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塾講師も意識すべきこと「外国語習得の必要性に迫る」

2021/12/17

物言わぬ大国と言われないために・・・

日本は経済的にも技術的にも間違いなく先進国であると言えるでしょう。
時には暗いニュースもあることながら、世界的に見ればかなり安全な国であることは確かです。
貧富の差も比較的少なく、国民の自由権も十分整っています。

そのように一見素晴らしい国に思える日本ですが、確実に劣っている点が一つだけあります。

それはコミュニケーション能力の不足です。

もともと自分の意見をあまり述べない日本人気質と、日本人の英語に対する劣等感が相成って、世界的に見て日本は「言葉を発しない国」になりかけています。

このままでは、どんどんこの先日本はグローバル化に入り込めなくなってしまいます。 

そもそもグローバル化とは・・・
社会学者のアンソニー・デギンズは、グローバル化の定義を以下のように定めています。

「世界の様々な人々、地域、国々の間で相互依存症が増大すること」


少子高齢化が進む今でこそ、外国人との共生の道を歩む時代です。 

日本が今後「物言わぬ大国」と言われないためには、日本語が理解できる外国人を増やすとともに、英語はもちろん、他の外国語が使える日本人を育てていく必要があると言えるでしょう。
                       ー「多言語社会がやってきた」くろしお出版 


英語の必要性は数字を見れば明らかです。

英語を第一言語として使用している人々は3億人を超え、さらには英語を公用語とする国に暮らす人々の数は14億人を超えると言われています。
                       ー「多言語社会がやってきた」くろしお出版  

 ※上記のデータは2004年発行の著書によるものですので、現在はもっと増えているに違いありません。


そもそも、日本人は外国語に無頓着と言ってもいいでしょう。

英語が話せるというだけでこの人はものすごく頭が良いのだという印象を受ける人が多いようです。

世界的に見て、母国語プラス他の言語を話せる人は数え切れないほどいます。

日本にも、「英語は出来て当たり前」の時代が一刻も早く来ることを願っています。

 

そのために英語講師が出来ることを、各国の外国語教育事情を踏まえながら読んでいただきたいと思います。

英語講師に限らず、今後グローバル化を担う生徒に伝えるべきこと、そして塾講師として知っておくべきことが書いてありますので、ご参考にしていただければと思います。

 

各国の外国語教育事情

英語を外国語とする国々

多文化・多言語の共生を図る欧州連合(以下EU)

2015年現在、28ヵ国が加盟しているEUは公用語も実に24言語あります。

このような文化的にも言語的にも多様な社会であるEUでは、異文化理解の促進が重要となってきます。
異文化を理解するためには言語を学ぶ必要があることは言うまでもありません。

よって、EUにおける言語教育の目標は「母語に加えてEUの2言語の習得」とされています。

EUでは小学校の頃から英語を学ぶカリキュラムがしっかり組まれており、その他フランス語やドイツ語なども第二外国語として義務教育の段階から教えられます。

日本で第二外国語を学ぶのは大学からという場合が多いと思います
それも完全に習得する人はほんの一握りで、大多数が趣味程度で終わってしまう場合がほとんどです。

その実態を比べるだけでも、日本が外国語教育にあまり力を入れていないことが見受けられます。


お隣の国、韓国

韓国の教育はとても熱心で、日本と同じような受験制度があります。

英語教育に関しては、読み書きだけ習い、使える英語をなかなか習得できないという日本と同じような問題点を抱えているかもしれません。
しかし日本と異なっている点は、韓国人は熱心に日本語を勉強しているということです。

韓国における日本語の学習目標:
「日常生活の日本語を理解し、やさしい日本語でコミュニケーションができる基礎的な能力を養う。会話能力の向上と日本語による情報検索に積極的で、日本人の日常言語生活文化と文化への関心と理解を深め、日本人とのコミュニケーションに能動的に参加する態度を養う。」

上記のように、「正確さより流暢さを重視したコミュニケーション能力重視の教授法」によって、韓国に住む人たちはどんどん日本語を習得していっています。

確かに今求められるものは英語力かもしれません。しかし、母国語プラス他の言語を身につけているという点においては、 日本も韓国の教育方針に見習うべきところがあるのではないでしょうか。

 

英語を母国語とする国では…

アメリカ
アメリカ合衆国といえば、英語の国というイメージがありますが、実は連邦レベルでは法律で定められた公用語はありません。
                       ー「多言語社会がやってきた」 くろしお出版

英語が国際共通語であることから、アメリカでは英語以外の言語の重要性が認識され始めたのは近年の出来事です。

しかし、外国語を学習することが経済的にも効果的という考え方が広まってからは、「外国語学習スタンダーズ」というものが発行され、積極的に外国語教育が行われています。

アメリカの外国語教育の方向を示すべく開発された「外国語学習スタンダーズ」の教育内容の枠組みは以下の通りです。

①communication:その言語でコミュニケーションを行う
②cultures:他の文化への知識と理解を深める
③connections:言語を通して他の分野とつながりを持ち、情報を得る
④comparisons:比較を通して言語・文化への洞察力を養う
⑤communities:言語習得の継続と他言語社会への参加
ー「外国語学習スタンダーズ」外国語学習ナショナル・スタンダーズ・プロジェクト(聖田 京子訳) 

