【塾講師必見】学習戦略論【原則編】
学習計画とは”戦略”である
「学習計画を立てましょう」
よく言われている言葉ですね。学習計画という言葉ではなくとも「カリキュラム」という言い方をするところもあるみたいです。まぁどちらでもいいです。けれども、何かしらの計画を立ててその通りに進めることが大切という風潮は、受験の業界の中でも主流みたいですね。皆さんが仰るとおり、計画は本当に大切なものです。
しかし、その計画が本当に考えて考えて練られたものなのか、そう問われると自信をなくしてしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。計画とは、単に道筋を立てればいいものではありません。単なる予定表ではないのです。あの日この日に何をやればいいというのがわかるものというわけではなく
これらの to do を、この順序に達成していけば、目標は達成される
と強く自信を持って言えるものが計画です。皆さんが立案した計画には、目標への到達可能性をきちんと示すことができるでしょうか?実現可能性のあるものでしょうか?効率的でしょうか?
計画とは単純なものではありません。1時間で作れるものでも、1日で作れるものでもありません。私は、本当に素晴らしい計画のためならば、1か月をかけてもいいと考えています。本当に素晴らしい計画とは、合格を保証してくれるものです。ゲームで言えば攻略本のようなものです。その通りにやれば志望校の合格・成績の向上を約束してくれるのですから、本当に素晴らしいものでしょう。
あなたが生徒のために作成した計画は、それを保証してくれるものですか?
今回の記事では、経営戦略の手法をそのまま学習計画の立案に役立てて成功した体験をもとに、記事を執筆していきたいと思います。
計画の原則
すでに述べたことですが、計画とは、ゲームの攻略本みたいなものです。いっそこう言い換えれば皆さんの意識も変わるかもしれません。
学習計画とは、志望校合格のための“戦略”である
そう。予定を書き込むだけではないのです。その予定がなぜ目標の到達の手助けになるのかを、1つずつ根拠付けされている必要があります。私はそのような戦略には
- 必要性
- 実現可能性
- 効率性
の3つが備わっていなければならないと考えます。
必要性
必要性とは、目標達成に直結するかどうかを意味します。この部分は戦略を立案するときに最も根幹に関わるところですので、注意が必要です。 生徒に、必要のないことをやらせないでください。
例えば、生徒を留年させないことが目標の子を受け持っているとします。次の学校のテストでは微積のテストがあるのに、ベクトルも勉強していたら意味がありません。ベクトルの勉強はしてはなりません。なぜなら、学校のテストが留年の回避に直結するはずであり、その学校のテストでは微積しかでないからです。もし目標が志望校合格で、ベクトルが範囲として出るのでしたら、学校のテストに関わらずやってもいいかもしれませんが…
代わりに、2次関数の勉強はしてもいいかもしれません。というのも、微積を理解するためにはそもそも2次関数を理解していないと、話にならないからです。基本的に、生徒に勉強させないつもりでいてください。そしてゼロベースから、何が必要なのかを考えて、そしてその必要性を語れる上で、やらなきゃいけないリストに追加するのです。その勉強が目標にどのように貢献するかを語れなければなりません。それができないのであれば、勉強させないことです。生徒からしたら、勉強するより遊ぶ方が楽しいはずです。その遊びを犠牲にしてでも、なぜその項目を勉強しなきゃいけないのかの説明責任を果たせる準備ぐらいはしておきましょう。
実現可能性
出来のよくない生徒を受け持つとこの部分が難しくなってきます。必要性を追求したらいろいろなものを勉強させなきゃいけないのですが、それらを生徒が全てを消化できるかどうかはまた別問題です。
・生徒が1日何時間勉強する習慣を持っているのか
・そもそも部活の時間などを除いて、1日何時間使えるのか
必要な勉強量に対して、生徒の勉強するだろう時間を比較し、なんとかやりくりしなければなりません。基本的に出来のよくない生徒は、あまり勉強をしたがらないので、計画の実現可能性はかなり低いと思っていいでしょう。そうなると次の段階。いかにして実現可能性を上げていくのか、です。親の協力を得るのか、何かを約束するのか、様々な施策がありますが、必要と思える勉強量を確保するために、何かしらしなければなりません。
