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保護者からのクレーム対応~塾講師の体験談から学ぶ~

2021/12/17

保護者からのクレーム対応は、塾講師にとって一番ツラい仕事です。

日々、どれほど真剣に、生徒のためを思って指導しているつもりでも、保護者からのクレームというのは来るときは来ます!そして、一度クレームが来てしまったら、塾講師は、必ず保護者が納得いくまでそのクレームに対応しなくてはいけません。


新人のうちは、上司や先輩が対応してくれる場合もありますが、保護者からすればアルバイトの学生講師も社員も関係なく、同じ先生です。自分の担当している生徒の保護者から来るクレームは、極力、担当講師自身が対応できるようにならなくてはいけません。


また、保護者と塾がトラブルになって、退塾する、なんて羽目になったら、生徒の心に多大なショックを与えてしまうでしょう。理不尽な厳しいクレームに対応しているときは、何よりも「生徒のため」を思って、一番良い解決方法を、保護者と一緒に考えれるように心がけましょう。


体験談:エアコン調節で、子供がダウン!?

十年以上前、私が学生新人講師だった頃の、保護者からのクレーム体験談です。

 

当時、私は中学受験生の小学生の集団指導で1クラス30人ほどの指導を受け持っていました。クラスのレベルは中堅校受験レベルだったので、すぐにでも次の模試の成績次第で難関校クラスにステップアップしていくレベルの生徒と、やる気が失せてきてしまって、このままでは最下位クラスになってしまう状況の生徒が混在していました。


ある日、クラスの中で一番の問題児の生徒が、授業中に騒ぎ出しました。その生徒は、いろんな事情で成績が下降の一途を辿っている最中だったので、講師側から見てもかなりストレスが溜まっている状態が予想できました。授業中に、講師に向かって叫んだり、休み時間に走り回って喧嘩をしたり、不貞腐れているときは、机に突っ伏して寝てしまう場面もありました。


しかし、子供の世界とは不思議なもので、そんな問題児の生徒を、クラスのメンバーはそれなりに受け入れていたようです。生徒からも保護者からも、「~~君がうるさくて集中できない」というようなクレームはありませんでした。


一方で講師のほうはいつクレームにつながるかと、かなり神経質にその生徒の動向には気を付けていました。実際、保護者に通達をしたこともありましたし、授業中では、「みんなの迷惑になることをしてはいけない」と、厳しく叱ることもありました。

 

三月にクーラー!? うまくやり過ごしたつもりが……。

その日は、春期講習の最中の三月でしたが、その問題児の生徒が「部屋が暑いからクーラーをつけて!」と、騒ぎ出しました。少し蒸し暑く感じる気温の日でしたが、それほど耐えられない状態ではありません。


しばらくは騒いでいる生徒を無視していたのですが、途中から、数名の生徒がそれに同調し始めました。新人講師時代の私が少し戸惑った状況を見透かされてしまったようで、その後クラス内で「暑いからクーラーつけて!」と必死の訴えをする生徒が続出、という不思議な状況ができてしまいました。


これは、授業が正常に進まない、かなり危険な状態です。苦肉の策として私が考えたのが、「クーラーをつけたよ、と嘘を言って、ひとまずその場を納得させる」ということでした。


このその場しのぎの対応が、後ほどの大クレームに繋がります。私は、エアコンのスイッチを入れたふりをして、「確かに少し暑いから、クーラーをつけたけど、今は三月だから一瞬だけだからね」と言いました。生徒たちは、それで納得し授業に集中できるようになりました


実際はクーラーなどつけていないのに、なぜか「涼しい」と喜ぶ生徒まで出てきました。私は、小学生の単純さを、微笑ましいくらいに思って、そのまま事態は収束したと思っていました。 


クレーム発生! 子供が塾に行きたくないと言っている!

その日の夜、ひとりの生徒の保護者から、クレームの電話が鳴りました。クレームの内容は、「今日、先生が三月だというのにクーラーをつけた。そのせいで、子供がとても寒かったと言っていた。子供は、もう塾に行きたくないと言っている。三月にクーラーをつけるなんて、非常識にも程がある!」という内容で、保護者はとても怒っていました。


先輩からクレームの内容を聞いた瞬間、私は、すぐに先輩に状況を説明しました。その塾の入っていたビルは、管制室で空調をコントロールしているので、三月の時点ではクーラーが入らない事実を、先輩も知っていました。なので、新人講師の私は、これで自分の立場が守られたとほっとしていました。


しかし、結果として私は、先輩に、非常に怒られました!


