塾講師がわかりやすく説明するために必要なこと
「伝える」と「伝わる」
塾講師をしていると、とても興味深いことに授業が終わったあとの生徒たちの雰囲気から、
自分の行った1つの授業がしっかり伝わっていたのかどうか怖いくらいに伝わってきますよね。
授業で説明をしていると、そうしてはいけないとわかってはいても、自分の教える内容の理解が
不足していることに気が付くこともあると思います。
こうした点については、次回までに講師自身しっかりと学びなおして、生徒たちに改めて提示することでリカバリーできます。
しかし、講師である自分がしっかり理解しており、ちゃんと説明し切ることができたと思っても、
意外と生徒たちには自分が思ったほどに伝わっていないという経験もあるのではないでしょうか。
自分が理解できているだけに、生徒に伝わっていないと、講師の精神衛生的にも悪影響ですし、
何より生徒に力を付けられなかったという事が大きな痛手です。
ちゃんと教えるべき内容を教えたはずなのに何故このようなことが起こってしまうのでしょうか。
例えば、以下の文を考えてみてください。
「まず初めに大きな円を描いてください。それが出来たら、次にその円の上にまた1つ小さな円を描いてみましょう。」
いかがでしょうか?おそらく以下のような答えを思い浮かべたのではないでしょうか?
この2つの解釈が可能ですよね。この文では、どちらも正解となってしまいます。
極端な例ですが、これほど短い一文かつ明確に見える文でも伝わり方というのは
枝分かれしてしまうのです。
このように、「伝える」ということと「伝わる」ということは、実は全く違うものなのです。
本稿ではこのわかりやすい「伝え方」とは何か。
伝えるためにはどのようなトレーニングをすればよいのか、について述べていきます。
「伝える」と「伝わる」
まず、そもそも塾講師において「伝わる」というのはどのような状態を指すのでしょうか?
もう一度冒頭の部分の問題を考えてみましょう。
今度は、読んでいただいている皆さんに出題したいと思います。
解答①、そして解答②を引き出すためにはどのような指示を出せば伝わりますか?
色々な伝え方があると思うのですが、おそらく、以下の様な答えではないでしょうか。
解答①「まず初めに大きな円を描いてください。それが出来たら、次にその円の円周の線上にまた1つ小さな円を描いてみましょう」」
解答②「まず初めに大きな円を描いてください。それが出来たら、次にその円の上に重なるようにまた1つ小さな円を描いてみましょう。」とこのように、この問の場合は「上」というのがどこの上を意味しているのかというのが、
解釈の分かれ目になっていましたから、この点を明確にすれば、相手に「伝わる」指示にすることが
出来るわけです。
こうした事を例におわかりいただけたかと思うのですが、自分の伝えたいことを
相手に「伝わる」ようにするためには、他の解釈の余地を与えない言葉を選ぶということです。
そのためには、まず説明・指示をする際には、”抽象的な言葉”・”説明が必要な言葉”
を素通りしていないかチェックしながら授業を進めることが重要です。
例えば、
☓「大阪の冬の陣は方広寺鐘銘問題がきっかけとなりました」
◯「大阪冬の陣は、豊臣家の造立した方広寺の鐘銘”国家安康”、”君臣豊楽”という文字が家康という文字を分けて呪い、豊臣の繁栄を謳ったものと捉え、戦の契機としました」
というように大人の私達であれば、「方広寺鐘銘問題」が何かを知っているので、
☓の説明でも伝わりますが、日本史を初めて学ぶ生徒にとっては、
☓の方の例では、「方広寺鐘銘問題」というのが、具体的に何を意味しているのかが
伝わらないのです。
ここで、講師がしっかりと説明をしないと、生徒たちは「方広寺鐘銘問題」が何なのか理解できずに
授業を終えてしまいます。
フワフワしたまま何となく「家康を挑発した何かだろう」と実際はそうでなくとも色々な解釈の余地を
与えてしまいますよね。
大人、特に本稿を読んでくださっている塾講師を勤めている皆さんはこれまで勉強をしっかり
してきた方々であると思います。
しかし、勉強してきたからこそ、「この言葉なら、そこまで時間を割いてまで教える必要はないかな」
と、勉強をしてきた自分の基準で言葉の取捨選択をしてしまう傾向があります。
こうしたことから、講師が「伝えた」ことが、生徒に伝わっていると思いこんで、
授業を進めた結果実は「伝わっていなかった」というような事が起こってしまうのです。
では、そうならないよう具体的に塾講師は何をトレーニングしていけばよいのでしょうか?