このように、国際共通語である英語を流暢に話せる人材が、その他の言語を習得したのならばまさに鬼に金棒です。

受験のためだけに英語を勉強していては世界から取り残されてしまいかねないという現実が、少しずつ見えてきたのではないでしょうか。 

 

カナダ発祥のイマージョン教育 

immersionとは、immerse「浸る」という動詞から来た言葉です。

イマージョン教育とは、習得しようとする言語のみを教育言語として用いて語学学習の効果をあげようとする試みとの定義があります。

その中でもイマージョン教育には以下の4つの主なプログラムがあります。

①早期完全イマージョン

幼稚園か小学校の低学年から始まり、最初は「英語」を除く全授業が100%第二言語(カナダの場合はフランス語)でおこなわれます。2,3年経過した後、20%の授業が第一言語(カナダの場合は英語)を用いるようになります。最終学年で、第一言語を用いた授業を約50%と次第に増加していきます。

②早期部分的イマージョン

幼稚園あるいは小学校低学年から、一貫して第一言語と第二言語を50%ずつ使って授業を行います。

③後期完全イマージョン

イマージョンの開始時期は5,6学年または7,8学年です。「英語」科目を除くすべての授業が第二言語(カナダの場合はフランス語)で行われます。期間は1,2年と短いのが特徴です。

④ダブル・イマージョン

第一言語以外に2つの言語を同時に習得させるプログラムでトライリンガル・イマージョン(trilingual immersion)とも言われます。例えば、モントリオールのユダヤ系の学校の場合、幼稚園で英語40%、フランス語15%、ヘブライ語45%で授業を行い、その後、徐々に英語での授業を減らしてフランス語での授業を増やしていきます。6学年では英語20%、フランス語40%、ヘブライ語40%の割合で授業を行います。 

カナダで実験的に行われたのは1965年ですが、その成果がとても優れていたため、その後この教育はアメリカ、ヨーロッパ、アジアなど世界各地に広がり、斬新的な言語教育として期待されています。

この教育方法には、教師・講師のレベルの高さも求められます。
例えこのイマージョン教育までは出来なくとも、塾講師一人一人が常により良い指導法を考え、授業の質を高めていく向上心を持って仕事をしていく姿勢が大切だと思います。

 

オーストラリアのLOTE教育

オーストラリアは世界的に見ても有名な多民族国家です。
もともとはオーストラリアにはアボリジニーと呼ばれる先住民が生活していましたが、第二次世界大戦中に英国領となり、終戦してからも移民を多く受け入れたため、現在のオーストラリアに住んでいる人の出身国を見ても実に様々です。

そのような理由から、オーストラリアには公用語としての英語がありながらも、住民がそれぞれの母国語しか話さず、コミュニケーションに支障をきたすという社会問題も抱えてきました。
そこで考え出されたのが、LOTE教育です。

LOTE教育とは、 Languages Other Than English(英語以外の言語)という言葉の頭文字をとったもので、1978年に制定されました。

このLOTE教育は、公立の学校で取り入れられているのはもちろんのこと、正規の学校以外でも、LOTE教育を行っている言語学校が存在するほどです。

オーストラリアには、英語が話せるので大丈夫という国民たちの外国語に対する意識があまり高くはないという現状もあるのですが、オーストラリア政府は異文化理解を深めるために率先してこのような教育制度を導入しているのです。

 

今、英語講師に求められること

以上のように、各国は様々な外国語教育を行っています。

そのような時代の今、英語講師に求められることはまず一人一人が、

もう一度、講師自身の英語のレベルを上げることだと私は考えます。

塾講師は誰にでも出来る仕事ではないのは事実です。

しかし、少し英語が出来る・または受験のテクニックだけ教えられるという講師たちの意識があっては、この先本当に必要な英語力が身につく生徒は生まれません。

センター試験で高得点を取るためのコツももちろん大切です。

しかしそのような目先のことだけを考えた指導法では、グローバル化を担うことのできる人材はなかなか育ちません。

カナダのイマージョン教育レベルの授業を実施するには、英語講師の実力の高さが求められます。

塾の英語講師にももちろん素晴らしい能力を持たれている方はたくさんいらっしゃると思います。

しかし、日本国内の受験戦争だけではなく、もっと世界に目を向けて英語教育が出来るような講師が増えていけば、日本も正真正銘の先進国へと成長していくのではないでしょうか。

 

参考文献:「多言語社会がやってきた」くろしお出版 河原 俊昭・山本 忠行

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