【塾講師対象】生徒の『学力』を上げるために!統計から見えてきたこと
「教える」立場にある人間はどうあるべきなのでしょうか
いきなり重い質問でごめんなさい。でもこれはすごく大切だと思うので、是非考えていただきたいです。
それには様々な答えが出ます。生徒の学力を上げるためだとか、生徒の支えになるような人格を持つだとか、まぁそれは色々です。でもそれらはたしかに必要な要素ではありますが、必要十分を満たしているとはいえない気がします。「なぜそれが大切か」と問われると、答えにくいです。
この問いに答えるために、私はまず塾講師の役割を考察し、その役割を果たすために塾講師は何をすべきかを考察していきます。
塾講師の役割
世間には数万人の塾講師が存在します。多くの大学生はアルバイトとして家庭教師や塾講師を経験し、人に自分の体験を伝えるわけです。ではなぜこうしたことが「仕事」として成立するのでしょうか。言い換えれば、なぜ塾や予備校といったニーズが存在し、ここまで大規模な市場が形成されたのでしょうか。
それを考察するために、保護者(つまり顧客)が実際に、講師に何を求めているのかを把握する必要があります。以下の統計をご覧ください。これは小中学生の塾に通う子供を持つ保護者に対して行ったアンケート結果です。個別指導に通う子供を持つ保護者、およそ1000人による回答をもとにしています。
(出典:「塾生保護者に関する実態調査結果」公益社団法人 全国学習塾協会より)
保護者が塾に求めていることは、受験と学校補習のためが圧倒的なようです。塾講師はお金を頂いている以上、このニーズを満たすよう努めなければなりません。とすると、塾講師の目的は、「生徒を志望校に受からせること」と「学校の授業についていけるようにすること」の2つとなります。
それぞれのニーズに合わせて、塾講師のあり方を考えてみましょう。
ニーズによって異なる目標
① 受験の場合
ニーズが受験である場合、講師は志望校の設定と学力向上の2つを手伝う必要があります。そもそも志望校が暫定的にでも決まっていなければ、ゴールが存在しないことになってしまいますし、生徒に勉強させるにあたり、「なんで勉強しなきゃいけないのか?」の正当化ができません。
そのため、講師は生徒が志望校を持つようにお手伝いをする必要があります。
生徒の得意なことは何か?
生徒が将来なりたいものは?
生徒はどんな高校・大学に入りたいのか?
そういった、生徒の将来に関する意見をヒアリングし、志望校を決定してもらいましょう。
次に、学力向上です。学力が十分になければ生徒は志望する学校に入ることができません。学力向上については後述します。
② 学校の補習の場合
この場合、講師がしなければならないことは、学校の進度の把握・学力向上の2つでしょう。受験のときとは異なり、ゴールは「学校の授業についていけること」です。これの背景には、中学生・高校生の場合であれば内申点を気にしているということを意識しなければなりません。
となると、講師は学校の進度を知らなければ内申点を上げることができません。
学校で今どの分野をやっているのか?
どんな授業を展開しているのか?
どんな宿題を出しているのか?
学校の情報をとにかく収集し、自分がどのような授業を展開すればいいのかの材料にします。
そして材料を使って、生徒の学力向上です。生徒がちゃんと提出物を出しているのかのチェックもすれば、内申点に繋がるでしょう。
このように、塾講師に求められていることによって、授業の目的が異なってきて、戦略も変わってきます。
そもそも学力とは
さて、ニーズに合わせた塾講師の役割を考えていましたが、どちらも「学力向上」が重要な任務になっています。確かに塾講師は生徒の学力を上げることを重要な任務として負っていますが、それを達成するために重要な資質とはなんでしょう。
私は「学力」という言葉を用いていますが、学力とは一体なんなのでしょうか。学力が高ければ良い成績が取れる、それは間違いありません。しかし、「学力」といった一般的資質は存在しないように思えるのです。
例えば大学受験をした皆さん。私立の問題と国立の問題は全然形式が違いますよね?英語一つをとってみても、長文重視なのか、英作文重視なのか、文法重視なのか。確かにどんな受験生でもいわゆる英語の基礎を習得するわけですが、それをどう応用に効かせていくのかは、志望校によって異なります。
では私立に特化した受験生と、国立に特化した受験生は、どちらのほうが学力があると言えるでしょうか?
