事態にはあまりなりません。しかし、トラブルを未然に防ぐという意味では、勤務中はできる限りお洒落をしたい気持ちを捨て、地味で誠実に見える服装を心がけるほうがいいでしょう。特に、保護者対応は、お母さんの場合が多いので、年上の女性に、子供を任せたい、と信頼してもらえる姿であることが重要です。あからさまに大学生と分かるような恰好をするのは避けましょう。
生徒との接し方
次に、生徒との接し方について、注意点を紹介します。塾講師としては、授業内容を充実させることばかりに目が行ってしまいがちですが、相手は受験期のストレスに日々晒されている子供だという事実を忘れてはいけません。
自分が子供だった頃を考えると、周囲の大人の不用意な言動に案外簡単に傷ついた記憶があるかもしれません。塾講師は生徒の「受験の成功」を目的としている以上、生徒の精神ケアには万全の注意を払わなくてはいけません。
誤解を受けない行動を取る!
常に、誤解を受けない行動を取るように気を付けましょう。いくらフランクに友達のような指導を得意としていても、講師は冷静に状況を判断し、授業をハンドリングしている必要があります。暴言と間違えられるような、失言は厳禁です。どれほどの信頼関係があっても、講師が生徒に対して友達のように心を開くのは間違いです。生徒に連絡先を聞かれた場合も要注意。勉強の質問をするためでも簡単に教えてはいけません。たとえ学生講師であっても、常に、生徒の成長を見守る立場の大人である自覚を持って生徒に接しましょう。
また、同性異性を問わず、ボディ・タッチは厳禁です。幼児を相手にしている保育園や幼稚園ではないので、いくら純粋に子供を可愛いと思っての行動でも、頭を撫でたり身体に触れる行為は即セクハラと捉えられてもおかしくありません。
十年近く前に私の周りで実際にあったケースでは、講師が成績不振の生徒を力付けるために肩を、ぽん、と叩いた行動に、生徒が体罰を受けたから塾に行きたくない、と訴えました。講師が思っていた以上に生徒との信頼関係が築かれていなかったのが一番の反省点ですが、それ以降その塾では全校どんな理由があってもボディ・タッチは厳禁となりました。厳しすぎるようにも感じますが、大手外資系企業では、セクハラやパワハラのトラブルを未然に防ぐために、広く徹底されているルールです。講師側の自衛のためにも、言動には一定の線引きを設けましょう。
個別指導と集団指導のトラブル回避術
個別指導と集団指導とでは、それぞれ別のトラブル回避の注意点があります。どちらも、それぞれの場合に応用できますので、参考にしてみてください。
個別指導の場合
パーティションで区切った半個室のような状態で、常に他の講師の目がある場合は講師が生徒を選ぶことはありません。気をつけなくてはいけないポイントは、生徒を叱る時は必ず周囲に聞こえるように、はっきりわかりやすい声で叱りましょう。大きな声で怒鳴るという意味ではなく、あくまで、上司、同僚に状況を伝えるのが目的です。そうしておけば、「さすがに厳しく叱りすぎた」などという時には、他の講師からのフォローが入ったり、後でアドバイスを受けたりすることができます。
自分の宿題忘れや授業中の態度が原因で講師に叱られて、生徒が落ち込む時が、一番トラブルになりやすい時です。生徒を叱る時は、「誰が聞いても適切な指導をしている」と思われるような言動が必要です。生徒に気を使って、誰にも聞こえないような小さい声で叱るのは、かえって生徒を怖がらせてしまう場合もありますし、言った、言わないの話になることもあります。
一方、家庭教師などの完全個室の指導ですが、個人的には、よほどの指導経験や自信がない限り異性の生徒の指導はお勧めしません。家庭教師は、塾講師と比べて、生徒のメンタル面も含めて、より深い信頼関係を築く必要があります。勉強が手につかなくて悩んでいたり、受験直前で不安になっている時などに、年齢の近い家庭教師のお兄さん、お姉さんの存在は、生徒にとってとても大きな心の支えになります。お兄さん、お姉さんのような存在として、生徒と兄弟のような信頼関係を築くには、慣れないうちは同性同士が一番良いと思います。
ベテランのプロ家庭教師の中では、同性の生徒の指導しか受けていない人や、異性の生徒の場合は必ずリビングなどオープンスペースでの指導をする、と決めている人は多くいます。プロ家庭教師として指導をしている以上は、生徒とのトラブルを絶対に避ける!という自衛の手段です。
異性の生徒を受け持つことになったら、そのように保護者の方の目の届くところでの指導をお願いすると良いでしょう。講師側からのそのような提案に、気分を害する保護者は、まずいません。異性の生徒の指導は、経験を積み、プロ並みに生徒の年代の子供の扱いに慣れたと感じるようになってからが良いと思います。
集団指導の場合
集団指導の際は、常に、生徒の扱いを平等にするように心がけましょう。特に中学受験の小学生の指導の際は、学校の授業さながらお喋りをしたり寝込んでしまう生徒もいます。そんな「手のかかる」生徒にばかり講師が気を取られてしまうと、真剣に授業を受けたい生徒の不満に繋がります。
成績の大きな変動もなく授業を真面目に受けている生徒にこそ、ちょっとしたタイミングで「この間の模試の成績、~~だったね」などと声を掛けて、常に気にかけている事実を伝えましょう。何より、自分の受け持つ生徒の顔と名前は、必ず一致していることが必要です。人数が多ければ多いほど、生徒は「自分を気にかけてくれている」講師の存在に、やる気もアップして信頼関係が築かれるはずです。
以上で全て紹介しましたが、生徒とのトラブルは小さな誤解が大きな問題に発展する場合もあります。重要なのはお互いの距離。講師が、いくら真剣に生徒のことを思っていても、それが相手に伝わらなくては信頼関係は築くことができません。少しでも、生徒とのトラブルを避けるための参考になればと思います。