以下、実際に筆者が練習していた方法をご紹介したいと思います。
授業の内容を文章化してみる
まずは、自分の説明が伝わるかどうかを確認する事から始めましょう。
とは言っても、中々自分が行っている授業を客観視することは出来ないものです。
そこで、効果的なのが、この「文章化」という作業です。
もし可能なら、授業で話す予定のことを全て書いてみるのが理想ですが、現実的な時間の制約も
あるので、特にわかりにくいであろう部分や、授業で最も伝えたい部分を中心に自分の説明を
可視化してみましょう。
文章にした後に、生徒になったつもりでその文章を読んでみると意外とわかりづらい部分が
何点かあることに気がつくと思います。
その部分に気がつくことができたら、「どうやったら誰にでも伝わるだろうか」と自問自答しながら、
何度も何度も文章の構成を練りなおしてみてください。
出来てから、塾講師の同僚や先輩に見てもらっても良いかもしれません。
ポイントとして、自分と同じ担当教科を専門とする講師だけでなく、
例えば社会科だったら、社会に苦手意識を持つ講師の方にも見てもらいましょう。
生徒がどこでつまずくのかがよりわかりやすくなります。
新聞の記事の要約をしてみる
新聞記事を取っている方には特におすすめしたい方法です。
新聞というのは毎日毎日色々な情報を載せて届けてくれます。
これらの内容をしっかり把握して、例えば「今日の新聞の1面は~について書かれています。」
というのを他人に伝えることを想定して、授業で生徒に伝えるようなイメージで声に出して
練習してみましょう。
やってみていただくと気が付くと思うのですが、書かれていることを他人にわかるよう
要点をつかんで話すことは、意外と難しい事なのです。
皆さんに思い返していただきたい事が1つあります。
例えば、素晴らしい本に出会って、とても感動した経験がきっとおありですよね。
素晴らしい本であることを仲の良い友人などに伝えたくなって、いざその本について語ろうとすると
意外とありきたりな言葉しか出てこなくて、もどかしい思いをしたことはないでしょうか?
筆者は実際にこうした経験を幾度と無くしてきました。
そこで、この新聞記事を他人に伝える練習をやっていくと、書くことのプロである新聞記者が
どうやって読者に伝えているのか、その方法をたくさん学ぶことが出来たのです。
これをやっていくとそのうちにそれぞれのニュースの記事の因果関係などもわかってきて、
説明に幅が広がり、1ヶ月練習するだけでも、する前に比べプレゼンの力が格段に
伸びていることに気がつくはずです。
新聞を取っていない方は、先程述べたような本でも良いので、こうした練習を繰り返しやってみては
いかがでしょうか?
まとめ
ここまで、「伝える」ことと「伝わる」ことの違い、そして「伝わる」説明をするために
何をすればよいのかについて説明してきましたが、いかがだったでしょうか?
塾講師という職業は、授業そのものがプレゼンテーションなので、プレゼンの力を付けるには
最高の仕事の1つであるといえるでしょう。
しかし、それもただ漠然とやっているだけでは中々力を伸ばすことが出来ません。
本稿で紹介したのはあくまで一例ですが、トレーニングを通して自らの説明を客観視して、
自己分析する。
この繰り返しが皆さんの講師としての力をきっと1段も2段も上げてくれるはずです。
何かの参考にしていただけたら幸いです。
以上です。ここまで長文ご精読ありがとうございました!