友人が作成した学習計画には、「1日4時間勉強する」ことを前提にした勉強内容がありました。しかし、その友人が受け持っている生徒は1日に1時間も勉強しない浪人生です。確かにその計画に従うことができれば、実行できるかもしれませんが、生徒の性質を無視した計画は絵に描いた餅です。もしその勉強量に必要性が伴っているならば勉強させなければいけないのですが、そこには実現可能性とのトレードオフがあります。そのときこそ講師の腕の見せどころ。どうやって、生徒に1日の勉強量を増やさせますか?実現可能性の担保も戦略のうちの1つです。
効率性
その計画は効率的ですか?これは計画を立案することに慣れてからでいいと思いますが、計画には効率性も大切になってきます。授業で何度も同じ単元を繰り返し学習することは本当に効率的なのか?演習と予習を家でやってもらって、ここでは解説だけにしたほうが効率的じゃないのか?と、短い時間の中で、いかに生徒に多くのものを与えられるのかも考える必要があります。これをやると、実現可能性の担保にもつながります。
例えば私が過去に受け持っていた生徒に、1日のうち4時間勉強するといった真面目な生徒がいました。彼は英語が苦手な一方、数学は授業を聞くだけである程度出来た子でしたので、英語だけを勉強するように指示しました。すると1日の勉強が2時間だけになったのです。
なぜか。
彼の勉強時間の多くは、大好きな数学でした。しかし私はあえてその数学の勉強時間をなくし、英語の時間を増やすようにしたのです。数学は授業を聞くだけで理解できるなら、わざわざ自分から勉強する必要もないという判断からでした。勉強時間を減らすことによって生まれた2時間は、今では家族との団欒に使われているようです。勉強時間が多いことは悪いことではありませんが、その時間がより貴重なことに使われるなら、それでもいいんじゃないかと私は考えます。勉強時間は生徒にとっての苦痛なのですから、それをいかに減らしてあげるかも、塾講師の役割ではないですか?
計画に一番必要なもの ”信念”
以上三要素を計画に含める必要があるのですが、それだけではまだ足りません。
本当に必要なものは
信念
です。
戦略には信念がなければなりません。そもそも戦略というのは、「これをやっておけば、合格できる」という攻略本のようなものです。けれどももし、そこに疑問が生まれたらどうなるでしょうか。
「これで本当に合格できるの?」
こう思ってしまったら最後、勉強する気力がなくなります。生徒は自分で立てた勉強計画の方が効率がいいと思ってしまうかもしれませんし、今やっている勉強を無駄だと思うかもしれません。こうなってしまうと最悪です。だって戦略が戦略の意味をなさなくなるのですから。その戦略が本当に正しい方向性を示していたというのならば、なおのこと最悪です。生徒は、合格できる道筋から外れた勉強をすることになってしまいます。
戦略は必要性・実現可能性・効率性を備えれば、志望校への攻略本に変化しますが、その攻略本に従うかどうかは、生徒次第です。生徒からしたら、その攻略本が正しいのかどうかは、入試の結果が出るまでわかりません。皆さんはきちんと
- 学習計画の正しさを、生徒に説明しているでしょうか?
- これが攻略本であると、信じさせているでしょうか?
- そもそもあなた自身は、信じきれていますか?
これがないと、戦略は意味を持ちません。必ず生徒から戦略に対する信頼を勝ち取りましょう。
まとめ
なんとなく必要そうなものを、適当に時系列に並べて、それに必要そうな勉強時間を生徒に課す。これだけでしたら本当に楽です。でも、このような「楽」な計画が出回っているのが現状です。なぜなら生徒に提案した学習計画をチェックする人がいないのですから。生徒も保護者も基本的に先生を信頼しますから、そこに反論する余地はありません。生徒と保護者が認めた学習計画に、教室長や先輩講師が批判する余地もありません。ですから、あまり有効でない計画(というより、予定表)が出回りやすいのです。けれどそこに上の三要素と信念を加えたらどうでしょうか。
- あなたの計画は本当に必要なものですか?
- あなたの計画は本当に実現できるものですか?
- あなたの計画は本当に最短距離ですか?
誰かから文句を言われた時に、反論しきれるでしょうか。もし反論できるのであれば、その計画は戦略でしょう。もし反論できないのであれば、その計画は予定表でしょう。ここまでの領域に到達するのはすごく難しいことですが、「これに従っていれば合格できる」という戦略ってすごくないですか?計画って難しいですよね。でも、すごく便利なんですよ、これ。