モチベーション理論に学ぶ講師の離職を防ぐ秘訣とは?!
1.教育・学習支援業界の現状
せっかく講師を採用できたものの、すぐ退職してしまったということはないでしょうか。そもそも、講師の離職を防ぐことができれば新たな人材獲得の必要もなくなります。採用活動費を抑えられないか検討することに加え、講師の離職を防ぐ工夫ができないか検討してみてはいかがでしょうか。
厚生労働省の調査によれば、新規大学卒業者の産業分類別卒業3年後離職率の推移に関して、「教育・学習支援業」では近年離職率が高水準で推移しています。全体の平均が31%(2014年)であるのに対し、「教育・学習支援業」では45%を超える水準で推移しています。とくに「教育・学習支援業」の多くを占めるのが塾講師ですが、なぜこれほどまでに高い離職率となってしまっているのでしょうか。
原因としては多々考えられますが、やはりその多くは職務の特性にあるのではないかと考えられます。
①労働時間が多い
主な仕事である授業のほかに、授業の準備、模試の運営、塾の説明会、面談業務、生徒獲得のための施策立案・実施など、講師の業務は多岐にわたります。また、出勤日も平日はもちろんのこと模試や特別講義などで土日祝日に勤務することも多いかと思います。その上、夜型の勤務体系となるため授業終了後の事務作業が多いと毎日終電ギリギリといった生活になってしまうこともあるようです。このように、総じて労働時間が多くライフスタイルが制限されてしまうことは高い離職率の原因の一つとして考えられそうです。
②成果が見えにくい
労働時間が多いにもかかわらず、成果が見えにくいというのも高い離職率の原因であると思われます。模試や小テストでの成績の変化で多少は指導の成果が見られるものの、その一番の成果として現れるのはやはり、受験です。生徒が志望校へ合格する瞬間が一番の成果であり、仕事のやりがいや喜びにつながるところですが、その機会は1年に1度しか訪れません。他の職業と比べると、成果を実感できる機会が少なく、また評価される機会も少なくなってしまっているのではないでしょうか。
2.離職率を下げる改善策として
①-職場環境を変える
まず改善策として一番に検討するべきは労働環境を改善できないかどうかです。時間外手当や休日出勤に対してきちんとした報酬を発生させるというのは大事なことです。それ以外にも仕事を細分化して講師一人に多岐にわたる業務がのしかからないよう配慮することも大切です。
また、成果が見えにくいという部分に対してですが、生徒による授業評価や、小さなテストでもその成績の変化を講師の指導の評価としてとらえた評価制度など、こまめに成果を実感し評価される機会を作ることが大切です。
②-モチベーションに関わる様々な理論を応用する
さて、現場の環境を改善することが望ましいと言っても、講師が慢性的に不足しているなど、なかなか策を打つことが難しい場合もあるかと思います。そのような場合にとり得る策として、対症療法にはなってしまいますが、モチベーションのコントロールに関わる様々な学術的理論を応用するという方法があります。ここではその一部をご紹介します。
〇内発的動機付け
人間がある仕事をするとき、仕事(会社)と個人の間には誘因と貢献という2つの関係が存在しています。誘因というのは、仕事を行うことによって個人に与えられる便益を示します。貢献というのは、仕事を行うことで会社や社会に貢献することを示します。この際、誘因が物的報酬や名誉、地位など、仕事そのものに結び付けられた間接的要件である場合の仕事の動機付けを「外発的動機付け」と呼びます。一方、誘因がその仕事を行うことによってしか得られない、仕事そのものと直接的に結びついたものである場合の仕事の動機づけ(教えることによって得られる報酬よりも教えることそのものに魅力を感じる場合など)を「内発的動機付け」といいます。一般に外発的動機付けよりも内発的動機付けによって仕事を行う方がパフォ―マンスが高く維持されると言われています。この考え方のように、仕事を行う動機を変化させることができればより長く、より良いパフォーマンスを発揮することができそうです。
〇ラダー効果
ラダー効果とは、物事(仕事)を行うという現象をより上位の概念(目的)でとらえ直すことで、仕事に対するモチベーションをあげるというものです。1つ具体例を引用して説明します。
“ある時、村を歩いていた旅人が石を積んでいる職人Aに出会いました。旅人が「何をしているのですか?」と質問したところ、Aは「石を積んでいる」と答えました。
次に、同じように石を積んでいる職人Bに出会い、同じ質問をしてみたところ、Bはこう答えました。「壁を造っている」と。
もう少し歩いていると、同じ仕事をしている職人Cに出会い、同じ質問をすると、Cは「教会を造っている」と答えました。
さらに歩を進め、4人目の同じ仕事をしている職人Dにも質問をしたところ、Dはこう答えたのです。「私は人の心を癒す空間を造っている」と。
(http://www.nikkeibp.co.jp/article/nba/20090105/181861/?rt=nocnt)日経Bizアカデミーより抜粋
この例の中でAさんは「石を積んでいる」という行為をその行為以上に何か価値があると捉えていません。しかし、Bさん、Cさんは行為を目的達成のための手段としてより上位の概念でとらえることで行為そのもの以上の価値とやりがいをそこに見出しています。そしてDさんはその目的を掲げる意義まで見据えたさらに上位の概念で行為を捉えています。このようにただ行為を行うだけではなく、「目的」や「意義」をしっかり捉えて仕事に臨むことでモチベーションがアップするというものです。
〇ハーズバーグの衛生理論
今まで紹介してきたのはいかにして仕事の満足度を向上させるかという考え方でしたが、今回紹介する衛生理論はある物事への満足要因と不満足要因は全く別の要素にあることがあり、不満足要因を解消したからそれが満足につながるわけではないとする考え方です。主に不満足を引き起こすのは「監督」「報酬」「人間関係」「労働条件」などです。先ほども述べましたように、「報酬」や「労働条件」などは今すぐの改善が難しくても、「人間関係」など、ある程度改善を施せるものがないか確認してみてはいかがでしょうか?
3.さいごに
様々な考え方を紹介してきましたが、講師が定着するために一番肝心なことはやはり「働き続けたいと思う職場環境」にすることです。給与・労働時間などの労働環境の改善、モチベーションの向上・維持、不満足要因の除去など、些細なことでもぜひ取り組んでみてはいかがでしょうか?