「等しい角度」
錯角、同位角、対頂角…。
これらは、合同の証明問題などで非常によく出て来る、
「同じ角度」を表す語句ですね。
算数や数学において、「同じ角度」の重要性や便利さは、言うまでも無いことだと思います。
合同の証明問題などではほとんど必須ですし、
いちいち「こことこっちとが等しいから、ここも等しい」などと説明することなく、
「対頂角だから等しい!」というように、即座に同じことを表せます。
さて、そんなこれらの角度のルールですが、
読者の皆さんはどのように教えていますか?
「こことここの角の関係を対頂角と言い、これらは等しいので覚えておくように!」
なんて言ってはいませんか?
…それは絶対にいけないことです。
では、なぜいけないのか。
それは、生徒にできることが丸暗記以外に存在しない、と宣言しているようなものだからです。
生徒は、可能な限り勉強の範囲については内容を根本から理解すべきです。
それは、
今後も使えるように…忘れてしまった時に思い出せるように…他の分野に応用できるように…と色々あります。
生徒がそれら全てを放棄して『試験にさえ使えれば良い』と言ってしまうのであれば、仕方がないのかもしれません。
しかし、少なくとも教える時には、
生徒が「根本から理解できる」ように教えていかないと、生徒は丸暗記することしか出来なくなってしまいます。
ということで、
実際の図を参考にしながら、『何故』これらの角度がそれぞれ等しいものとなるのか、見ていきましょう。
対頂角
対頂角は、筆者にとっては、最もシンプルな角度の法則でした。
まずは対頂角の関係ですが、このようなものでしたね。
このように向かい合っている角の事を対頂角と呼びましたね。
そして、対頂角は等しいという法則を持っています。
では、なぜ等しいのでしょうか。
ここで、もう1つの対頂角についても考える必要があります。
下の図を見てください。
直線は180°ですから、角Aの右側の角は、(180-A)°になっているはずです。
ということは? さらに下の図を見てください。
このように、その下側の角は180-(180-A)となることになりますよね。
これを計算すると、当然ですがAに戻ります。
だからこそ、対頂角は常に等しい事になるのです。
平行線の同位角
次に登場するのは「平行線の同位角は等しい」というものです。
図で示した2つの角のことを、同位角と言います。そして、2直線が平行であるときこの同位角は等しくなります。
さて、このことの証明ですが、実はそんなに簡単な話ではありません。
「そういうルールだから覚えてね」で終わってしまう先生も多くいることと思います。
実際のところ「定理」というよりも「公理」に近いものなので、それでOKです。
ですが、「根本から理解」というのが本記事のテーマですので、
講師向けに難しい話を書いておこうと思います。「ユークリッド幾何学の第5公準」についての話です。
中学・高校で習う図形の世界は、紀元前3世紀ごろにエジプトの数学者ユークリッドがまとめた『原論』に基づくものです。これを「ユークリッド幾何学」と呼びます。
このユークリッド幾何学には「前提ルール」と呼ぶべき5つの公準があり、これらは「前提ルール」なので証明をせずに、自明のものとして扱ってよいです。
- 任意の一点から他の一点に対して直線を引くこと
- 有限の直線を連続的にまっすぐ延長すること
- 任意の中心と半径で円を描くこと
- すべての直角は互いに等しいこと
- 直線が2直線と交わるとき、同じ側の内角の和が2直角より小さい場合、その2直線が限りなく延長されたとき、内角の和が2直角より小さい側で交わる。
出典 :wikipedia「ユークリッド原論」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3
%83%83%E3%83%89%E5%8E%9F%E8%AB%96)
さて、この5つの公準の中で、5番目だけがやたら長く複雑なことを言っていることがおわかりいただけると思います。前半4つは、「直線が引ける」「円が描ける」「直角はどこでも等しい」など「明らかに自明」でることを言っていますが、なんだかよくわからない5つ目を「明らかに自明」と言ってもよいのか。
この第5公準について、実に2000年以上そのような議論がずっとなされ続けてきました。そして19世紀にこの第5公準をなしにしたうえでも論理的な幾何学の体系が成立することが確認され、これを「非ユークリッド幾何学」と言います。
非ユークリッド幾何学の1つに、球面幾何学があり、これが直感的にわかりやすいので紹介します。
地球のような球面をイメージしてください。北極からスタートし、赤道まで降りてきました。そこから東経90度の地点まで飛び、そこから再び北極へ帰ります。
この移動ルートにより地球に大きな三角形を描くことができましたが、1つ1つの移動は直角に移動しました。よって、できた図は以下の通りになります。
このように、球面の上で描く三角形は内角の和が90×3=270度となり、「三角形の内角の和は180度である」(第5公準から導くことができます)と主張するユークリッド幾何学とは違った世界であるということがわかっていただけたと思います。
大分話が脱線しました。「平行線の同位角が等しい」ことの証明です。
第5公準から導くことができる「三角形の内角の和が180度であること」(これは生徒も自明のこととしてくれると思います)を使えば証明が出来ます。
直線lと直線mは平行で、Aから平行線に向かって垂線nを下ろしました。
三角形ABDと三角形ACEについて注目しましょう。
三角形ABDは直角三角形なので、A+B=90度
三角形ACEも直角三角形なので、A+C=90度
これらを両辺引くとB-C=0となり、B=Cである。
よって平行線の同位角は等しい。
この証明を書いていて思いましたが、そもそもDとEに直角が2つ並んでいる時点で「平行線の同位角が等しい」ことを使ってしまっています。どうしても議論が堂々巡りになってしまうのがこの「同位角が等しい」ことの証明です。
生徒さんのレベルに合わせて、わかりやすい説明を心がけてみてください。
平行線の錯角
最後に扱うのは錯角です。
錯角もまた、平行線に限ってイコールの関係が成立する角度の法則の1つです。
同位角よりも頻出、場合によっては対頂角よりも使われるかもしれませんね。
平行線でないと等しくならないのですが、非常によく出て来るものだと言えるでしょう。
錯角とは、下図のような関係の角度です。
錯角はよく「Zの字」で表される喩えをされますね。
覚え方としてはとても分かりやすいものですから、ついでに言っておけると良いでしょう。
平行線における錯角がなぜ等しくなるのか。
まずは同位角と同様に平行四辺形を使います。
おそらくは同位角を理解していれば錯角も既に理解できてしまう生徒もいるのではないでしょうか。
本質的には同じものですから。
さて、2つの方法を使って錯角が等しくなることを求められます。
1つ目は、先程と同じく平行四辺形を使う方法です。
同位角の時と同様に、AとBの和は180°であることを利用し、
「A=180-B」と「錯角=180-B」という式を作ることで、Aとその錯角が等しくなることを示せます。
2つ目は、同位角をそのまま利用します。
上の図をよく見てください。
Aの錯角は、「Aの同位角の対頂角」なのです。
同位角も対頂角も本稿で確かめたばかりなので問題無いでしょう。
イコールの連鎖が最終的に錯角まで繋がります。
と、この様な理屈でもって、対頂角、平行線の同位角及び錯角は等しいと述べることが出来ます。
最後に…
多くの公式や条件などが、
1度学んでしまえばそれを前提に論を進めていくことが出来る便利なものです。
しかし、その便利さに頼りきりになってしまうと、いざという時に何もできないままになってしまいます。
その条件や論理を、
文章としてではなく組み立てられた理屈として、生徒達が理解できているのか。
それを確かめてあげるのも、講師の仕事になるでしょう。
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