比べることはできません。
学力とはあくまで、ある試験においてどれだけの点数をとれるかの能力にすぎないのです。つまり、尺度の性質が異なれば必要となる学力の性質も異なります。
生徒にとっても同じことです。
学校のテストでの学力、志望校合格のための学力は異なります。そう考えると、学力という言葉は重要性を持たなくなってきます。「何の試験で」が重要です。
結局学力というのは、その生徒の目的にどれだけ近づいているのかの指標に過ぎません。出来の悪い生徒を持ってしまった講師は、「生徒の学力をあげなきゃ!」と切羽つまって、あれやこれやと試行錯誤するかもしれません。とりあえず志望校の問題を解かせたり、あるいは基礎問題を大量に解かせたり…
でも、学力があくまで試験によって異なるというのであれば、対策は一つに絞れます。学校の補習か、志望校の合格か。指標をどれか一つを選択し、その指標の達成に徹底してください。
あれやこれやとやるよりも、絶対に効率的です。
実際に学力を上げるために 必要なのは「授業のわかりやすさ」
ここからは実際に生徒の学力を上げるためには何が必要かを考えていきます。結論から申し上げますと、「授業のわかりやすさ」、これに尽きるでしょう。逆に言えば、この要素は、生徒とのコミュニケーションを犠牲にしてでも、保護者との関係を犠牲にしてでも、徹底すべき要素であると考えています。
別に生徒や保護者との関係は重要ではないとは言っていません。あくまで、「授業のわかりやすさ」は全ての前提であって、それがない場合での生徒や保護者との関係は、意味を成さないということです。
下の統計見てください。これは個人指導において、講師とって重要な資質とは何かを答えてもらったアンケート結果です。塾の事業主に回答してもらったアンケートです。およそ80近くの事業主が回答しています。
(出典:「学習塾講師に関する実態調査結果」 公益社団法人 全国学習塾協会)
やはり授業のわかりやすさがダントツにトップです。なぜ授業のわかりやすさが、生徒とのコミュニケーションよりも重要なのかを考えてみたいと思います。
生徒との関係は確かに大切です。
ではなんで大事なのでしょうか?
さきほど確認しましたとおり、講師の存在意義は学力の向上が半分を占めています。
その存在意義に、生徒との関係はどれだけ関係しているでしょうか?
生徒と仲良くなっていたらきちんと勉強してくれますか?
生徒が私たちを良い友として思ってくれたら、学力はあがりますか?
そんなことはありません。あなたを信頼し、あなたの言葉を重んじたとしても、あなたが発する言葉・指導する内容が稚拙なものであれば、例えそれを受け入れたとしても生徒の学力は上がらないでしょう。
「それでも生徒が私の言ってくれることを信じてくれないと、いいものも意味ないじゃないか。」
なるほど、そういった考えもあるでしょう。けれど私はこう考えます。生徒との関係は、指導力を向上させることはありませんが、教えることが上手であれば、生徒との関係は構築できると。
あなたが高校の頃、さらには中学の頃、性格はどうにも気に食わないけれど、教え方だけはうまい先生というのはいなかったでしょうか?
その先生が授業をしているとき、関係が良くないからって話を聞かないということはあるでしょうか。
私は聞きます。
生徒は馬鹿ではありません。先生の言っていることが本当に理屈が通っていれば、どんなにムカつく先生でも耳を傾けます。
ですから私は、皆さんには、「教え方」について徹底的に研究していただき、生徒の学力を伸ばしてほしいです。
学力が上がるのであれば、他の全てを捨てる覚悟でいきましょう。
生徒との仲の良さは捨ててもいいと考えています。自分があまりにもコミュニケーションを取るのが上手ければ、生徒は勉強よりも先生との会話を楽しむようになってしまいます。
そこはきちんと叱咤してください。
最悪の場合、生徒との仲が悪くなってもかまいません。
全ては生徒のためです。
自分のためではありません。自分が会話を楽しむためではありません。
子供が好きだから塾講師をやっている。
そんな方もいらっしゃるでしょう。
けれど本当に大切なのは、生徒自身の将来です。
生徒に嫌われようとも、生徒の学力をあげてやる。
そうした思いがあれば、絶対に成績はあがると思います。
そしてその思いは、最後に理解してくれます。
全てが終わったら、生徒から「今までありがとうございました」と言ってくれる。それを糧に、授業をしてみてはいかがでしょうか。