私の話をもし保護者に伝えた場合、保護者相手に「生徒は寒かったと嘘を言っています」と言っているのと同じことになります。裁判やミステリー小説ならば、有効な証拠になるかもしれませんが、クレーム処理において「講師が正しくて、生徒が嘘をついている」なんて主張することは、何の解決にもなりません。


結局、このクレーム対応は、「クーラーではなく送風機能を使ったつもりだったが、部屋の気温が下がってしまったのは事実。今後は、教室の温度は適正温度~~度を常に保つようにします」と、事実とは異なる状況を説明して、先輩と一緒に謝罪し、何とか収束しました。新人講師の私は、とても腑に落ちない気持ちだった記憶があります。



クレーム処理から学んだこと。「生徒の家での発言は、そのまま講師への心象を意味している!」

ベテラン講師となった今、実際保護者からの後輩講師へのクレーム処理の担当をするようになってみて、当時の先輩の判断は、やはり正しかったと感じます。長く塾講師をしていて、忘れてはいけないと思うのは、当たり前のことながら、生徒は、まだ精神的に未熟な「子供」だという事実です。


塾講師は、学校教員と比べて比較的年齢の若い先生が多く、子育ての経験もない人がほとんどです。実際、私も、塾で接する以外は小学生の子供と接する機会はありません。それで気付いたのは、「子供」は実に自分に都合の良いようなめちゃくちゃな発言をする、ということです。


私が処理したクレームの中でも、親に試験の成績が悪い理由を聞かれて生徒が「塾の先生が、この範囲の勉強はやらなくていいと言った」などという、その場逃れの返答をする生徒はいくらでもいました。一昔前ならば、そんな子供の言うことに対して、親は「子供の言うこと」とほとんど相手にしませんでした。


しかし、今では、時代が違います。今の時代の保護者、特に小学生を塾に通わせる教育熱心な保護者は子供の発言をしっかり受け止めて、「言うべきことは、きちんと言う」というスタンスです。そんな保護者を、モンスター・ペアレンツなどと呼ぶ傾向もありますが、私は、違法性のある非常識で威圧的な言動や脅迫などのない限り、クレームの連絡をしてきた保護者を、簡単にモンスター・ペアレンツなどと見なすのは反対です


生徒が、保護者に対して、「講師のせいにする」ような発言をするときは、その講師に不満がある時だと考えなくては、いけないでしょう。


いくら生徒が「子供」であっても、大好きな先生を、保護者の前で悪く言うようなことはありません先ほどの私の体験談でも、おそらくクレームの真の原因は、私がクラス一の問題児にばかり注意を払い、彼をおとなしくさせるために、講師が、理不尽な要求を聞いていると他の生徒に思わせてしまったことでしょう。それでは、真面目に静かに頑張っている生徒に、不満が募るのは当然です。


授業の進行の邪魔になっているにもかかわらず、「暑い!」と騒ぐ生徒の言い分だけを聞いて、文句を言わずに大人しく授業を受け続けている生徒に対する配慮が、まったく足りませんでした。

 

 

クレームを少なくするためには、講師が、ひとりひとりの生徒の良さをきちんと「理解」する。

その後、経験を積むにつれて、私の授業に対応するクレームの数は激減しました。積極的に自己主張をしない生徒の動向にこそ、きちんと目を配ることを徹底したことが理由だと考えています。さらに、どの生徒に対しても、必ず良いところを見つけて、こちらから積極的に褒めることを心がけました。


また、叱った後は、「~~だったら、絶対にできるはずなのに勿体無い。今後は期待しているよ!」と、相手を、一人の人間として信頼している姿勢を伝えました。

 

さらに一番良いのは、保護者と生徒の前で、保護者に対して、存分に生徒の良いところを褒めることです。「授業を集中して静かに聞いている」「字が綺麗」「宿題をちゃんとやってくる」など、講師側からすれば最低限できていて欲しいようなことであっても、褒めるに値することを見つけてどんどん褒めます。これを意識的に行えば、たとえまさにクレームを言われている最中の場であっても、驚く程事態は穏便に済む場合が多くありました。


このように、クレーム処理はとても難しい問題です。しかし、その原因と対応策をあらかじめ知ることは万一の事態が起こったときにとても役立つことでしょう。


その際に本記事の内容を参考にしてくださいましたら幸いです。

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